ダンジョン冒険者は三年やったら半分死ぬと言われてる件
ナタリーという名前をギアスっぽいことに気が付きまして、メアリーに修正しました。
コークをコーラに修正しました。
ヘラクレイオンの街、通称ヨーミの街から馬車に乗る。
三時間ほどで元リアの主家である旧カーチェ伯爵領の街セビリダが見えてきた。
「どうですか? セビリダの街は」
「牧歌的ないいところだね」
実際に馬車でここに来るまでは丘陵地帯になっていて牛の牧畜がおこなわれていた。
ただ、良い農地が少ないので牧畜が産業になっているともリアが言っていた。
そして疫病や不作が重なって、領民を支援したカーチェ家は没落してしまった。また、ダンジョンがあるヨーミの街に若者が流出してしまうという構造的問題もあるようだ。
僕達は街の門、と言っても木で作られた囲いの入口で馬車を降りた。御者に金貨二枚を支払う。
「歩いても半日だったんですけどニックとメアリーがいましたから」
「僕もニックとメアリー派だよ。それにさ」
僕の視線の先には立木に手をついて、ミリィに背中をさすられるディートがいる。
「気持ち悪い……」
冒険者ギルドで飲んだお酒が馬車の中で揺られ過ぎたようだ。
もっとも馬車を使わなければ、千鳥足でここまで来れたかどうか。
「エルフのお姉ちゃん大丈夫?」
ディートはなぜかメアリーに好かれている。心配されたディートは笑顔を作ったが、その顔色は青かった。
「大丈夫よ」
あまり大丈夫そうには見えない。
「ほらディート。背中に乗りなよ」
「え?」
僕はおぶってやるというジェスチャーをした。
「い、いいわよ」
「孤児院は町外れだからまだあるらしいよ」
僕は強引にディートを背に乗せた。
「いやだっ恥ずかしいって。降ろしてよっ」
「いいから。さあ皆、出発するぞ」
バカ、アホと騒ぐディートを背負っても【筋 力】が上がっているからか以前支えたときよりもずっと軽い。
リアを先頭とする集団から少し離れて歩く。すぐに大人しくなった。
「トオル……あ、ありがとね」
「いいって」
「私、素直になれないの。ギルドの酒場でも」
「僕もそういう時あるよ」
ディートが僕の胸に回した腕をギュッと少し力を入れる。
ディートが小さい女の子に好かれるのがわかるような気がする。
しばらく歩くと孤児院が見えてきた。
ただの大きな土壁の家のようにも見えたが三十人ぐらいの子供が庭で遊んでいるのでそれとわかった。
「あ~リアねーちゃんだ~」
子供達が僕達、正確に言えばリアの周りに集まってくる。
もちろんリアも子供に好かれていた。
「皆、しばらくぶりでごめんね。院長いる?」
数人の子供が土壁の宿舎に入っていく。
しばらく子供に囲まれていると顔に大きな傷がある女性が宿舎から出てきた。
こちらを見る眼光も鋭い。ヘタっていたディートもミリィも半身の体勢をとった。
「院長! ライカ院長!」
「リア。生きてたのか?」
え? この人、院長なの?
美人ではあるが、借金の形に孤児院を地上げしに来た女ヤクザかと思ってもおかしくない。
実際に人物鑑定スキルを使ったら、職業は野伏でレベルが29もあった。
野伏って山賊みたいなもんじゃないのか。そう思っているとライカ院長に声をかけられた。
「昔な。大分、稼がせてもらって、その金でこの院を作った」
「え? なんで?」
なんで、わかる?
「今、人物鑑定スキルを使っただろう? 野伏は盗賊系だからスキル感知も持っている。この人、山賊なんじゃないかって顔をしてたぞ。あははは」
ライカ院長はそう言って笑った。
「あ、いえ。そんな」
先ほどの彼女の険はどうやら死んだという噂が流れていたリアと一緒にいる僕達がどういう人物かわからなかったためだろう。
「この顔の傷だからねえ。そう思われたって仕方がない。ともかく皆、旅で疲れてるだろう。座れるところに案内しよう」
ライカ院長は孤児院の院長室に僕達を招いた。
一応、小さいソファーがあって僕達はギュウギュウ詰めでそこに座る。
「そうか。ニックとメアリーをウチでね。うんうん」
「なんとかお願いできないでしょうか?」
リアがこれまでの事情を話して頼んでいる。
「もちろんウチに来ればいい。大歓迎だよ。友達も沢山いるしなにも心配することはない」
ライズ院長は満面の笑みでニックとメアリーの頭をなでる。
「そうだ。ニック、メアリー。リア姉ちゃんとそちらの……ディートさんか。二人はまた来るけど今日帰ってしまうから一緒に遊んでくるといい」
院長室のドアを開けて四人が外に出ることを促す。
ドアを閉めると僕とミリィ、ライズ院長が部屋に残された。
院長は相変わらず笑顔だったが、少しだけ真面目な顔をした。
「トオルさんが皆のリーダーで、ミリィさんが地下盗賊ギルドの代理人と考えて構わないかな?」
「ま、まあ、そんなところです」
ミリィも頷いた。
「ここから先は子供がいないところで話さないといけない。恥ずかしながら、この院はかなりの経営難なのだよ。先ほど頂いたニックとメアリーの当面の生活費を子供達の食費にしなければならないほどのね」
なんとなく、ニックとメアリーを外に出したことに強引さを感じていた。
「ニックとメアリーの前では大歓迎という顔をしてくれてありがとうございます」
「いやいや。子供の前では当然のことだよ」
そもそも、この院はリアの主家であったカーチェ家が支援して成り立っていたらしい。
カーチェ家は無くなって、その支援は途絶えた。地域の貧農の農作物やリアの冒険者としての稼ぎで辛うじて成り立っていた。
そして、そのリアがしばらく冒険者を出来ていなかったのだ。
「リアの前でこんな話できないしね。あの子だってまだ18なんだ。本当は重荷を負わずにトオルさんと明るい家庭を築いてくれたっていいんだけど……」
「あははは」
とりあえず、笑っておく。笑ったけどそんな未来も悪くない。
「頼らざるを得ないのが現状だ。その子が連れて来たニックとメアリーだって面倒は見たい。そこで」
ライズ院長はミリィを見た。
「地下盗賊ギルドでウチを支援しちゃ貰えないだろうか? 私も昔は裏稼業で生きてたから法の目が届かない地下での商売の旨味は知っている。そうしたら、子供ももっと引き取れる。」
ライズ院長は、支援をしてもらえれば盗賊ギルドにいる子供を引き受けると言ったのだろう。
ミリィがなぜか僕を見て笑ってから口を開く。
「実は盗賊ギルドもちょっと昔気質なところがあって商売は上手くないんだ。支援は厳しい」
「やっぱりか。最近は地下商人ギルドと用心棒ギルドに押され気味とも聞いていた。ウチに子供を押し付けるぐらいだからな」
「でも大丈夫だよ。トオルがいい商売のアイディアを沢山持っているみたいなんだ。そのうち支援できるようになると思う。やっぱり子供は太陽の下で育って欲しいしね」
「え? ぼ、僕?」
急に話を振られる。
「そうだよ。再開発の話とかしてくれたじゃないか。アレが成功すれば、絶対に儲かるよ」
「た、確かにしたけど、ちょっと考えを言ってみただけで本当に上手くいくかは……」
ミリィにそう反論するとライズ院長が言った。
「支援者が見つからないとずっとリアが冒険者を続けることになる。ダンジョン探索の冒険者は三年やったら半分死ぬと言われているんだ」
そ、そんな。作家みたいな。ミリィも大きくうなずく。
「十年やったらみんな死ぬとも言われてるよね」
ディートは百年以上続けているけど、確かに二人共、僕と出会った時は死にそうになってたもんな。危険なことには間違いない。
リアやミリィや子供達のためにも日本の知識を使う時なのかもしれない。




