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巻き込まれクエストな件

 マンションの玄関から出ると石造りのダンジョンの部屋だが、荷物の倉庫の様になっていた。

 つまりここは地下一層で盗賊ギルドが支配している鉄の扉の部屋のなかだ。

 マンションのドアがある場所は特に荷物で囲まれていた。

 石壁から出たことが監視の人に見られないようにだろう。


「どうも~」

「うひっ!」


 監視の人は居眠りをしていたようだ。

 誤解されては敵わないので先に合言葉を言う。


「肥えたブタから奪え」

「あ~アンタ……ノエラ様が言っていたトオルだな。どっから現れたんだ? まあそれは聞くなって言われてるけどよ」


 どうやらノエラさんが手を回してくれているらしい。


「そっちの女は? リアでもディートでもないな」


 冒険者ギルドはダンジョンを公的に管理しているため、地下一層の住人であっても関わりがある場合が多い。

 二人は冒険者ギルドの有名人なので監視の人も容姿を知っているのだろう。


「僕の友人です」

「ふーん。そうなのか。まあいいやノエラさんに挨拶してきな」


 元々、ミリィかノエラさんに会うつもりだった。

 鉄の扉を開けて行こうとすると監視員さんがフードを二つくれた。


「ここは盗賊ギルドの支配地区だからこれを付けていけ」

「あ、ありがとうございます」


 地下一層を出ると街灯代わりの魔法石が辺りを照らし、ガラの悪い人間たちと相まって繁華街の様相を呈していた。

 スキル人物鑑定で彼らを見ると大概はレベル10以下で揉め事になっても勝てるはずだ。

 それに自分は今盗賊ギルドの象徴であるフードもしていた。

 だから大丈夫なはずだ。しかし立石さんは怖がっているかもしれない。


「立石さんは大丈夫? 怖くない?」

「……」


 なんの返答もない。いつものちょっと冷たく見える顔をしている。

 ひょっとしてやっぱり怖いのだろうか。

 やはりちょっと困った顔をしているようにも見える。

 ところが立石さんは急になにかを思いついたかのようにパッと目を見開いた。

 スマホを懐から取り出す。いつもの電光の指さばきだ。そして僕の顔の前にスマホの画面を持ってきた。


『このフードくちゃくないですか? 。゜(゜´Д`゜)゜。』


 確かに剣道具の防具のような臭いがした。

 どうやら電波が無いからアイポンにメッセージ送信ができなくて意思疎通ができなかっただけのようだ。


「怖くないの?」

『全然! とおるさんもいるし、私、寺生まれですから(´∀`*)ウフフ』


 寺生まれと怖くないことが関係あるんだろうか? 

 盗賊ギルドの本部に着く。

 ロビーで盗賊ギルドを実質切り盛りしているノエラさんが対応してくれた。ミリィは正体を隠していても首領としてやはり忙しいらしい。

 用心棒ギルドに押されているという状況はやはり深刻なのかもしれない。

 打開策として期待しているのかノエラさんからも盗賊ギルドの支配地区の再開発について聞かれた。


「なるほど日本ではそんな政策がなされる時があるんですね。今度、地下一層についての詳しい地図を提供しますのでご相談に乗って頂けますか?」

「ええ。出来る限りは」


 僕とノエラさんが話していると目の前がスマホの画面になった。


とおるさん、カッコイイわあ。できる男って感じです(*´ー`*)ウットリ』


 段々と顔文字に疲れてきたが、この問題は今日中には解決されるだろう。

 盗賊ギルドだけが知る本部から近い地上への出口を使ってダンジョンを出た。

 そこは緑の小山だ。フードも外すことができて清々しい。


『わあ~すっごい自然∑(゜∀゜)』

「ここからヨーミの街。正確にはヘラクレイオンの街に歩いて行くんだ」


 ヘラクレイオンの街に着く。


『見て見て。青髪の人がいますよ? あ、あっちには二足歩行のトカゲもいるΣヽ(`д´;)ノ』


 立石さんが感動する度に僕の視界はスマホの画面に占領された。

 しかし、それもあと少しで終わる。


『きゃほーい! とおるさんと異世界観光、楽しいな楽しいな☆ウキ(p。・∀・q)(p・∀・。q)ウキ☆』


 立石さんの電光の指さばきが止まる。

 バッテリー切れだ。僕は電池マークがほとんど無いこと気がついていた。

 立石さんは地面に膝と手をつく。かわいそうだけど僕がモバイルバッテリーを持ってきていることは内緒にしよう。

 それに心配はいらない。僕達の目の前には大きな神殿が建っていた。 

 

◆◆◆


「なんなんですか……〝共通言語〟って……」

「神殿に金貨二枚を払うと言語に付与してくれるテレパシーのスキルだよ」

「顔文字が使えないじゃないですか……」

「そんなに顔文字が使いたいのか。スマホを使わなくても流暢に意思疎通できるようになってよかったじゃない」


 立石さんは今も「はい、いいえ」と「一言、二言の単語」で話しているのだけど、テレパシーが付与されて長文になっている。


「私、顔文字使わないと怖いとか冷たいって誤解されるんですよ」

「もう僕は立石さんが女の子らしい人だっていうのはわかってるから」

「ううう。透さん……」


 立石さんは泣きそうになっているんだと思うが、見た目は怒っているように見える。

 荷物が多いので宿に行くことにした。

 受付で部屋をどうするか聞かれる。二つ取るのか一緒の部屋かということだろう。

 冒険者ギルドで小金を稼げるような依頼に挑戦しようとは思っているが、それまではディートに貰ったお金しかない。大切にするべきだろう。


「た、立石さん。部屋は一つというか一緒の部屋でいいよね?」


 凄く冷たい目で見つめられる。

 やっぱり顔文字が欲しいかもしれない。


「透さん。ダブルルームでもいいですよ」

「あ、すいませーん! ツインルームをお願いします」


 僕はダブルルーム(大きなベッド一つの部屋)ではなくツインルーム(ベッドが二つの部屋)をホテルマンにお願いした。

 やはり冷たい目で見られた。どうしたいんだかよくわからん。

 荷物だけ置いて冒険者ギルドに向かった。すぐに中が酒場になっていることがわかる石造りの建物に着いた。


「透さん。異世界だからって高校生の私を酔わせてさっきの宿でどうこうするつもりじゃないでしょうね?」

「い、いやここが冒険者ギルドなんだよ」


 立石さんが見下すような冷たーい目で見る。

 スマホのバッテリーが残っていたらきっと冗談めかした顔文字が入ると思うんだけど。印象が偉い違いだ。

 僕はビクビクしながら冒険者ギルドに入った。


「とりあえず飲食席に座って飲み物でも貰おうか。歩いて喉が渇いたし」


 僕は席についてウェイターに飲み物を注文した。

 席に二つのコップとナッツのようなものが運ばれてくる。


「やっぱり私は酔わせて……」

「いやいや飲んでみなよ」


 頼んだのはただの水だ。異世界では水もお金がかかる。


「ただの水じゃないですか」


 結局、冷たい目で睨まれる。アルコールとノンアルコールどっちがいいのよ。

 やはり顔文字が必要なのか。

 そうこうしているとすぐに冒険者が僕らに話しかけてきた。

 レベル17はハッキリ言って相当強い。さらに言えば、立石さんの【職 業】僧侶の冒険者は皆無と言ってもいいらしい。


「悪いけど二人を鑑定させてもらったんだ。レベル17に僧侶だって? 美味しい魔物を狩るんだけど是非ウチのパーティーに。うっ……」


 今日は〝話しかけてきたら殺す感〟を出すぼっち魔法使いのディートもいない。

 ところが立石さんはディートに負けず劣らずの目で騎士風の冒険者を見た。


「ご、ごめん……」


 騎士風の冒険者は去っていった。


「透さん。割のいいお仕事探してたんじゃないですか?」


 そうだけどね。それからもひっきりなしに僕達を誘う冒険者が来たが立石さんを見て帰っていく。

 この調子なら少しだけ一人にしても大丈夫だろう。

 立石さんを席に座らせて掲示板を見に行った。

 依頼表のなかにやはりまだ江波さんのものがあった。賞金を上げても解決しないらしい。

 一体どうしているのやら……。

 そんなことを考えていると受付嬢と冒険者が揉めていること気がついた。

 よく見ると冒険者は前に僕を唯一パーティーに誘ってくれたマロンちゃんだった。

 レベル5の狩人だ。

 実は彼女を探していたのだ。彼女の誘った仕事はダンジョンの地下二層で薬草集めだった。

 初心者の僕らにちょうどよさそうだ。


「そうは言ってもデスグリズリー相手にその賞金じゃ……かと言ってフランシス国軍やどこかの貴族の私軍が動くのは時間かかるしね」

「村を回ってもこれだけしか集められなくて」

「ひょっとしたら酒場に協力してくれる冒険者がいるかも。可能性は低いけど」


 なにやら不穏な会話をしている。

 飲食席の冒険者達も目を伏せている。

 僕もそっと逃げたほうが良さそうかなと思った時だった。


「あっ貴方は昔ディートさんと一緒にいた!」


 や、やばい逃げ出す前に目があってしまった。


「ディートは強いけど僕は初心者で」

「す、凄い。前はレベル10だったのにもう17なんですか? どれだけ厳しい戦いを……」


 マンションにこもってマウスをカチカチしてただけなんですけど。


「お願いです! 私の村を助けてください」

「えええええ?」 


 驚いてはみたものの、そういう展開なのではないかと思っていた。

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