信じぬものは、救われぬ
唐突に始まって唐突に終わる
「見えない、感じない、気付かない、信じない…ないない尽くしか。そりゃあ、此処までいけば一種のスーパーアーマーだろうな。そこらの怪異じゃ何もできないだろう」
「へっ、なん…」
「お前は怪異に傷つけられることはないが、怪異を解決することも、怪異から誰かを助ける事も出来ない。…信仰を持たないお前は、互いに不干渉だからな」
「とっ…突然現れて、何言ってんだ、あんた。何だかわからないが、皆突然倒れちまったんだ。急病か、毒かなんかか…とにかく、此処に寝かしといたら拙い。運び出したいから手伝ってくれよ」
「それはできない。中身のない器は動かすべきじゃないからな」
「何訳わかんないこと言ってんだよ。こんなとこに寝かしといていい訳ないだろ?」
「わからないなら、お前は手を出すべきじゃない。失いたくないなら、な」
「ダチを見捨てられるわけがないだろ!」
「見捨てろとは言っていない。…ああ、ダメだな。私の言葉はお前には伝わらない。悲しい事だ。届かない言葉ほど虚しいものはない。力づくでどうにかなる相手でもないのが余計に残念だ」
「なんなんだよ…結局あんた、手伝ってくれる気はないんだな。くそっ、俺は一人でもこいつらを助けるからな」
「助けたいなら不用意な事をするな、と言っているのに…ああ、こう言えば多少は伝わるか?頭を打ったやつは下手に動かすと症状が悪化する。そういうことだ」
「…あんた、医者なのか?」
「"専門家"だ」
「専門家?何の」
「・・・」
「あーもう、なんなんだよあんたは!!」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「くそっ…だから俺は反対だったんだ。肝試しなんて下らないこと…!」
「…肝試し、な。まあ、考えようによっては、此処以上に肝試しに相応しい場所はないだろうな。失敗すれば死ぬが」
「死…?!」
「なんだ。お前は友が死ぬと思って焦っていたわけじゃないのか?」
「なっ…こんな遊びでダチが死んでたまるかよ!」
「遊び半分でもなんでも、世の中には不用意に触れるべきでないものはあるし、此処はそういうものの一つだ。お前達は選択を誤った。だが…まだ致命的という程ではない。本人たちの頑張り次第ではあるが」
「倒れてるやつに頑張りも何もあるかよ。つうか、結局あんたは一体何が言いたいんだよ」
「此処が何なのか、お前はわかっていないんだろう?なら、余計なことはするな。そのつけを払うのは、お前ではなくこいつらだ」
「だから、俺が判断間違ったらこいつらに後遺症が残ったり悪くしたら死んじまったりするってことだろ?だったらやっぱり、此処に寝かしとくより病院に連れていかなきゃならないんじゃないのかよ」
「これは医者の管轄ではない。医者に見せてもどうにもならん」
「卒倒したやつを診るのが医者の管轄じゃないってんなら、何の管轄だってんだ。坊主でも呼んで来いってか」
「坊主か…さて、どうだろうな。まあ神父や牧師よりはマシだろうが」
「何で神父が出てくんだよ。十字教徒なんて此処にはいないぞ」
「ああ、そうだ。此処に十字教を信じるものはいない。だから呼ぶべきではないと言った。信仰のない土地で宗教は無力だからな」
「はあ?そもそも宗教なんて現実的な力はないだろ。政治や武力に結びついて厄介なものになるってだけだ」
「その見方もある意味で正しい。怪異が関わらないのなら、宗教の役目は人の心に関わる事だ。或いは、そう、人に善き事、悪しき事を教えることだ。あくまでそれを信じるものにとってのだが」
「だから胡散臭いんだよ…あんたもだが。さっきから信じるだの信じないだの、あるもんはある、ないもんはない、それだけの話だろうが」
「お前の言う事もある意味で真理だ。実在と非実在を正しく捉えられるものなら、だが。己の目に見えるもの、知覚できるもののみを実在とするのは…ああ、いや、だからお前は不干渉なのだったな。お前にとっては、これらは非実在だ。その非信仰は頑なで隙がない。だから、手の出しようがない。何も認められず、実在へ訂正されることはない。何が起ころうとそれが原因と認められることはない。ある意味で天晴れだよ」
「はァ?」




