暗闇の死闘な件
僕とミリィはフランシスの王都からマンションに帰っていた。
今は和室でみんなとお茶を飲んでいる。
最近寒いからとコタツを買ってみたところ誰も動かなくなった。
特にディートは動かない。
「コタツって最高ね……」
リアとミリィも同意した。
「ですね」
「にゃっ」
やはりコタツは堕落製造機なのだろうか。
まあ今は、今日来るという話になっている〝あの人〟を待っているのだから動かなくても良いわけだけど。
僕は温度を調整するためにコタツを少し開けた。
赤外線に照らされた生足が三組ある。
「……(なんで皆ブルマなんだよ)」
僕はコタツの外を見た。
皆ジャージだ。
またコタツの中を見る。
皆ブルマだ。
つまりこの寒いのに上だけジャージで下はブルマというわけだ。
「なんで皆、下はブルマなの?」
答えはない。沈黙の時が流れた。
リアがせんべいの端をかじってディートがミカンの皮を剥く。ミリィはコタツで丸まる猫のように背中を丸めていた。
……まあブルマでもいいか。
僕にとっては嬉しいだけだし。
それにしても。
「暇だね」
三人も同意した。
「そうね」
「ですね」
「にゃ~」
そうだ!
「ちょっとゲームをしない?」
「ゲームですか?」
リアが聞いてきた。
「僕がアイマスクをかぶる。そして皆は席替えをする。僕はアイマスクを着けたままで皆がどこに座っているのか当てる」
ディートは軽く驚いたようだ。
「当てられるの? この部屋のなかはステータスチェックできないでしょ?」
「自信はある。絶対に見はしない。何か賭けようか?」
「いいわね。じゃあトオルが勝ったら……皆で賢者様の日頃のお疲れを癒やすために背中や肩や腰や足をお揉みましょう」
ディートが妖しく笑う。
ひひひ。悪くない。
「じゃあ皆が勝ったら僕もマッサージするよ」
「いいわよ」
リアもミリィも頷いた。
僕にとってはどっちもご褒美みたいもんだ。
……ともいかない。以前ディートにした時はあ~だこ~だとかなり疲れた。
まあ楽しいと言えば、楽しいのだけど。
「じゃあトオルはアイマスクをつけて」
僕は暗闇の世界になった。
三人があっちこっち、いやそっちなどと話している声が聴こえる。
しばらくすると無音になって暖かいコタツの中に少しだけ冷たい外気が入った。
「ゲームスタートだね?」
疑問調で聞いたが、さすがにこれに引っかからなかった。
ミリィ辺りが引っかかるかもと思ったが、さすがにかからなかった。
きっとディートあたりが口に人差し指を当てているに違いない。
「ふっ。無駄なことを」
どこから当てようか? よし右の……足だ。
まずコタツの中で靴下を脱ぐ。
そして僕の右側にいる人物の太ももに足の裏をくっつけた。
――ビクッ
という明らかな動揺。
スベスベな肌、適度な筋肉の上に女性の脂肪。十中八九リアだと思うがミリィの可能性も無くはない。
もう少しブルマの方に足をツツツとあげれば。
「ひゃっ」
「僕の右側にリア」
「う”~当たりですぅ。トール様ずるい!」
「はっはっは」
見えないけどリアは口をヘの字にして涙目になっているに違いない。
僕は絶対見ないと言っただけだ。
足を伸ばさないとは言っていない。
きっと今頃はディートもミリィも何らかの異変を感じていることだろう。
けれどもう遅い。僕は右足を対面の人物の太ももに伸ばし、左足を左側の人物の太ももに伸ばした。
――ビクッ
――ビクッ
どちらの足からも動揺が伝わる。
しかし、各々の足の裏に伝わる感触は違っていた。
対面の人物からはムッチリとしたボリューム感のある吸い込まれるような柔らかい感触。
左側の人物からはしっかりとした筋肉があってかなりのハリと瑞々しい弾力を感じられる。
間違いない。対面がディートで左側がミリィだ。
でもこのまま終わらせるのは勿体無いか。
やはりリアの時と同じように足をブルマのほうに上げていく。
「にゃ、にゃ~……」
「簡単簡単、左側がミリィで正面がディ」
答えを言おうとした瞬間、僕の頭にはゲンコツが飛んできた。
◆◆◆
「気持ち良いですか? ディート様」
「うーん。悪くないわね」
コタツの中の僕のあぐらの上には三人の足が乗っていた。
今はディートの足裏をマッサージしている。
ディートが「トオルはエロいから全身ではなく足の裏だけ」と言い出してそういうことになった。
「俺は別に全身でもいいのになあ」
ミリィの呟きにリアが小さくコクコクコクッとうなずく。
ディートがキッとミリィを見ると押し黙ってしまった。
意外とディートは純情なのかもしれない。
そうこうしているとシズクがやってきた。
「ご主人様~江波さんとオークさんが来ましたよ」
「やっとか!」
鉄の扉の開閉の罠をオフにして皆で江波さんを迎えに行く。
ダンジョンには七色魚の入った箱を持った江波さんがいた。
奥さんのアレは……ジャクリーヌさんも来ていた。メスオークのジャクリーヌさんだ。
「待ってましたよ~」
僕達が歓迎のムードを出すと江波さんが言った。
「み、皆さんどうされたんですか? ディートさんなんか私を邪険にしていた気がしてたのに」
「し、してないわよ。別に」
ともかくゴブリンのことについて聞かなければならない。
「え、江波さん。ゴブリンのことについて詳しいですか?」
「きゅ、急に言われても。まあ小競り合い、いやもう小競り合いとも言えませんか。戦争をしているわけですからある程度は詳しいですよ」
「むしろ戦いよりゴブリンの生活について聞きたいんだけど、ゴブリンが畑作とかしていたりしませんか?」
「ああ、もちろんゴブリンもシマイモを作って食べてるそうですよ。なあジャクリーヌ?」
「エエ。デモサイキンハヤクソウミタイナモノモツクッテルソウヨ」
ふむふむ。でも最近は薬草みたいなものも作っているだって?
「ビンゴ! それだ! それがきっと麻湯の原料ですよ」
「麻湯? 麻湯ってなんですか」
「とりあえず、ゴブリンの薬草の栽培場所ってわかります? ジャクリーヌさん」
「オオヨソノバショハダレカシッテイルトオモウケド?」
おおよその場所は誰か知ってると思うか、良し!
僕は皆と顔を見合わせる。
「これで麻湯のルートが解明できそうだな」
リアが聞いた。
「でも実際に確認しに行くんですよね? 生産場所を潰す前にフルブレム商会に詳しい場所を報告しないといけないし」
最近のゴブリンの後をつけるのはかなり危険という話もあった。
実際リアはゴブリンがトラウマになっている。
「大丈夫良い方法があるんだ」
僕は自信満々に胸を張った。




