ベジタリアンなオークがいたら驚く件
うん。間違いない。
今、僕が腕を組んでるモンスターは確実にオークだね。
だってオーク見たことあるもの。江波さんと一緒にいるところを。
江波さん? そうだ! 江波さんのことをすっかり忘れてた!
「トール様! 離れてください! オーク、覚悟!」
リアが真銀の剣を中断に構えた。
僕は慌てて止める。
「ちょ、ちょっと待った!」
「どうして止めるんですか?」
「え?」
ど、どうしてだろう。
「ひょ、ひょっとして、さっき言ってた〝そういうこと〟をトオルは期待しているの? そのオークメスみたいだし」
ディートが恐る恐る聞いてきた。
僕と腕を組むオークは確かにオッパイが大きいからメスなんだろうけど……。
「そんなこと期待するか!」
「じゃあなんでよ?」
「ともかくダメだよ。江波さんの情報を持っているかもしれない」
「江波?」
ディートとリアが同時にあっと思い出したような顔をする。
ところがミリィは江波さんのことなど知らない。
「なんのことかわからないけど仲間を呼ばれる前に殺すしかないにゃっ!」
「いやいや、まずは話してからにしてくれ。大体オークはこの近くにいないだろ?」
そんなやり取りをしていると遠くから気色の悪い声が聞こえてきた。
「ギギギッ! アッチノホウカラオトガシタゾ!」
「ナニカイルナ!」
やばい。揉めていたせいでさきほど隠れてやり過ごしたゴブリンに気づかれてしまったようだ。
ガチャガチャと武装を鳴らしてこちらに走ってくる。
「もうっ! バレちゃったし、逃げ場もないから戦うしか無さそうね」
パーティーの指示出し役をしていたディートは戦うことにしたようだ
「凄い数だったし、応援を呼ばれたらどうする?」
「こちらの戦力なら大丈夫よ。コーラもあるんでしょ?」
「持ってきたけど」
ヨーミのダンジョンのゴブリンは最近は毒の吹き矢を使ってくる。
リアもそれでやられた。
コーラは最強の解毒剤だ。
「おっけー! その前にオークを!」
ディートが杖をオークに構える。僕が止めようとした時だった。
「コッチヨ!」
オークが日本語、もといモンスター語でこっちと僕を引っ張った。
「へ? こっち?」
こっちと言われても部屋のなかで袋小路ですぐに壁だ。
だがオークが部屋の壁を触ると壁がクルンと回転して先に進める道ができる。
「隠し扉っ?」
誰ともなく言ったその言葉と同時に全員が入った。
袋小路と思っていた部屋に奥にいける一本道があったのだ。
そしてオークが何やら触れると壁は元の壁に戻った。
しばらくすると先ほどまで僕らが隠れてた部屋の方からガチャガチャ音が聞こえた。
オークは僕達に口の前で指を一本立ててシーッというジェスチャーをした。
「ギギッ。サガシタガ、ナニモイナイゾ?」
「ヘンダナァ」
壁の向こうのゴブリンはまた音を立てて去っていったようだ。
皆と顔を見合わせる。
アイコンタクトで代表して僕がお礼を言うことになった。
「助かりました。オークさん。ありがとうございます」
「アナタ。ヒョットシテニホンジンジャナイ?」
「ええ? 日本人を知ってるんですか?」
「エナミトカンジガニテイルカラ」
やはり、このオークは江波さんを知っているようだ。
ただ、それ以前に江波さんと僕が似ているということが気になった。
自分自身の顔を指差してリアとディートに見せる。
彼女達は顔を横に振った。どうやら江波さんと僕は似ていないようだ。
「カンジガニテイルダケヨ。エナミハイケメンダモノ」
そ、そうか~? 江波さんは顔がぶちゅっとしたガタイのいいオッサンだけどな。
「トール様のほうがイケメンです!」
「う、うん。トオルのほうがずっとかわいいわ」
リアとディートは僕に味方してくれた。
少し……いやかなり嬉しい。
「エナミハシンシダカラ、クラガリデ、セクハラナン」
「わわわわわ。江波さんはカッコイイよ。そんなことよりオークさんは人を襲わないの?」
オークさんが余計なことを言う前に僕は肝心なことを聞いた。
「オソワナイワヨ」
それに対してディートが反論する。
「嘘よ。オークはかなり危険なモンスターとして有名だもの」
それは前にも聞いたことがある。
オークはかなり強力なモンスターらしい。
「ワタシタチハベジタリアンオークヨ。ドウシテニンゲンヲオソワナイトイケナイノ?」
「なんだって? ベジタリアン!?」
「ジャシンルーインサマノオシエデ、ショクブツシカタベナイワ」
邪神? ベジタリアンの邪神って。
それにペットフード食ってたじゃないか。
いや肉をペーストにして固めて乾燥させたものなんか自然には落ちてない。ダンジョンにもないだろう。
オークにとっては植物の種かなにかと思ったのかもしれない。
「コノダンジョンノオークガ、ニンゲンヲオソッタッテ、キイタコトアル?」
そう言われても僕は知らない。
僕が知っている限りでは江波さんと仲良くしていた。
リア達のほうを見る。ミリィがつぶやく。
「言われてみれば……ダンジョンの地下一層に住んでる俺でもオークに襲われたって聞いたことないかも。他の場所ではオークは危険なモンスターとして有名だけど」
リアも言った。
「六層での戦いは極力避けることがセオリーだから皆も気が付かなかったのかもしれませんね」
最後にディートが聞いてきた。
「トールと冒険者ギルドに行ったよね? 江波の討伐依頼が出ていて」
「うん。行ったね。確かお嬢様冒険者のルシアさんが出したとかなんとか」
「アイツは受信料契約がどうこうって迫られて腹を立てたからオークの討伐依頼出しただけらしいし……別に襲われてないわね……」
全員で顔を見合わせる。
衝撃の事実、このヨーミのダンジョンではオークは人を襲わなかったのだ。
ミリィとディートは特に衝撃が大きかったようだ。
「俺、ダンジョンの一層に住んでるのに知らなかったにゃっ」
「私なんか何十年もヨーミのダンジョン探索してるのに……」
そりゃ、オークと何とかの邪神様がベジタリアンだなんて想像できない。
リアが二人を励ますように言った。
「ま、まあ、よかったじゃないですか。皆さん。ところでオーク様はお名前は?」
「フランソワーズヨ」
「そ、そうですか。私はリアです」
フランソワーズ……。まさかハゲゴリ……いやオークさんの名前がフランソワーズなどという名前だとは思わなかった。
僕達も驚きを隠しつつ名前を名乗った。
しかし、驚いてばかりもいられない。
フランソワーズは日本の話を聞いているほど、江波さんと親しいのだ。
きっと居場所も知っているのに違いない。
「あのフランソワーズさん。江波さんはどこにいらっしゃるんですか?」
「オークノムラヨ」
やはり、この六層にはベジタリアンオークの村があるのだろう。
オークの村……行きたいような行きたくないような。
しかし、江波さんを助けに行かないと。




