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モンスターと交易ができないか考えてみる件

「ははは。まあちょっと格好付け過ぎちゃったかな」

「江波さん……」


 江波さんは笑ったが、きっと本気だ。


「まあ妻達に会って行ってくれよ。長老達の話も長そうだしさ」


 見たいような見たくないような。いや違うか。

 会いたいような会いたくないような。


「うーん。じゃあ、お会いすることにします」

「そうか! こっちだよ」


 江波さんの家はやはり石のブロックが積まれた家だった。


「ただいま~」

「オカエリナサーイ」

「オカエリー」

「オカエリナサイ。アナタ」


 ドタドタと黄土色のハゲたメスゴリ……オークさんがさんび、いや三人やってきた。


「ダ、ダレデスカ?」

「鈴木殿だ」

「ど、どうも鈴木です」


 僕が頭を下げると江波さんが一人一人、紹介してくれた。


「カトリーヌ、ローラ、ジャクリーヌ」


 紹介されたけどまったく見分けがつかない。

 えっと背が高いのがカトリーヌさんで……肩筋が盛り上がってるのがローラ……そしてまつげが長いのがジャ、ジャ……わかるかあ!


「スズキサンハ、エナミニソックリナノネ」

「ホントホント」

「ソックリネ」


 全然似てないよ。


「ハハハ。私はオークによればイケメンらしいぞ。鈴木殿も一緒に住みませんか?」


 僕でもオークの村でならモテモテになれるのか。

 カトリーヌ、ローラ、ジャクなんとかさんを見る。

 うーん。よく見るとなんとなく色っぽいような。

 いやいやいや!


「……遠慮しておきます」

「ハハハ。そうですか。残念ですね。でも今日は皆さんで泊まっていってください」

「え?」

「今晩は私が腕を奮ってチャンコ鍋を作りますから」


 三人の奥さんが「ワーチャンコナベ!」と喜んでいる。


「皆さん、ベジタリアンなんですよね? 野菜だけのチャンコ鍋ですか?」


 野菜鍋ってあんまり美味しくなさそうだ。


「ああ、動物の肉はいけませんが、魚は食べていいんですよ」

「ええ? そうなんですか? 結構いい加減ですね」

「なんでも邪神様が神様を倒したんだけど、その戦いで世界が滅んで食べ物が無くなちゃったらしいんです。邪神様は飢えたんだけど神様の肉を食べなかったとかなんとか」

「へ~オークにもちゃんとした神話があるんですね」

「ええ。それで動物の肉はダメだけど、魚はまあオッケーみたいです」


 やっぱり結構アバウトだな。


「でも魚のチャンコ鍋かあ~いいですね~」


 よく考えれば昔の日本も動物の肉は食べちゃいけないけど魚は良かった気がする。


「ところでこんなダンジョンのどこで魚や野菜を採っているんですか?」

「この下の階層が湖と島のダンジョンになっているんです」

「あ~聞いてます」

「そこで魚を取ったり、その浮島で野菜を育てている。僕達は野菜島って呼んでるんだけどね」

「驚きました。そんな島があるんですね」

「ダンジョンの魔力のせいかよく育つんですよ」

「なるほど」


 ヨーミのダンジョンのオークの生態……もとい生活がわかってきた。

 畑作と漁業か。そして娯楽はまだ見てないけど相撲なのかな。

 野蛮なモンスターかと思っていたら結構文化的な生活を送っているぞ。


「私の家だと皆さんが来たら狭いので稽古場で食べましょうか」


 江波さんの奥さん一人の幅でリアとディートとミリィ全員分ぐらいありそうだけどな……。


「そ、そうですか」

「じゃあ行きましょう」


 江波さんとその妻の方々が野菜を持ってついてくる。江波さん本人は木の箱を持っていた。


「なんですか? その箱は?」

「例の魚が入ってるんですよ。ちょっと小さいけど良いお出汁が出て凄く美味しいですよ」

「出汁か~本格的ですね。楽しみです」


 まさか本物の元力士が作るチャンコ鍋を食えるとは思わなかった。しかも異世界の食材で。

 相撲場に移動していると長老の家からリア達とフランソワーズが出てくるのが見えた。


「おーい! こっちこっち!」


 お互いにお互いのことを紹介し合ったが、二度目の僕ですら江波さんの妻さん達の区別がつかない。

 それはリア達もオーク達も同じようだった。

 当然だけど江波さんは全員の判別がついている。それだけでも凄い。


「まあ、ともかく皆さんでチャンコ鍋をつつきましょう。そしたら覚えられますよ」


 そ、そうだろうか。

 オーク村の中心にある例の円形の建物に入る。中心には土俵があった。


「いやー本当に土俵だ。日本とそっくりですね」

「私も驚きましたよ。稽古場はこっちです」


 ついて行くと下には砂がひいてあるが、かまどもある部屋だった。


「稽古を終えた力士がここで食事をとりますからね」

「なるほど」


 江波さんはかまどに巨大な鍋を置いた。瓶の中の水を鍋に入れ、かまどに火にかけた。


「へえ~水炊き風ですか」

「まあ水炊きですかね。沸騰したら魚を入れます。それだけで味がついた美味しいスープになりますが、ちょっと塩を加えます」

「なるほど」

「あとは野菜を入れてシナっとなったらちょうどよくスープを吸って食べごろです」


 なんだか本当に美味そうだ。


「よし! 鍋の中の水が煮立ってきましたね」

「いよいよ。魚の投入ですか?」

「はい!」


 江波さんが箱の中の水を切ってブクブクと泡立つ熱湯のなかに魚を投入した。

 その魚は七色だった。


「あーーー!」

「ハハハ。心配しないでください。七色でちょっと気持ち悪いし、小さいけど味は保証しますよ」


 ミリィも後ろから調理を覗いていたのか叫んだ。


「にゃにゃにゃにゃっ! そうじゃないよ!」

「え? なにがそうじゃないんですか?」

「俺達はその七色魚を手に入れるためにここまで来たんだにゃっ!」

「えええ? そうだったんですか? だったら拾わないと。アッチ」


 熱湯から魚を取ろうとする江波さんを止める。


「も、もう無理ですよ」


 最初はピチピチと跳ねた七色魚もすぐに大人しくなっていた。


「ハハハ。まあ七色魚ですっけ? また採れますから今回は食べましょう」


 せっかく見つけた七色魚は塩チャンコ鍋の具材になってしまった。

 江波さんが魚から取ったスープに塩を入れて味見している。


「うん。美味い。鈴木殿も味見します?」

「では。ちょっと」


 小皿にとってくれる。七色魚も一匹入っていた。

 色がなぁ……なんとも気持ち悪い。匂いはいいけど。フーフーして口に入れる。

 ん? これは。


「あーうん。美味しい! 美味しいですね。魚介のお出汁ですよ!」

「でしょ~。じゃあ野菜も入れますか」


 江波さんは嬉しそうに野菜も入れていく。

 しばらくすると白菜のような野菜やキノコが美味しそうにしなっとなる。

 オーク……いや江波さんの妻が僕の分を取り分けてくれた。

 ローラさんじゃないかと思う。


「スズキサン、ドーゾ。フフフ」

「あ、ど、どうも」


 ローラさんは少しお姉さんっぽい。この情報、今後役に立つことあるんだろうか……?


「では。いただきましょう」

「いただきまーす!」


 ん~白菜っぽい野菜が七色魚のお出汁を吸ってかなり美味しい。


「シマイモヲフカシタモノモアルワヨ」

「シマイモ……ですか?」

 

 そういえば、僕は江波さんのチャンコ鍋ばかり見ていたが、ジャク……えっとジャクリーヌさんだと思われる奥さんが何か作っていた。

 江波さんが教えてくれた。


「島芋さ」

「あー島芋ね。この下の層の島で栽培してるんですね?」

「そうですそうです」


 ジャクリーヌさんから島芋を受け取る。


「へ~ほくほくした食感で結構美味しいですね」

「ああ、甘くないさつまいもみたいな味だなと思っているんだ」

「確かにそんな味ですね。塩チャンコ鍋の塩味によく合うような気がします」

「そうだろう。そうだろう」


 ディートがいい出した。


「でも塩チャンコ鍋の味、お酒が欲しくなるわね~」


 江波さんが笑い出す。


「ハハハ。実はオーク酒がありますよ。最初からやられると塩ちゃんこ鍋の微妙な風味がわかんなくなっちゃいますからね」


 江波さんが瓶を取り出す。


「お酒? ホント?」

「どーぞどーぞ」


 江波さんがディートに酒を注ぐ。

 にごり酒かと思ったら透き通った酒だった。

 やっぱり文化的だなオーク。


「うん。結構イケるわね」

「そうでしょう。ハハハ」


 オークとの宴に遅くまで盛り上がった。

 ディートなどは飲みすぎてベロンベロンになっていた。

 明日……冒険できるのだろうか。まあ、できなくても問題ないかもしれないと考えていた。

 江波さん達は帰っていったが、宿泊施設もあったので僕達はそこに泊まらせてもらった。


◆◆◆


「あたたた。頭が痛い。う~気持ち悪い」


 案の定、翌朝にはディートが二日酔いになっていた。

 リアが背中を擦って水を勧めている。

 ミリィがイライラするように言った。


「せっかくオークが七色魚の正確な場所を教えてくれたのに。飲み過ぎだよ」

「ご、ごめんなさい」


 僕が笑って二人に言った。


「いや、もう帰るだけだからゆっくりさせてもらったら」

「にゃっ? 帰るだけ? ここまで来たのに?」

「うん。もう帰ろうよ」

「まだ七色魚も捕まえてないよ。どうして?」


 説明しようとすると江波さんと長老が挨拶にやってきた。ちょうどよかった。


「あ、おはようございます」

「ウム。オハヨウ」

「実は長老に相談したいことがありまして……」

「ヘ、ソウダン?」


 昨晩、僕は寝ながら考えたことがあったのだ。


「長老は人間と仲良くしたいんですよね」

「ウム。ダガ、ナカナカスグニハシンジテモラエナイコトガワカッタ」


 お互いに恐れてるからね。


「そりゃ今まで敵だと思われてましたからね。でも打ち解ける方法があるんですよ」

「オオ! ホントウカ?」

「交易ですよ。もっと簡単に言えば、オークの村と盗賊ギルドで物資を物々交換するんです」


 長老とミリィが同時に驚く。


「ナニ? ブツブツコウカン?」

「にゃっ? 交易?」


 まず長老に話す。


「オークさん達は戦争していて物資にも困っているんじゃないですか? 衣料、食料、生活必需品とか」

「ソレハタシカニ……ソウイウモノガテニハイルナラアリガタイガ」


 ミリィは普通に言った。


「こっちはオークの物で欲しいものなんかないよ」


 あ、案外ドライだな。


「オーク酒があるじゃないか?」


 昨晩はミリィも美味い美味いって飲んでいた。


「あっ。そうか」

「それにこれから僕らは七色魚が必要になる。毎回取りに行ったら大変だよ」

「にゃっ。確かにそうだね……」


 実際、僕らはここまで来るのに結構苦労している。


「他にもダンジョンで冒険者が採取しているようなものをオークに採って来て貰って買い取ればいい」


 長老が自信満々に笑う。


「ソレナラカンタンダ」


 ミリィが納得しはじめたようだ。僕は畳み込む。


「人間とオークの誤解を解くのは難しいけど、利益になるならいやいやでも付き合わざるを得ないでしょ? いや儲かるとなったら積極的に付き合っていくようになるよ」


 日本がはじめて西洋人と貿易をするようになった南蛮貿易もそんな感じだったハズだ。


「ヨシ、ヤッテミヨウカノ」

「そうだね。やってみようか」


 オークの村と盗賊ギルドの代表者は交易をしてみる気になったようだ。

 良かった。きっとどちらの集団にも大きな利益になる。

 上手く行けばオークも危険なモンスターと認識されず、隣人となっていくだろう。

 薄い本のような風評被害もなくなっていくかもしれない。

 江波さんが僕に言った。


「しかし、良いのかな。なんだか鈴木殿に助けられたみたいだ。私は迷惑ばかりかけていたようなのに」


 気がついてくれたのか。冒険者ギルドに行ったり、レベル上げを邪魔されたり、かなり苦労した。

 まあ鍋を食べながらかなり話してしまった。


「良いじゃないですか。僕も人間とオークが仲良く成ったほうがいいと思いますしね」

「ううう。ありがとう、ありがとう」

「七色魚、頼みますね」

「うんうん」


 僕達は江波さんと奥さん達に挨拶してマンションに帰ることにした。

 帰ったら屋台の準備をしたり、自動レベル上げにもう一度挑戦してみるつもりだ。

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