宝くじには前後賞までついていた件
モノレールは立川駅に到着した。
僕は立ってマフラーをリアに巻き直す。リアは無言で僕の腕を掴んで立った。
ホームの空気は冷たいけれどリアの体温が暖かった。
「帰ろうか」
「はい」
気がつけば、後小一時間ほどで日付が変わる時間だった。
駅の周辺は人がまだ多くてたまにリアを見る人がいたが、僕のマンションがある住宅街に入ると誰もいなかった。
人気が少なくなるとなんだか寒くなったようにも感じる。
「リア寒くない?」
「トール様が暖かいから寒くないです」
リアは少し笑ってさらに肩を寄せてきた。
「トール様は大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫だけど寒くなったね」
「はい。なら早く帰って……その……」
リアがなにか言い淀む。
恥ずかしそうに下を向いてしまう。
「早く帰って?」
「お風呂に……」
リアは昨日ディートと二人でいた時と同じことをしてくれという。つまりお風呂に……。
「い、一緒に入るの?」
僕の腕をより強く握られる。既に表情を見せないほど下を向いてるリアがコクリと頷いた。
その後はリアもマンションまでなにも話さなかった。
「ただいまあ」
念のため誰もいないだろう部屋に挨拶する。勝手に入られることが多いしね。今日は誰もいなかった。
アイポンには立石さんからもおやすみなさいのメッセージが入っている。ディートとシズクは自らの意志でいない。
だが、僕は重要なことを伝えていなかった。一緒にお風呂に入ったといってもディートはスクール水着を着ていたことだ。
「トール様」
スク水を着ていたことを伝えるべきか、伝えないべきか。
「トール様、トール様」
「え?」
どうやらリアが呼んでいたらしい。
「どうしたんですか? 真剣な顔して」
「あ、いや。その……モノレールは楽しんでくれたかなと思って」
「はい! とっても」
適当に誤魔化してしまった。
やはり水着だったことは言わないことにしよう! 本当に一緒に入るかどうかわからないし!
「日本の夜景は本当に綺麗で。だから私もなかなか言えなかった望みを言えたんだと思います」
「それってディートと同じことをして欲しい……つまりお風呂に一緒に入りたいってこと?」
「……はい、トール様はお嫌ですか?」
どうも本当だったらしい。僕は無意識に首を左右にぶんぶんと振っていた。
「よかった。もし嫌だって言われても頑張って何度もお願いするつもりでしたけど……」
「い、嫌じゃないよ」
「でも私ディートさんみたいに胸ないし……そ、そんなに色っぽくないし……」
いや胸の大きさは十分だし、奥ゆかしい女性の需要も高い。
「リアだって凄く魅力的だと思うよ……」
「ホントですか?」
今度は意識的に首を上下にぶんぶんと振った。
「じゃ、じゃあ先に入っててください。私、後から入りますから」
「う、うん」
やっぱり女性はお風呂に一緒に入るといってもなんらかの準備が必要らしい。ディートの時と同じように先に湯船に入ってリアを待つ形になっている。
それにしてもスクール水着だったということを完全に言い逃してしまった。故意じゃないぞ。
それにリアだってスクール水着を着てくるかもしれないじゃないか。
「トール様……入りますね……」
「う、うん。どうぞ」
磨りガラスに映る色は肌色だった。一億円きたあああああ!
十万円、もとい聖紺色も大好きだけど今はいい。肌色こそが今僕の望む色だった。
磨りガラスが開いてリアが入ってくる。
「は、恥ずかしいので……あまり見ないでください……」
「ご、ごめん」
僕はリアに背を向ける。後ろではリアがかけ湯をしている音が聞こえる。
ゆっくりと湯船に入ってきたようだ。僕は逃げるように湯船の端っこに寄ってしまう。
「トール様。そんなに端っこにいかないで……それにこっち向いてください」
む、無理だ。童貞の僕には恥ずかしすぎる。今日は乳白色の入浴剤も使ってないし。
「ディートさんと入った時もそんな端っこだったんですか?」
「いや、そんなことないけど」
「なら……」
リアに肩を掴まれて回転させられてしまった。うわあああ。
僕は恥ずかしさのあまり手で顔を覆って固まる。リアも恥ずかしいのかリアクションがなく浴室はシンッとしている。
指と指の間をあけてリアを見る。
なんだか純粋に愛おしく思えてきた。エロい気持ちではなく。
「リア」
僕は努めて優しい声で呼びかける。
「は、はい」
「そんな風に思わないでよ。僕はリアのことが」
「え?」
リアの手をとって顔が出てきた瞬間に彼女の唇を奪った。
リアがなにかを言おうとしたが、僕はそれを自分の口で言わせなかった。
キスは男の方から求められたという形にしておくべきなのだ! 童貞の僕にはわからないけど多分!
「ト、トオル様!」
「え?」
リアは強引に僕から口を離した。悲しい。悲しそうな顔をしていたのかリアが言う。
「ち、違うんです」
「へ? 違うってなにが?」
本当になにか言いたいことがあるのか?
「な、なにか声が聞こえませんか?」
「こ、声?」
言われてみれば、玄関のほうからなにか声が聞こえる?
「トオル~いないの~? 勝手に入るよ!」
この声は黒猫型獣人の……。
「再開発のこととか教えてよ~! レベルの限界解除して~!」
「ミ、ミリィ?」
「ん? トオル? なんだいるんじゃん」
ミリィは耳が良いのか風呂場での呟きも聞こえたようだ。
「ここかな?」
げっと思ったと同時には磨りガラスのドアが開いていた。
「にゃっ!? なーんだ。リアとお風呂入ってたんだ。ミリィも一緒に入る!」
「お、おい!」
世の中には一緒にお風呂に入るのにも何の準備もいらない女性もいるようだ。
すぐに脱ぎはじめ見せつけられたプリンとしたお尻には黒猫の尻尾が生えていた。
どうやら宝くじには前後賞もついていたようだ。
「ま、待て! 脱ぐな!」
ミリィは浴室のなかに入ってきただけに留まらず、勢い良くかけ湯を頭からかぶってから、僕とリアが入っている浴槽に飛び込んできた。
「せ、狭いって!」
「あ~その格好、トオルとリアはキスの限界解除をしてたんでしょ!」
「お、おい! それは言っちゃダメ……」
ミリィが僕のスキルの秘密をリアの前で言ってしまう。
「な、なんですかそのキスの限界解除って?」
「そ、それは……うわっ。押すな……わぶっ!」
そこまで湯船が広いわけではない。
僕の顔は押されたことでリアの豊かな胸に埋まってしまう。もう滅茶苦茶だ。
ミリィの手が僕の顔をリアの胸から離して引き寄せる。そして彼女の顔のほうに向けた。
「ま、まさか……ミリィ……ちょっと待て……」
「私にもして! ん~ちゅっ!」
「ミリィさんっ! ダメッ!」
リアがミリィの顔に密接していた僕の顔を再び奪うように自分の胸に戻す。く、首が……。
こうして僕の顔はミリィの顔とリアの胸をしばらく交互に往復するのだった。
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