17話 そしてギルドでお約束
「おいおい! このギルドはこんなションベン臭ぇガキまで冒険者にすんのかよ!」
背後から飛んできたイチャモンに俺とウィオが振り向く。そこにいたのは金属製の軽鎧を身につけた男の冒険者が三人。チビデブノッポと典型的な小物感あふれる方達がギルド内で大声を上げている。
周りを見てみると他の冒険者達はまたか、と言った表情で事の推移を見守っている。どうやらこの三人はいつも新人の冒険者に絡んでいるのだろう。
異世界に行った日本人が冒険者登録する時に絡まれるのはお約束と言えばお約束だが実際にやられると面倒な事この上ない。
「さてウィオ、早いとこギルドカードを門番のおっちゃんの所に見せに行こうか」
「そうですね。五日以内に見せないと借金奴隷に落されると言ってましたから早い方が良いです」
小物三人衆を無視し通り過ぎようとすると三人衆の内デブとチビが俺達の行く手を阻む。どうやらリーダー格はノッポらしい、どこまでお約束な奴等なんだ。
「ノポンさん! ギルド内での揉め事はご法度ですよ!」
「ああん? リコレットちゃん、これは揉め事じゃねぇ教育だよ。おらガキ共、俺達が冒険者の流儀ってもんを教えてやる。お代はクエスト報酬の九割だ」
なんだこのおっさん、頭蛆でも湧いてんのか? 新人とパーティー組む危険性は分からなくもない。足引っ張られて自分達まで危険な目に会う可能性もあるからな。九割ってのはふっかけ過ぎだと思うがまあ仕方ないだろう。受ける気は無いが。
てか受付のお姉さんの名前リコレットって言うのか。
「それとそこの嬢ちゃんを貰おうか」
下卑た笑みを浮かべる小物三人衆。厭らしい目つきで嘗め回す様にウィオの幼い体を見ているのは正直不愉快でしかない。
「阿呆、何が悲しくてお前等みたいなクズに可愛いウィオを差し出さないといけないんだ?」
「ああ!? 冒険者になったばかりのGランクがDランクの俺達に何盾突いてんだ! お前等は黙って頷いてりゃいいんだよ!」
反抗されると思ってなかったのかノポンと呼ばれた男が顔を赤くして怒鳴り散らす。ほんとに迷惑でしかない。かと言ってぶっ飛ばすのも問題になりそうだしなー……。
「いい加減にしてください! これ以上はランク降格処分をギルドマスターに申請しますよ!」
「うるせぇ! それなら決闘だ! 勝った方が負けた方になんでも命令できる、これなら文句ねぇだろ!?」
「Dランクのあなた達と冒険者になったばかりのGランクじゃ勝負になりませんよ!」
「いいぜ?」
ああ、都合がいい。こっちから言おうと思ってた事を向うから言ってくれるなんてなんて都合がいいんだ。見たところ三人とも近接職、俺が負ける道理がどこにもない。魔法職がいたらちょっと躊躇ったが……。
「ちょ、ユウさん!?」
「よーしいい度胸だ、褒めてやる。おら、訓練場借りるぞ」
「待ってください、そんな事認めるわけには――」
「いいじゃないか、やらせてやりなよ」
リコレットさんの声を遮るように女性の声が聞こえてきた。声の聞こえた方へと視線を向けるとそこにはギルドの二階へと続く階段から降りてくる妙齢の女性だった。美しい金色の髪を腰まで伸ばし、身に纏っている娼婦と見紛う程に高い露出の新緑の色をしたドレスに金色の髪が良く映える。白くきめ細やかな肩が大きく露出しているドレスに辛うじて収まっている大きな胸と谷間がその存在を主張しており、ただ階段から降りてくるだけなのにも拘らず全身から溢れ出る色気がギルド内の男衆全員の言葉を強制的に無くさせる。それは俺も、そしてウィオでさえも例外じゃなかった。ウィオが未来ある蕾の様な可愛さだとしたらあの女性は完成された美しさだろう。てかあの女の人頭に角生えてない?
「おや、竜人族を見るのは初めてかい? 初めまして少年、それと幼き姫。私が冒険者ギルドのギルドマスター、竜人族のアナスタシア・ケツァルコアトルだ。以後よろしく頼むよ」
「ギルドマスター! 何を呑気に自己紹介なんかしてるんですか! 止めて下さいよ!」
「別にいいじゃないか。私にはあの少年がええと名前なんだったっけ? ノッポ? ああ違う、ノンケか」
ノンケ……ノンケて……。
「ノポンだ!」
何とか笑い出すのを堪えていたが表情は堪えきれなかったようで、今にも吹出しそうな俺の顔をみたノンケが顔を真っ赤にして怒りをあらわにする。
てか自分が所属するギルドのトップに対していいのかねあの態度。まああの人はたいして気にしてないみたいだけど。
「まあ名前なんてどうでもいいじゃないか。とにかく私には少年がノポン? に負けるとは到底思えなくてね」
「はっ! ギルドマスターも地に堕ちたな! Dランクのこの俺があんな冒険者なりたてのヒョロいガキに負けるわけがねぇ!」
「ほう、そこまで言うのなら覚悟は出来ているな? もし貴様が負けたら貴様等はギルドから除名処分とする。問題を起こし過ぎている貴様等には丁度いい機会だ、二度と冒険者ギルドの敷居を跨ぐ事はさせん。だがもし、もし万が一貴様がそこの少年に勝つ事ができたら……なんでも一つ望みを叶えてやろう。まあ私に出来る範囲でだがな」
ワザと腕を組み大きな胸を更に強調するかの様に持ち上げるギルドマスター。ギルド中の男達の視線がその豊満な胸に釘付けになり、中には前屈みになってる奴もいる。
すでに俺に勝った気でいるノポンはあの美し過ぎるギルドマスターにどんな願い事をしたいのか表情を見れば一目で分かる。ウィオを見ていた時以上に下卑た笑みを浮かべいるのがその証拠だ。大半の男はあんな女性がなんでも望みを叶えてくれると言われれば自分の物にしたいと考えるだろう。
愛梨やウィオで見目麗しい女性に慣れていなければ俺も同じ事を考えていたに違いない。
「さて、ノポンの合意は取れたみたいだね。さて少年、君はどうだい?」
俺か、俺の答えはもちろん……。
「問題ない。手っ取り早く終わらせて門番にギルドカードを見せに行きたいからな」
「よし、それじゃあ決まりだ。さっそく訓練場に移動しようじゃないか」
言うや否やギルドマスターは先に訓練場へと向けて歩いていく。ドレスの背中は大きく開いており、白く美しい背中が露出している。その後ろをまるで光に群がる蛾のようにノポンを初めとした冒険者達がぞろぞろ続いていく。
いつの間にかギルドのロビーに残されたのは女性冒険者と受付嬢、そして俺とウィオだけになっていた。
「それじゃ俺達も行こうかウィオ」
「はい、頑張ってくださいね融お兄さん」
「まかせろ。あんな奴ワンパンでKOしてやるさ」
そしてギルドマスターに大きく遅れて俺とウィオも訓練場へと続く通路へと手を繋いで歩いていった。
お約束って重要ですよね、いつだって物語の噛ませ犬役及び小物臭溢れる雑魚はチビデブノッポと相場が決まっているのです(決め付け)!
新しい短編を書いてみました。よろしければそちらもどうぞ。
「死の街とゾンビ少女の結末」
http://ncode.syosetu.com/n3865dw/
何の捻りもないまんまなタイトルですがよろしくお願いします。