14話 そして新たな決意が加わった
新章開始です。これからもよろしくお願いします。
転送の魔方陣の光が無くなるとそこは――森林だった。右を見ても左を見ても見渡す限り目につくのは木木木。それと足元に生い茂る背の低い木と草。そして俺のすぐ傍には可愛らしい天使。
「ってここどこ?」
「多分トレイズ近郊のはずなんですが……」
思いもよらぬ光景にウィオも困惑しているようだ。まぁそれもまた可愛いのだが。
それにしてもどうしよう。どっちに行っていいのかすらわからない状況で下手に動くとトレイズの街から遠ざかる可能性がある。それならまだいい方で最悪遭難するだろう。街近郊の森で。
こんな時は……そうだ! 前に読んだマンガで似たような状況があったな。あん時はたしか……。
「ウィオ、ちょっと上に行って見てくるよ」
「融お兄さん? 上って――」
俺はウィオの言葉が終わるよりも先に頭上の枝目掛けて腕を伸ばす。しっかりと手が枝を掴んだのを確認すると、ついさっきアイアンゴーレム戦でやったように腕を勢いよく元に戻し、その反動で勢いよく木よりも高い位置へと跳び上がる。
えーと、どれどれ~? 街はどっちかなーっと。
周囲をグルッと見回すと、遠くの方に壁らしきものが見える。かなりの高さがあり、おそらくこの森の木よりも高いと思われる壁は遠目から見てもかなりの広範囲にわたって続いているのが分かった。
「ふぅ、お待たせウィオ。あっちの方に壁みたいなのがあったから行ってみようか」
地面へと降り立ち待っていたウィオに左手を差し出す。ウィオは笑顔で返事をすると迷うことなく俺の手を握りしめた。
ああ、ちっちゃなぷにぷにおてての感触がたま――ゲフンゴフン! こんな森の中ではぐれたら危険だからな! そうこれは絶対に必要な事なのだ!
左手でウィオの手の感触を楽しみながら俺は森の中を壁のあった方へと向かって歩く。あまり人の手が入っていない森なのか俺にとっては背が低い草木でもウィオにとっては十分高い。そんなウィオの歩みを妨げるけしからん草木を俺は右手を【フライングブレイド】へと変化させ切り払っていく。アイアンゴーレム相手では手も足も出なかった刃は草木をなんの抵抗もなく、まるで豆腐でも切っているかのような感じで切り払うことが出来た。
そんな中ふとウィオが歩みを止める。頭のてっぺんに生える二つの狼耳がピコピコと可愛らしく、忙しなく動く。
「ウィオ、何かあったのか?」
「前方の茂みに魔物です、融お兄さん」
ガサガサと前方の茂みがざわめき姿を現したのは体長1m弱の人型の魔物。汚れた緑色の肌に鷲鼻を持つその姿はファンタジー系のゲームなどでお馴染みのとある魔物を彷彿とさせる。
「ゴブリンか?」
「ですね。これによると脅威度はFランク、但しゴブリンだけの群れでは規模にもよりますが最高で脅威度Dまで上がるらしいです。上位種がいれば更に上がると書いてあります」
ゴブリンといえば異世界物ではお馴染みすぎる魔物だったな。たしかオークと同じで女性の敵な扱いを受けてたような……。ああ、女性の敵だわ。ウィオを見る目が厭らしい。
てかウィオはあの分厚い本どっから出したんだろ。
「ギャギャーー!!」
奇声を発しながらゴブリンがその手に持つ錆びたショートソードで斬りかかってくる。目標は完全に俺だ。どうやら俺を殺した後弱そうなウィオを連れ去るつもりなんだろう。させる訳ないが。
ガキィン!!
金属同士のぶつかり合う音がしたと思ったらゴブリンの持つショートソードが真っ二つに折れた。ゴブリンは中を舞う折れた剣先を驚きの表情で追っている。それもそうだろう、いかにも丸腰で弱そうな俺が咄嗟に出した腕を斬り付けて、錆びていたとはいえ剣が折れるとは思わないだろう。俺も思わない。
種明かしをするとゴブリンが斬り付けた俺の腕は俺の腕の形をしたアイアンゴーレムの物に変わっているのだ。いくら鉄が比較的柔らかい金属といえども錆びっ錆びのショートソードで斬れる訳もない。
俺は鈍色に輝く腕を【フライングブレイド】へと変化させると、ゴブリンの首を刎ね飛ばす。首が胴体から永遠にサヨナラするその時までゴブリンの表情は驚きから変わっていなかった。よっぽど現実を受け入れられなかったんだろうな。
地面に倒れたゴブリンの首無し死体の胸元を切り開き中からゴブリンの魔石を取り出す。赤といえば赤に見えなくもない魔石はゴブリンがどれだけ弱いのかを物語っているようだった。
「さて魔石も取り出したし、これどうしよ。ほっといて平気かな?」
「多分大丈夫だと思いますよ? この辺りは大気中の魔力も濃くないですし、それに野生の動物か魔物が食べてくれると思います」
「なるほど。ところでさウィオ、その本は?」
そう今俺が一番気になってるのは本だ。分厚いハードカバーの本。大きさはA4って所かな? 正直その厚みだけで人を撲殺できそうだ。カバーは高級感あふれる黒の革製で質素ながらも高級感あふれる装飾が施されている。
まあそれだけならまだいい。だが、そんなでかい本が今までどこにあったのかが問題だ。どう見てもウィオのポシェットに入る大きさではない。
「これは【魔物大全】っていうマジックアイテムです。近くにいる魔物の放つ魔力を感知して自動的に検索してくれる優れものなんですよ?」
「いや、うんまあ優れものなのは分かるんだけど、どっから出したの?」
「え? ああ、このポシェットからですよ?」
え? どう見ても大きさちがくね? 間違っても魔物大全が収まるような大きさじゃないんですけど……。
「もしかしてそのポシェットもマジックアイテム?」
「はい、その名も【秘密のポシェット】です! 容量に制限はありますけど入口に少しでも入ればポシェットよりも大きくても大丈夫です!」
「なるほど。だからポシェットよりも大きい魔物大全が入ってたんだな」
「はい、前の誕生日に両親から贈られた私の宝物です」
そう言って愛おしそうに、少しだけ悲しそうにポシェットを撫でるウィオ。今は亡き両親から贈られた大切な品なのだ、思い入れも深いのだろう。
「そっか……。大事にしないとな」
「はい!」
ウィオの頭にやさしく手を乗せると、満面の笑みを返してくる。
この瞬間俺の目標に新たな物が加わった。俺の目標は愛梨の救出と安倉の野郎への復讐、それに新しく加わるのは、ウィオにもう二度と寂しい思いも悲しい思いもさせないというものだ。
新たな目標を胸に俺はウィオの手を取ると再び冒険者の街【トレイズ】を目指して歩き始めた。
ウィオ万能説が私の中で浮上してきました。
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