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暗闇の部屋のなかで……の件

「いってらっしゃ~い!」

「いってきま~す!」


 お留守番のシズクに挨拶してマンションの部屋からダンジョンに出た。

 ヨーミのダンジョンの地下七層の泉にいる七色魚なないろうおを捕って夜店の金魚すくいに使うためだ。

 思えば、異世界の地上に出るためにパーティーを組んでダンジョンを上がっていったことはあるが、より深い階層に潜ることははじめてになる。

 マンションは一度使った入り口から自由に出入りできるので、僕らは目的地の地下七層に近い五層へ出た。

 地下五層は石のブロック壁でできた遺跡風の階層だ。出現モンスターはバラエティに富んでいる。

 ちょうどリアが真銀の剣で大ネズミとお化けキノコの頭を斬り落としたところだ。

 ふと途中で通ることになる六層がどんな場所か気になった。


「ヨーミのダンジョンの地下一層は主に地上で生きられない人の街だよね」

「ええ、そうですね」

「そうね」


 リアとディートがうなずく。


「にゃっ!? 盗賊ギルドの人達は皆いい人だよ!」


 盗賊の組合に加入している人達を皆いい人と主張されてもな。

 僕はミリィを無視して話を続けた。


「地下二層は森の階層、三層は城、四層は根で、五層はここでしょ。七層は湖と島だったよね。地下六層はどうなってるの?」


 ディートが教えてくれた。


「地下六層は要注意よ」

「そ、そうなの? 七層よりも?」

「うん」


 普通、ダンジョンは階層が下に行くごとに危険になっていくらしい。

 だがディートが言うには六層は七層よりも危険という。


「七層は水上歩行魔法ができるならそれほど危険はないわ」

「なるほど。進むのは困難だけど危険は少ないのか。六層にはなにが?」

「知恵があって群れる魔物の住み処なのよ。オーク、コボルト、ゴブリン……戦う時も群れで襲ってくることが多いわ」

「それ。やばいじゃんか」

「オーク、コボルト、ゴブリンの種族間は仲が悪いけどね」


 モンスターが連携して襲ってくるという話はかなり危険を感じる。

 ゲームでは数種類のモンスターが襲ってくるけど、よく考えれば複数や特に別種のモンスターが人間のように協力して襲ってくることは少ないだろう。

 よく考えてみれば地球でもクマとトラとライオンが協力して人間を襲うなんてことはない。その前にクマとトラとライオンで喧嘩になってしまうだろう。

 だから群れてモンスターが襲ってくる六層はとても危険なのだろう。


「それに六層のモンスターは人間を……そういう目的で捕らえるって噂もあるの」

「そういう目的? まさか、ひょっとして……女性を?」


 リア達が捕まったらと思うと身震いした。


「女だけじゃなくて男も捕まるらしいわよ」

「男も!?」

「トールはかわいい顔に見えなくもないから捕まっちゃうかもよ。メスのゴブリンやオークもいるしね」


 マ、マジかよ。僕はさらに身震いした。

 しかしダンジョンの七層までの様子はわかった。

 我が家(わがや)と繋がっているヨーミのダンジョンの各層はこのようになっていた。



地下一層 地上で生きられない人間の街。三つの地下ギルドが勢力争いをしている。モンスターはほとんどでない。

地下二層 森の階層。太陽苔がダンジョンの天井まで覆い、その光が森のなかを木漏れ日のように降り注ぐ。モンスターは青スライムなど。

地下三層 城の内部のような階層。時空が歪んで現れたとも、元々あった城が地下に沈んだと言われる。モンスターはスケルトンなど。

地下四層 巨大な植物の根に侵食された自然洞窟のような階層。元々は石張りの壁だったが根によって破壊されて地肌が見えている箇所が多い。モンスターは大ねずみなど。

地下五層 遺跡風の階層。石のブロックでできた直線の通路と直角の曲がり角とたまに部屋のような空間がある。モンスターはバリエーションに富んでいて、まれに出現する大ムカデが強い。

地下六層 五層と同じように遺跡風だが、群れるモンスターが多い階層。モンスターはオーク、コボルト、ゴブリン。

地下七層 湖と島の階層。湖といっても遺跡風の空間にほんのりと光る水がはられていてそこに島が点在しているらしい。進むには水上歩行の魔法かカヌーが必須。モンスターはアンモナーなど。



 ディートに六層の攻略法について聞いてみる。


「六層のモンスターはどうしたらいいの?」

「まず出くわさないことね。ダメだったら逃げること。戦闘になって仲間を呼ばれたらキリがないし」

「えええ? 大丈夫なの?」

「奴らは頭がいいから、襲って被害が大きそうなパーティーは積極的には襲わないの。よほどテリトリーに深く入り込んだり、こちらから攻撃を仕掛けなければ大丈夫よ」

「なるほどね」

 

 逆にテリトリーに入り込んだら危険ということか。

 ただ地図を持っての先導はディートがしている。任せておけば安心のハズだ。

 しかし、僕はなにか忘れていることがあるような気がした。

 パーティーはリアが壁と物理攻撃、ディートが魔法攻撃、ミリィが感知や探索をしているので僕の出番はあまりない。

 今も荷物持ちになってしまっている。考え事をしながら歩いても大丈夫だろう。

 オークにゴボルトにゴブリンか。どんなモンスターなんだろう。


「ディート、ゴブリンってどんなモンスターなの?」

「六層のモンスターのなかでは一番弱くて一番数がおおくて、人間の腰ぐらいの身長の小鬼よ」

「へ~ゴボルトは?」

「犬型の獣人型モンスターね」

「え? 獣人型?」


 獣人っていうとミリィみたいな感じなんだろうか? ちょっと聞きにくい。


「ゴボルトは見た目も知能もモンスターに近いわ。実際に獣人型モンスターって分類だし。身長は人間ぐらいだけどね」


 ディートが先回りして教えてくれた。ゴブリンの話にもゴボルトの話にも別に引っかかるところはない。


「オークは?」

「数は少ないけど一番強いわ。大きさはそうね。大柄な人間かそれより少し大きいぐらいかな」


 なるほど。忘れている気がすることは思い出せなかったが、六層のモンスターには刺激を与えないほうがいいことはわかった。

 確かオークに関係していたことだと思うんだけど……。


「ところでそれぞれ群れてるってことはモンスター達は集まって生活してるのかな」

「モンスターの種類ごとに別々にね。一層みたいにテリトリーがあるんじゃないかしら?」


 このヨーミのダンジョンは一層、一層が非常に広い。階層を移動する階段や坂道も一層につき一つという訳ではなく、いくつも存在する。

 その冒険者が知るルートを移動しているだけなのだ。今回はディートが知っているルートで移動している。

 4時間ほど歩くと地下層におりる階段に辿り着く。ここからは特に危険な六層なので少し休憩する。

 シズクが作ってくれたサンドイッチを食べながらディートが皆に注意を伝えた。


「じゃあこれから六層に降りるわよ。六層では極力戦闘は避けてね。探知のミリィは敵がいそうだったらすぐに教えて」

「了解!」


 ミリィは盗賊なので敵を探知するスキルを持っているらしい。


「リアはもしモンスターと遭遇したら仲間を呼ばれる前に速攻で倒して」

「はい!」


 戦闘になった場合はリアの剣が一番早いのだろう。


「一気に倒せないで仲間を呼ばれた場合は囲まれる前に走るわよ。そうなったらトールは荷物捨てちゃってもいいからね」

「わ、わかった」


 どうやら僕は気を使われてるようだ。

 六層への階段を恐る恐る降りる。五層も六層も遺跡風だ。

 石のブロックによる壁と石の階段。通路は直線的、曲がり角は直角で、両側にたまに部屋のような空間がある。

 モンスターの気配はないので堂々と歩けばいいのだが、やはり縮こまって歩いてしまう。


「この辺はオークが多い地区なの。ここを抜けて七層にいくのが私の知ってるルートの中では一番安全なの」


 ん? それっておかしくない?


「でもオークって三種類のなかでは一番強いんだろ? ゴブリンが多い地区を移動したほうが……」

「オークが一番数が少ないからね。それに群れて住んでるけどオークは1匹とか2匹でが出歩くことが多いわ」

「なるほど」


 その時、斜め前のミリィが耳をビクンッとさせる。


「にゃっ!?」

「どうしたミリィ?」

「前方から10匹ぐらいの群れが来る」

「えええ? オークは1匹とか2匹じゃなかったの?」

「ちびっちゃいヤツだから多分ゴブリンだよ! 通路の途中に小部屋があったからそこに隠れてやり過ごすにゃっ!」


 僕らは慌てて来た道を戻って途中の小部屋に隠れてヘッドライトを消す。ディートは光を放つペンダント型アーティファクトを谷間に押し込んだ。

 おおお! 一瞬、なにかが見えた。ペンダントになりたい。

 僕達が歩いていた通路を子鬼達がガヤガヤと音を立てながら通り過ぎていく。

 こちらの部屋は暗く、ゴブリン達は手に松明を持って歩いているようだ。

 通路の左右にはかなり部屋があるし、ゴブリン達がわざわざ小部屋を照らさして覗き込まない限りは大丈夫のはずだ。

 三人で身を寄せ合って暗い部屋の隅で息を殺す。

 リアだけは中腰で剣を構えているので密着できなかったが、ディートとミリィの胸が暗闇のなかで思いっきり密着した。

 ゴブリンに見つかってはならないという緊張感なのか密着の高揚感なのかわからないウチに、ゴブリン達はこの小部屋を気にせずに通り過ぎていった。

 ディートが谷間からペンダントを出しながらミリィに安全を確認した。

 もちろんチラりと横目で見た。うしし。


「ふ~ミリィ。もう大丈夫かしら?」

「うん。大丈夫。かなり先まで行っちゃったよ」


 リアの剣がカチャリと音を立てた。

 暗闇のなか中腰で剣を構えていたリアが剣を腰に戻す。

 残念! 身を寄せ合った時にディートとミリィの感触は楽しめたけど、リアの感触を楽しむことはできなかった。


「ゴブリンでも10匹もいると仲間を呼ぶ前に倒すのは難しいですからね」


 僕は気軽に言った。


「やっぱり10匹もいたらリアでも厳しいか」

「えぇ。ゴブリンは武器も持っていますしね。エッチな子鬼なら剣の峰でポカって一発なんですけどねっ」


 げっ。ディートとミリィはわけがわからないという顔をしたが、リアにはいろいろとバレていたらしい。

 頬を膨らませて横を向くリアから剣の峰でポカりとやられないように気をつけよう。それにしても……。


「オークが多い地区でもゴブリンがいることもあるだね」

「うーん、そんなことは少ないはずなんだけどな~。ヤツらは種族同士で仲が悪いから」


 ディートが首をひねる。首をひねっても実際にゴブリンがいたのだからそういうこともあるんだろう。

 さきほど通路に戻って先に進む。歩いて気がつくことがあった。


「ここは通路が直線で脇道も小部屋もないから前方からゴブリンが来たらさっきの部屋まで」


 戻らないといけないね、と言おうとした時だった。ミリィが耳をビクンッとする。


「にゃっ。またゴブリンだよ! たくさん来るよ!」

「えええ!」

「さっきの部屋に戻るにゃ!」

「またかっ! それを言おうとしていたところだよ」


 小部屋の入り口を見つける。隠れるのも二度目になると馴れたもので入り口には扉もないわけだからヘッドライトを消しながら飛び込む。

 ディートもペンダントを手で包み込みながら光量を調節しながら胸にしまった。

 リアももう剣を構えずに隠れるだけにするつもりのようだ。

 遠くからゴブリンが行進する音が聞こえてくる。

 正直、隠れるのも二度目となると〝ゴブリンに見つかってはならないという緊張感〟よりも三人の誰かと密着できる高揚感のほうがはるかに大きい。

 今回は他の二人は少し離れていて誰か一人と密着したようだ。

 暗闇だからわからないけど誰だろう? 胸は……とても大きい気がする。ディートだろうか?

 でも肩が割りと筋肉質だ。前衛で戦うことが多いリアかもな。

 さっきは怒られちゃったけどリアを触っていたらそんなことはなかったと思う。

 うん! そういうツンデレに違いない!

 色々あってあの夜からなにもしてないしね。


 僕はソフトなところからリアの身体を触ることにした。

 まずはさきほどの肩。ふふふ。結構、肩幅が広いんだね。

 二の腕。結構太い。脂肪ではなく筋肉って感じだ。見た目よりも鍛えこんであるということだろう。筋肉も……嫌いじゃない。

 そして太もも。筋肉でパンッパンッだぞ。うーん。これはこれでイイ!

 でもベッドで味わった感触とは違うよな? 見つかったら攻撃できるようにしゃがんだ体勢で緊張しているからだよね。

 よ、よし。最後にちょっとだけお胸を……。

 うおおおおおおおお! でかい! なんというでかさ! リアってこんなに大きかったっけ?

 きっと着痩せするタイプなんだな。

 リアの息が大分荒くなっている。

 胸を触られるのが恥ずかしかったのかリアは僕の手を取って腕を組む。

 かわいいなあと思っているとゴブリンは通り過ぎてしまったようだ。

 ゴブリン達ももう少しゆっくり歩いてくれていいのに……。

 少し離れたところからディートとミリィの会話が聞こえた。


「ふ~ミリィもう大丈夫? 今度は10匹なんてもんじゃなかったわね」

「うん。行っちゃったよ。ゴブリンが多いにゃ」

「なんでかしら」


 やはり二人とは少し距離があったらしい。

 なら僕の近くに隠れたのはやっぱりリアだよね。

 ところがやはり少し離れたところからカチャリと音が聞こえる。

 え? 剣の音?


「かなりの数のゴブリンでしたね。それにしてもトール様……さっき意地悪なこと言っちゃってごめんなさい。そんなに離れなくても」

「え?」


 リ、リアが少し離れた場所に? じゃ、じゃあ僕と腕を組んでいるリアは誰なんだ?

 ディートが当たり前のように胸からライトになるアーティファクトのペンダントを取り出す。

 まだ皆は何も気がついていないのだろう。

 ペンダントの明かりに照らされて驚くリアとディートとミリィの顔が見えた。

 恐る恐る横を向く。

 そこには恥ずかしそうに僕と腕を組む黄土色でハゲのメスゴリラがいた。



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