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女子高生のお泊まり会な件

 き、来ちゃいましたって……。なんで?

 女子高生はツンとした冷たい顔で僕の部屋の前で立っていた。

 ラインでは顔文字使ってニコニコだったのに。

 なんだか冷たい顔どころか睨まれているようだ。


 それはともかく。

 僕はちょっとだけ部屋の方を振り向く。既にシズクはどこかに隠れたか部屋のなにかに擬態したようだ。

 風邪をひいてバイトを休んだ人をこんな寒いところに立ったままにしとくわけにもいかないだろう。


「は、入るんだよね……どうぞ」

「はい。お邪魔します」


 立石さんは冷淡な喋り方でとても顔文字を使っていた人物とは思えない。

 とりあえず、ウチには椅子がリビングダイニングのテーブル席しかない。

 そこに座らせた。


「飲み物は、えっと、午前ティーでいい?」

「はい」


 午前ティーを注いでも立石さんは口をつけない。


「寒くない?」

「はい」

「なにしに来たの?」

「はい」

「……」


 なにしに来たのって聞いて「はい」ってなんかおかしくね?

 ってか会話がまるで成り立たない。


――カッチコッチ、カッチコッチ


 リビングに設置した時計の針の音だけが響く。客人がいるというのに無音の世界だ。

 ってえええ? 気がついたらもう午後10時だぞ。


「立石さん、もう午後10時だよ」

「はい」

「はい、じゃなくてさ。お父さんとか家族とか心配しないの?」

「はい」


 この子、なんでもはいって答えるんじゃないか?


「いや、やっぱ心配してるよね?」

「いいえ」


 今度はいいえで答えてくれた。一応こちらの話は聞いてくれているらしい。

 まるで昔のドラ◯エの主人公みたいなボキャブラリーの無さだけど。


「なんで家族が心配しないのよ?」

「はい」

「……」


 やっぱり、はいかいいえでしか答えないらしい。

 顔を見てもツンとしている。昨日、ウチに来た時は短文だったけどちゃんと台詞を言っていたような気がするんだけどな。

 その時、僕の耳になにか入ってきた。


「ご主人様」


 いつかのシズクの肌色イヤホンだ。シズクは体の一部をイヤホンに変身させて僕にだけ音声を送る時があった。


「立石様はひょっとして緊張して話せないんじゃ?」


 そ、そうなのか?

 むしろ機嫌悪そうに「はい、はい、はい」って言ってるように思えるんだけど。

 しかし、確かに機嫌が悪くなるようなことはこちらはしていない。


「ラインで話してみたらどうでしょう?」


 な、なるほど。シズクの提案に従って失礼だとは思いながらも彼女の目の前でスマホをいじってラインを送ってみる。


{ひょっとして緊張してるの?}鈴木透


 立石さんはしばらくこっちをにらんでいる。

 やはり僕が目の前でスマホを使ったことを怒っているのだろうか。

 ところが彼女もふとなにかに気がついたように自分のスマホを取り出した。 


 立石あやめ{やっぱり鈴木さんと二人きっりだと少し恥ずかしいです(*´ω`*)}

「えええ? 昨日ここに来た時は結構話してたじゃん」

 立石あやめ{あの時は久野さんが一緒に居てくれたから(ノ´∀`*)}


 声に出して話しかけてもラインが来た。

 立石さんもはっとした顔をする。 


「あ、あ、あの、ご、ごめんなさい」

「い、いや別にいいよ。話しにくかったら立石さんはラインで話してくれてもいいし」

{(´▽`)アリガト! 鈴木さんって優しいですよね!}


 ま、まあ……これでやっとまともに話せるようになる。


「昨日はわざわざお払いに来てくれてありがとね」

{まだまだお父さんの「はー!」みたいにはいかなくて……ごめんなさい(TдT)}

「いやいや。気持ちだけでも嬉しいよ」


 立石さんをチラッと見ると楽しそうにチャットを打っていた。

 しかし、僕に見られていることに気がつくといつもツンとした冷たい表情に戻る。

 

 {でも結局お父さんにもこのマンションを外から見てもらったけど、なーんの問題も無いそうです(ノ´∀`*)}


 このマンションに霊だなんだという人も疑わしいけど、逆になんの問題も無いと言い切ってしまう人もダメなんじゃないだろうか。


 {鈴木さんがゾンビみたいなっていたって聞いたから見誤まっちゃったのかな? (m´・ω・`)m ゴメン…}

「そっかそっか」


 でもなんで立石さんは僕にここまでしてくれるんだろう?

 そろそろ冬だっていうのに白装束を来て井戸水をかぶるとかなかなかできないと思うけど。

 寺生まれとしての使命感だろうか。

 まあいいや。他のことを聞くか。


「でも霊障は無いってわかったのにどうしてウチに?」

 {鈴木さんを看病しに行こうかと。ルーマニアの方々もいなくなったみたいだし。イワセンナ(*^Д^*)ハズカシイ}

「へ?」

 {いくらルーマニアの方々のホームステイでも女性を家に入れるなら言ってくださいヽ(`Д´#)ノ 私だってまだ鈴木さんの家に一度も上がったことなかったのに(#^ω^)ビキビキ}


 どうしてホームステイで女性が来ると立石さんに報告しなきゃならないんだ?

 まあ、今はそんな場合じゃない。


「風邪ひいてるのは立石さんでしょ?」

{鈴木さんも昨日凄く顔色悪かったですし、くしゃみもしてたし、風邪ひいてるんじゃ(´・ω・`)モキュ?}

「僕はこの通り大丈夫だよ? 立石さんのほうこそなんか顔赤いよ?」

{私は39度ぐらいだから大丈夫ですよ(*´Д`)ハァハァ}


 39度? 全然……大丈夫じゃねえよ。

 よく見れば、立石さん、顔が赤いだけじゃなくて微妙にハァハァ言って震えているじゃんか。いや顔文字のことじゃなくて。


「た、立石さんの自宅の電話番号は?」

{か、家族への挨拶はまだ早いんじゃないですかΣ(゜∀゜ノ)ノキャー でも番号は042-◯◯◯-◯◯◯◯です(*ノ∀ノ)}

「わけわからん! ちょっとご家族の方に電話するよ!」


◆◆◆


「赤い顔で震えて体調が悪そうだって言ってるのにそっちで寝かせてってどうなってるのよ。君の家族は!?」

 {お父さんには鈴木さんの看病するから泊まるかもしれないってちゃんと言って来たんでヾ(*´∀`*)ノキャッキャ}


 相変わらずわけがわからないかったが、立石さんは既にテーブルに突っ伏しながらスマホを操作していた。ここじゃ風邪がひどくなるばかりだということはわかる。

 立石さんの腕を僕の肩に乗せて洋室のベッドに運ぼう。だが彼女の体にまったく力が入っていないので腕を肩に乗せてもズルズルとずり落ちそうになってしまう。

 仕方ない。ここは。


「きゃっ」


 僕は立石さんをお姫様抱っこする。彼女が僅かに悲鳴を上げた。

 レベルが上がって筋力も上昇している自分には予想通り簡単だった。

 僕のパワーアップは立石さんのストッキングの感触を楽しむ時間までも短くしたが、ともかくすぐにベッドの上に彼女を運んだ。

 ベッドに彼女を置き様子を見る。

 うぅっ。

 物凄い目付きで睨まれている。しかも微妙に涙目……。

 そりゃそうだ。発熱でまともに体を動かせない女子高生をベッドの上に運んだんだぞ。

 そういう目で見られてもしょうがない。

 で、でもしょうがないじゃないか。テーブルに突っ伏させて置くわけにもいかないし、自宅に電話しても「問題が起きたらはー! しに行くから大丈夫」とかいうお気楽なお父さんが出てくるだけだし。

 立石さんがやや切れ長の鋭い目で僕をにらみながら口を少し動かした。

 声が小さすぎてなにを言ってるか聞こえない。

 きっと僕を罵っているに違いない。

 僕が困り果てているとシズクからの肌色イアホンでアドバイスが来た。


「ご主人様。立石様はスマホと言ってるんじゃないでしょうか?」


 スマホか!

 先ほど立石さんをベッドまでお姫様抱っこで運んだ時に、彼女は携帯を握る握力もないのかスマホを落としてしまった。

 僕はすぐに立石さんのスマホを拾いにいって立石さんに渡す。

 彼女は嬉しそうにスマホを操作する。


{いきなりベッドなんて。鈴木さんのグハッΣ(´Д`(○=(´∀\*)モォエッチー!!}


 僕はそのチャットメッセージを見た瞬間、脱力感でベッドサイドに座り込んでしまった。

 気がつくと彼女は少しだけ苦しそうに、しかし、ほとんど満面の笑みで眠っていた。

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