三回だけじゃ止まらない件
僕は和室の畳の上に正座をしていた。
対面にリアが正座して座り、隣にはミリィが座っていた。
「どうしてこういう配置なんですか!」
リアは頬を膨らましている。
「どうしてって。怒られている僕らがリアの隣に座るのは変かなって。ねぇ?」
僕はミリィに同意を求める。
「にゃっ!? う、うん」
「も~~~! 私もそっち側に座りたいのに!」
リアがさらに怒る。
「そもそも『キスの限界解除』ってなんなんですか?」
これはもう正直に話すしかないか。
「実は僕、自分でも知らなかったんだけど『ちゅーすると女性のレベル限界を二倍まで1日3回まで1上げる』とかいう長ったらしい名前のスキルがあるらしいんだよね」
「『潜在ユニークスキル』だよ。俺の『人物鑑定スキル』のレベルが高いからわかったんだけど本人のステータスチェックではわからなかったりするの」
僕が知らないことまでミリィが追加説明してくれた。
「にゃははは。ひょっとしたら俺の『人物鑑定スキルレベル』でも見つけられないレアスキルもトオルは持ってるかもね」
「えっ。そうなの?」
他にも凄い潜在ユニークスキルがあるかもしれないか。
「潜在ユニークスキル持ってる人は複数持ってる人もいるよ。一個持ってる人は持ってない人よりも他のを持ってることが多いよ」
「もしかして僕って結構凄い?」
「凄いよ~! チューの限界解除も聞いたことないレアスキルだし」
「あははは。職業は無職だけどね」
「にゃははは。そりゃそうだね。なら盗賊やろうよ。ステータスは無職のままだけど」
「それじゃ意味ないじゃんか。ははは」
「そっか~にゃははは」
――ドンッ!
ミリィと盛り上がってるとリアが畳を拳で叩く。
僕とリリィが縮こまる。
「それでトール様はいろ~んな女性とチューしまくってるんですか?」
「い、いや、しまくってはいないよ。でもマックスになっちゃったらかわいそうかなあって。せっかく稼いだ経験値が無駄になっちゃうし」
ミリィも助け舟を出してくれた。
「そうだよ。私も限界になるまではお預けされてるし。さっきはその場のノリで三回以上ちゅーしちゃったけど」
ミリィがそんなことを言いながら驚いた顔をしてリアの方を見て言葉を止める。
僕もリアを見る。ミリィが驚いた理由がわかった。
リアは目尻からポロポロと大粒の涙を流していた。
「リ、リア、ごめん」
「ご、ごめんにゃ」
よくわからないが、僕とミリィはとりあえず謝る。
「そうじゃないんです~わ~ん」
「「へっ?」」
「私、レベル限界が高いからトール様とちゅーできないじゃないですか~!」
そっち!? でも確かにリアの今のレベルは32で限界は56だ。
レベルは加速度的に上がりにくくなるというから体感的にまともにやってたら一生そこまでいかないかもしれない。
リアルで無理なレベル上げなんてしたらすぐに死んじゃうだろうし。
「それじゃあ俺にちゅーした時はリアさんにもちゅーしてあげたら?」
「「え?」」
ミリィが急に意外な提案をする。
「ミリィはそれでいいの?」
僕はミリィに聞いてみた。女の子はそういうのが嫌なんじゃないだろうか?
「猫型獣人のパパは愛人が何人もいたらしいよ。ママもその一人だったらしいし」
「へ~伝説の大盗賊とかいうドロシアさんもか」
大盗賊の首領の女性を愛人にするミリィのお父さんはどんな人なんだろうか? 人じゃなくて獣人か?
ん? ちょっと待て。ドロシアさんのほうはドロシアさんで愛人が何にもいたとかなんとか……。
まあ、今はそれはどうでもいいか。
「だから別にトオルが私にもちゅーしてくれるなら他の子としてたっていいよ」
獣人はなんてありがたい文化なんだ。いやミリィの両親がそうだったのか。どっちでもいいか。
リアが僕のほうを向く。
「で、でもトール様がお嫌ですよね?」
「いや全然お嫌じゃないよ。むしろさせていただけるものならしたいんですけど……」
「だよね~リアさんかわいいし! じゃあさっきお風呂で私とした数ぐらいちゅーしてあげなよ!」
ど、どうやら全員の合意が形成されたようだ。なら……。
「キャーちょっと待って下さい!」
「え? ダメなの?」
リアに拒否された。合意が形成されたと思ったのは間違いだったんだろうか。
「そうじゃないけど! ミリィさんが近くでマジマジと見てるじゃないですかっ! できません!」
ミリィの瞳孔が開いていた。まるで猫が興味深いものを見つけたときのようだ。
「俺のことは気にせずにどうぞ。なんなら最後までいいよ」
「み、見られているところでできませんよ! 最後までってなんですか! そもそもミリィさんがここに来たのはなにか用事があったんじゃないんですか?」
そういえば、再開発がなんとかとかミリィは言っていた。
「にゃっ! 忘れてた。日本のことに詳しいトオルに色々と相談がしたかったんだ」
「ミリィさんには相談が終わってから帰ってもらって、ゆっくりします! 早く相談しちゃってください」
「ちぇ~」
ミリィは真面目な顔で盗賊ギルドの支配地区の再開発の問題点を話し始めた。
◆◆◆
「んっ……」
真っ暗なベッドなかで僕はリアの吐息を感じる。
「三回って少ないですね……逆にちょっと切ない気持ちになっちゃいますよ」
「何回でもできるよ……」
「私ももっとしたいですけど、ミリィさんに帰ってもらったのに悪いですよ」
「そっか。ははは」
「ふふふ」
リアを抱きしめながら聞いてみる。
「リアは盗賊ギルドが嫌いじゃなかったの?」
「トール様を通して盗賊ギルドを見たら、子供達の面倒も見ていたし、そんなに悪い人達じゃないなって……」
リアの元主家が襲われて金品を強奪されたことがあった。
誰がやったかはわからないが、ミリィの盗賊ギルドは義賊で悪徳貴族や悪徳商人しか襲わない。
「いやリアの場合はもう少し人を疑ってもいいかもね」
「ならトール様を疑っちゃおうかな。どんどん仲のいい女の子を増やすし」
「え? そんなあ」
藪蛇だった。
「とにかくさ。僕はミリィを助けてあげたいと思うんだ」
「別に止めませんよ」
「ホント?」
「トオル様は本当に優しいんだから。心配だから私も手伝いますね」
よかった。自分としてもリアの協力が欲しかったんだ。
「結局、盗賊ギルド地区の問題点って、商人ギルド地区よりも集客で失敗していることだと思うんだよね」
「そうですよね。ビジネスがうまく行けば、危険な犯罪を犯さなくても皆さんの生活がなりたつし、勢力的にも押されなくて済むようになるでしょうし」
「それでさ。日本の知識が色々とビジネスに役立つと思うんだよね。その過程でリアが支援している孤児院の経営も立て直したいんだ」
「え?」
暗闇の中で腕の中のリアの顔が僕を見上げるのがわかる。
「ひょっとして私のためにですか?」
「ニックやメアリーも助けたいんだ」
「トール様……ありがとうございます……」
リアのほうも僕を強く抱きしめる。
「チューの前借り……もう一回だけしてもいいですか?」
「うん。いいよ」
「んっ……もう一回……いいですかぁ……んんっ」
やっぱり僕達のちゅーは一回では済まなかった。
いや、それすらも僕らを止めることはできなかった。




