レイジの屋敷の大晦日
クリスマスの5日後……今日も忙しそうですねぇ
先日のクリスマスは良い思い出もあったが、散々な目にあった。雪なんて滅べばいい……クリスマスドラゴンが来年も来たらフェルとこんがり焼き上げてやる……! その為だけに雷光の脚を借りてやるからな……!
「レイジ様、スギヤの街からの苦情が……」
「読み上げていくな……?」
「ふざけんなぁぁぁぁああああ!」
クソッ……紙の束が天井まで届きそうだぞ!? 字が読めないのにっ! クリスマスからずっとやってるのにっ! 減らないのっ! むしろ増えてるのっ!
なんで俺に苦情が来るの!? 俺も苦情出したいのっ! でも出しに行く暇が無いんだよっ!
「こうなると、レイジ様を見ていてもつまらなそうですね」
「お前、つまらなそうって……聞こえていないから良いものを……」
「ああ、つまらないのは私達ではありません……偶には、レイジ様以外を見るのも面白いかな、と」
「お前……時々怖い事言うよな」
◆
私の名前はリーシャと申します。誰? と思われる方もいらっしゃると思いますが、レイジ様が初めて屋敷に訪れた時に真っ先に仕込帚で襲い掛かったメイドと認識してくだされば幸いです。
現在はレイジ様の故郷の風習で、大掃除という物をしていますが……屋敷が広いので、従者全員で掃除しても終わるかどうか……いえ、レイジ様も頑張っていますし、私達も頑張らないと!
「まずはお風呂場ですね。クリスマスに大活躍だったので、しっかりお掃除しないと!」
と、思いましたが……あれ? お風呂場の掃除は人数足りてますね……ちょっと寒いので暖まりながら掃除したかったんですけど……仕方ありません。別の所に行くとしましょう。
「だったら、キッチンです! 新しい年の始まりにはおせちという料理を作るそうですし! 私、料理には自信がありますから!」
って……あれ? そんなに忙しそうな様子ではありませんね? というよりも、料理は一段落してキッチンの清掃が始まってます?
そんな……屋敷の中でお湯が出る場所が終わってしまってる!? こうなると、冷たい水で拭き掃除とか、寒い場所を掃き掃除とか、ネルガさんのスパルタ式芝刈りしかないじゃ無いですかぁ……
「ああ、リーシャ。丁度良いところに」
「ジーク君?」
キッチンから私の幼馴染のジーク君が出てきました。手に持ってるのは……ヤパンのお米を三角形に握った食べ物。確かオニギリでしたっけ?
レイジ様が凄い好きなんですよね。ヤパンからお米が手に入ると、いつも作ってくれって言われてる気がします。ジーク君が食べるんでしょうか?
「レイジ様の差し入れに俺もオニギリを握ってみたんだが……味付けはこんな感じで良いのか? おせちがレイジ様の故郷の料理って言うから、お米を沢山買ってきたらおせちに使わないんだとよ」
「なるほど、それでは一口……うん、丁度いいと思います」
「そうか。じゃあ、フェルさんとレオさんの分もあるから、レイジ様の部屋に持って行ってくれるか? 大量にあるからお前も食べてきちゃって大丈夫だし」
「それは大役ですね。果たさなければ!」
決して……決して、ジーク君の手料理に釣られた訳ではありません。こ、こここれは……レイジ様にっ! レイジ様に届けなければなりませんからっ!
と、自分の中で言い訳しつつ、ジーク君からオニギリを受け取ります。数にして30個以上ありますが、片手で運んで行きましょう! その方がメイドっぽいですもんね!
◆
レイジ様の部屋の前に着いたのですが、これは……入っても大丈夫なんでしょうか?
「お……おい、レイジ様?」
「無理……マジ無理……」
「困りましたね……」
レイジ様が死にそうな声を出しているんですが……でも、オニギリを届けなければ私がジーク君のオニギリを食べれない。ここは意を決して……!
「おや、リーシャ。どうかしましたか?」
「あ、フェルさん……!」
「おや……丁度良いタイミングです。中へどうぞ」
フェルさんに通してもらって、レイジ様のお部屋に入ります。わっ! 凄い……天井まで届きそうな紙の束が2つに、その半分くらいの紙束が2つ……これ全部レイジ様1人で片付けているのですか? 私だったら絶対に無理ですよぉ……
手伝いたいですけど……私には分からないですし。そう考えると、私より年下なのにお仕事してるレイジ様って凄いです! え、フェルさんも年下? まさか~、あのナイスバディでそんな事ありえませんよ~……ありえませんよね?
「よう、リーシャ。どうかしたのか?」
「レオさん。いえ、ジークく……ジークが差し入れにオニギリを作ったので、運んできました!」
「もうそんな時間か……おらっ、レイジ様。休憩にするぞー」
レオさんって主人が相手でも容赦ないですね……今も机に突っ伏してるレイジ様をパシンと叩いてましたし……普通ならクビになるか殺されちゃうと思うんですけど……あ、レイジ様がそれどころじゃないですね。机から起き上がろうとする手が震えてますもの。
「休憩……?」
……レイジ様、大丈夫ですよね? 過労死寸前の目をしていますけど……一緒に食事なんてしても大丈夫でしょうか?
「あの、それでは私は失礼して」
「おいおい、こんだけ沢山あるって事はリーシャも食べていくんだろ? 遠慮せずに食べてけよ!」
に、逃げ場を失いました……! レイジ様、フェルさん、レオさんに囲まれてご飯なんて、よく考えれば上司に囲まれて食事? これは……マズいのでは!?
◆
結局、4人で食べる事になりました。オニギリは美味しいのですが……緊張します。空気が重たい訳では無いのです。レオさんはピグマ様の頃からの上司ですから大丈夫なんですが……フェルさんが少し苦手で……何を考えてるか、表情から分かり辛いんですもの。
「ええと、リーシャさんだっけ?」
「は、はいっ!?」
「その……大掃除の調子はどう、なんです、カ?」
レ、レイジ様から話しかけてくださった!? 気を遣わせてしまいました……そう言えば、レイジ様の話すのも初めてですよね!? クリスマスの仕事の指示以外は、全部レオさんを通してですし……!
えっと、何を話せば良いんでしょう!? 私とジーク君との馴れ初め? それとも、レイジ様が主人になってからの感想? えっと、えーっと……
「リーシャ。落ち着いてください、レイジ様は大掃除の調子を聞いてるだけですよ」
「へ……?」
「レイジ様。貴方は主人なのですから、もっと落ち着いて聞いてください。敬語でも大丈夫ですから」
「あ……ああ、そうだな」
「レオも楽しまないでください。本人たちは真剣なんですよ」
「……ククッ、いやあ、悪い悪い! レイジ様もリーシャも面白れぇんだもん!」
フェルさん……助けてくれた?
「じゃあ、改めて。大掃除はどうでした?」
「はい……大変そうなお風呂場も終わりそうでしたし、おせち……? の準備も順調でした! 後は……」
◆
オニギリも食べ終わり、レイジ様の部屋を退室しました。その時、フェルさんが一緒に来てくださる事になったのですが……な、何を話せば良いんでしょう?
あ、さっき助けてくださったお礼を……でも、なんて切り出そう?
「リーシャ、慌てなくて大丈夫です。貴女はどうも、気を遣いすぎてしまうようですね。行動を起こすなら、一呼吸置きましょう」
フェルさん……まただ。また、助けてくれた。もしかして、フェルさんって凄い優しい人? 私が勝手に勘違いしてただけ!?
「あ……えと。スー、ハー……フェルさん!」
「はい」
「さっきも今も、助けてくださってありがとうございます!」
「気にしないでください! 私達は共にレイジ様に奉仕する者ですから。それでは……」
フェルさんが耳元に近付いてきます。え……食べられちゃいます!?
「夕飯のお蕎麦作り……私が代わります。彼氏と過ごされるのがよろしいかと?」
「へっ!?」
フェ……フェルさん、気付いてたんだ。凄い……私達の事、よく見てくれてるんだ。カッコいい……
◆
「今、フェルがリーシャの力で好感度上げた気がする」
「変な事言ってねえで、次行くぞー」
「減らねえよぉ……」
小説のモブに焦点を当てるのもまた一興……ですよ?
次の更新は1月1日を予定してます(予定です)