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夜の訪問者

 そうだ!

 近くにおいてある入浴剤を湯船に入れる。

 前にシズクと買った入浴剤が湯船の近くに置いてあった。


「あ、入浴剤を使うんですか? シズクそれ大好きです」

「う、うん。そうそう」


 心音ココロネミルが微笑む。僕もなんとか愛想笑をした。

 湯船の水が乳白色になるタイプだから……うん、元気になったアレを隠すことができた。

 シズクがかけ湯を終えた。


「一緒に入っていいですか?」


 いつも一緒に入っているのでダメだとも言いにくい。

 しかし水のなかでアレがシズクに触れたら怯えさせてしまう。

 僕は背中にシズクが入れるスペースを作った。


「ど、どうぞ」

「はーい」


 気配と音でシズクが湯船に入ったことがわかる。

 狭いので心音ココロネミル、いやシズクの足が背中にあたっている。

 僕はさらに浴槽の中を前進した。前進してもすぐに壁がある。


「ご主人様、丸まっちゃってどうしたんですか?」

「いや……別に……」

「それじゃあリラックスできないですよ。こちらにいらっしゃってください」


 シズクが僕の首に手を回して自分のほうに引っぱった。


「わわっ」


 軽い抵抗も虚しく、僕は背中でシズクに持たれかかる形になる。

 心音ココロネミルの薄いスク水ごしのポヨンポヨンな胸が僕の背中のクッションになり、ムチ足が肘置きになった。

 20万円近くもすることで有名なアーレンチェアでも、きっとこれほどの座り心地ではないだろう。座ったことないからわからないけど。

 シズクが僕の側頭部に心音ココロネミルの頬をスリスリと擦り付けてくる。


「気持ちいいいですね~ご主人様」

「うん……そうね……」


 最高だ。永遠に座っていたい。

 そう思ったのだが、すぐに熱くなってきた。

 湯船から出ないとのぼせてしまう。

 しかし、僕は相変わらずシズクを怯えさせる状態だった。

 白スライムのシズクは熱さにも強いのか湯船の熱さには問題ないようだ。


「シズク」

「なんですか? ご主人様」

「あのさ、ミルの姿もいいんだけどさ。いつもの白スライムに戻らない?」

心音ココロネミル、お嫌いなんですか?」


 ドールを持っていて嫌いというのはちょっと無理がある。

 現にシズクの声音はどうしてですかという色がある。


心音ココロネミルも好きなんだけどさ」

「はい」

「僕は白スライム姿のシズクが可愛くて好きなんだよなあ」

「!」

心音ココロネミルは人間の姿になる必要がある時でいいかな。普段は白スライムのシズクがいいなあ」


 振り向いて心音ココロネミル姿のシズクを見る。

 顔を真赤にして下を向いている。


「そ、そうですか……ご主人様は……ミルよりも白スライムのシズクのほうが……いいんですか?」

「うんうん。シズクのほうがいいよ」

  

 シズクは小さな声でなにかボソボソ話していたが、最後にはハッキリと「もどります」と言った。

 同時に最高の椅子が消失して、僕の肩の上にいつものシズクが乗った。

 今だ! 精神統一によってアレを通常状態に戻す。そして湯船から立ち上がる。

 後少し遅かったらゆでダコができるところだった。


「体洗おう」

「ご主人様のお背中と頭洗いますね!」

「ありがと~」


 シズクはいつも僕の頭と背中を洗ってくれる。


「ご主人様~痒いところはありませんか~」

「ないよ~気持ちいいよ~」

「うふふ。よかった」


 心音ココロネミルに洗ってもらうのも確かに魅力的だけど、シズクに洗ってもらうのだって決して負けていない。

 白スライム姿のシズクが可愛くて好きというのは決して嘘ではない。

 今度はシズクを抱きながら湯船に入る。


「ふ~さっきのミルチェアーもいいだけど、やっぱこうやってシズクとお風呂に入るのが最高だね」


 シズクが恥ずかしそうにプルプル震える。


「も、もう暖まったんでシズクは先に出ますね」


 シズクはサササッとお風呂を出ていってしまった。

 スライムはのぼせないと思うんだけどな。

 ん? なんだか湯船のなかに落ちてるぞ。乳白色だからなにがあるかわからない。


「なんだろ。あ……」


 心音ココロネミル姿のシズクが着ていたリアのスクール水着だった。


 お風呂から出て少しだけクリックレベル上げをした後にシズクと夕食を食べる。

 タコ焼きでそこまでお腹が減っていなかったのでお茶漬けにした。

 シズクは梅茶漬けが好きなのだ。

 初めて食べた時は酸味に凄いビックリしてプルプル震えてたけどね。


「美味しいです~」

「簡単で早くできるしね」

「ところでお食事が終わったらまたレベル上げするんですか?」

「少しだけやろうかな」


 早く強くなって異世界に気軽にいけるようになりたいしね。


「そういえば、最近は江波さんを見ませんね」

「そうなんだよね。自動クリックアプリ使ってレベル上げをしたい……じゃなくてどうしたんだろう。大丈夫かな」


 一度、自動でクリックするソフトを使ってレベル上げをしようとしたことがあったが、野生化した江波さんが罠にかかってしまうと大変なので断念している。

 江波さんをあまり見なくなったのは一応心配だ。


「モニターで見る限りはいつも元気そうでしたけどね」

「うん」


 冒険者ギルドに大金を払って捕獲依頼を出したから捕まえてくれたのかな。

 捕獲されればディートやリアに冒険者ギルドから連絡がいくことになってる。

 ミリィを通して盗賊ギルドの人にも江波さんが捕獲されてないか定期的に冒険者ギルドに行ってもらっている。

 けどどちらからも連絡はない。

 実際に自分で探すのが一番かもしれないな。ディートは江波さんのことは協力してくれなさそうだし、リアは孤児院のお金稼ぎで忙しいだろうから、ミリィに相談してみようか。

 そのためにもやはり強くならないといけない。

 それにレベル上げすると日本でも強くなるのが美味しい。握力計測ったら112キロだったからな。信じられないけど簡単に立石さんや久野さんも押し出せたしね。


「そう言えば、立石さん大丈夫だろうか?」

「どうかしたんですか?」


 シズクが聞いてきた。


「バイト先で聞いたんだけど僕の家に来てから、立石さん風邪ひいちゃったみたいなんだよ」

「そうなんですか」

「ちょっとラインを見てみるか」


 僕はラインというスマホアプリのバイト先の仲間で作ったチャットグループのログを見る。

 相変わらず、女好きの瀬川さんと姉御肌の久野さんばかりが発言している。


「今日は立石さんの発言はないみたいだ」

「直接、本人に話しかけることはできないんですか?」


 シズクは賢い。もちろんできる。できるけど中々やりにくい。立石さんを友達追加もしなければならない。


「立石さんはなんだか僕に冷たいことが多いしな。今はそうでもないんだけど」

「そうなんですか?」

「うん。あんまり僕とは話さないしね」

「え? 私は結構話しましたよ」


 なんだって? そういえばシズクは僕の代わりに午前中だけバイトしたことがある。ゾンビ化して意識が飛んでるときもあったからその時に話しているのかも。


「どんな話を?」

「そうですね~お仕事のことが主でしたけど恋愛相談もしましたよ!」

「れ、恋愛相談?」

「はい」


 あのいつもツンとしている立石さんが恋愛相談とは意外だ。

 立石さんからどんな恋愛相談をされてシズクはなんと答えたんだろうか。

 内容は気になるが、今は先にラインでメッセージを送ることにした。


 {こんばんは。昨日は追い返しちゃったみたいになってごめんね}鈴木透


 どういう反応が返ってくるだろうか。

 というか風邪ひいているのに既読になってくれるんだろうか。やはり中々既読にならない。

 そろそろ諦めてクリックレベル上げをしながら、シズクにどんな恋愛相談をされたのか聞こうと思った時にメッセージが既読になった。


 立石あやめ{私のほうこそ押しかけちゃってごめんなさい。ご迷惑でした?} 

 

 おお。即返信がきた。しかも気にしてないみたいだ。


 {いやいや迷惑じゃないよ。心配してくれてありがとうね}鈴木透

 立石あやめ{迷惑じゃなかったんですね。よかった(*^^*)}


 本当は少し迷惑していたけど。というかかなり。

 しかし、顔文字か。実際に会ってる時とイメージが違うなあ。

 ネットだから嘘ということもないだろう。

 ひょっとしたらこれが立石さんのありのままなのかも。


 立石あやめ{ところでルーマニアの人達はいつまでいるんですか?}

 {ああ、実はもう今朝帰ったんだよね}鈴木透

 立石あやめ{そうなんですか!?}

 {静かになったよ。賑やかなのもいいんだけどね}鈴木透


 今日はシズクと二人で落ち着いた生活を送っている。

 心音ココロネミル事件があってもリア達がいる時と比べたら静かな方だろう。

 さてそろそろ当初の「風邪、お大事に」とメッセージを送ってチャットは終了しよう。

 その矢先に彼女からメッセージが飛んでくる。


 立石あやめ{じゃあ、今から行きますね}

 {え? どこに? 風邪ひいてるんじゃないの?}鈴木透


 なにか嫌な予感がする。

 僕のメッセージは既読になったが、なかなか返事が来ない。


 立石あやめ{気合です(*^^*)}


 ちょっ意味わかんない。意味わかんないから。

 おそらく風邪をひいても気合で乗り切るって意味なんだろうけど、どこにって質問に答えていない。

 どうする? もう一度、メッセージするか? なんて?


「あああああ。アイポンの充電がああああ」


 こういう時に限ってアイポンの充電が切れてしまう。

 急いで充電器に接続する。


「早く、早く、点け! 点け!」


 なかなかアイポンが起動しない。しかし、慌ててしまったがラインのメッセージを見れなくなって少し落ち着いてきた。

 今から行きますと言われて僕の部屋に来るのかと思ってしまったが、僕の勘違いじゃないだろうか。

 華の女子高生が僕のようななんの取り柄もない3、4歳も年上のフリーターのところに来るわけがない。病院とか薬局だろう。

 そのうちアイポンの電源がともる。

 立石さんとの会話は気合ですで止まっていた。

 一応、またメッセージを送る。


 {もし出かけるなら暖かい格好で出かけてね}鈴木透

 立石あやめ{はい。暖かいストッキング穿いてますから大丈夫です (*´∀`*)}


 ……ストッキング姿の立石さん見たい。

 じゃなくて、やっぱりなんか文章がおかしいぞ。やっぱりここに来るようにも思えるメッセージだ。

 寺とマンションまでは歩いてもほとんどかからない。


――ピンポーン、ピンポーン


 インターフォンが鳴った。

 まさか……。僕は鍵を握りながら玄関を開ける。


「鈴木さん。来ちゃいました」


 マンションの廊下にはウール混のスカートにストッキングを穿いた立石さんがいた。

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