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【一周年記念】墓参り

この外伝は、本編とのパラレルワールドって事にしましょう!←今更

 もう1年か……と、フェルの顔を見て思い出した。俺が地球でシェーンに殺され、転生してから1年経った。時々、地球の事を思い出す事がある。家族は俺が死んだ事をどう思ってるだろうか? 友達はどうだろうか? 先生は? そんな疑問が浮かぶ度に……何か怖くなって、フェルに抱き着いていた。

 まあ、流石に1年も経つと、怖くはなくなってきて……そうなると、俺の頭に残ったのは疑問だ。俺の家族が俺の死をどう思っているのか……純粋な疑問が残った。


「……っていう事なんだ」


「なるほど」


 領主としての業務の休憩時間。のんびりとアールグレイっぽい紅茶を啜りながら、フェルへと相談してみた。やっぱ、神様から授けられた公式チートなんだし、地球の様子を覗くとか出来るんじゃないのかなー……って思ったしな。


「じゃあ、地球に帰られますか?」


「…………へ?」


 …………ん? 俺の聞き間違いかな? 今、フェルが地球に帰るかって聞いてきたような……?


「はい、そう言いました。地球とシェーンは女神シェーン様が管理する世界ですから、その気になれば私でも行き来する事は可能かと」


「行き来は可能って……シェーンは許してくれるのか? 一応、物凄い事をやろうとしてるんだぞ?」


(その事については僕から話そう!)


 頭の中に直接響いてくるこの声……あの女神様が直接話しかけてきてるのか。あんまり人間と関わっちゃ駄目なんじゃ無いのかー?


(こっちでは細かい事は関係ないよ! だって、本来なら君は……っと、これは後付けな上にどうでも良い事か)


「?」


(ううん、こっちの話。それで、レイジ君とフェルちゃんが地球に戻る話なんだけど、全然オッケー出せるよ)


「マジか……」


(フェルちゃんの言う通り、僕の管理する世界から僕の管理する世界への移動だからね。何にも問題ないよ。世界シェーンから地球に行くのはフェルちゃんの力で大丈夫だけど、地球から世界シェーンに戻るには僕を呼ばないと戻れないんだ)


「地球には魔力がありませんからね」


(そう言う事。そして大事な事がもう一つ……あくまで、地球に行くのはシェーンのレイジ君だからね?)


 何を当たり前の事を言ってるんだ? 地球に行くのはレイジ・スギヤとして…………あっ。


(そう。君は手足が無い状態で、地球に行かなければならないんだ。勿論、地球に魔力なんてものは無い。その義手は使い物にならないだろう)


「………………」


(行くのも行かないのも、君の自由だ。行くとしたら、フェルちゃんが付き添うだろう? フェルちゃんが僕を呼んでくれれば、直ぐにシェーンに戻すよ)


「かしこまりました…………レイジ様」


 それでも、俺は…………



 雲一つない青空、春とは思えない暖かさ。シェーンの空気と違い、少し空気が重く感じる。俺は今、地球に戻ってきていた。

 勿論、俺の体に手と足は無い。フェルがあっちで作ってくれた車椅子に座って、フェルに押してもらっている。そして……


「これが俺の墓か……」


 通学路や電車の窓の風景からよく見かけるシンプルな墓石に、杉谷零司之墓と彫ってある。何というか……何の感情も湧き起らない。当然だ……死んでから1年経っている。今更、悲しむ気にはなれない。ああ、死んでるんだなぁくらいの気持ちだ。


「おや、アンタ……」


 ボーっと俺の墓を眺めていると、懐かしいババアの声が聞こえてくる。顔を向けると見覚えのある天然パーマ、全く似合わない黒の喪服の(ババア)が、バケツやら雑巾やらゴミ袋やらを持って俺の墓を訪れた。


「すまないねえ、ウチの馬鹿息子の友達かい?」


「まあ、そんな所です」


 フェルが車椅子を少し引くと、(ババア)は俺の墓を磨き始めた。まさか(ババア)も自分の息子の前で、自分の息子の墓を磨いてるとは思うまい…………いや、墓の前だから思ってるかもしれない。

 …………思った以上に、大切に整備されて気まずい。何というか、顔がニヤけてしまう……死人(おれ)前で失礼だぞ、俺!


「ちょっと、そこのお嬢さん。席外してくれるかい?」


「え……いえ、ですが……」


「なーに、ちょっと話がしたいってだけさ。安心しな、取って食ったりしないさ」


 振り返ると、不安そうな表情のフェルと目が合う。魔力が無いせいで、いつもよりも不安なようだが……俺が静かに頷くと、フェルはゆっくりとこの場を離れた。

 (ババア)……俺と話しって、何を話すつもりなんだ? 俺の事が気付かれた……まさかな?


「この馬鹿息子はね、家ではいっつもうるさかったんだよ」


「そ、そうなんですか……」


「でもね、お葬式に来てくれた同級生の子の話を聞いたら驚いたよ。この子、学校じゃ大人しくてあんまり目立たない子だったってね」


 ここは、同意しておいた方が良いよな……その方が友達っぽいよな?


「そんな感じでしたね……」


「アイツの事、何も知らなかったと思ったよ。後悔したさ……何で、もっと話してやらなかったんだろうねってねぇ」


 (ババア)……そんな事、思ってくれたのか。


「暫くは大変だったさ。娘はこの馬鹿息子の死を信じないで、夜中になるとフラフラ家を出ていくし……旦那は珍しく寝込んじまった。アタシもアタシで、落ち込んじまったよ」


「…………」


「少し話し過ぎたね……」


「いえ、別に……」


 自分の墓を見ても何も思わなかったけど……自分の死で起こった変化を聞くと、悲しいって言うか……申し訳ないって言うか……


「ところで……」


「はい?」


「あの娘はアンタの彼女かい?」


「バ、ババア……俺の事に気付いて……!?」


「フンッ! 母親を舐めるんじゃないよ! 色々変わっちまってるけどね……それでも、馬鹿息子って事は何となく分かっちまうもんなんだよ」


 驚いた…………(ババア)は冗談でこんな事は言い出したりしない。と言う事は、本当に俺が零司だって分かって……!


「…………案外、元気そうじゃないか。悲しんでて損したね。次来る時は孫でも連れてくるんだね……」


「…………おう!」



 青空の下、零司の墓に黒コートのに黒ハットの男が訪れていた。男は煙草を吸いながら、零司の好物であるおにぎりを備える。


「おや……アンタも零司かい? こっちのは……随分と苦労してそうだ」


「……俺であっても分かるものなのか」


「アタシを誰だと思ってんだい? アンタの母親だよ。どれだけ変わっていても、分かるもんなのさ」


「…………フン」


「アタシの鼻を鳴らす癖は、アンタの方なんだね」


 零司の母がそう笑うと、男は煙草を手で握りつぶし……ハットを被りなおした。


「アイツと違って俺にはこっちの金がある。飯でも行くぞ」


「アンタ、ホントにアタシに似てきたね。まあ、ありがたく奢ってもらおうじゃないか」

姿が変わっても、通じ合うものはある筈です。


次回は5月に会いましょう!

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