金魚を求めてダンジョンの奥へ向かう件
今章は冒険メインになります。
僕達はお祭りから帰って、その足でダンジョンの地下一層の盗賊ギルドの本部にいた。
ノエラさんにアイポンを見せる。
「こ、これが日本のお祭りですか。凄いですね」
ノエラさんは最初アイポンに驚いていたが、今はお祭りの動画を見て驚いている。
「しかし……なるほど。このお店ならば盗賊ギルドでも用意できますね。カラフルですけど、言ってしまえばただのテントですし」
「うん。売ってるものだって日本の料理や物ってだけで大したことはないです。こちらの世界にあるもので作れるんじゃないかな」
僕は異世界で用意できるものを使って集客することにこだわっていた。
日本の知識を使うのはいいけど、技術的に異世界で作れないものや存在しないものを売ったりすれば僕の部屋の秘密が発覚してしまうかもしれない。
それに最終的には独力で盗賊ギルドや孤児院に立ち直って欲しい。
僕とノエラさんは宣伝告知や夜店運営全体のことを話し合って、リアとディートとミリィはどんな店舗がいいか話し合うことにした。
「現状、再開発地区は綺麗になって逆に閑散としてますね。ただの広場みたいになってしまって子供が遊んでいます」
「いいんじゃないの。まずは子供が楽しそうにしてれば大人も興味を持つよ」
「なるほど。そういうものかもしれませんね」
日本で子供を集客するのは親を連れてくるためでもあるが、親を連れてこない孤児でも楽しんでいるのは集客のためにいいことだと思う。
とにかく異世界には娯楽は少ない。ダンジョンの地下一層にはインモラルな娯楽は多いけど、それはむしろ特別なのだ。
「再開発地区はヘラクレイオンの街中にある出入り口にも近いから地上の人の集客も見込めますよね」
「うん。それも目指しているんだ」
「そのためには地上の人にも夜店のイベントをすることを知ってもらわないといけないですけど」
僕にはその考えもあった。
「チラシを作るといいと思うんだ」
「チラシ……ですか。かなりの資金がかかりますね」
異世界では紙は高級品だ。印刷も基本手書きでしなけばならない。
しかし、コストと時間をかければ異世界でも手書きであれば、チラシを作れないわけでもないのだから日本の技術を使わせてもらおうかと思う。
プリンターと紙で印刷したようなものでも十分に珍しがって手にとるだろう。
「ところで盗賊ギルドって言ったら思い浮かぶ人って誰ですか? 商人ギルドや傭兵ギルドに対しても有名な人がいいんですけど」
「え? そうですね。ミリィは首領であることを隠しているわけですし」
「ひょっとしてノエラさんじゃないですかね?」
「……やっぱり私ですかね?」
ノエラさんもちょっと細目だけど中々の美人だし適任だと思う。
「ちょっといいですかね?」
「な、なんですか?」
アイポンをカメラモードにしてノエラさんに向ける。
――カシャッカシャッ
「うん。いいですね。とても」
「な、なにがですか?」
「見てください」
ノエラさんの画像を見せた。
「ちょっちょっとなんですか? これ!」
「アイポンはさっき見せたように動画も撮れるんですが、静止させた画像も撮れます」
「そ、そうなんですか。どうして私の画像を!?」
「実は日本だとチラシってかなり安くつくれるんです」
「それと私の画像がどう関係するんですか?」
最近、知ったのだが立石さんは萌え絵もかなり上手い。
僕と店長の絵をラインで送ってきてくれたことがある。
自分の絵のことはよくわからないけど、店長の絵は特徴をよく押さえていた。
「チラシにノエラさんの絵を載せたら盗賊ギルドがやってるってわかっていいんじゃないかと」
「えー! 私のですか?」
「そうそう。紙の印刷物が貴重な異世界の人ならノエラさんの萌え絵が描いてあるだけで皆欲しがるんじゃないかな~」
「なんですか。その萌え絵って?」
「こういうのっす」
アイポンで適当に萌え絵を検索してノエラさんに見せる。
ノエラさんの細い目が見開く。
「な、なんですか? 私がこういう絵になるんですか?」
「えぇ。宣伝チラシの端にちょっと描くだけだけど。ダメですかね?」
「ちょっとさっき撮った画像を見せてください!」
「は、はい」
ノエラさんはしばらく自分の画像と萌え絵を見比べて言った。
「撮り直しましょう!」
「え? なんで?」
「ポーズがダメだと思います」
「いやまあ、ポーズは絵を描いてくれる人が勝手にやってくれるから」
「ダメです!」
そうこうしているとリア達が考えた屋台の案を持ってきた。
「じゃあ、ノエラさんには画像の撮り方教えますから盗賊ギルドの人に撮影してもらってください」
「わかりました」
納得できる画像が撮れるまではノエラさんは戦力にならなそうだぞ……。
その間に僕はリアの屋台の案から見ることにした。
「私はりんご飴です」
「うん。いいんじゃない」
りんごも砂糖も異世界にある。
砂糖は高級品らしいからしばらくは日本から仕入れてもいいしね。
ディートはなにを作るかわかってる。
「クレープだろ」
「よくわかったわね」
「バナナとチョコがなさそうだ」
「う……生クリームだけでもいいわ」
生クリームか。ヘラクレイオンから孤児院の方面は乳牛の牧畜が盛んだからそれも可能かもしれない。
それに意地悪しちゃったけど異世界にも合う果物ぐらいあるだろう。
「やってみようか」
「やった!」
他には、たこ焼き、焼きそば、お好み焼き、じゃがバター、フランクフルト、唐揚げなども候補に入っていた。
「この辺も材料がありそうだからできそうだね」
非食べ物系の他はくじ引き、綱引きか。
「あれ? 金魚すくいは入ってないの?」
たらいに入れてある金魚が跳ねた。ミリィが金魚すくいで取ってきたものだ。
ミリィが口を尖らせる。
「そうだよ~トール聞いてよ~皆が反対するんだよ」
リアとディートの話を聞くと異世界に金魚はいないらしい。確か金魚は観賞用に交配させて作ったらしいから当然かも知れない。
ディートが言った。
「ペットなんて一部の貴族しか飼わないしね」
そりゃそうか。庶民までもがペットを飼えるなんて地球だって一部の地域だけだ。
ちなみに立川市は十分に庶民がペットを飼える地域だと思うが、僕は個人的にちょっと飼えそうにない。
「絶対絶対絶対絶対絶対、金魚すくいはお客さん来るよ!」
「う、うーん」
「でも、肝心の金魚がいないんじゃ……」
「七色魚がいるよ」
「七色魚? なにそれ?」
「なんでも食べるし、捕まえても生命力が強いからなかなか死なないって聞いたよ。七色魚で金魚すくいをすればいいよ」
なるほど。ペットには丁度いいかもしれない。
「七色魚ってどこにいるの?」
「さあ?」
ミリィは知らないらしい。
やっぱり金魚すくいは無理かなあと思っているとディートが知っていた。
「七色魚ならダンジョンの地下七層にいるわよ」
「え? そうなの?」
話を聞いてみるとヨーミのダンジョンの地下七層は湖と島の階層と呼ばれているらしい。
七層はプールのようになっていて島が点在しているらしい。
「島の中にはちょっとした森がある島もあって、その中心の泉に七色魚はいるの」
「へ~」
「パンくずとかを泉にいれると七色魚が食べに来て可愛いの」
なるほど。そこまで行ければ、捕まえるのも簡単そうだ。行ければ。
「でもダンジョンの危険って地下に行くごとに加速度的に上がっていくんだろ?」
「基本的にそうね」
リアもディートもなんの理由もなく反対してるわけではないのだろう。
ミリィもダンジョンの危険はわかっているのかシュンとしている。
「……ディート、俺達四人で行っても危険かな」
「えええ? 行くの?」
ディートの不満声に対してミリィの顔がぱっと明るくなる。
「ああ。客が来ない店があっても色んな店があったほうがいいと思うんだよ。で、危険なの?」
「まあ、この四人で慎重にいけば危険は少ないかな」
「やっぱりさ。皆が好きな店があったほうがいいと思うんだよね」
ディートは呆れたように言った。
「はいはい。そうかもしれないわね。クレープの店も作ってもらえるんだし。でも大丈夫なの?」
「なにが?」
「ミリィを多少なりとも危険な冒険につれっててよ。盗賊ギルドのお姫様なんでしょ? そういえばお目付け役さんは?」
ディートがそう言った時にノエラさんが戻ってきた。
「で、できました! これでどうでしょう!?」
なんのことかわからないディートとミリィが顔を見合わせる。
アイポンの画像フォルダにはノエラさんの奇跡の一枚が写っていた。
「よく撮れていますね……」
「でしょう?」
いかにもやりて秘書といった風のノエラさんは満面の笑みだった。




