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焼肉のタレで無双する件

新章はじまりました。

※いきなり急展開に思えますが、飛んではいません。ちょっと読むとわかりますm( )m

 魔王に魂を売ったアテウ=マデス伯爵の超魔法によって、リア、ディート、ミリィが倒れる。シズクもぼろぼろだ。


「ハーハッハ! 弱いな。だが冒険者として殺すには惜しい美しさ。そういう奴隷にして一生、地下牢に繋いで飼ってやるぞ!」


 その時、僕の秘めた潜在ユニークスキルが目を覚ます。

 それは皆の体力が一桁になった時、つまり瀕死になった時に発動する〝勇者覚醒〟だ。


「ハーハッハ! な、なに? 一番最初に倒したはずの男からとんでもない力を感じるだと? そ、そんな馬鹿な!?」


 アテウ=マデス伯爵が青ざめながら僕を見て叫ぶ。


「じ、人物鑑定スキルだ。やつのステータスは……


◆◆◆


 【名 前】鈴木透スズキトオル

 【種 族】神の子

 【年 齢】21

 【職 業】でも無職

 【レベル】∞/∞


 【体 力】∞/∞

 【魔 力】∞/∞

 【攻撃力】∞

 【防御力】∞


 【筋 力】∞

 【知 力】∞

 【敏 捷】∞

 【スキル】成長限界突破 全鑑定LV∞ 全剣技LV∞ 全魔法LV∞ 女の子としたら相手は女神になる 勇者覚醒(発動中)


◆◆◆


げ、げげげげげええええええええ! なんだこのステータスは!?」

「勇者覚醒は愛する人を守るためのスキルだ! 皆を傷つけて僕を怒らせたことを後悔しろ!」

「ぎゃあああああああ!」


 アテウ=マデス伯爵は、僕の聖剣によって八つ裂き、いや億裂きに斬り裂かれた。


「もう大丈夫だよ」


 皆に優しく声をかける。


「ト、トール様、本当はこんなに強かったんですね。騎士の私より百倍、いえ億倍強いです……」


 リアは僕を信仰の対象のように見上げる。


「ふ、ふんっ! まあちょっとはカッコよかったっていうか。私の寿命が尽きるまで一緒にいてやってもいいっていうか。アテウ=マデス伯爵がたまたま今ドロップした不老の薬で……ずっとずっと私と一緒にいてよっ!!!」


 ディートのツンデレもいつも以上に磨きがかかっていた。


「トオルなら盗賊ギルドの皆どころか世界を救えるよ……」


 ミリィ。それは言い過ぎだよ。


「やっぱり私のご主人様は最高です!」


 シズクが僕の顔に乗ってプルプルと震える。プルプルプルプルプル。


「あははは……むにゃむにゃむにゃ。シズク。震え過ぎだよ。なんかムチムチ感もあるし。ちょっと……苦しいって」


 く、苦しい。呼吸が……。

 目を覚ますと和室の天井が少しだけ見えた。


――ゆ、夢?


 どうやら先ほどの冒険は残念ながら夢だったらしい。当たり前だ。


「しかし、なんだ? この顔を覆うムチムチした紺色のものは!?」


 どうやら僕の顔を圧迫し、呼吸を困難にさせ、視界を奪っていたものの正体はブルマ尻だった。

 このほどよく筋肉もありながらムチッとしたのがリア、ブルマの締め付けに柔らかく反発しているムチムチがディート、そしてまだ健康的なアスリート少女って感じのムチはミリィだな。

 そこから出る白い生脚も絡まっている。さらにシズクも参戦していた。

 そういえば昨日の夜は和室に布団をひいて皆で寝たんだっけ。


「皆、寝相が悪過ぎだよ……僕をブルマ尻で包囲して圧殺するつもりか?」


 ムチムチブルマ尻とプルプルスライムの包囲圧殺陣が、上から右から左から僕の顔に迫っていた。

 このままでは五秒後に窒息してしまう。

 とりあえず、一番不届きに顔に押し付けてくるムチムチブルマを押し返す。


「う、うーん。なーにぃー気持ち良く寝てるのにぃー。きゃぁっ!」


 ディートの可愛い悲鳴に皆が起き出す。


「すーはー、すーはー」


 やっとまともに呼吸ができるようになった。

 ん? 気がつくとブルマから出た生脚が六本、仁王立ちしていた。


「トオル!」

「な、なんですか?」


 なぜか正座でさせられる。


「トール様! 平等に触ってくださいね!」

「ふんっ! 触りたいならいいなさいよ。もぉ……」

「俺のを触るなら二人のときに触れよな!」

「ご、ごめんなさい~ご主人様の罪は私の罪ですぅ」


 皆、なんか言ってることが微妙におかしかないか?


◆◆◆


 僕達が異世界の冒険から帰ってきて既に三日が経っていた。明日からは僕もバイトが始まる。

 そこで夕食は皆で立川の街に繰り出して、焼肉の食べ放題のうたげをしようという計画を立てた。

 実はリアもミリィも怖いのか未だに日本の街には出ていない。とてつもなく不安だ……。

 事前に日本についての勉強会を開かざるを得ないだろう。


「というわけで、正しく理解さえすれば、日本の街は決して怖くはありません」


 畳に体育座りした三人のブルマと一匹のスライムは一生懸命に話を聞いてくれた。

 大丈夫……とは信じたいが、念のため理解度の確認したほうがいいだろう。


「では、皆さんに質問です。わかった人は手をあげてください。日本の街にゴブリンは出ますか?」


 全員が手をあげる。ここはスライムであるシズクに答えてもらう。


「シズク君!」

「日本の街にはゴブリンはいません。モンスターもいません。なので日本の人をビックリさせないために、焼肉屋の辛太郎さんの個室まで私はバッグの中に隠れて行きます!」

「エクセレエエエエントゥ! シズク君、よくできました。パーフェクトな解答ですよ」

「えへへへ」


 どうやらシズクはなんの問題もないようだ。

 しかし……他の三人は驚いたような顔をしている。大丈夫だろうか?


「次は服装の問題です。ブルマ姿で外を歩いて大丈夫ですか?」


 やはり全員の手があがる。

 

「では、リア君!」

「はい。ブルマは日本では寝間着兼部屋着です。だからダメです!」

「うーん……エクセレエエエエントゥ! さすがリア君です」

「ありがとうございます!」


 そう。ブルマは僕の部屋だけで着て、僕だけに見せていればいい。

 じゃなくて、日本の外でブルマは穿いてはいけない。頭のおかしい人に思われるからね。


「次に車の問題です。日本では馬車の代わりに自動車が走っていますが、当たったらどうなりますか?」


 頼むからこれぐらいはわかってくれよ。


「ではディート君!」

「私なら大怪我かなあ。リアが盾を構えたら弾き返せるだろうけど」

「……な、なんだって?」

「だからリアが盾を構えたら弾き返せるんじゃないかな。私が外で自動車を見た感じじゃそうね」


 そういえばディートだけは日本の外に何度か出ている。

 リアがガッツポーズをする。


わたくし! 盾を持っていきます!」

「い、いや、持っていかなくていいし、できるとかできないとかの話じゃないからね。絶対やっちゃダメだからね。いいですか? 自動車とは接触しないようにしてください」


 そんなことしたら自動車の中の人はどうなるんだ。

 どんどん不安感が増してくる。


「じゃあ次。日本人の男から、ねえねえなにしてるの? 暇なら遊びに行かない? と言われたりしますが、そういう場合どうしますか?」


 この問題は付いていってしまうような気もするミリィに聞いてみるか。


「ミリィ君!」

「う~ん。そうだなあ。とりあえずナイフで斬りつけてみてデキそうな奴だったら盗賊ギルドに入れるかなあ」


 ……。リアがミリィに言った。


「ダ、ダメですよ。そんなことしちゃ」

「おお! リア君! そういう場合はどうするんですか?」

「日本では剣やナイフを使ってはいけません」

「いいですよ! その通りです!」

「ですから殴ります!」


 ……こりゃダメかもわからんね。


「貴方達は本当にダメねえ」

「ディートさん。その場合はどうするんですか?」


 あまり期待はしていないが、ディートの解答も聞いてみる。


「日本には警察官っていうのがいるわ。そいつらにバレないようにすることが重要なの」

「「おお~」」


 リアとミリィが感心する。ディートは僕に自信満々に「そうでしょっ」という意味のウインクをした。

 これは補講につぐ、補講が必要そうだ。


◆◆◆


 ついに三人と日本の外に立った。


「な、なななななんですが一体」

「これ全部家なの?」

「そんなリアクションはいいから早く行くわよ」


 初めて外に出たリアとミリィはやはり生まれたての子鹿のようになっていたが、ディートは先を促した。

 お昼ご飯も食べずに日本についての補講をしていたのだから当然だろう。

 目的地はシネマビレッジという映画館が入っている建物の焼肉屋だ。

 完全個室になっているためたどり着きさえすれば、ある程度安心できるのだが、道を歩いている今は恐ろしく目立っている。

 

「くっあれが車ですか。しかし、今少し盾防御スキルと【筋 力】が上がれば、必ずや!」

「ちょっちょっと、今少し盾防御スキルと【筋 力】が上がったらどうなるの? それにあれはただの車じゃなくてトラックだよ! 絶対にそんなことしなくていいから赤信号で止まってね」


 赤信号で止まったのはいいが、ここは駅近の交差点だ。人通りも多いし、思いっきり見られている。

 それほど高くはない確率だと思うが、知人がいないといいけど。

 ディートの耳も、ミリィの猫耳も尻尾も隠しているので理論上は存在していてもおかしくはない外国人といえたが、一人でも注目されてしまいそうな美人が三人もいるのだ。

 僕も大きなグラサンとマスクをしていけばよかった。こそこそしながら一行の先頭を歩いた。


 やっと焼肉屋に到着する。

 後からもう一人来ると伝え、個室に案内してもらった。

 バックに隠れているシズクの分もお会計はしないとね。


「ふ~やっと到着できたよ。食べ放題だからなんでも好きなものを頼んでいいよ」

「俺にはなにが頼めるかわからないよ」


 ミリィはそう言ったが、日本のメニューを舐めないで欲しい。


「このメニューに写真が貼ってあるから」

「お~俺はこれが食べたい!」

「わわわ。凄いですね! あ、これ知ってます! アイスクリームです!」

「リア、アイスは最後にしましょう」


 結局、肉を全種類頼む。十分後ぐらいにテーブルに並びきらないほどの肉が運ばれてきた。

 もう店員さんもしばらく来ないだろう。シズクもカバンから出してあげる。


「凄い量のお肉ですね。でも……生ですよ。私は生でも平気ですけど」


 そうなのだ。シズクだけでじゃなく三人共、驚いていることだろう。


「実はテーブルの真中にある網の下に今から火をつける」

「え? ここに火を付けられるの?」


 異世界人には網の下にガスコンロがあることもわからない。

 本当は店員さんが点けるのだろうが、無理を言って僕が点けることにした。

 ボッという点火の音に皆、ビクッとする。


「そうか! ここで肉を焼くから焼肉っていうわけだな。俺は生肉でも大丈夫だけどちょっと焼いたほうが美味しいもんね!」


 三人中、一人が猫型獣人の、正確にはそのハーフであることを忘れていた。

 ディートがもう馴れた箸でカルビを焼こうとする。


「ちょっと待て。ディート」

「な、なによ? お腹へってるのに」

「焼肉で最初に食べるのはタンと相場が決まっている」

「タン?」

「この肉だよ。牛の舌だ」

「そ、そんなところ食べるの? 美味しいの?」


 タンが美味しいかどうかだって? その愚問を無視して一枚のタンを網の上に乗せる。

 真似してリアもディートもミリィも乗せた。

 しばらく経って色が変わり始める。


「肉は色が変わりはじめたらひっくり返して両面を焼こうね。そっちのほうが……あ、あれ?」


 僕が焼肉の焼き方について説明しようとしたら、皆、先にひっくり返していた。

 そりゃ裏返しにするのなんか見りゃわかるよね。


「なんだ。皆、焼肉上手いじゃないか」

「トール様、焦げちゃいますよ」

「あ、ありがとう」


 リアが僕のタンまでひっくり返してくれた。


「さあ、そろそろ食べよう。タンは塩とお好みで付け合せのレモンを振ると美味しいよ」

「私達の世界も塩で牛のお肉を食べてますけどレモンもかけるんですか」

「タンにはね」


 リアの故郷は牧畜が盛んだから牛も結構食べるのかもしれない。

 皆でいただきますを言って食べ始める。


「美味しい~」

「これ本当に美味しいわね。サクサクって歯ざわりがいいけど」

「肉に味があるな」


 やっぱりタンは美味しいよね。僕の膝の上にいるシズクも美味しさにプルプルと震えていた。


「次はカルビでも食べようか」


 皆でカルビを焼く。


「あ、皆、衛生面のこともあるから、ちゃんと両面焼こ……」


 教えなくても次々に肉がひっくり返されていた。


「なんですか?」

「いやなんでもない」


 焼かれた肉が次々に小皿に取り分けられる。

 リアとディートがタンと同じ様に塩をかけようとする。


「ちょっと待ち給え君達」

「今度はなによ?」


 ディートが不機嫌そうな顔をする。リアも早く食べたそうだ。


「古来、カルビはタレと決まっているのだ」


 僕は自分の小皿にタレを満たしながら焼いたカルビに漬ける。タレが温められて美味しそうな香りを醸す。


「な、なんですか? その変なドロッとした液体」


 ふふふ。

 焼肉の焼き方は知っていても焼肉のタレは知らなかったようだな。


「私は塩で食べるからいいわ」


 しかし、ディートは無視して塩をかけようとする。


「えーい。いいからドロっとしたこの液体をかけてしまうのだ!」

「いや、やだ、やめてっ。私のお肉に! トオル~」


 全員の小皿に焼肉のタレを満たし、カルビに焼肉のタレをかけてしまう。


「まあ、ともかく食べてみなよ」


 皆、不満そうに焼肉のタレがかかったカルビを口に入れる。

 瞬間、固まってしまった。


「お、おーい! 皆どうしたの?」

「う、美味い!!!」


 皆、美味いと叫んだと思ったら、リアは正座してカルビを食べ終わった後の小皿のタレを凝視していた。

 ディートは新しい肉を次々に網の上に並べはじめる。

 ミリィはタレを箸につけて舐めていた。


「シズクも焼肉のタレを漬けたカルビ食べるかい?」

「た、食べたいです! ご主人様!」


 ちょうど良く焼けた脂でテカテカになったカルビにターップリの焼肉のタレを漬けて、シズクに食べさせてあげる。


――プルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプル


 シズクは歓喜でとんでもなく震えはじめた。

 焼肉のタレはやはり無双だった。

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