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禁断の魔導書は危険過ぎる件

「ふ~。嫌な汗かいたなあ。リアが出たら僕もお風呂に入りたいよ」


 玄関に盾を置き、ヘルメットを投げ捨てた。

 呼吸を整えるために座り込む。

 

「けど……やったな。レベルがあがった」


 モンスターを倒してレベルを上げたなんて日本人、いや地球人はひょっとして僕だけなんじゃないだろうか。

 レベルが上ったことで【筋 力】はメモした10から確か11に上がったはずだ。

 とりあえずリアの様子を確認してから握力計を探そう。

 まだ見てない気がするから何処かのダンボールに入っているはずだ。

 【筋 力】1の上昇は握力計にいかなる結果をもたらすのか?


 ひょっとしたらもう脱衣所で着替えているかもしれないのでリビングダイニングからリアに声をかける。


「リア、ただいま~。まだお風呂入ってるの~?」

「あ、おかえりなさ~い。もう少し、もう少しだけ……いいですか?」


 お風呂で特有の反響する声がした。

 先ほどは冷水を浴びるというひどい目にあったけど、リアはお風呂をとても気に入ってくれたようだ。

 そちらのほうが都合がいい。握力計を使っているところを見られたくない。


「いいからいいから~! ゆっくりお風呂に入っててくださ~い!」

「そ、そうですか。わかりました~」


 よしよし。ダンボールを探そう!

 引っ越しのダンボール開封はほとんど進んでいない。

 どれだっけ? これじゃない。このダンボールでもない。これか!? 

 やっと握力計を発見した。


「よおっし。やってみるか。んっんんん……どうだ?」


 44キロ! マジかよ。今までどんなに頑張っても40キロまでしか出たことがない。

 つまり【筋 力】1の上昇は利き手だと握力4キロの向上に繋がるようだ。


「マ、マジかよ。レベルが10上がれば、多分【筋 力】も20になるから握力80キロってことか?」


 握力80あればリンゴを握りつぶせるって聞いたことあるぞ。男のロマンだよ。


「よーし、僕も筋トレせずにレベルあげることでリンゴ握りつぶせるになっちゃおうかな(笑)」


 それに僕は他の人にはあるだろうレベルの限界すらない。

 まだまだ不確定でわからない要素もあるけど、ひょっとしたらひょっとするかもしれないぞ。

 リアに聞き出したり、いろいろ調べなきゃな。


「くっくっく」

「トール様? どうしたんですか? 楽しそうですね」

「ん?」


 しまった。どうやらリアがお風呂から出てきたようだ。

 握力計を背中に隠しながらごまかしの笑いを……え?


「大賢者様がお貸し下さったお召し物、凄く着心地は良いのですが、わたくしのようなものが着たらやっぱり変ですよね?」


 ……。

 変もなにもどうやったら高校時代のあのダサいジャージを着て、ここまで気品あふれる姿になれるのだろうか。

 リアを見たらスライム狩りの計画を立てようとしたけど、そんなことはどうでもよくなってしまった。

 黄金の髪は三つ編みにしてから巻き上げられていてサイドから髪がするりと落ちて光り輝いている。

 いや全体的に光り輝いている。

 

「変ですか……?」


 僕がなにも答えずにいたら、リアはしょぼんとしょぼくれる。


「あ、いやいや、そんなことないですよ! 髪が……」


 綺麗で、と言いたかったが、そんなことは言えない。


「髪ですか?」

「う、うん。その髪型とってもいいです」


 代わりに髪型を褒めることにした。

 僕にしては上出来だ。


「ホ、ホントですか? 嬉しいです……倒れた時はほどけてたんですけど、戦う時は邪魔にならないように基本いつもこれなんです」

「そうだったのか。でも作るのに時間かかるんじゃないですか?」

「トール様がなにやらゴソゴソ探して、今背中に持っているアーティファクトでなにかしていたので邪魔してはいけないと思いまして」


 見られてたのか。でも意味はわかってないみたいだ。そりゃそうだ。中世の人に握力計なんかわかるわけがない。

 しかもアナログタイプじゃなくて安い電気計タイプだしね。


「トール様が開発した頭髪用の石鹸凄くいいですね。髪がサラサラです」


 リアがサイドに垂らしたストレートの髪の橋を指先で巻き上げる。

 いい! 凄くいい!


「香りもとっても素敵」


 リアが指先に巻きとった髪を少しだけ顔に近づける仕草をする。 

 100円ショップで買ったコンディショナーだけど僕も一緒にクンカクンカしたい!


「ところでトール様もお風呂に入られては?」

「あ、あぁ。そうね」


 リアが早く出てきたのは僕もお風呂に入りたいだろうなと思ったからかもしれない。

 実際に入りたいと思っていた。

 ……そしてリアが入った湯船に僕も入るのか。うふふふ。

 とかよこしまなことを考えていると彼女がとんでもないことを言った。


「私、先ほど眠らせていただいた部屋で大賢者様の魔導書を読んで待たせて頂いてもよろしいでしょうか? 床の感触がとても気にいってしまったので」


 あーはいはい。畳ね。あれはいいものだよね。

 けど魔導書ってなんだろ。和室はオタク部屋になってるから漫画とか薄い本をはじめとしたいかがわしい本しかないけど。


「ぎゃあああああああああ!」

「どうしました?」

「リアはリビングダイニングつってもわからないか。ここに居て!」


 僕は和室に走りこみ漫画やら薄い本をかき集めて押し入れに叩きこんだ。

 リアの前に戻る。


「リア! 真面目な話があるんです! 聞いてください!」

「ま、真面目な話? は、はい!」


 リアは緊張感のある顔になる。それでいい。


「あの本の中には素人が読むと大変危険なものが含まれています! 言わば、そう、禁書なんです!」


 嘘は言っていない。同人誌は海賊版みたいなもんだし、知らない人が読んだら危険過ぎるものも多い。


「き、禁断の魔導書……わたくし、な、なんてことを……」

「いいんです。知らないことだったんだから。でも絶対に触っちゃダメです。目の届かないところにしまっといたから」

「は、はい!」

「他もあまり触らないでください」

「わ、わかりました」


 よかった。それがお互いのためだろう。


「あ、一つだけ質問いいですか?」

「ど、どうぞ」


 なんで裸で変な液体がかかった女性の絵が表紙に描いてあったんだとかその手の質問じゃないだろうな?

 本棚に立てかけてあったから背表紙しか見えないし大丈夫だとは思うけど。

 

「お風呂の水、たくさん使っといて今さらなんですけどダンジョンでは凄く貴重なものではないのですか?」

「あ、ああー。大丈夫よ。地下水脈から汲んでいるものだからね」


 これは嘘だ。多分ダムとか利根川水系とかそんな感じだろう。わからんけど。

 でも地下水を使っている自治体もあるんだっけ?


「そうだったんですね。それで綺麗だったんですか」

「そうそう。そうです」

「た、大変申し訳ないのですが……飲める水ならば、あの雨のように水が出てくるアーティファクトから一杯だけ頂いても良いでしょうか?」

「え?」


 なるほど。ダンジョンでは飲み水は大変な貴重品なんだろう。

 リアは水も持っていなかった。きっと喉も凄く渇いているに違いない。

 レベルやステータスについても聞く必要があるが、ダンジョンの生活面についての情報も集めておきたい。 


「ダ、ダメですよね……」

「いやいやいや。いいですよ。別にいいけど、そうだ!」


 僕はリアを和室の畳に座らせて冷蔵庫の前に走った。


「午前ティーとコーラと牛乳を出して。まあ水も持って行ってあげるか」


 さっき総合ディスカウントストア、トンスキホーテで買っといたんだよね。

 キョトンとするリアの前をお盆がないので二回ほど往復して四種類の飲み物をおいた。


「こ、これなんですか?」

「もちろん、飲み物だよ。牛乳と水はわかりますよね?」

「わ、わかります!」

「これは紅茶。わからないか」

「わ、わかりますよ! 凄い高級品です!」

「あ、そうなんだ。でもこれは知らないですよね。コーラです」

「……知らないです。これ飲めるんですか? 他のものは飲み物ってことはこれも飲み物なんですよね」


 コーラはいつもの通り、黒々として泡を出していた。


「まあ飲めなかったら置いといてよ」

「ほ、本当にいいんですか。貴重な飲み物をこんなに」

「いいっていいって。僕は大賢者ですよ! じゃあ、お風呂入ってるから後でコーラの感想きかせてね」


 自分の着替えはロングTシャツとスラックスでいいかと考えながら浴室に向かった。

 リアの入った湯船に頭まで浸かろうとしたが、おばあちゃんが悲しみそうだったんで止めておく。


「せっかくなんだから喜ばせることをしないとね。僕も夕食を食べてないから腹減ったし、出たら御飯にするか」


 それにしても禁断の魔導書を守れて本当によかったよ。

感想等よろしくお願い申し上げますm( )m

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― 新着の感想 ―
[一言] トオルくんは嘘ついても恥じないから種族はゴブリンだな
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