日本人だけで異世界に行く件
ダンジョンの鉄の扉の前にペットフードを撒く。
「レベルって本当に加速度的に上がらなくなっていくよなあ」
毎日のようにやってるのに16から1しか上がっていない。
段々、クリックレベル上げをするのが面倒くさくなってきてあまりしなくなっていた。
ディートに言わせればそれでもこのレベルの上がり方は異常らしいんだけどね。
ではどうして罠用のペットフードを撒いているのか。
ペットフードを撒き終えてマンションの玄関に戻る。
すぐにラインのメッセージが飛んできた。
『透さんおかえりなさい~(*´∀`*)』
立石さんが住み着くのはなんとか諦めさせたが、暇があれば遊びに来るようになってしまった。
そして……なぜか僕の代わりにクリックレベル上げをしている。
『撒き餌の補充ありがとうございます('-'*)アリガト♪』
「う、うん。まあ今日も家事とかしてもらっちゃったから」
立石さんは家事全般が得意で、洗濯以外は微妙なリアと違って料理も美味しい。
なんだか完全に通い婚みたいになっていた。
彼女がクリックゲーをしている様子を後ろから眺めている。
また大ムカデをやったみたいだ。
『またレベルが上がったような気がします(∀`*ゞ)エヘヘ』
彼女いわく、それも「孤児院の経営再建と組合の縄張り争い解決して……僕をダンジョンマスターさせるためヽ(゜∀゜ )ノダー」らしい。
『σ(*´∀`私)のステータスを見にダンジョンに行きましょ?』
「え? うん。ちょっちょっと」
立石さんは僕の手を掴んでダンジョンに引っ張った。
この間も見た目はクールな黒髪ロングポニーというギャップである。
ダンジョンに入って立石さんに人物鑑定のスキルを使ってみた。
スキルレベルが4になったために【防御力】まで確認できるようになった。
◆◆◆
【名 前】立石あやめ
【種 族】人間
【年 齢】17
【職 業】僧侶
【レベル】6/11
【体 力】28/28
【魔 力】59/59
【攻撃力】9
【防御力】232
◆◆◆
既に立石さんのステータスは見たことがある。レベル6か順調に成長している。
ちなみに彼女の【職 業】は寺生まれだからなのか僧侶だった。
霊感ゼロだからひょっとしたら僕と同じように無職かもなあと思ったが、異世界でもレア職と言われる僧侶だった。
既に神聖魔法も覚えている。つまり回復魔法ができるのだ。
僕の背中の傷のまだ少し残っていた突っ張りも、回復魔法ができるようになってからあっというまに治してしまった。
ただ立石さんは成長限界が低かった。平均レベルは15ぐらいと言われているのに11しかない。
また鉄の扉の前に撒き餌を撒いてから部屋に戻った。
リビングの椅子に座って考える。
「でも僕には『ちゅーすると女性のレベル限界を二倍まで1日3回まで1上げる』という長ったらしい名前の潜在ユニークスキルがある」
『(;・∀・) ナン! (; ∀・)・ デス!! (; ∀ )・・ トー!!!』
ちなみにこの200を超える【防御力】はストッキングが原因のようだ。
僧侶とタイツは相性がいいのか、それとも誰が穿いてもこうなるのかはまだ調査中だ。
なぜなら僕が穿くよりもリアやディートが穿いたほうが絵的にいいだろう。
また会ったら穿かせてみよう。
「もし僕の潜在ユニークスキルの効果を炸裂させる時は立石さんには是非ストッキングを穿いていて欲しい。まあストッキングを穿くことに実質的な効果はないけどね。あくまで僕の趣味だ」
『グハッΣ(´Д`(○=(´∀\*)モォエッチー!! でもストッキングの下は……穿いてないほうがいいんですよね? 透さんの趣味的に』
スキルのことを教えるべきか教えないべきか。
ん? 僕が持っているスマホがピカピカと光っていた。
「げっなんで僕の思考と立石さんはメッセージは会話してるんだよ」
『だって声に出して呟いてましたよヾ(・∀・;)オイオイ』
「マ、マジ?」
『はい(*´ω`*)』
あまりに真剣に考え事をしていたのでつい呟いてしまったらしい。
な、なんてことだ。もっとも機密にすべき情報が初歩的な人為ミスであっさりと知られてしまったぞ。
立石さんは目をつぶって顎を少し突き出した。
まぶたを閉じると色白の肌でまつげの長さに気がつく。
スマホがピロンとメッセージを伝える。
『.+゜*(●´ε`人)СНЦ。:゜+』
見た目は大和撫子なのに……中身は女子高生のそのものの立石さんが目をつぶっているスキにベッドに逃げた。
立石さんは怒った顔でベッドサイドに座っていた。
本当は怒っているかはわからないが、スマホでメッセージを送ってくれないと立石さんは怖い。
美人の顔は無表情でクールだと怖いのだ。
早くメッセージを送って欲しいのだが、中々送ってくれない。
布団の隙間から立石さんを覗くと冷たい目で僕を見下ろしていた。
新しい趣味に目覚めてしまいそうだ……じゃなくて早くメッセージをくれよ。
『ちゅーしてくれないんですか?』
か、顔文字がない……布団の隙間から立石さんを見る。
やはり冷たい目で僕を見下ろしていた。
「ダメ、ダメ。せめて立石さんが大人になってからっ」
『じゃあ、今度3日間バイトお休みする時に異世界行くんでしょ? 私も連れて行ってください』
「え、ええ~?」
確かに次の連休で僕は異世界に行こうと思っていた。
大ねずみは五層でも強力なほうのモンスターだが、この前の騒動で油断していなければ雑魚だとわかった。
さらにレベル16という数値も一般の冒険者を十分に超えている。
地下一層から地上に行ったり、地下二層のスライムやおばけキノコを狩るぐらいなら安全なのではないかと思っている。
それなら立石さんを連れて行っても大丈夫だろうか。う~ん……。
回復できる人がいたほうがいいのかなあ。
「わかった、わかった。連れて行くよ。連れて行けばいいんでしょ」
『ありがとーヽ(*´∀`)ノ キャッホーイ!!』
立石さんを見ると相変わらず、冷たく蔑んだ目で僕を見下ろしていたが口角が微妙に上がっていた。
◆◆◆
「味噌一番も持ったし、カロリーフレンドも持ったし、予備のヘッドライトも持ったし、着替えも持ったし」
『透さんの趣味のスットキングも穿いてきました(*´Д`*)』
「だから趣味じゃなくて【防御力】が高いんだって!」
確かに大好きではあるけれど。
「それじゃあ、まずは地上の冒険者ギルドに向かいますか。絶対無理はしないこと。危ないことがあったらすぐに逃げるからね」
『ヽ(*´∀`)ノ キャッホーイ!!』
大丈夫なのかなと立石さんを見るといつもの冷たい視線だった。
はしゃいでるのか、冷静なのか。
「まあいいや。ともかく行くよ」
僕はそう言って鍵を握りながら玄関のドアを開けた。




