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第27話「本性と罪と罰」



「オラのせいで……。…ゴメンな……。マロン姉ちゃん……おっちゃん……。ゴメン……。…ゴメンな……」

 マロンを抱きしめて座るアモーバの背後、茫然自失状態から戻ってきたコメコが幽霊のように立ち、俯き小さな声で「オラのせい」と「ゴメン」を繰り返す。

 迫り来る大野獣。

「来るぞ! 」

 アイスが声を上げつつ剣を構え直した。

 大野獣のスピードが上がる。

 剣を一旦収め、右方向へと捌けざま右手のひらを大野獣に向けるアイス。

 大野獣の前半身だけが氷づけになり、突進が止まる。

 だが暫しの後、ミシミシと音。直後、氷が砕けた。

 再び動き始める大野獣。

「プロテクティブビッグウォール! 」

「プロテクティブビッグウォール! 」

「プロテクティブビッグウォール! 」

 ぴいたん・クルミ・ラズが唱え、高さ10メートル超の3重の壁が現れる。

 ぶち当たり弾かれる大野獣。破ろうと何度も体当たり。

 突然、

「ぅおああああああああああああああああーっ! 」

 それまでただ静かに肩を震わせていたアモーバが叫んだ。

 攻撃のための発声とは違う、低く轟く、まさに獣の咆哮。

(…アモーバ……)

 一頻り吠えると、アモーバは地面にそっとマロンを横たえ、少しフラつきながら立ち上がって巨大化。早歩きで壁を回り込み大野獣のもとへ。掴み掛かって転がしてから、グース陣営へと真っ直ぐに突き進んで行く。

「待て! アモーバ! 先走るなっ! 」

 硫黄の止める声など全く聞こえていない様子。

 起き上がろうとする大野獣。

 すかさずアイスが、太さ長さともに自身の5倍ほどの大きさの氷柱を落とす。

 大野獣は硬かったらしく貫くことは出来なかったが、再び突っ伏した。

 それを確認したように頷いてから、アイスはアモーバの背を追う。

「アイス! 」

 ぴいたんが壁を解除し他の2人の壁を避けてアイスについて行った。

(燐……! )

 すぐにぴいたんを追いたいが、状況的に迷う硫黄。

「…おっちゃん……。アイス姉ちゃん……」

 呟き、グース陣営へ向かって行った3人を見送るコメコ。続いて、横たわるマロンに目をやり、

「…マロン姉ちゃん……」

 それから、両手のひらで挟む形で自分の頬を2回パンパンッとやり、シャンと背筋を伸ばしてキッと顔を上げ、3人に続いた。

 クルミがマロンを振り返る。

「マロン様、少しの間お傍を離れることをお許しください。

 私は攻撃は出来ませんが、私と近い気持ちであると思われる皆さまを支援したいのです」

 言って、壁を作るために前に出していた手を下ろし、駆け出した。

「ラズ」

 クランの呼び掛けに頷くラズ。腕を引っ込めてマロンのもとへ。

「シークレットガーデン! 」

 唱えてからマロンをグルッと囲うように、手の先からサラサラと微小な種子のような茶色がかった光る粉末を出して蒔く。

(聞いたこと無い呪文……)

 見守る硫黄。

 粉末の端と端がつながったところで背の低い茂みが出現。マロンを隠した。直後に蕾がついて一斉に開花。中にいるマロンごと消える。

 そこへ、起き上がった大野獣の前足が、ラズを見ているクランの背後へと伸びた。

 気配で察したか振り向くクラン。

 硫黄は、伸ばされた前足の下をくぐりざま、ステッキでチョンと触り、

「マジカルミニハート・エクスプロージョン! 」

吹っ飛ばす。

 クランが剣を片手で高々と突き上げ、

「グラウンドビッグウェーブ! 」

 剣が赤い稲妻を纏う。

(これって、グースに操られてた間に使った……)

 硫黄は離脱。

 クランは剣をクルッと逆手に持ちかえ、勢いよく地面へ。寸前で止める。

 大野獣の周囲の土が、クランだけを避けて生き物のようにしなやかに、大野獣の頭頂部までは少し足りない高さまで上がり、高さが足りていないことなど完全に無視してガッシリした肩と丸まった背に、その重量に任せてのしかかった。

 続けてクラン、

「アントヘル! 」

 大野獣を中心に擂鉢状に地面がへこむ。

 蟻地獄のように中央へと流れていく土に巻き込まれ、大野獣は沈み、頭頂まで埋まった。

 見えなくなっているマロンの近くのまま、ラズ、

「ラフレシア! 」

蟻地獄に手のひらを向ける。

 微細な糸状のものがキラキラと宙を舞い、蟻地獄の中央に着地。突如として5枚の肉厚な花弁を持つ赤く大きな花が現れ、蟻地獄に蓋をした。

 力を使い果たしたようい膝を折るクラン。

 ラズが駆け寄り顔を覗いてから、硫黄に、

「行っていいよ。妹ちゃんのトコ。このおっきいのは当分出て来れないし、姉さまを回復したら、姉さまとラズも行くから」

 頷き、ラズの「リカバリ! 」を背で聞きながら、硫黄はグース陣営へ走る。




 グース陣営の手前にいたぴいたん・クルミ・コメコ・アイスに硫黄が合流した瞬間、ドーンッ!

 地面が縦に大きく揺れた。

 ジャンプしていたアモーバが、陣営中央に単身着地したのだ。

 その場のグース陣営全員の足が地から離れる。

 すぐさまアイスが、その足下を凍らせた。

 降りると同時にツルッ。滑って転倒するグース陣営の一同。

 グース陣営全員が体勢を崩している中、アモーバは一切の迷い無くソルトだけを狙って、大きなハンマーのような拳を打ち下ろす。

「オフェナプ! 」

 クルミがアモーバにバフをかけた。

「プロテクティブウォール! 」

 わたあめの声とともにソルトの頭上に現れる壁。

 構わず打つアモーバ。

 壁が壊れる。

 自力で拳を避けるソルト。空振りとなった拳が凍土を砕きめり込んだ。

 続けてもう一方の拳を振りかぶるアモーバ。

 その背中に、

「サンダー! 」

 フラダンスの犬の雷。

「プロテクティブウォール! 」

 ぴいたんが防ぐ。

 ソルトは、またアモーバの拳を避けた。

 避けるために不安定な体勢となったタイミングで、コメコ、

「かまいたち! 」

 それをも回避するソルト。

 と、グース陣営の向こう、小さな影が高速で近づいて来ているのが見えた。

 直後、アモーバの斜め頭上に、先程マロンによって遠くへ投げられていた千代女が、抜刀した状態で戦線復帰。

 アイスが間に入るつもりか動こうとしたが、それよりも早く、アモーバはめり込んでしまっていた拳を引き抜きざま、空中の蝿を叩き落とす感じで、ソルトへの攻撃のための前傾姿勢のまま払う。

 かわして着地する千代女。

「…を……」

 アモーバは俯き暗く呟いてから、ガバッと身を起こすのを通り越し反り返り気味になって、

「邪魔を、するなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 」

叫び、直立に戻らないまま、大腿の横で握っていた拳を両方とも千代女に向けた。

 千代女にはかわされたが即座に軌道を変え、千代女から最も近い位置にいたフラダンスの犬をぶっ飛ばす。

 間髪入れずに次は、操物を自らの都合でキャンセル出来ないために大野獣をクランとラズによって閉じ込められてしまっていることで攻撃する術を持たない、ルビーとサファイアを踏みつけに掛かった。

 巨体で大暴れされ、味方でも迂闊に近づけない。

 そこへ、

「どのような状況ですか? 」

 クランとラズが合流。

 アモーバは、ルビーとサファイアを踏みつけ蹴飛ばして、今度はわたあめ。

 しかし、全く似てはいなくともマロンのコスプレをしているわたあめを前に、動きが止まる。

 そうして出来た本当に一瞬の隙を突かれた。

「ツイストドリル! 」

 ソルトがわたあめの前を塞ぎ槍を突き出す。

 技のわりに距離が近い。槍そのものが当たる距離だ。

 刹那、アモーバとソルトの間に飛び込む影。

 ガキンと金属同士のぶつかる音。足下に落ちる刀身部分。サーベルの刀身だ。

 カハッと銀色の液体を吐くアイス。脇腹が大きく抉り取られたようになっている。

(アイス……! )

 少し後れてソルトの口端から血が伝った。

 ニヤリと笑むアイス。

 見れば、ほぼ付け根から折れてしまった刀身の代わりに護拳から氷の刃が伸び、ソルトの腹を貫いていた。

 膝をつくアイス。

「アイス! 」

 ぴいたんが駆け寄ろうとするのをクルミは止め、

「お父様! アイスさんを、こちらへ! 」

呆然としてしまっていたアモーバに声を掛ける。

 アモーバはハッと我に返った様子でアイスを抱き上げ、戻って来ようとする。

 その背中を狙う千代女。

 阻止すべくコメコ、

「かまいたち! 」

 千代女にとっては、おそらく見たことの無い攻撃であり、実際に目に見えもしない攻撃。だが勘が良いのか装束の裾を少し切られた程度でかわす。

 そうこうしている間に到着するアモーバ。ぴいたんの前で屈み、アイスの様子を見せた。

 追って来た千代女を、

「プロテクティブドーム! 」

 クルミが、味方全員を覆うドームで阻む。

 アモーバの腕の中のアイスの抉れた脇腹に手をかざし、ぴいたん、

「トリートメン! 」

 外傷治癒特化の呪文を施すも、傷が大きすぎて効果が見られない。

 泣きそうになりながら繰り返し唱えるぴいたんの隣で、同時にラズがリカバリを唱える。

 グース陣営でも、わたあめが杖を掲げ全体を回復しようとしていた。

 今のうちに叩いておきたいと考え、

「クランさん! コメコ! 」

 2人を誘って動こうとする硫黄。

(? )

 頭上に影が差したのを感じ、仰ぐと、大野獣が降ってくるところだった。

 ルビーもサファイアも瀕死のようだが、キャンセルされていなかったのだ。

 ラズが、

「プロテクティ……」

 ドームを2重にしようとするも間に合わず、壊れるドーム。

「アイスのこと、お願いします」

 アモーバが、ぴいたんとラズにアイスを預け、着地したところだった大野獣へと走って突き飛ばし、転ばせて組み敷く。

 とりあえず大野獣のことはアモーバが押さえれているので、再度クラン・コメコに声掛けし、硫黄は他へ回ることにした。

(まだ、ほとんど回復してないから、先ずわたあめさんを! )

 当然、立ち塞がる千代女。

「ここはオラに任せるだ! 」

 足を止め剣を構えるコメコに、硫黄とクランは頷いた。

 瞬間、ドンッ!

 背後で爆発音。続いて高温の強風。

(っ? )

 振り返ると火の海。

 ぴいたん・クルミ・ラズが各々ドームで身を守り無事であることは、すぐに見て取れた。

(アモーバは……っ? )

 アモーバの姿が見当たらない。

 ぴいたんのドームで一緒に守られていたアイスが、状況の殆ど変わっていなかった傷口を強引に自身の氷で塞ぎつつ、ユラリと立ち上がり、手を突き出して、炎の拡がっている範囲に沿って動かす。

 炎が凍った。

 一部、氷の密集している箇所が動き、氷を払い落としながら身を起こすアモーバの姿。

(…よかった……! 無事だった……! )

 大野獣の影も形も見えないことから、火の海は、大野獣が内に含む人形の影響か何かで爆発してのことだったのだろう。

 グース陣営へと視線を戻す硫黄。爆発に気を取られた短い時間に、陣営に残っていた全員の回復が済んでいた。

 千代女も陣営へ。

「アイス! 」

 ぴいたんの悲鳴。

 条件反射で目をやると、アイスがぴいたんに凭れるように崩れ、支えきれずにぴいたんも一緒に倒れるところだった。

(アイス……! )

 アモーバが歩み寄り、暫し固まって見下ろしてから、見下ろしていた間より更に前傾姿勢となって、叫ぶが如く大きな口。

 可聴域外なのか全く声は聞こえないが、空気が、大地が、震える。

 周囲から、ただならぬ気配。

 魔物が、この戦場を遠巻きに囲み集まってきていた。狙いは明らかにグース陣営。見据え、唸る。その数、実に数千‥‥‥いや数万・数十万か。

(アモーバが、呼んだ……? )

「ついに本性を現しおったな! 」

 ソルトが槍でアモーバを指した。

「そうしてまた、凶悪にして強大な力を持つ生物どもを煽動し罪無き者らを蹂躙するのか! 」

 硫黄は、目と目の間の骨の辺りと胃の辺りに、何だかモヤモヤしたものを感じる。

(本性? 本性って何だ? 家族を殺されたり傷つけられたりして怒らないほうが、どうかしてるだろ。

 罪って何だ? 罪無きって? 今、魔物たちが相手にしようとしているのは、ソルト含めグース側のプレイヤーたちだ。結果的に最初に当たった攻撃は、こちら側から向こうへのものでも、先に動いたのは向こう。自分に危害を加えていない相手を傷つけるために動くことは罪じゃないのか? 逆に、自分を傷つけようと向かって来る相手を迎え撃つことは罪なのか?

 昔のことは知らない。

 少なくても今のアモーバは、ただ娘たちと静かに暮らしたかっただけなのに……。

 きっと気の遠くなるくらい永い孤独を経て、やっと手に入れたささやかな幸せも許されないの? 昔の罪で? )

 アモーバが口を閉じ上体を起こしたのが合図か、魔物たちが一斉にグース陣営へと向かって行く。

「そうはさせぬ」

 言って、フラダンスの犬とわたあめに視線を送るソルト。

 頷く2人。

「サンダー! 」

 フラダンスの犬が近くにあった大きな岩を粗めに砕き、

「プロテクティブフィルム! 」

わたあめが、その1つ1つをコーティング。

「パーフェクトトルネード! 」

 ソルトが空へと槍を突き上げた。

 コーティングされた岩の欠片を巻き込んだ竜巻が、魔物たちを切り裂きながら移動していく。

 もともとパーフェクトトルネードはソルトの技の中で最強の技だが、グースの力か、とんでもない威力。

 見るに堪えない惨状。

 切り裂き尽くし、竜巻は硫黄たちのほうへ。

「プロテクティブドーム! 」

「プロテクティブドーム! 」

「プロテクティブドーム! 」

 ぴいたん・クルミ・ラズによる3重のドーム。

 しかし表面に掠っただけで壊れ、一同は竜巻に吸い込まれた。

 (っ! )

 吹きつけると言うより、叩きつける、斬りつけると言ったほうが適当。風そのものが凶器。岩の欠片で更に。

 避けようにも翻弄され、吸い込まれてものの数秒で体に傷の無い箇所がなくなるほど。呼吸さえままならない。

 意識が遠のく……。もう痛みも息苦しさも……。

(……? )

 不意に、風とは別の方向へ強く引っ張られた。周囲の風が止む。

 アモーバが人型のまま、掴まえ胸へと抱え込み、庇ってくれたのだ。

 硫黄が最後だったようで、皆、そこにいた。酷く傷つき目を閉じ力なく、ただ、そこにいた。

 遠い意識の中、翳む竜巻の外、ソルトがルビーに目配せし、頷いたルビーが人形を作り出すのが見える。

 人形たちが自ら竜巻に飛び込んだ。

 爆発。竜巻は火災旋風のようになる。

 熱いはず。なのに感じない。頭の中? 心の奥? いや、もっともっと遠く、優しく暖かな光に包まれて、浮かぶというほどでなく浮かぶのは、テーブルの上のパンケーキとコーヒー。

 アモーバが、強く強く腕の中の一同を抱きしめつつ、スライム型に変形していく。

 その最中、硫黄の脳裏を、音なのか視覚的な文字列なのか分からない酷く感覚的な何かが過った。

(…これって、呪文……っ? )

 意識が復活。

 感覚的であるにもかかわらず、硫黄は確信に近い感じで、そう思った。

(…聞いたことの無い呪文……。何が起こるか分からなくて怖いけど、一か八か……! )

 硫黄はアモーバから這い出し、既にほぼ変形を終えているが意外としっかりした表面のアモーバの上に立つ。

 風の刃と岩の欠片、それから新たに加わった炎が、容赦なく襲い掛かってきた。

(…痛……あつ、い……。…でも……っ! )

 腹にグッと力を込め、足を踏ん張って、ステッキを掲げ、

「マジカルステラハート! 」

 ステッキ先端のすぐ上に直視出来ないほどの明るく輝く恒星のような、直径1メートルの球に丁度収まるくらいの大きさの立体的な白いハートが、ピンク色のフレアを纏って現れた。

 過る感覚に任せて硫黄は続ける。

「スーパーノヴァエクスプロージョン! 」

 ハートの恒星は、硫黄と足下のアモーバを避ける角度に大爆発。

 衝撃で火災旋風を吹き飛ばした。

 すると、消えたハートの代わりに小さな小さな黒い渦。

 当然見たことなど無いのでイメージだが、

「ブラックホール……? 」

 呟くと、偶然に呪文と一致していたらしく、直前に吹き飛ばした全てがその内へと吸収されていき、最後は渦ごとステッキの飾り部分へ取り込まれた。

 次は再び感覚に任せて、ソルトのほうへステッキを向け、

「ホワイトホール! 」

 先端から炎の風が勢いよく噴き出し、吹き飛ばす前の火災旋風を形成して、ソルトと、その他のグース陣営を襲う。

「プロテクティブドーム! 」

 わたあめが唱えるも、ドームは風圧のみで壊れた。

 ソルトが槍を空へと突き上げ、

「グラウンドビッグウェーブ! 」

(ソルトの体なのに、クランさんの……っ? …ああ、でも、もともとグースの技か……)

 逆手に持ちかえ、赤い稲妻を帯びた切っ先を地面の寸前まで一気に下ろすと、ソルトの周囲、ごく狭い範囲の土が、しなやかに生き物のように、彼の上背より少し高い位置まで上がる。

(…っていうか、自分に向けてる……っ? )

 ソルトに被さる土。

「アントヘル! 」

 ソルトの姿が土中に消えた。

 火災旋風に巻き上げられ斬り刻まれ焼かれる、わたあめ・フラダンスの犬・ルビー・サファイア・千代女。

 硫黄は状況が分からなくならない程度に目を背ける。

 旋風が治まった時、そこには誰の姿も無かった。

 体に力が入らず、立っていられなくて頽れる硫黄。

 突然、ソルトの消えた辺りの土がボコッと盛り上がったかと思うと、バンッと弾け、ソルトが現れた。

 ソルト、槍を地面に突き立て、

「グラウンドアタック! 」

(またクランさんの技……っ! )

 向かい来る土柱はクランのものよりも大きく勢いもある。

(あんなの喰らったら……! もう今だって、生きてるのが不思議なくらいなのに……! …オレも、アモーバも、中の皆も……! )

 何とかしなければと思うが、指一本動かせない硫黄。

 その時、

(っ? )

 足下がジェル状となり、硫黄はアモーバの中へ沈んだ。

 アモーバの中にいる他の一同は、全員傷つき倒れ動かない状態。

 土柱は目の前。

(…もう、ダメだ……っ! )

 瞬間、アモーバと土柱の間に、桜色の光が割り込んだ。

 光は、巨大な人型アモーバと同じくらいの大きさの、限りなく白に近い淡いピンクの長袖で地面まである丈のダボッとしたドレスに身を包んだ、桜色の緩やかウェービーな長髪の女性の姿となり、両腕を広げて、アモーバを背に庇う格好で立った。                                                  



 

                                                                                                                                                                                                                                                      


                                                                                                                                                                                                                                                

                                                                                                                                                                                                                        

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