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オーク村にお邪魔した件

「フランソワーズさん。江波さんを助けたいのでオークの村に連れて行って貰ってもいいですか?」

「……」

「ど、どうしたんですか? やはりダメですかね?」

「エ? イエ……ワカッタワ。トリアエズ、ムラニイッテ、ソンチョウニキイテミマショウ」

「ありがとうございます!」


 やはり江波さんにはあって日本に連れて帰らないといけないだろう。

 ところがディートが僕を引っ張る。


「ちょっちょっとトオル」

「なにさ?」

「こっちこっち」


 ディートに引っ張られてオークのフランソワーズから離れる。

 リアとミリィも集まった。


「本当にオークの村に行くの?」

「行くしかないだろ。江波さんを助けないと」

「け、けどぉ……信用できるの?」

「え?」


 見るとディートとミリィは困惑顔だった。

 リアなどは少し怯えている。

 女騎士はオークが怖いんだろうか。いやそれは薄い本の読みすぎだ。

 ただ単純にリアはまだダンジョンの暗闇のなかで麻痺して動けなくなった時の記憶が抜け切れていないだけだろう。

 ただ皆がオークを信頼しきってないのは明らかだった。


「僕は信用できると思うけどなあ。フランソワーズさん良い人そうじゃん」


 いや良いオークか。とにかくつぶらな瞳のフランソワーズさんが嘘をつくとは思えない。

 見た目は黄土色のハゲたメスゴリラだけど。

 皆はオークと人間のハーフをどこどこの街で見たことあるとか、誘拐された人間の子供だとか、草食系であることは嘘だとか中々信用しない。


「じゃ、じゃあ僕だけ行って来るから皆はここで待ってなよ」

「ええ? トオルだけで?」


 ディートは驚くが、僕にはちゃんと根拠もある。

 江波さんとオークは本当に仲が良さそうだったからだ。

 けれど異世界人の皆に日本人とオークが仲良くしていたと言っても通らないだろう。


「ト、トオルがいくなら私も行くわよ!」

わたくしも!」

「にゃっ! 俺も行くよ」


 結局、皆も一緒に来てくれることになった。

 フランソワーズは隠し扉から入ったこの通路でも何回か隠し扉を通る。

 先が巨大な空洞になっている一本道に出た。空洞は村になっているようだ。


「ココデマッテ。チョウロウニ、キョカヲトッテクルワ」

「わかりました」


 フランソワーズが先に歩いていった。空洞のかなり前で待たされる。


「皆、気をつけてね。罠かもしれない」

「考えすぎだって、ディート」


 そんな話をしているとガタイのいいおじさんとフランソワーズが腕を組みながらニコニコ顔でやってくるではないか。

 間違いない。江波さんだ!


「江波さん!」

「鈴木殿! お久しぶりです! ついにTVを買われて受信料契約をする気になったのですかな?」

「ち、違うんですよ。ここは異世界なんですって! 助けに来たんですよ!」


 江波さんが豪快に笑う。


「あははははは。冗談ですよ冗談! いくらなんでもここが別の世界だって気がついてますよ。でも助けに来たってどういうことですか?」

「え? だって……オークの村にいるわけだし……日本に帰りたいんじゃないですか?」

「まったく帰りたくないですね」

「えええ? そうなんですか?」

「それに……私は……」


 江波さんが腕を組んでいるフランソワーズの顔を見る。フランソワーズも江波さんの顔を見た。


「今度フランソワーズと結婚するんです」

「えええっ!? 結婚?」

「前に鈴木殿と会った時に一緒にいたオークはフランソワーズの兄のエドワードです」

「そ、そうだったんですか」

「ともかく村に来てくださいよ。長老もあなた達に会いたいようです」


 二人は、いや一人と一匹と言うべきか。

 ともかく江波さんとフランソワーズは腕を組みながら村へ歩いていった。


「危うく江波さんのフィアンセを殺してしまうところだった」


 ディートが頷く。


「そんなことしたら婚約破棄どころじゃなかったわね」

「まあ、とにかくこれで罠じゃ無さそうってわかっただろ」

「まあね。行きましょうか」


 僕達も二人について行った。

 オークの村は六層のドーム状になっている空間にある。

 ちびっこオークが僕達をチラチラ見ていた。

 別に敵意とかはないようだ。

 中央にはどこかで見たような円形の大きな建物がある。


「アレが村長の家ですか?」


 江波さんが教えてくれる。


「違います。村長の家はこっちです」


 僕が大きな建物に行こうとすると村長の家は別だと言われた。

 石造りの小さな家だった。


「ここですか。小さいですね」

「オークは偉くなっても平等だよ。贅沢なんてしない」

「そうなんですか? じゃああの中央の建物は?」

「あれはオーク相撲の土俵です」

「オ、オーク相撲?」


 そんなのあるのかよ。


「後で案内しますよ。ともかく今は長老が話があるらしいから」


 僕達と江波さんは長老の家にはいる。腰の曲がった老オークがいた。この人が長老だろう。

 軽く挨拶すると座れと促されたが、家は狭いのにオークも江波さんもでかい。

 全員が密集した。ディートとリアの……む、胸が。

 江波さんが言った。


「長老の話をよく聞いてやってください」


 オークの長老が僕達になんの話があるのか。

 むしろこっちは江波さんをどうするのか? いや、本当にそれでいいんですか? と話たいけど。

 まあ先に長老の話を聞いてみるしかない。


「ニンゲンタチヨ。ワシラヲコウゲキスルノハヤメテクレンカノ?」


 あ、ああ。そういう話か。そりゃそうだよな。

 このオーク達は人間を襲わないんだし。


「トクニナ。アレ、サイアク。マルデワシラガ、ソノホラナンダ」

「え? なんでしょう?」

「イワセルナ、オンナキシヲ、アレスルトカ……ムリヤリニンゲンヲオソウナンテナイゾ」


 た、確かにこのオークさん達が急にリアを襲うとは思えない。

 凄い風評被害だろう。

 でも江波さんは、自由恋愛なんだろうか。

 そうなんだろうな。今も長老の狭い部屋でフランソワーズとくっついている。


「わ、わかりました」

「オオ、ソウカ。デハ、ホカノ、ニンゲンニモ」

「あああ、ちょっと待って下さい。人間社会は大きいし複雑なので、少しづつなら誤解も解けると思いますが、急には無理なんです」


 オークの長老はがっくりと首を落とした。


「エナミカラモ、ソウキイテオッタガ、ソレデモナ。ザンネンジャ」


 僕は長老やオーク達が少しかわいそうになってきた。


「とにかくヨーミのダンジョンのオークは安全だっていうことは少しづつ広めていきますから」

「タノム」


 それからも長老と話をすると色々なことがわかった。

 モンスターの神話では邪神ルーインは神に打ち勝ってもその肉を食べなかったらしい。

 ルーインを信仰するヨーミのダンジョンのオークはその一説で菜食主義になっているらしい。


「ところで江波さん。一個上の階層に茶色い粒が落ちているでしょう?」

「ああ。前に鈴木殿に会ったところに落ちている種だな」

「アレは植物の種じゃないですよ。ペットフードです!」

「な、なんだって?」

「肉ですよ! 肉!」

「う、ううう……そうだったのか。あああルーイン様になんとお詫びしたらいいのか」


 邪神にお詫びなんかしなくていいよ。

 長老の家に飾ってあった邪神像はにっこり笑って太っている。あまり邪悪な感じはしなかった。

 しかし、これで自動レベル上げをする時に江波さんを間違って潰してしまう危険も無くなった。

 レベル上げが捗るぞ~! くっくっく。

 僕の喜びとは裏腹に長老は深刻だった。


「オークトニンゲン、ナントカ、ナカヨクデキンモンカノウ」


 ちょっとディートに聞いてみることにする。


「ディート。人間と仲良くしているオークなんているの?」

「辺境の地域ではいないこともないわよ。ただ本当に危険なオークも多いからねえ。誤解を解くのは大変なんじゃないかしら」


 なるほどね。それからは異世界の住人であるリア、ディート、ミリィと長老、フランソワーズで、あーでもないこーでもないと議論がはじまった。

 解決策を議論している。

 日本人で状況に詳しくない江波さんと僕は蚊帳の外だ。

 ふと江波さんがチョイチョイと手招きをして長老の家を出ようというジェスチャーをした。

 議論が盛り上がるなか二人で外に出る。


「鈴木殿どうだい? オークは?」


 広場で遊ぶオークの子供を見ながら江波さんが聞いてきた。

 子供を見ているオッパイの大きなオークもいた。


「皆、良い人そうですね」

「そうだろう」


 人かどうかはわからないし、結婚はしたくないけど。

 長老もフランソワーズさんも純朴そうで良い人だった。


「僕はここで暮らそうと思っているんだ」

「一生ですか?」

「うん。男が少なくなってしまってね。ハーレム状態なんだ。フランソワーズ以外にも妻が何人かいる。羨ましいだろう?」

「え、ええ。まあ……」


 色々突っ込みたかったが、一番失礼がなさそうなことを聞くことにした。


「けどなんで男が減ってしまったんですか? 確かに子供やオッパイの大きいオークが多いですね」

「実はゴブリンと戦争していてね」


 な、なんと六層でもモンスター同士の抗争があるようだ。

 しかも、ここの村に来るまでの様子を考えると相当押されているのでは?


「た、大変じゃないですか!」

「うむ。最近のゴブリンは毒の吹き矢を使ってきてな。そんなことは今までは無かったらしいのだ」


 江波さんによれば、ゴブリンは六層のモンスターのなかでは一番知能が低く、最近まで毒など使うことはなかった。


「ゴブリンに苦戦している長老は人間だけとでも和解したいようなんだ」

「え、江波さん……逃げたほうがいいんじゃないですか」

「君だったら妻を置いて逃げるのかね?」

「えええ!?」


 妻って……オ、オークじゃんか。

 しかし、江波さんの決意はかたそうだった。

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