スレイヤーよりもスモウレスラーな件
「ゴ、ゴブリン?」
僕がモンスターの名前を言うとエリーとビーンさんは素っ頓狂な声を出した。
「うん。多分……いやそうなんだと思います」
「ゴブリンかあ。確かにそうかも知れないにゃ」
ミリィも同意した。
「一体どうしてそう思うんですか?」
「それを説明にするにはまず人間に友好的なヨーミのダンジョンのオークについて知って貰いたいんです」
ビーンさんの質問に僕とミリィはまずオークの生活について教えた。
「なるほど。オークに村があり、集団で生活していて、宗教があり、ヨーミのダンジョンのなかで芋の栽培もしていたと」
まあ知り合いがオークの女性とハーレムを築いていたことは黙っておいた。
「そうなんですよ。素朴に生きていますが、文化レベルはあんまり人間と変わらないかも」
ビーンさんが感心したように言った。
「オークがそんな生活をしているのは意外でしたが、オークが栽培しているというならともかく、どうしてゴブリンが麻湯を栽培していることになるのですか?」
「ヨーミのダンジョンの地下六層はオークとゴボルトとゴブリンが均衡を保っていたのですが、ここ最近ゴブリンの台頭が激しいようなんです」
「ほう」
「その理由が問題でどうもゴブリンは人間の使うような道具というか武器を使いだしたようなです」
「ひょっとしてまさか?」
「ええ。ゴブリンが急に知恵をつけた訳じゃなくて、ヨーミのダンジョンの地下街の地下ギルドと裏で繋がっているんじゃないかと。きっと吹き矢や武器もそこから貰っているんですよ」
ミリィが急に立上がる。
「と、盗賊ギルドはそんなことしてないにゃっ!」
「わかってるよ。もちろん傭兵ギルドか商人ギルドのどちらかだ」
「疑われてるのかと思ったよ!」
「まあとにかくゴブリン達が鎧を着てガチャガチャと隊を組んで歩いていたり、吹き矢を使ってきたりすることを考えると」
エリーが静かに言った。
「そうですね。傭兵ギルドか商人ギルドか……あるいは両方かも……」
「うん。そしてオークもダンジョン内で芋を栽培していたように、ゴブリンに麻湯を栽培させてるんじゃないかな? どちらかの地下ギルドがやらせているんだ」
ビーンさんが腕を組んで言った。
「ヨーミのダンジョンの人間を探ってもどこで栽培してるのかわからなかったのはそれが理由ですか」
「きっと一部の人だけがゴブリンと取引をしているんですよ。それなら栽培するよりもずっと人手は少なくてもすむ」
「トオルさんはさすがに大賢者様と呼ばれているだけはありますな」
いや呼ばれていませんけどね。
「でも違うかな? 自信は結構あるんだけど」
日本人の僕はどこかで異世界の常識を見落としているかもしれない。
色々な状況から考えればそうだと思うんだけど。
ミリィは元気よく言った。
「にゃっ。トオルの考えであってる!」
エリーもビーンさんを見ながら言った。
「私もそう思います!」
ビーンさんも深く頷く。
「その可能性は十分にありそうですね。私達もヨーミのダンジョンからの麻湯ルートが断てれば、盗賊ギルドさんへ存分に投資ができます」
「よーし。ならゴブリン退治だ」
盗賊ギルドやリアやディート。さらには冒険者を雇えばゴブリンなどどうとでもなるだろう。
僕も自動レベル上げで相当強くなっている……ハズだ。
「いえ。まずは栽培場所を見つけてどの地下ギルドと繋がっているのか、どのように王都まで流通しているのか解明した後ですね」
確かに。ただゴブリンを蹴散らしただけでは裏で糸を引いているヤツらは炙り出せない。
おそらく裏には地下ギルドだけではなく、フルブレム商会に対抗しているターリア商会がいるのだ。
ビーンさんはそれを叩きたいに違いない。
そうでないと麻湯はどこかしらからか広まってしまうのだ。
ミリィがテーブルに顔を突っ伏す。
「にゃ~。また振り出しに戻ったよ」
エリーが言った。
「でも大賢者のトオルさんのおかげでだいぶ進みましたよ。まずはゴブリンの畑を見つけるか、取引しているところを発見すればいいんですから」
「そうは言ってもゴブリンは人間を捕まえたらなぶり殺しにするっていうよ。戦うならまだしも誰もゴブリンの尾行なんかしたくないにゃ」
「そうですな。我々も一流の冒険者にあたってみますが……」
エリーもミリィもビーンさんもどうやらゴブリンの畑を見つけてルートを解明するのは難しいと思っているようだ。
僕は胸をはった。
「そういうことならうってつけの友人とその仲間達がいますよ。ひょっとしたら案外、ゴブリンが畑作をしてる場所も知ってるんじゃないかな?」
エリーが驚く。
「トオルさんのご友人にはそんな方がいらっしゃるんですか!?」
「えぇ」
僕だってそんな人がいるなんて信じられないが、いる。
ビーンさんがしたり顔で言った。
「大きなゴブリンのコミュニティは人の村を襲う時もありますらな。ドラゴンスレイヤーがいるようにゴブリンのみを専門に狩る冒険者も世界にはいるとか。ひょっとしてその方とご友人なのですか?」
「あ、いえ……全く違いますけど、仕事に関しては真面目で信用できる人です」
「そうですか」
スレイヤーとかそんなにカッコイイ存在ではない。けどきっと頼りになる。
オーク村に住んでいる日本人、元相撲取りの江波さんだ。




