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大賢者復活の件

 エリーは未だに僕の手を力強く握っている。

 ロリコンではないけど可愛い女の子に両手を握られるのは悪い気持ちはしない。

 ミリィがイライラした声を出した。


「トオルのどこが凄いのさっ?」


 エリーがキョトンとした顔をする。


「どうしてですか? 盗賊ギルドにあれだけの利益をもたらしてるじゃないですか?」

「にゃっ!?」


 エリーいいぞ。もっと言ってやれ!

 ノエラさんは感謝してくれるが、ミリィは全然感謝しないっ! 僕だって結構お金や労力をかけてるのに!


「それにダンジョンの地下街に安全に買い物ができる場所を開発するなんてちょっと思いつきませんよ。後々、盗賊ギルドにきっと大きな利益をもたらすと思います」


 半分は日本の再開発の知識だけど。ミリィは僕を軽く見てるフシがあるからな。


「うんうん。ミリィはもっと僕を感謝してもいいよ」


 ミリィは猫のように唸り声をあげて涙目でこちらを見る。


「う~……」


 エリーはそれを無視するかのように言った。


「フルブレム商会に来て色々教えてほしいぐらいです」


 家庭教師のノリで中学生ぐらいの女の子に色々教える。悪くないかもしれない。

 そんなこと考えていると急に黒い影が僕に飛びかかってきた。


「な、なんだ!?」


 攻撃か? それにしては首に手を回してハグのような姿勢だ。


「ダメー! トオルは盗賊ギルドなの! 感謝してるよぉ~」

「え?」


 ソファーに押し倒されてキスの嵐がやってくる。

 エリーとビーンさんがポカンと見ている。


「ぶは! やめろ~!」

「トオル大好き! ありがとねっ! ん~~~!」


 僕はどうやら本当はミリィに凄く感謝されていたようだ。


 ◆◆◆


「お見苦しい姿をすいません……」

「ごめんにゃ……」


 エリーとビーンさんは引きつった笑顔を見せていた。


「いえ、いいんですよ。お二人は本当に仲がいいんですね」

「ははは。若いってのはいいもんですな」


 恥ずかしかったが、ミリィは大人しくなってくれた。

 大人しくなっているというか、しおらしくなった。

 隣に座る僕の膝にそっと手をおいてしおらしくしている姿がいつもと違って可愛い。

 エリーが言った。


「とにかくお話を続けましょうか?」

「もちろんです」

「ビーンを含めましてフルブレム商会は盗賊ギルドの商才を高く評価させていただいております」

「ありがとうございます!」

「大賢者のトオル様のお力添えもあったのだと思いますが、それも含めての評価です」


 は、はあ? 大賢者?


「私達がどうやってもできなかった麻湯の中毒症状を治す黒いお薬なども大賢者様がご提示する適正な値段で取引してほしいと思っています」


 あー。そりゃコーラとか屋台とかゴミゴミした土地を再開発して大きな建物をたてるとか異世界の人にとっては凄い物品や発想になるのだろう。

 僕は特別な人に見えるようだ。

 そう言われればビーンさんからも出身は聞かれなかった。

 既にフルブレム商会内では僕に対して結論が出ていたのだ。その結論は世を捨てて地下ダンジョンで暮らしている大賢者というアレ。

 リアがかつてした誤解と同じだ。


「いや……僕は……」


 そう言いかけて気がついた。

 日本人ですとは言えないじゃないか!


「どうなされたんですか? トオル様? 僕は?」

「いえ、大賢者です……」


 真実を知るミリィがポカンとした顔で僕とエリーを見る。

 しかし、しばらくするとしおらしかった隣の猫型獣人が遊び道具を見つけたように笑った。


「大賢者。大賢者。トオルは大賢者にゃ」


 商談はことあるごとにミリィが僕を大賢者とからかいながら進んでいった。


◆◆◆


 盗賊ギルドの要望である砂糖の取引やダンジョンの地下に建物を作るための投資はフルブレム商会も進めたいとの話だったが、打ち合わせは長引いた。

 そこで僕とミリィはフルブレム商会の商館に泊まって、また明日も打ち合わせをすることになった。

 夕食を終えて、しばらく入っていなかったお風呂に入り、宿泊する部屋でミリィと話す。


「ヨーミのダンジョンの何処で麻湯が生産されてるかなんて言われてもね~」

「まあフルブレム商会としては麻湯を法律で禁止した手前、麻湯の生産に関わってると少しでも疑われたくはないじゃんか」


 打ち合わせが長引いた原因としては、フルブレム商会がヨーミのダンジョンの商業施設に投資すると、麻湯を規制しといては実は裏で独占的に捌いているという誹りを受ける可能性があることだった。

 確かに法律でそれを規制して裏で独占的に流通させれば、莫大な利益になるだろう。理屈としては通る。

 そんなことになれば、フルブレム商会が悪いイメージを持たれるのはまだしも、麻湯を避けてきた善良な商会まで影で取引をするようになるかもしれないというのがビーンさんの主張だった。 

 一応、それを避ける解決策は提示された。

 しかし……。

 ミリィがあぐらをかいて床をコロコロと転がる。器用なもんだ。


「麻湯がヨーミのダンジョンのどこで生産されてどのように地上に広まっていくかルートを解明すればいいって言われてもね~。地下一階に住んでいる俺だってわからないのに~」

 

 フルブレム商会も何人もの一流の冒険者を秘密裏に雇ってダンジョンを探索させても結局なにもわからなかった。

 僕は船荷から麻湯の原料を見つけて海に捨てたのを思い出す。


「麻湯の原料が植物を乾燥させたものだってことはわかってるんだけどね~」


 それをどこで栽培してるのか?

 待てよ。そういえばヨーミのダンジョンで植物を栽培しているとかそんな話を聞いたような。

 そういえば急に人間の武器を使いだしたモンスターもいたぞ。


「ひょっとして……」


 僕があることにひらめく。


「にゃっ? 何かを思いついた? さすが大賢者!」

「もう大賢者は止めてよ。恥ずかしいからさ」

「にゃははは。いいじゃん、いいじゃん。トオルは賢いよ」


 そう言うとミリィはベッドの端に座る僕を押し倒した。


「ありがとね。トオルには凄く感謝してる。これからも私と盗賊ギルドをよろしくね」

「ミリィ……」


 日本ではこういうことをしたら賢者になれないってことになってるんだけどな。

 まあ僕はただの日本人だ。

 ただの日本人だけどこの子を助けていこうと思っている。

本日、僕の部屋がダンジョンの休憩所になってしまった件の一巻が正式発売日です!

是非よろしくお願いします。

カウント0もイラストレーターさんが製作中だと思います!

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