ショートショート030 ある解決
エフ博士は、知的好奇心のかたまりのような研究者だった。わからないことに対しては異常なまでの興味を持ち、その解明に情熱を燃やす、非常に研究熱心な人間だった。
しかし同時に、他のことにはいっさい興味を示さなかった。有名になりたいとも、とりたてて金が欲しいとも思わなかった。もちろん他人にも興味はなかった。自分の研究にしか興味がないのだから、それも当然だった。
そんなエフ博士が、ずっと夢中になっている研究があった。タイムマシンの開発だ。時空の仕組みはあいかわらず謎だらけだ。時間旅行は、エフ博士が子供のころからもっとも深く興味を持っていたことだった。
そしていま、そのタイムマシンがとうとう完成した。時間旅行の手段を、人類は初めて手に入れたのだ。
「ついにできたぞ。あとは実際に動かしてみて、ちゃんと時間移動ができるのかどうか確かめるだけだ」
そのとき、つけっぱなしにしていたテレビから、緊急ニュースが流れ始めた。エフ博士が振り返ると、総理大臣が何やら深刻そうな顔でしゃべっていた。
「……というわけで、この巨大隕石は、一週間後に地球に衝突することがわかりました。これはデマでも映画の宣伝でもありません。本当の話です。破壊も軌道変更も不可能です。地球はもうおしまいですが、国民のみなさまにおかれましては、どうか最後まで冷静な行動を……」
これを聞いて、エフ博士は焦った。なに。一週間だと。せっかく私の研究が完成したのだぞ。これを使って知りたいことが、山ほどあるのだ。恐竜の絶滅。大陸の移動。生命誕生の秘密。人間は本当に猿だったのかも知りたいし、ピラミッドは本当に人力で作られたのかも知りたい。そうだ、未来がどうなっているのかも気になるな。いや、これから隕石がぶつかるのだから、それはもう無理なのか。まったく、これから私のさらなる研究が始まるというときに、なんてことだ。
エフ博士はがっくりと肩を落としたが、しばらくして、ふと気づいた。
「そうだ。それなら、過去へ飛べばいい。うまい方法を思いついた。これで万事解決だ」
みごとな解決策を思いついたエフ博士はうきうきと研究資料や道具をまとめ、タイムマシンに積み込んでいった。最後に自分も乗りこんで、行き先を十年ばかり昔の山奥に設定し、タイムマシンを起動。そしてみごと、時間旅行は成功した。
過去に到着したエフ博士は、誰もいない山奥で両手をあげ、喜びの声をあげた。
「やったぞ。成功だ。これで研究が続けられるぞ。この時代に新たに拠点を作り、十年たったらまた過去に戻る。未来の科学がどんなものになっていくのか分からずに終わるのは残念だ。しかし、十年後に隕石がぶつかるなどとわめいたところで、どうせ見向きもされないに決まっている。そんな無駄な時間を使うくらいなら、自分の研究を進めた方がよっぽどましというものだ。地球の運命など知ったことか」