13話 そして奈落から脱出へ
「ふぃー、これでもうあいつに攻撃の手段は残されてないだろ」
「たぶん大丈夫だと思います」
俺とウィオの視線の先では両腕を失ったアイアンゴーレムが仰向けに倒れジタバタともがいている。何とか立ち上がろうとしているゴーレムだが俺のネットが何重にもその体を地面に貼り付けている上に体勢が悪いのか動こうにも動けないでいた。
まあ、あんだけネット使って動かれたらそれこそこっちに打つ手なんて残ってないんだけどな。
それから俺はゴーレムが完全に動けていないのを確認し、念のため更にネットを何重にも仕掛けるとゴーレムの胸元へと上る。
ゴーレムの胸部を酸で溶かし掘り進んでいくと、しばらくしてお目当ての真紅の球体、魔石を掘り当てた。
「よし、これでゴーレムの魔石も回収完了っと。ん?」
ゴーレムの魔石を取り出し、眺めていると球体に何かが映っているのが見えた。丁度俺が掘り起こしたゴーレムの胸部にまだ何かがあるらしい。
視線を移し胸部に開いた穴ををよく見てみると、そこには真紅ではなく、青空色をした球体が見つかった。
「なんだこれ? 魔石? いや、それにしては色が全く違うな」
「融お兄さん、それはスキル石ですよ」
俺が青空色の球体を取り出し眺めているとウィオの声が届く。どうやらこれはスキル石という名前らしい。
「スキル石?」
「はい、極稀にですが魔物の体内から産出される魔石とは異なる物です。魔力を通すと一度だけその中に眠るスキルを得られるというものです」
「なるほどなー。んで、これにはどんなスキルは入ってるんだ?」
こんだけ強いゴーレムから出たんだから結構いいスキルだと思うんだよなー。使い捨てみたいだから使い道は慎重に考えないとな。
「わかりません。眠ってるスキルは完全にランダムらしいので鑑定してみないことにはどうにも……」
「なるほど。それじゃあこいつの鑑定はここを出てからにするか」
そう言って俺はゴーレムから飛び降りる。
っと、折角の鉄の塊なんだから忘れずに回収しておかないとな。売って路銀に出来るかもしれないし。
手を変形させて横たわるゴーレムの死体を包み込むと両腕と同じように【無限胃袋】へと収納する。こんだけ大きなゴーレムを収めてなお余りある広さ、流石【無限胃袋】と名前がついているだけの事はある。
本来なら俺の体よりも圧倒的に大きいから入るわけがないんだよな。これも異世界ならではってとこか。
「さてそれじゃあゴーレムも倒したことだし、外に出る準備しようか」
「はい、あまり荷物はないのですぐに終わると思います」
それから俺達はウィオの部屋から必要な物を選び始めた。選び始めたのだが……。
「え? この部屋自体がマジックアイテムなの?」
「はい、【ここが私の部屋】って言うマジックアイテムです。空間を拡張してこの様な部屋を作り出します。内装を変えてもマジックアイテムがそれを記憶するのでいつでもどこでもこの部屋を展開できます」
「へぇー便利だな。それなら確かに荷物も少ないんだろうな」
流石異世界、便利にも程があるだろ。宿屋の小さな部屋とかでもこれを使えばあっという間にこの広い部屋が出来るってわけか。それにしても……。
「これだけ便利なマジックアイテムだと消費する魔力も多いんじゃないか?」
なんか自分で言ってて通販番組みたいな質問だな……。けどお高いんでしょう? みたいな。
「これは発動する時に少し魔力を消費するだけで済むので問題ないですよ。これも父がダンジョンで手に入れてきたんです」
流石ダンジョン、俺も愛梨助け出したらこの世界にあるいろんなダンジョンに潜りたいな。っとうっかりしてた、アイアンゴーレムの魔石も喰っとかないとな。鉄の体とかロマンが溢れるぜ!
『魔石の摂取を確認。【融合】を実行します』
いつも通り融合開始のアナウンスが聞こえてくる。
『【融合】が完了しました。スキル【変幻自在】のリストに【アイアンゴーレム】が追加されました』
しばらくすると融合完了の知らせと共に【変幻自在】のリストに新たな魔物が使いされたとのアナウンスが入る。これで俺もアイアンゴーレムに変身できるわけだ。
いやー夢が広がるなー。体は人間形態のまま腕だけ変形させて巨大なアイアンゴーレムの腕で敵を薙ぎ払ったり、ゴーレムの体を変形させて俺本来の形にしてもいい。鉄の体なら大抵の攻撃は弾き返せるだろ。え? 【物理無効】があるだろって? それはそれ、これはこれだよ。やっぱり金属の体とかロマンじゃん? それに鉄製の足をバネ状に作り替えれば反発力を利用して壁や天井を縦横無尽に動いて敵を攪乱する事も出来るだろうし。
「融お兄さん、準備が終わりました」
「ん? ああ、了解。こっちはいつでも行けるよ」
ってうわぁ、さっきまであんなに広い部屋だったのに何もない。マジックアイテムの効果が無くなってるから空間もだいぶ狭くなってるな。残ってるのは奥の扉とその中にある転移の魔法陣だけって事か。てことは本来ここがボス部屋だったんじゃ……、ま、いっか。細かい事は考えないようにしよう。ここは異世界。日本の常識なんてここじゃ何の意味もなさそうだし。
そんなことよりウィオですよ。日本でも小さい子供(まあウィオは小さい子供なんだけれども)が付けてそうな可愛らしいピンクのポーチを肩から下げてるんだけど、これがまたばっちし似合ってる。俺の語彙程度じゃ可愛いとしか形容できないな。
「そういえばこの魔方陣ってどこに転移するんだ?」
「以前父が言っていた通りなら冒険者の街【トレイズ】の近くだと思います」
「どんな場所なんだ?」
「トレイズはどの国にも属していない街です。四つある人間の国の内、帝国の首都と同じくらいの大きさを誇る街でその地下には更に広大なダンジョンがあるらしいです。全ての国にある冒険者ギルドの本部があるので各国は冒険者ギルドだけは敵に回さないようにしているみたいです。ちなみに冒険者というのは依頼を受けて採取や魔物討伐、護衛などをする人たちですね」
ああ、この世界にもやっぱりあるんだな冒険者ギルド。強く出られない理由はおそらく冒険者ギルドを撤退されたら困るからだろうな。ギルドが無くなれば採取なんかの依頼から凶悪な魔物の討伐依頼も出せなくなる。国だけでやるのは相当な負担にもなるだろう。それに、もし報復で冒険者ギルドを攻めようもんなら全世界の冒険者が敵に回る訳だ。小説とかでも変態じみた強さの冒険者がいるからここでもいるんだろうしな。
「なるほどなー。それじゃまずはトレイズの街で冒険者にでもなってお金を稼ぎますか」
「そうですね。冒険者なら私の【治癒魔法】もお役に立てそうです」
眩しい笑顔を浮かべるウィオの頭をやさしく撫でる。くすぐったそうにしているウィオが更に可愛くて俺はすぐに死んでしまいそうです。ええ、スライムの体万歳。じゃなかったら今頃俺は鼻血を吹出しているだろうからな!
「それじゃ行くか! ウィオ、ずっと一緒に居てくれるか?」
「はい、ずっと一緒にいて下さいね。融お兄さん!」
どちらかともなく俺達は手を繋ぎ、魔方陣へと足を踏み入れる。魔方陣は俺達が中に入った途端光り出し、ついには俺達の視界を埋め尽くしていく。
これでようやく奈落の底から抜け出せるのか。最初は生きて出られるか不安だったけど、【融合者】の称号のおかげで何とか生き延びれたな。感謝感謝。
とりあえず街に着いたら冒険者になって一刻も早く路銀を稼いだら愛梨を助けに行かないとな。待っててくれよ愛梨、絶対に助けに行くからな!
俺は決意を胸に、ウィオは希望を胸に秘めながら魔方陣によって奈落の底から転移した。
二人はそれぞれの思いを胸に奈落の底から脱出と相成りました。彼らを待ち受けているのはいったいなんなのか……!