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ゴブリンの秘密の畑を撮影した件

 ドローンのコントローラーに取り付けられるアイポンの小さな映像に皆が張り付く。

 僕の顔は江波さんとフランソワーズの大きな顔に挟まれていた。

 く、苦しい。背中に当たるディートの胸の感触だけが救いだった。

 リアがドローンを操縦しながら言った。


「なるべく広範囲を見渡せるように上昇させますね」


 地下七層の天井はドーム球場のように高いとはいっても、気をつけたほうがいいだろう。


「天井に当てないように気をつけてね」

「はい。トール様」


 リアは華麗な操縦で島々を見下ろせる高さまでドローンを上昇させた。

 ゴブリン、ゴブリンはと……。

 おお! いた!


「アソコニイルワネ」


 フランソワーズさんも気がついたようだ。

 イカダに乗ったゴブリン達がオールを漕いでいた。


「リア、見つけた?」

「はい」

「どの浮島に入るか高さを保ってこのまま確認しよう」

「わかりました」


 しばらくするとゴブリンが近くの島にはいっていった。


「よし。あの島だな」

「そうみたいですね。近づきますか?」

「うん。でも、もし何か投げられたりしても大丈夫そうな距離で頼むね」

「わかりました」


 ドローンはかなり音が大きい。気が付かれないのは難しい。

 しかし高さを保てば攻撃されることはないだろう。

 そのうち無害なものだと思ってくれればいい。

 まあ撮影しているけどね。


「おお! ゴブリンが草の様子を見ているぞ!」

「ですね!」


 シマイモのつるとは明らかに違う。

 きっとあれが麻湯の原料の草だ。


「やっぱりゴブリンが作っていたんだ……」

「しまったっ! 気が付かれちゃいました……」


 ゴブリンがドローンのカメラに向かって指をさして何やら相談している。


「仕方ないよリア」


 元々、この爆音では気が付かれないのは無理なのだ。

 ところがゴブリンは攻撃するわけでもなくポカーンとドローンを眺めていた。


「大丈夫みたいですね」

「まあ、気づかれたからと言ってどうにもできない距離だろうしね。今のうちに撮影しよう。リア!」

「はい!」


 畑をぐるりと一周する。

 ゴブリンの首もぐるりと一周した。

 十分に撮影が出来た。


「よーし! この島はもう良いかな。バッテリーが保てるだけ他にも畑が無いか付近の島も探そう!」

「わかりました」


 リアはドローンを付近の島に移動させる。


「あっあれは麻湯の草じゃないか? リアもっと近づいて」

「はい」


 ゴブリンはいないが、先ほど見た草が整然と並んでいる畑がある。


「そうみたいですね」

「やっぱり麻湯だ……」

「撮影します!」

「うん」


 さらに他の島を見るが、やはり麻湯の草だらけの島が沢山あった。


「こんなに大規模だったなんて……」


 背中からディートの声が聞える。


「まあ王都にまで蔓延しているならね。でもゴブリンがこんなに畑を作って、人間と取引しているなんて」


 地下七層の群れるモンスターは総じて知能が高い。

 それでも人間並みのオーク、次に賢いゴボルトに比べれば、ゴブリンは相当お馬鹿と聞いていた。


「ディートはゴブリンが人間に麻湯の草を売っているのを疑っているの?」

「そうじゃないんだけど……」


 そんな会話をしているとリアが言った。


「あ、またゴブリンの集団がいましたよ。あれ?」

「ん?」


 リアがなにやらアイポンを凝視している。

 僕も見て驚いた。


「なんだ、この大きさのゴブリン!」


 ゴブリンの群れのなかに一際大きなゴブリンがいた。

 カメラだから正確だから分からないが、4mぐらいあるんじゃないだろうか。


「多分、変異種です」

「変異種?」


 僕が聞くとリアが変異種の説明をする前にその大きなゴブリンは屈んで地面を触った。

 野球選手のように振りかぶる。


「ひょっとして石を拾って投げてくるんじゃないか?」

「くっ!」


 リアが巨大ゴブリンをカメラに捕らえながらドローンを横に走らせた。

 巨大ゴブリンはやはり何かを投げつけてきたが、リアの機転でドローンに当たることはなかった。

 巨大ゴブリンは今度は屈んで地面を削り取った。


「今度は土砂だ! リア、ドローンを戻せ!」

「はい!」


 巨大ゴブリンに背を向けて一目散にドローンを僕等がいる島に戻す。

 間に合うか。


「あっ」


 カメラが斜めになる。

 巨大ゴブリンの投げた土砂がドローンの背に当たったのか?

 だがリアは平静さを失わず、斜めの映像のママで器用にドローンを僕らがいる島に誘導させているようだ。


「なんとか。大丈夫だと思います」


 ディートが杖をくるりと一周させると僕達はまた水色の光に包まれた。


「水上歩行の魔法をかけたわ。ドローンを回収したらすぐ逃げるわよ」


 つまり……ゴブリン達が追ってくるのか。

 ドローンがやってきた。

 遠くの方からゴブリン達のイカダが近づいてきていた。

 僕はドローンをキャッチした。

 リアがプロペラを止める。


「よし! 逃げよう!」


 皆も頷いて水上の上を走った。

 イカダよりも走るほうがずっと早い。

 ところがザバンザバンと水の爆発が僕らに近づいてきた。


「げ? 巨大ゴブリン!?」


 見ると巨大ゴブリンがバタフライのような泳ぎで追ってくる。


「上層階に登れる階段まで逃げるわよ!」

「了解」


 僕達は全力で走った。

 江波さんとフランソワーズはパワーはありそうだが、持久力はない。途中から僕とリアが押す。

 ディートは既に上層階に登れる階段がある外壁部まで走りきって僕達が湖から上がるのを待っていたようだった。


「フリージングウェイブ!」


 ディートが魔法を唱えると巨大ゴブリンに向かって湖が一直線に凍って行く。

 水の爆発は静まり、代わりにそこには巨大な氷の結晶が出来上がった。


「おお!」


 攻撃魔法は二度目だ。拍手をする。


「も、もう。そんな場合じゃないでしょっ。雑魚ゴブリンが来る前に逃げましょう」


 僕達は足早に七層を後にした。


「ところで変異種ってなに?」


 ディートが小走りで答えた。


「モンスターにはたまに変異種っていうのが現れるの。大体、強くなって凶暴化するわ。個体差もあるけどね」


 なるほど。さっきの変異種は知能も高かった。

 ドローンを攻撃もしたし、最後は散弾のように物を投げてきた。


「さっきの巨大なゴブリンは死んだのかな?」

「……多分ね。さっきの魔法は私の魔法の中でも結構強力な方だから」


 正直、変異種のゴブリンが死んだかは、ちょっと心配だったが、ともかく麻湯の畑の場所はわかった。

 後はこれをまとめてフルブレム商会に持っていけばいい。

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