レイジとフェルのクリスマス
本編との時系列は考えていません。
が、113話位までの読書を推奨しておきます←
俺とフェルが乗るソリは、満点の星空に虹の軌跡を描いていく。ソリを引くのはトナカイ……ではなく、頭が緑色、胴体や手足が赤色、翼や尾が白色というこの時期にしか居なんじゃないかカラーリングのドラゴンだ。
今日はクリスマス。まさか異世界でもクリスマスがあるとは思わなかったけど……地球に存在する神様の名前を持ってる神も居るし、クリスマスに関わる神様の名前も居たのかな。
「自分の力で飛ばないというのも、良いものですね」
「確かにな。自分で飛んでる時は魔力の操作に忙しいし、飛ぶのなんて戦う時なんだからまず見る暇ないし」
「それもありますが……」
フェルが俺の肩に頭を乗せる。頭を乗せられた瞬間、甘い香りが鼻をくすぐって心臓を高鳴らせる。
そ、そういう仕草はなんかズルくないかなっ!?
「慕っている方と空のデートなんて、ロマンチックじゃないですか」
「フェル……」
これは俺とフェルが体験した奇跡の一日……
◆
その日は雪が降らない筈の地域だったハインリヒで大雪が降ってきていた。突然の天候にハインリヒはかなりの大混乱、レストランや雑貨屋、学校の施設まで機能停止していた。そんな雪の日に、俺の屋敷はというと……
「レイジ様、雪の重みで屋根がミシミシ言って来たぞ!」
「火属性の魔法で溶かしとけ! ジークが火属性の結界でコーティングするまでの辛抱だ!」
「レイジ様、ネルガ様がまた玄関を壊しました!」
「ふざけんな、あいつの筋肉で塞いどけ! シルドに言って、暖炉の薪でなんとか補修しろ。もう片方のドアが無事なら外には出れる!」
「レイジ様、洗濯物が凍り付きました」
「レイジ様、風呂場のお湯がもう残り少ないです!」
「レイジ様、調理場の肉が凍って包丁が通りません!」
「だああああああっ! リーシャ、洗濯物は一旦放置だ。洗濯が終わってるなら汚い訳じゃ無いだろ! アルフレート、風呂場のお湯は火属性の従者と水属性の従者でお湯を用意してくれ。この作業を優先させろ、肉体労働なら俺が手伝う! レイア、凍った肉は諦めろ。暖かい野菜スープにしてくれ。それなら作業しながらでも食べやすくなる!」
ハインリヒと同じように、突然の大雪に大混乱していた。厳しい寒さに多くの従者が戸惑い、屋敷の家事が滞っている。まともに動けているのは勇者時代に雪を経験しているネルガ、獣人化でなんとか暖を取っているレオ、寒い地域出身の従者や火属性で寒さを誤魔化せる従者だ。
誰かの名前が足りない? そう、実はこの時フェルは……
「レイジ様、またです! またフェルさんがっ!」
「分かった、俺が行く! 皆、どうにかしてお湯を切らすなよ。指示はレオに任せる!」
「オレッ!?」
従者からの報告を受け、フェルの居る部屋へと駆け出す。そう、この時フェルは……
「レイ、ジ様……」
「フェルッ!」
フェルの居る部屋では、顔を赤く紅潮させたフェルが、ベッドから起き上がろうとしていた。急いで駆けつけ、フェルをベッドで寝かしつけるとベッドに引き込まれる。抱き枕にされたが、くっついてる箇所から火傷しそうな程の熱さが俺を襲う。
この時、フェルは風邪を引いていた。あのチートのフェルが動けなくなるほどの風邪だ……フェルは平然と振舞おうとしたが、義手をつけようとして義足を付けられたり、いつものコートを着せようとして部屋のカーテンを引き千切られては……流石に気付いた。
「申し訳ありません……」
「良いから休め。眠れるまで傍に居るから」
フェルの異常な病気に気付いた俺は、直ぐに休むように指示をしたのだが……病気は魔法では治せない。看病しようにもこの大雪では、俺が従者に指示を出すしかない。
までは良かったのだが……数時間に1回、フェルが寂しくて大暴れするようになった。俺が行けば少し治まるのだが……どうしたものか。
「お困りのようじゃな、少年」
フェルに抱きつかれながら考えていると、聞きなれない老人の声がした。俺の目の前に会った事の無い赤い服の太った老人が白い袋を持ってベッドの横に立っていた。
……今日って何日だ? 地球で言うクリスマス・イブだっけ……?
「儂の姿を見て驚かずに考える辺り、少年は儂の事を知っているようじゃのう」
「サンタクロース……」
「如何にも。この世界ではニコラウスと名乗っておるがの」
「サンタクロースが俺に何の用だ?」
悪いが、俺はもう15歳。サンタの存在を信じるような年齢じゃない。というか、サンタと言えど不法侵入だ。ぶっちゃけ死ぬほど忙しいので、フェルが寝静まったら帰ってもらおう。
「君にも用が無い訳では無いが……そちらの少女に用があるのじゃ」
ニコラウスがそう発言した瞬間、俺はフェルの腕を抜け額に銃を突きつけた……筈だった。俺の右腕の袖をフェルが掴んで引き止めていた。
フェル……? どうして俺を引き止めるんだ?
「ホッホッホ。少女よ、感謝するぞ。少年、話を聞いてほしい」
「…………分かった。フェルはここで休んでてくれ、俺はニコラウスの話を聞いてくる。直ぐに戻ってくるから、寂しくても暴れたりしないでくれよ」
「が、頑張ります」
「それじゃ、こっちに来てもらおうか」
◆
大雪が吹き込んでくる玄関に、薪を釘で打ち付けて無理矢理塞ぐ。隣では同じようにニコラウスがゴム手袋を付け、凍った生肉で釘を打ち付けていた。シュールな光景だが、使える物は使わなきゃならない。
フェルが復活するまでの辛抱だ。それまでは屋敷の主である俺がしっかりしないと。
「だからって儂まで働かすかのう!?」
「うるさいっ! 話は聞いてやるから、口と手を動かし続けてくれ。人手が足りないんだよ!」
猫の手でも借りたいんだ。今の俺は使える物は何でも使うぞ!
「担当直入に言うとじゃな、この大雪を止めるのを手伝ってもらいたい」
「出来る訳ないだろ」
「それが出来る。この大雪はクリスマスドラゴンが勇者の力に引かれ、ハインリヒの上空に留まっているからじゃ」
「クリスマスドラゴン?」
なんだ? その時間が無いクリエイターが急いで考えました~、みたいな名前のドラゴン。最近のネット小説家でももう少し名前を捻ると思うぞ。それが勇者の力に引かれた……つまり、ネルガのせいだな? アイツ、後でぶん殴ってやる。
「無論、タダでやってくれとは言わん。1つ、君に奇跡を与えよう」
「奇跡?」
「そう、奇跡じゃ。巨万の富、特別な属性、運勢の操作……どのような奇跡でも起こして見せようぞ」
どのような……奇跡でも……
「なあ、それって……」
俺の言葉を聞いたニコラウスは、ニッコリと微笑んで答えた。
「勿論、出来るとも!」
◆
俺の前に居るのは、緑、赤、白のクリスマスカラーなドラゴンだった。俺を乗せるソリを引く、像より大きく逞しいトナカイ。そのトナカイが子供のトナカイに見える程、クリスマスドラゴンは圧倒的なサイズだ。
「あれがクリスマスドラゴンじゃ。どうかの……?」
「どうも何も、大雪を止めさせて奇跡を起こしてもらう。それだけだ」
ニコラウスが駆るソリに乗り、俺は2本の剣を構える。この為に守護神獣のトールから雷光の脚を借りてきた。絶対に大雪を止めさせる!
「行くぞ……ニコラウス!」
「うむ、行くぞ!」
◆
と、戦いを挑んだんだが……クリスマスドラゴンにはボロ負けだったんだよな。でも、クリスマスドラゴンには会話できる知能があって、俺の勇気を讃えてくれた。大雪を止めてもらい、ニコラウスは無事に多くの子供にプレゼントを配り終えた。
大雪のせいで、プレゼントが積めない所だったらしい……まあ、配れたのだから良かった。
「そう言えばレイジ様、奇跡の件、どのような奇跡を起こしてもらったのですか?」
「ああ、それはな……フェル、お前の風邪を治してもらったんだよ」
「……レイジ様」
雪が静かにはらはらと降ってくる。これって……クリスマスドラゴンが降らせているのか?
(いや、私ではない。ニコラウスめ、洒落た真似をする)
「へえ……ニコラウスがか」
「レイジ様」
「なんだ?」
「好きな方と見る雪って、素敵ですね」
……どこかで聞いた事あるような? いや、でも、そうだな……確かにそうだ。
「俺もそう思うよ」
フェルが肩から頭を離し、俺を見つめてくる。その期待に応え。俺は静かに……彼女と口づけを交わした。
◆
「少年と少女には、プレゼントへの望みが無かった」
女神は語る、少年と少女の欲の無さを。
「だから少女には少年と過ごす時間を与えたかったんだけど……まさか、あんな事になるなんてね」
女神は語る、自分の行いの目的を。
「結局、少年の奇跡はボクの奇跡の取り消しだったし……やっぱり人間は難しいなぁ」
女神は語る、人間に不可解さを。
「でも、偶にはこういうのも良いアクセントか。やっぱ、クリスマスには幸運を望みなよ。じゃないと、お節介な神様に幸運のつもりの不幸を与えられるかもよ? じゃあ、ボクはゲームのイベントに戻るよ」
女神の語り、誰に当てられたのかは……彼女のみが知る事だ。
作者はゲームのボックスを回すクリスマスでした(半ギレ)
次の更新は12月31日を予定しています




