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モンスターの生態は誰も知らない件


――チュチュン。チュンチュン。


 朝日と小鳥のさえずりで目が覚めた。

 目の前にスヤスヤと眠る猫耳の少女の顔がある。

 商館の部屋にはベッドが二つあったけど、まあそういうことだった。

 あまりに無防備に安心したように眠るミリィに少しイタズラ心が起きた。


「ちょっとイタズラしてみようか?」


 昨晩後ろからかなり……いや、これでもかというほど見た白い肌から生える黒い尻尾のことを思い出す。

 あれを触ってやろう。

 こちらを向いて横になっている少女の後ろに手を回す。


「ふむ。このムチムチ感は昨日手を置いた場所だな。だとすると尻尾はこの上に……」


 ムチムチ感もいいけれど、今はふさふさ感を味わいたい。

 適度な弾力でしなるふさふさに手探りで辿り着いた時だった。


「にゃっ!? にゃにゃにゃにゃっっ!!!」


 ミリィが尖った爪が出た手を伸ばしてきた。

 躱そうとするも片手は尻尾にあったし、横に寝てる体勢では素早く動けず、ミリィとの距離もない。

 僕の顔には無数の引っかき傷が付いてしまった。



◆◆◆



「ご、ごめんにゃさい……」

「いや、いいよ」


 僕はベッドの上に座って、同じくベッドの上に座っているミリィから謝罪を受けていた。

 どうもミリィはイタズラされたとは気がついてないようだ。

 寝ぼけてやったのだと思っている。

 しおらしく反省していた。

 それにミリィはいつもはなにかとすぐ脱ぐが、今朝は恥ずかしいのかベッドシーツを巻きつけて身体を隠していた。

 ……逆に色っぽい。

 代わりに僕が裸のわけだが。


「まぁノエラさんに持たされた高級なハイポーションも一個あるし」

「わ、私がかけてあげるね」

「え? 自分でやるよ」

「任せて」


 自分でかけたほうが上手く傷にかかると思ったけど、ミリィが〝俺〟ではなく、まだ〝私〟のままで可愛かったので任せることにした。

 ミリィはベッドから少し離れたところにあるテーブルの上の鞄を探し始めた。

 探すことに気を取られたのか身体に巻き付けていたシーツがするりと落ちる。


「お、おい!」

「あったー!」


 ミリィが嬉しそうな声をあげて振り向いた。

 昨夜もランプの光で見たけど、今は朝日で猫型獣人の鍛えた身体がえる。

 やばい! アレが!


「にゃっにゃにゃにゃ!? トオル! なんでっ!?」

「ミ、ミリィがシーツ落とすからだろ! 自然現象だよ! 先にシーツを巻くか服を着てよ」

「ダ、ダメ。血が出てるんだから早く傷を直さなきゃ」


 ミリィは僕のアレをガン見しながら近づいてきた。


◆◆◆


 エリーとビーンさんが僕の顔を見ながらこそこそ話していた。


「お二人は喧嘩してしまったのでしょうか?」

「いや、アレは仲が良いからああなったのだ」

「ええ? 仲が良いなら顔は引っ搔かないと思いますけど。きっと昨晩二人の間に何かあったのだと思います」

「……何があったんだろうな。何があったような気もするが……」


 ミリィが申し訳なさそうに二人に言った。


「ポーションを貰ってもいいかな?」


 結局ノエラさんにもらったハイポーションはなぜか僕の股間をひんやりとさせただけだった。

 エリーとビーンさんが慌てる。


「そ、そうですね。エリー。ポーションをかけて差し上げなさい」

「は、はい」


 エリーがお盆に入れてポーションを持ってきた。

 急いでいるようで走っていた。

 僕が危険を感じる。


「エリーさん。慌てなくても」

「あっ」


 エリーが足を引っ掛け、ポーションが宙に舞う。

 ポーションを入れたコップがちょうど僕の頭に乗った。

 液体が顔に流れると傷の痛みが引いていく。


「ご、ごめんなさいいいいいいいいい」

「ま、まあ。結果オーライですよ」


 エリーが土下座もせんばかりに謝っていると笑いそうになるのを必死で耐えているミリィが横目に入った。

 にゃははっと声を出して笑いたいのを元々は自分のせいだからと我慢しているのだろうか。

 しおらしいミリィもいいけど、やっぱりミリィは無邪気で元気なほうがいい。

 心配しなくてもすぐに戻るだろうけどね。

 そんな騒動があってから僕らは四人で朝食を摂ることにした。

 エリーが笑顔で言った。


「よかったですね~傷が綺麗に治って」


 治らないかもしれないと思っていたのだろうか。

 さすがにそれは困る。例の元不動産屋に仕事を紹介してもらわないといけないところだった。

 ミリィは小さくなってご飯も食べずに膝の上に手を置いていた。

 まあミリィも反省してるようだし……。

 ん? あれ? よく考えたら自分がイタズラをしたのが発端だった……。

 膝の上に置かれたミリィの手に僕の手をのせる。


「寝ぼけてたんだし仕方ない。全く気にしてないよ。ご飯を食べようよ」

「ト、トオル~ありがとうね」


 うんうん。僕とミリィは仲良しだ。


「ところで昨日はヨーミのダンジョンに詳しいお二人に麻湯の生産ルートについて考えて頂いたんですが、何か思いつきましたかな?」


 ビーンさんの質問に僕は自信アリ気に答えた。


「ええ。一つ思いついたことがありましたよ」

「おお」


 エリーとビーンさんが身を乗り出してきた。

 

「実はヨーミのダンジョンでシマイモという芋を栽培して食料にしているモンスターがいるんです」

「えええええ?」

「本当ですか?」


 エリーとビーンさんが目を丸くする。そりゃ驚くよな。まあ僕は江波さんがオーク村でハーレムを築いていた衝撃で、そっちはあまり驚かなかったけど。


「本当です」


 僕だって江波さんがオーク村にハーレムを築かなかったら知らなかっただろう。

 いやハーレムとは関係ないか。

 オークが人間のような畑作を送っていたり、人間のような文化的な生活を送っていることが驚きなのだ。

 そしてそれはおそらくオークだけではない。

 


「ということはオークが麻湯の原料となる植物を生産しているというのですか?」

「いえ、多分違います。他のモンスターじゃないかと思うんです」

「他のモンスター? 一体どんなモンスターなんですか?」


 もちろん、リアを麻痺させたあのモンスターだ。

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