ミリィとノエラの関係の件
僕とミリィとノエラさんでコタツに入っていた。
「その隣の島も麻湯の草だらけでした」
「ここですね」
コタツは自堕落作成機かと思っていたが、ノエラさんのような本物の働き者には効かなかったようだ。
ドローンで撮影した映像と僕らのアドバイスを基に地下七層の地図をせっせと作成していた。
「出来ました!」
「お~いいですね」
「にゃ~」
色ペンを使って凄く分かりやすい地図になっていた。
ノエラさんが言った。
「けど、作っといてなんですけど、これじゃあ怪しくないですか?」
「なにがですか?」
「私達の世界にはこんなカラフルなペンありませんし」
言われてみれば。
ミリィが笑い出す。
「にゃはははは。トオルは賢者だから大丈夫。大賢者様のアーティファクトだよ」
「むっ。馬鹿にしてないか?」
「してないよー」
ノエラさんが訝しがる。
「なんですか? 大賢者って」
「いや実は……」
フルブレム商会のエリーとビーンさんに僕がヨーミのダンジョンに住まう世捨て人の賢者と誤解されていることを話した。
「そうでしたか」
「にゃひひひ。日本の知識を使ってるだけなのにね~」
ノエラさんがミリィを叱った。
「ミリィ! トオル様じゃなかったら我々を助けてくれなかったと思いますよ」
「うっ」
「それに日本の知識があっても私達の世界で上手く使えるかは別なんじゃないですか?」
「ご、ごめんなさ~い」
段々ミリィが可哀想になってきた。
彼女の一種の愛情表現なのだ、と思う。多分。
「まあまあノエラさん。ミリィは僕に感謝しているそうですよ」
「そ、それは言わないで」
「え? 別にいいじゃ……もがもが……」
ミリィが僕の口を塞ぐ。
「二人で王都に行ってから、随分仲がよろしいですね」
「そんなことないよ」
ノエラさんから怪訝そうに見られて、ミリィが言い訳をする。
そう言えば、前にノエラさんからミリィに手を出すなと言われたことを思い出した。
もしバレたら僕はどうなるんだろうか。
すっかり忘れていたがミリィは盗賊のギルドの首領だったのだ。
ひょっとして……消されてしまうとか。
「コホン……。トオル様も若い男性です。ミリィはこんな感じで無防備ですし、そういう気持ちになる時もあるかもしれません」
「いや……そんな……まったく」
僕がそう答えるとミリィに顔を引っかかれる。
いや、そんな、まったく、と答えたが、本当はホットパンツから出る猫の尻尾や太ももはかなりまぶしい。
やはりノエラさんに消されてしまうのではないかと思ったときだった。
「ミリィになんというかそういう気持ちが高ぶった時は教えてください」
「え?」
「私が代わりにお相手しますから」
「ひょっひょっとしてそれって」
ノエラさんが赤い顔をして横を向く。
消されるのかと思ったら、インテリ風お姉さんがお相手をしてくれる……のか?
しかし、いくら先代の大盗賊にミリィのことを頼まれているからってそこまでして守ろうとするものなのか。
「ダメーーー!」
「ミリィにはまだ早いです」
二人はよくわからないことで喧嘩をしはじめた。
とにかくこの地図を書簡にしてフルブレム商会へ届けるという話になっている。
「ところでこの地図をヘラクレイオンのフルブレム商会支部に持って行くんだよね。どっちが行く?」
そういうとノエラさんはコタツに深く入り直して背を丸めた。
「私は地図作ったんだし、盗賊ギルドから長く離れられないし、ミリィが行ってきたら良いじゃないですか。トオル様は一緒にお茶でも……」
「ミリィが行くなら僕も一緒に行くよ」
「え? なんでですか?」
「まあ世間的にはミリィが盗賊ギルドの首領って知られてなかったとしても護衛はいたほうが」
そういうとミリィがまた笑った。
「にゃひひひ。トオルが俺の護衛?」
「あ、また馬鹿にしたな。僕の今のレベルを聞いたらビックリするぞ」
「パソコンでレベル上げてるんだっけ? でも実戦経験がな~」
「行くのやめようかな」
「にゃははは。ウソウソ。ごめんにゃ」
僕の膝に頭を乗せて丸くなる。
それを見たノエラさんが厳しく言った。
「ミリィに手を出してはいけませんよ!」
◆◆◆
僕とミリィが書簡をフルブレム商会支部に届けることになった。
もうヘラクレイオンの市街を歩いているのだが、ミリィは僕に腕を組んできて尻尾を擦り付けてくる。
ノエラさんの戒めは聞ける自信はあまりなかった。
ノエラさんがいないとミリィには抑制というものがない。
そうは言ってもヨーミのダンジョンの地上がヘラクレイオンなのだ。一日で往復できてしまう。
「なんもできないな~」
つい口に出してしまった。
ミリィには意味がわからないと思ったが、通じたようだ。
「にゃ~なんもしてくれないの~? やだやだやだ!」
ミリィが顔を僕の頬にスリスリと擦り付けてくる。
「まあヘラクレイオンに書簡を届けに行くだけだから」
「終わったら何処かに遊びに行こうよ~」
「いや行きたいけどノエラさんに怒られるんじゃ」
「え~」
ミリィが不満そうに口を膨らます。
「ところでノエラさんはどうしてあんなに止めるんだろう? 自分が代わりにって……」
「ノエラはトオルが好きなんじゃないかなあ?」
「えええええ!?」
意外な返答だった。
「どうして?」
「うーん。トオルみたいなタイプは盗賊ギルドにはいないからかなあ」
まあ確かに。粗暴なタイプか不動産屋のような調子のいいタイプが多い気がする。その中に兄貴的な感じが少し混ざるかな。
「後ノエラはギルド員から結構恐れられてるし、男で気軽に接してくる人もいないのかも。そう考えると可哀想だにゃ~」
「そうなのか。それは大変そうだね」
「う~ん。仕方ない。一緒にトオルと遊ぼうと言ってみるよ」
な、なんだと。
ひょっとして天真爛漫な少女とインテリ風お姉さんと一緒に?
「そ、それはアリなのか?」
「ノエラが好きなら仕方ないじゃん。聞いてみるよ。でもノエラは素直じゃないから好きでも好きじゃないって言うかも」
「よーく聞いてよ」
「はいはい」
盗賊ギルドを支援してよかった。
僕はフルブレム商会に張り切って歩いた。
挿絵公開中
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