12話 そしてゴーレムと戦闘に その2
聞いてないんですけどー! 何あれ、ロケットパンチならぬリモートアームとでも言いたいんですかね! ったく、大人しくやられてくれればいいものを――ってあぶね!
宙に浮かぶ両腕が猛スピードで粘液から人間形態に戻っている最中の俺目掛けて飛んでくる。壁の様な拳が一つあるだけでも面倒なのにそれが一気に二つも来られると流石に厳しい。
ゴーレムの体にくっ付いていた時はバランスを崩すのを避ける為なのか片方ずつの腕で攻撃していたが、既に胴体という頸木から解き放たれた両腕はまるでどちらが先に俺を倒すのか競い合っているようでもあった。
「えーいくそっ! そんな壁みたいな拳が空中を自由に動き回るとか反則だろ!」
実際の所俺がこの一撃を喰らってもダメージになる事はないのだが、壁に叩きつけられれば人間の形を保つ事ができない。つまりただの壁に貼り付いた粘液になってしまうのだ。まあ意識はあるし? すぐに人間形態に戻る事も出来る事は出来るのだが、戻ってる最中に再び拳を叩き込まれては意味がない。スライム形態で逃げる事も考えたのだが、まだ上手く体を動かせない為非常に動きが遅い。しかも腕だけで空中を飛んでいるためかどうかは知らないが胴体にくっ付いていた時よりも動きが早い。そんな状況でこの拳から逃げ切れるとは到底思えなかった。
空中を滑るように飛んでくる両の拳を糸を使って立体的に回避しながら俺は吐き出したネットや酸で拳を迎撃する。するのだが……。
「うおっほい!?」
地面から離れてる拳に俺のネットは大して意味をなさなかった。まあ空中に浮いているのだから当然と言えば当然なのだが……。二つまとめて拳を絡め取ろうとすると互いに距離を取りネットを避ける。現状ネットの仕事は糸に付着した酸によって少しずつだが常時拳を溶かす程度だろう。
あーこのままじゃジリ貧だな……。体力もかなり減ってきてるし……。酸で溶かす以外に決定的な攻撃が出来ないのがもどかしい……。さて、どうするべきか……。
「融お兄さん!」
「ウィオ!? 危ないから下がってろ!」
声の方へと視線だけを向けると、ゴーレムが出現してからは扉の内側へと戻っていたウィオが目下ゴーレムと戦闘中の大部屋へと入ってきた。そして手に持った杖からは淡い緑色の光が放たれ、俺の体を包みこむ。
体力が……戻ってきた? そうか! ウィオの魔法は【治癒魔法】だった! あれって怪我だけじゃなくて体力まで癒せるのか。
ふと、俺はゴーレムの拳が飛んで来ない事に気が付いた。空中で静止している二つの拳に言い知れぬ不安を覚える。そして俺の不安は現実のものとなった。
二つの拳は突然向きを変えると勢いよく別の方向へと突っ込んでいった。ウィオのいる方向へと。
「あ……きゃあ!」
猛スピードで迫る壁のような拳を寸でのところで転がるように回避したウィオ。しかし拳がダンジョンの壁に激突した際に起こった風圧によってただでさえバランスを崩していたウィオは簡単に吹き飛ばされる。
「ウィオ!!」
「いた……ひっ!?」
地面に叩きつけられたウィオが何とか腕で上半身を支えて起こし、吹き飛ばされた方向を見ればそこには再び方向転換し自分へと迫る圧倒的な死の恐怖。一度は辛うじて避ける事のできたウィオ。しかし今は必死で立って逃げようとするも腰が抜けたのか思うように体が動かせない。それが更にウィオを焦らせていた。
「間に合え!!」
拳がウィオへと激突する寸前、俺から放たれた糸がウィオを絡めとリ手元に引き寄せる。糸に引き寄せられ俺に向かって宙を飛んできたウィオをキャッチするとそのまま背負い、更に何かの拍子で落っこちない様に糸でしっかりと固定した。
「大丈夫かウィオ?」
「あ……、ありがとうございます融お兄さん」
しかしどうする……、完全に手詰まりだぞ。今の俺に即座にあのゴーレムの腕を破壊する手段なんて持ち合わせてない。異世界に来て早々無能扱いされた俺を舐めるなよ?
「――ん」
酸ならどうにかなるかもしれんが如何せん時間が掛かりすぎる。俺の体力は有限だし、俺の体力を回復させてくれるウィオの魔力も有限だろう。しかもこんな分かりやすい形した死の恐怖と対峙してて十歳の女の子が平気なわけがない。
「――さん」
どうする……? 部屋に戻るか? けど部屋に戻ったからって安全って保障は何処にもない。いったいどうすれば……。
「融お兄さん!」
「ん? ああすまんどうしたウィオ」
「アイアンゴーレムの体は鉄です」
「ああ、アイアンってぐらいだからな」
「あの腕は本体から切り離されたんです」
「まあ俺が溶かし落としたからな」
「分離じゃなくて切り離されたんです。本体と違って生きてません!」
「そりゃ腕単体ならただの鉄の塊――!? そうか! そういう事か!」
なんでもっと早く気がつかなかったんだ! そうだよ、あれはただの鉄の塊だ。魔石のある本体にくっ付いているんならまだしもあれは俺が強制的に本体から切り離した! んでもってあれが宙に浮いて俺達を攻撃してるのは恐らく本体の能力。本体が何らかの能力であの腕を遠隔操作してると考えるのが妥当だ。それならあの腕は本体が遠隔操作してるだけのただの鉄の塊! 鉄は無機物! 生きてない! つまり【捕食】できる!
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
突き出した両手を【変幻自在】と【無限増殖】によって薄く広く伸ばしゴーレムの両腕と俺達を遮る盾のように変形させる。一瞬躊躇うようなそぶりを見せた両腕だが、この程度の薄いスライムの膜など突破できると踏んだのか更に速度を上げて突っ込んできた。
俺の体はもう人間のものじゃない! 全身がスライムで構成されてる! なら俺の体は全身が手であり全身が目であり、全身が口だ!
そして勢いよく俺の手がその形を変え、スライム製の盾が形成される。それに突っ込んできたゴーレムの右腕は……一瞬のうちに【捕食】され、俺の【無限胃袋】の中へと収まった。右腕が唐突に姿を消したことに驚き戸惑ったのか、ゴーレムがすぐに残った左腕を戻そうとするがもう遅い。急ブレーキをかけたことにより空中で止まってしまった左腕を俺は盾から更に変形させた手で包み込み【捕食】した。
なんとか勝利しました。もうご都合主義がとどまるところを知りません。