商会の使いが来たから一緒に会うことにした件
1/28の7時頃に間違った更新をしてしまいました。
屋台の滑り出しは集客も経営も好調だったようで、夕方から夜間だけだった営業時間を昼間もすることにした。
営業時間が伸びれば屋台で働くギルドの人を増やさなければならない。
そのため様々な種類の屋台に盗賊ギルドの人達を割り振るために、僕も皆と一緒になにが得意か聞いて回った。
「スリならちょっと自慢できますよ」
「空き巣なら自信があります」
何の役にも立ちそうにもないと思ったが、そういうギルド員もよく働いていた。
手先が器用なこともあって異世界、つまり日本の料理を作ることも苦にならないらしい。
ただ、問題もあった。
盗賊ギルドの人達は屋台の料理を器用に作ったり接客については問題ないのだが、売上計算、在庫管理、仕入発注、そしてそれを整理して書き留めるということが壊滅的に苦手だった。
そのため僕の部屋のキッチンテーブルでは食材等の仕入れ書類をノエラさんがずっと作成していた。
「ノエラさん。お茶どうぞ」
「あ、トオル様、ありがとうございます」
「売上もどんどん増大してるみたいですね。みかんでも食べて少しのんびりとされたら……」
「はい! トオル様のおかげで。ありがとうございます!」
ノエラさんはお茶を一口飲んだらまたすぐに書類の作成をはじめた。明らかにオーバーワークだ。
ギルド員には売上計算は放棄させている。実際に屋台に今あるお金を集めて後で計算するというどんぶり勘定だ。
たまにほとんど罪悪感無く勝手に使ってしまう人もいる。毎日二回屋台から集金して使い込みを少なくしている。
しかし、お金はともかく食材等の在庫はそうもいかない。
仕入れ発注をどんぶり勘定にしたら、すぐに屋台から商品が無くなってしまうことだろう。
在庫の確認をして仕入れ発注の書類を作成しなくてはならない。
つまりそういった業務は中央で全てノエラさんが管理していた。
「ノエラさん少し休んだほうが」
「いえ、もう少しやります」
もう少しといってもまだ大分ありそうだった。
それにまた三時間後には各店舗から集金をしないといけない時間だし、在庫管理の点検にいかなくてはならない。
そうなれば片付きはじめた書類がまた増えることになるだろう。
手伝いたい気持ちもあるんだけど、僕がやっても異世界の文字や数字で書類を作成できないから日本語で作ったものを異世界の言語に戻す手間が発生してしまう。
それにノエラさんの手伝いで日本円が貰えるなら良いんだけど異世界の通貨しか手に入らない。
僕には日本のバイトをするという重大な仕事もある。
バイトをしているからこそ、チラシ印刷できたし、この部屋もあるし、自動レベル上げもできているのだ。
あ、またレベル上がった気がする。
どうしたものか。
「あの……手伝いましょうか?」
「え? 誰?」
だ、誰だ。この仕事を手伝おうとするなんて。
ミリィはとても出来そうにない。
リアは孤児員の子供達の手伝いを見回る必要がある。
ディートになら出来そうだけど自分からそんなことを申し出そうにない。
「私も書類作ります!」
見るとシズクがプルプルと震えていた。
「出来るんですか?」
ノエラさんの問いかけにシズクがコクコクと頷く。
どうやらノエラさんは信じることが出来ないようだ。
でもひょっとしてシズクなら出来るのではないかと僕は思う。
「ちょっとシズクに任せてみましょうよ。毎日一人でこんな業務していたら死んじゃいますよ」
「で、でも……」
「いいからいいから」
ノエラさんをレベルアップした腕力で抱える
「ちょっとちょっと」
洋室のベッドに運んだ。
「きゃっ。え? な、なんて、ふかふか……なの……このベッド……」
5%ぐらい美味しい展開もあるかと思ったけど、ノエラさんはすぐにスヤスヤと寝てしまった。
まあ本来の目的ではない。本当に休んでもらうために運んだのだ。
後でぬくもりだけ楽しもう。
「ごゆっくり」
洋室の照明を消してドアを閉める。
戻ってみるとシズクはノエラさん以上のスピードで書類に異世界の文字と数字を書き込んでいた。
「う~ん。砂糖が不足していますねぇ」
「やっぱりかぁ」
ノエラさんのオーバーワークの問題は解決しそうだったが他にも問題があった。屋台の多くに使われている砂糖だ。
フランシス国は比較的温暖な気候だが砂糖は生産してないようだ。
もっと暖かい国から輸入しているようだ。
当然値段はクソ高い。
そう言えば地球でも砂糖が非常に高価な交易品として有名と聞いた。
それでも異世界側に存在しない訳ではないので日本から持ち込んでもバレはしないだろうと思ってトンスキホーテで大量購入していた。
だが段々と砂糖は購入しづらくなっていた。
懐に大きなダメージを負うということもあったが、リアと二人で砂糖を山のように買っていたら店員に呼び止められてしまった。
「お客様、こんなに砂糖を一体何に?」
「あ、えっと、そのアレですよ。もし天変地異が起きてヒャッハーな世界になっても砂糖貯めとけば物々交換できるかなって……腐らないし」
店員は微妙な笑顔をした。
「えっと理由はわかりましたが買い占められると他のお客様がご購入出来なくなってしまうので。通常の範囲で買って頂くか、大量購入の場合は別途でご注文していただければ」
「そうですよね」
「注文しますか?」
「いえ、今日は良いです」
トンスキホーテでこんなやり取りがあった。
仕方ないので異世界の市場で買い求めることになったのだが、元々高い上に流通量も少ないので益々足元を見られた値段をつけられていた。
地上にある正規の商会が力を貸してくれれば砂糖ぐらいならどうにかなると思うけど今のところどこも相手にしてくれない。
砂糖を使う屋台についてはしばらく薄利で商売するしかなさそうだった。
「でもシズクの調子見てるとノエラさんのオーバーワークの問題は解決しそうだな。助かるよ~」
「えへへ。もっとシズクを頼ってくれて良いんですよ?」
「え? 十分頼ってるよ~」
「ご主人様はご自分のことにはシズクを使ってくれないから」
「え? そうかなあ~」
「そうですよ」
言われてみればそうかもしれない。
「でも皆が上手くいったら僕も嬉しいからね」
「ご主人様のそういうところが大好きです」
「シズクも皆のために頑張ってくれていると思うんだけどなあ」
「そ、そうでしょうか……」
白スライムのシズクが頬が赤くなる。
書類を黙々と書いている。
「シズク」
呼びかけながら頬をつつく。
「あ~からかっていますね!」
「ごめんごめん」
「もうっ!」
シズクがプルプル震えて怒っている
「でもシズクが皆のために頑張ってくれているっていうのは本当にそう思ってるよ」
「それが白スライムですから……皆のためだからじゃなくて……ご主人様を喜ばせようと思ってやってるんだと思います」
「そうじゃないよ。きっとシズクが特別優しい白スライムだからだよ」
「ご主人様……」
しばしシズクと見つめ合う。目が何処にあるかはイマイチわからないけれど。
「二人で固まって何してるの?」
「「わっ」」
背後にミリィがいた。
「び、びっくりした。急に入ってくるなよ」
「にゃっ! ちゃんとノックしたのに!」
どうやらこっちが気が付かなかったようだ。
シズクはまた黙々と書類の作業をしていた。
「ごめんごめん。で、何の用?」
「なんかフルブレム商会の使いっていう人が来てウチから砂糖買わないかって言ってきて」
「マジ?」
「うん」
フレブレム商会はショッピングモールの建設資金の融資を断った商会だが、門前払いだった他の商会とは違った。
そのフレブレム商会から使いが来たのだ。しかも盗賊ギルドが砂糖不足で困っていることを知っていてそれを売ってくれると申し出てくれている。
「それでノエラがここにいると思って来たんだけど」
「ノエラさんは今寝てるんだ」
「にゃ。じゃあ可哀想だけど起こさないと」
僕は少し考えてみた。
「いや待って」
「なに?」
「来たのはフレブレム商会の使いなんだろ?」
「そう言ってるよ」
「ノエラさんは盗賊ギルドの実質代表だ。相手が使いならこっちも使いで対応しない? ミリィが会ったらどうかな?」
「にゃ!? 使いのフリして本当の代表の俺が行くの?」
「そうそう」
今はノエラさんを寝かせてあげたい。
それにミリィは少しノエラさんになんでも頼ってしまっているふしがある。
「ノエラはずっと働いてるしそうしてみようかな」
「うん。僕もついていくからさ。難しいことを決めないといけなくなったら持ち帰ればいいし」
ノエラさんに休んでもらうためとはいえ、僕が提案したのだ。
会談に一緒について行ってあげることにした。




