表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/147

日本の仲間ができた件

 とりあえず立石さんに優しく声をかける。


「もう大丈夫だから」

「で、でも」


 立石さんがまだ泣いていた。やっぱり怖かったのだろう。


「本当に大丈夫だから」

「血が物凄く出てますよ」

「え? なんだこりゃあああああ」


 かすり傷と思ったが、背中を触ると手が真赤になった。

 振り向くと背中の傷からどくどく血が出ていた。

 そういや今はかなり痛い。

 アドレナリンMAXで戦ったから痛みに気が付かなかった。

 どうやら立石さんはダンジョンの恐怖というよりも、僕の怪我と自分の行動の申し訳なさで泣いていたらしい。


「ううう」

「と、とりあえずベッドへ」


 僕は洋室のほうに歩く。背中が歩く度にズキズキと痛んだ。

 洋室に入った瞬間、床に擬態していたシズクがスライム姿で飛び跳ねた。


「ご、ご主人様!?」

「きゃっ!」


 立石さんがシズク見て驚く。


「スライムのシズクだよ……大丈夫、味方だから……」


 どうやらシズクは洋室のパソコン上から鉄の扉を閉めてくれたらしい。

 スリープモードだったから実際にダンジョンに行ってボタンを押すよりずっと早かっただろう。

 相変わらず賢いが、僕の様子を見て擬態を解いてしまった。

 僕は背中の傷を庇うために腹ばいにベッドに倒れ込む。

 

「立石様、マキロンで傷口を消毒して」

「う、うん」


 二人の会話が聞こえる。


「うっ」


 マキロンのしみの後にシズクが傷口にペタっと付着した感じがする。


「傷口を接着させて止血します」

「そ、そんなことできるの?」


 立石さんが驚いている。


「はい。大人達に聞きました」


 目の前にアイポンの画面と女性の手が現れる。

 ラインのメッセージが届いていた。


{大人達って? こんな治療して大丈夫なの?}


 僕は少しクスッと笑う。シズクがすることに心配することはなにもない。

 もちろん立石さんを誤解させてしまうとかそういう過ちをすることだってたまにはある。

 だけどすべては僕のためにしてくれることだ。


「大人っていうのはシズクの仲間……白スライム族の先輩のことだよ。白スライム族にはちょっとした事情があって人間のことに人間以上に詳しいんだ……だから大丈夫だよ」


 実際に痛みも小さくなってきた。


{色々話してくれますか(´・ω`・)?}


 もう立石さんを誤魔化すことは出来ないだろう。


◆◆◆


「というわけなんだ」


 とりあえずこの部屋がダンジョンと繋がってしまうことやシズクのこと、リアやディートやミリィのことを教える。

 それからいつも忘れてしまいそうになる江波さんを救出という目的も話した。


{リアさんもディートさんも異世界の人でホームステイじゃなかったんですね}

「う、うん」


 冷静に考えるとなんでルーマニア人のホームステイなんて言ったんだろう。


{ひょっとして私が店長の話をしてたのって鈴木さんじゃなくてシズクちゃんだったんですか? 。・゜・(ノД`)・゜・。}

「ごめん」

「ご主人様が悪いんじゃないんです。私が勝手にご主人様のお仕事に行って、立石様に声をかけてしまったから」


 見るからに凹んでいる様子だったらしい。声をかけたシズクを責めることは出来ない。それに……。


「いや僕が寝坊したり、ずっと徹夜したりするからだよ」


 シズクと話していると、僕が寝ているベッドの端に座っていた立石さんが立ち上がる。


「ど、どうしたの?」

「帰ります……」


 立石さんが歩きだす。


「ちょっちょっと! いてっ!」


 背中の突っ張りを我慢して立石さんを止める。


「またダンジョンに行っちゃうよ!」

「あっ」


 立石さんが電光のように指を動かす。

 アイポンにメッセージが来た。


{(´;ω;`)ご、ごめんなさい。送って頂いていいですか?}

「う、うん」


 僕は立石さんを見送る。

 彼女はペコリとお辞儀をして帰っていった。

 背中をビキビキと痛めながらベッドに戻る。

 まだ背中の傷を接合してくれているシズクが話しかけた。


「立石さんが来てくれたのは困ってもいたけど本当はちょっと嬉しかったんだよね。バイト先ではずっと冷たかったし」

「多分、嫌われちゃったけどこれでいいんだよな」

「嫌われちゃったんですかね?」

「え? だって好かれてたのはシズクなんだし、騙したことになったんだし」

「そうですかね?」

「そうだよ」


 とりあえず寝ようか。疲れたし。


「シズク。このまま寝ちゃっても大丈夫なの? 苦しくない?」

「はい。大丈夫ですよ。一緒に寝ましょ」

「うんうん」


 こりゃもう寝るしかないね。寝よ寝よ。

 ベッドは気持ちいいいなあ。


◆◆◆


――ピンポーン、ピンポーン


「Zzz……ん?」


――ピンポーン、ピンポーン


「えええ? ドアホン?」


 完全に外も真っ暗だ。アイポンで時刻を見ると午前3時だぞ。


「ご主人様、誰でしょう?」

「まさか」


――ピンポーン、ピンポーン


「は、はいはーい」


 鍵を持って、一応慎重にドアを開ける。

 予想はしていたがやっぱり立石さんだった。

 ニコッと笑って勝手に部屋に入ってくる。


「ちょっちょっと」

「?」

「なんで帰ったんじゃなかったの?」

{(´・ω`・)エッ? お泊り用の荷物を持ってきただけですよ}


 な、なんだって。そのために家に帰っただけなのか?


「怒って帰ったんじゃないの?」

{怒ってますよ! 鈴木さんじゃなくてシズクちゃんだったなんてヽ(`Д´#)ノ ムキー!!}

「な、なら……」

{でも風邪を治してくれたのも……そして命がけでモンスターから私を守ってくれたのも鈴木さんだしキャッ(/д\*))((*/Д\)キャッ}


 傷口のシズクがプルプルと震える。

 多分「ね? 嫌われてないでしょ」という意味だと思う。


「そのさ。ここにはリアやディートもミリィだって来てもおかしくないし」

{(屮゜Д゜)屮カモォォォン なら早く解決しましょう!}

「解決? なにを?」

{孤児院の経営再建と組合の縄張り争いを解決して……えっとダンジョンマスターって言うのに鈴木さんが成ればいいんでしょ? 彼女達も来なくなりますよ☆-ヽ(*´∀`)八(´∀`*)ノイエーイ}

「え、えええええ?」


 そ、そういうことなのか?

 立石さんはゲームしたりラノベを読んだりしないのか、よくわかってない気がする。

 もし僕がダンジョンマスターなんかになったらディートは余計に僕の部屋に入り浸るんじゃないだろうか。

 しかもちゃんと説明したのに立石さんも江波さんの救出を忘れていた。


「で、でもなんで立石さんが僕の部屋に来るのよ?」

{私も手伝います! フレーフレー\(*´∇`*)/ガンバ!!!}

「な、なんだって?」

{アルバイトも一緒に行きましょ! ダンジョンに行くときは私も行きますね}

「……」


 いてっいてててて。


「ご、ご主人様大丈夫ですか?」

{た、大変 アワワ ヽ(´Д`;≡;´Д`)丿 アワワ}

「ちょっちょっとベッドで寝る……」


 僕はベッドで段々と視界を暗くしながら思った。

 治ったら必ず帰ってもらうぞと。


{もしなかなか治らなかったら一緒に薬草取りに行きましょう。私も風邪治ったし}


 本当に帰ってくれるんだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ