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レイジのエイプリルフール

冗談を言って良いのは午前までって聞きました

 久しぶりに、俺が真面目に領主としての業務をしている時の事だった。フェルがいつも通りに紅茶を淹れてきて、俺の机に置いてくれる。

 文字もちょっとずつ読めるようになってきたし、苦情や要望への対応も慣れてきた。色々と書類も増えてくる時期だけど、レオやフェルが同時に手伝ってくれるおかげで何とか減らせている。


「レイジ様、伝えてみたい事があります」


「ん?」


 伝えてみたい事って、変な言い方だな……それにフェルから何か言ってくるなんて珍しいな。


「レイジ様が嫌いになりました。失礼します」


 フェルはそう言って、俺の部屋から出ていった……え? 俺は今、何て言われた? フェルが、俺を、嫌いになった……? え、何で急に? 嫌われる事でもしたっけ? 思い当たりが無いんだけど……?

 駄目だ……指先から力が抜けて……これ、フェルからの魔力供給が途絶えて……?


「おいっ、レイジ様!? ああ、インク零しやがった! クソッ……あっ!? レイジ様が灰になってる!?」



 う……お、俺は何でベッドに……? 朝は普通に仕事をしてたと思うんだけど……駄目だ、何も思い出せない。

 ベッドからなんとか体を起こすと、レオとネルガが俺の事を見守ってくれていた。誰かが、足りないような…………?


「レイジ様、起きたか!?」


「レオ……俺、何で寝てたんだ?」


「え……覚えてないのか?」


 俺の言葉にレオが驚愕してしまう……どういう事だ? 誰かに襲われて気を失ってたとか、そういう事なのか? その割には、包帯とか湿布も付けてないし、どこか痛んだりもしないし……本当に何があったんだ?

 そう言えば、フェルが居ないんだ。こういう時は真っ先に声をかけてくれるのに、この部屋には居ない。


「なあ、フェルはどうしたんだ?」


「………………」


 俺の質問に、2人とも険しい顔で静かに目を伏せた……ああ、そうか……思い出した……

 俺が今まで寝てたのは、誰かに襲われたとかじゃなくて……


「フェルに、嫌われたんだよな……」


 理由は分からないけど、面と向かって嫌いって……ハッキリと言われちゃったんだ……それでそのまま気絶したのか、これはダサいな……

 義手を見てみると、最近の業務用に使っている俺の斬り落とされた手足から作られた義手が外されており、ヘンジが作った電池で動く義手に付け替えられている。胸のペンダントからは魔力の供給が止められている……


「うーむ……フェル殿がレイジ様を嫌うと言ったなんて、にわかには信じられませんが……」


「まあ、そうなんだけどよ……オレも直接聞いちまったし……」


 俺は……何も出来ない主だからな。フェルが先に愛想を尽かしたのならそれも仕方ないか……いつも通りの無表情だったのが、フェルらしいや。

 体を起こしてるのも辛くなってきたな……フェルが居なくなるだけで、こんなに精神的に来るなんて。ああ、駄目だ……フェルに嫌われたなら、この異世界で生きていく気になれない。


「でもよ……伝える瞬間が妙だった気がするんだよな」


「妙……とは?」


「いや、フェルがレイジ様に嫌いって伝えるのなら、フェルにとっても一大事だろ? それなのに妙に落ち着いてたし、あっさりと伝えてたんだよ」


 確かに、レオの言う通りかもしれない。まだ投げ出すのは早かった……フェルの事を信じて、理由を聞き出さなければ!

 絶望していた体に、気力が戻ってくる。ベッドに手を着いて何とか支えにし、腰掛ける形になった。レオとネルガは驚いた表情で俺を見ていたが、俺の意図を理解して会話を再開した。


「落ちついて、あっさりと? 普段のフェル殿から考えると、有り得ない伝え方ですな……」


 そうだ。フェルの言葉にショックを受けて灰になってしまったが、あの伝え方はおかしい。もしフェルが俺の事を嫌いと伝えるなら、何というか……もっと重たい感じというか、フェルが天の岩戸まで逃げた時のような大変な事になるんじゃないだろうか。


「それによ……伝える時の切り出し方も変な感じだったんだ。『伝えたい事があります』じゃなくて『伝えてみたい事があります』ってな」


「伝えてみたい事があります……ですか。確かに、少々回りくどいような気がしますな……?」


 伝えてみたい事……確かにこれもおかしい。フェルはもっと分かりやすく素直に言ってくれる筈だ。というか……レオの前で言ったんだよな? フェルが人の前であんな事を言うだろうか?

 ……考えれば考える程不自然だ。もう少しだ……もう少しで、何かが分かりそうな気がする。


「月が変わったばかりだと言うのに……フェル殿に何かあったのでしょうか」


「……月が、変わった?」


「レイジ様、どうかしたのか?」


 全部分かった。そう言えば今日の日付は……全てを理解した俺は、フェルが居るであろう執務室へと戻った。時刻は短針が2週目を告げている。俺の知識が正しければ、もうフェルに会っても大丈夫だろう。

 レオとネルガを引き連れて、執務室の扉を開けばフェルは何も無かったかのようにそこに居た。


「申し訳ありません、レイジ様。先程の言葉は嘘です」


「知ってるよ、だって今日は……」



「エイプリル……」


「フールだぁ?」


 うーん……レオとネルガの反応を見る限り、異世界(シェーン)にはエイプリルフールが無いのか? クリスマスやバレンタインはあるのに、正月やエイプリルフールが無いなんて……意外だな。正月はともかく、エイプリルフールは地球でも全国共通だと思ったんだけど……


「2人が知らない事も無理ないでしょう。これはレイジ様の故郷のお遊びのような事ですから」


「なるほど、道理で違和感が残る言い方をしていたのですか……納得しました。何も無いと分かったのならば、私は仕事に戻りましょう」


「頑張れよー、おっさん」


「レオ、貴様も戻るのだ! 今日はサボらせんぞ!」


 2人は執務室を出ていき、それぞれの業務へと戻っていった。扉が閉まり、フェルへと視線を戻す。

 さて、エイプリルフールに嘘を吐いた理由を聞いてみようか……


「それは、ですね……」


「それは……?」


「レイジ様がどれ程疲れているか。認識していただきたかったのです」


 俺が……どれ程疲れているか?


「はい。慣れない仕事、義手や義足による気付かないストレスなどが、レイジ様に溜まっている事に気付いて欲しかったのです」


 その疲れが爆発した理由は、フェルの嘘だけどな……


「その通りです。爆発させて、ゼロにして……リセットさせたかった」


「フェル……」


 俺の為だったんだな……それになんだかんだ言って、エイプリルフールと言われた時に懐かしいような気がしたんだ。きっと、俺には余裕が足りなかった……義手が手に入って、文字が読み書きできるようになってきて、自分でやらなきゃって思いこむようになってたのかもしれない。


「本日のお仕事は私が終わらせておきました。明日からはストレスを溜めている事に気付いてください」


「……そうだな、頑張る」


 フェルに嫌いって言われた時はどうしようかと思ったけど、まあ……俺が頑張り過ぎてたからだし、次からは気を付けないとな。

フェルがレイジの事を嫌う事はありませんよ(ニッコリ)


次回も4月の更新。洒落メイドだけの特別な記念日!

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