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冒険者ギルドで依頼者になった件

 リアと神殿を巡った次の日の朝。

 朝食を食べてからディートと冒険者ギルドに向かった。


「やっぱり日本のご飯のほうが美味しいわ~」

「そう? 宿の夕食のトマト味のもつ煮込みは美味しかったけどな」

「トンスキホーテで売ってた紅から鍋のほうが美味しいよ」

「アレは日本でも流行ってるチェーン店のタイアップ商品なんだよ」


 僕はディートと江波さんの討伐依頼を引き下げてもらうために冒険者ギルドに向かっていた。

 ついでに捕獲依頼もすれば完璧だろう。

 子供達は冒険者ギルドに連れて行かない方がいいだろうということになって、その間、リアとミリィが面倒をみてくれている。


「ところで江波さんの討伐依頼ランクEの報酬っていくらぐらい貰えるの?」

「ものにもよるけどガディウス金貨で三枚ぐらいじゃないかしら?」


 や、安い。

 別に高かったら仕方ないというわけでもないが、日本円にして三万円で殺されたら浮かばれないだろう。急がなくては!


「ディート、急ごう」

「別に急ぐ旅じゃないし、ゆっくり行きましょうよ」

「急いでるんだって!」


 それでもダラダラ歩こうとするディートを急かす。


「もうなんなのよ! せっかくトオルとデート気分を楽しんでたのに!」

「え? そうなの?」

「そうよ! どうせ昨日はリアとイチャイチャイチャしてたんでしょっ!」


 当たらずとも遠からずかもしれない。


「ご、ごめん」

「ふんっ!」


 ディートがこうなってしまうと機嫌を取るのが大変だ。

 クレープが無い異世界では放っておくしかないかもしれない。

 無言のまま歩いていくと、昨日の神殿ほどは大きくないが、そこそこの大きさの石造りの建物に着く。

 中を除くとどうやら酒場もあるようだ。


「ここ? 冒険者ギルドって?」

「そうよ」


 ディートは先に建物の中に入ってしまう。


「ちょ、ちょっと」

「もう共通言語は話せるんでしょ。後は受付と勝手に交渉しなさいよ。私はお酒でも飲んでるわ」


 建物に入るとギルドの受付だろうカウンターと冒険者に昼間から酒を出すためだろうカウンター席があった。

 僕はギルドの受付だろうカウンターに向かって、ディートは酒を出すためのカウンター席に向かった。


「す、すいません」


 ギルドの受付嬢は眼鏡のおかっぱ女性だった。


「はじめて利用するので色々聞きたいんですが」

「はいはい~」


 話は聞いてくれるようだが、なんだかやる気の無さそうな返事だ。笑顔もまったくない。


「ギルドに仕事を依頼したいんですが」

「え? 仕事を探したり、冒険者としてギルドに登録する方じゃなくて仕事を依頼する方ですか?」

「そ、そうですけど」


 受付嬢は急に笑顔になって、名前をエミリアと名乗った。


「僕はトールって言います」

「それでトール様、本日はどのような依頼を? 薬草の採取ですか? モンスターの討伐ですか? 素材を取得ですか?」

「えっとダンジョンのモンスターの捕獲なんですけど出来ますかね?」

「はい! もちろん! 冒険者ギルドには地下牢もありますから。捕獲したら連絡もするオプションをお付けできますよ」


 地下牢か。ちょっと可哀想な気もするが、討伐されてしまうよりもマシだろう。


「じゃあ、お願いします。ヨーミの地下五層に出るオーク二匹組なんですけど」


 エミリアさんと話し込んでクエストの詳細を決めていく。

 ちなみに冒険者に金貨十枚の報酬を払う場合は、ギルドに手数料として二枚、成功した場合は成功報酬として三枚払うらしい。

 つまり依頼があって、それが達成された場合、冒険者が受け取る報酬の半額がギルドに入る。

 依頼が達成しなくても手数料で二割は確実に入ってくる。


「オークは結構強いですからね。捕獲依頼ランクCかな? 冒険者に金貨で二十枚ぐらいが相場ですかね」

「というと総額で金貨三十枚か」


 ううう。金貨三十枚か。痛い。

 だが自分で捕獲してしまえば、手数料の金貨四枚で済む。

 先にギルドに金貨三十枚を預けないといけないが、手数料をの四枚を除いた二十六枚は返ってくるのだ。


「牢屋の使用料は二日で金貨一枚、連絡をする場合お使いクエストを冒険者に頼むとして銀貨が……」


 どんどんお金がかかっていくが仕方ない。


「あ、ところで実はそのオークには先に討伐依頼ランクEがかかっているらしくて」

「あ~そういえば」


 エミリアさんが酒場の掲示板から紙を一枚剥がして持ってくる。

 僕には読めない文字だ。


「これですね~オークの討伐に金貨二枚の報酬。ひっどいな~」


 どうやら江波さんの命は三万円ではなく、二万円だったらしい。


「ブッキングすることはよくあることですよ。気にしない気にしない」

「いやいや気にしますよ。僕は捕獲して欲しいんです」

「そうですか」

「ギルドとしても成功した時の報酬は僕のほうがいいじゃないですか。こっちは取り下げて貰うわけにはいかないですかね?」

「じゃあ依頼者の……あーお嬢様冒険者のルシアさんか。ちゃんとした捕獲依頼が出たので取り下げたらって言っておきますよ。でもなんで金貨二枚でオークの討伐依頼なんて出したんだろう?」

「お願いします」


 多分、契約を迫られてうざかったとかそんな理由だろう。

 しかし、できれば直接取り下げる交渉をしたい。


「そのルシアさんっていますか?」


 僕は酒場の方を指差していった。

 昼間だというのに多くの冒険者が酒を飲んでいた。その中の一人にディートがいるわけだが。


「うーん。今日はいらっしゃってないみたいですね」

「そうですか」


 残念ながら今はこれ以上、できることはなさそうだった。

 ディートを探す。カウンター席に座ってお酒を飲んでいたので隣りに座る。反対側を向かれた。


「ふんっ! 私に地上まで案内させて、私のお金使って」

「その通りです」


 香りからして相当強いお酒を飲んでるようだ。完全にできあがっていた。

 確かに世話になりっぱなしだ。まあ、江波さんのせいなんだけど。


「ディート、付き合うから美味しいお酒を教えてよ。あんまりアルコールが強くないので」

「リアとはデートしていたくせに、私はほっといて!」


 お説教はまだまだ続くようだ。

 と、思っていたら。


「あ、あの魔法使いのディートさんですよね? 魔法ができる人がいないので、僕達とパーティーを組んでくれませんか?」


 急にディートが若い冒険者達に話しかけられた。

 爽やかで装備も綺麗なので新人かと思ったらレベルは20、18、17もあった。

 話しかけて来たのは人物鑑定をしたところレベル20のドミニクさんという騎士だ。きっとリーダーだろう。

 ちょっと、いや、かなりイケメンかもしれない。装備も高級そうだ。

 連れている他の二人は女性だった。

 後ろの丸テーブルに座っている冒険者達の声が聞こえる。


「新進気鋭のドミニクチームがいったかあ。元はどっかの騎士団にいたらしいぜ」


 どういうことだろうか?


「あ、ごめんね。私、彼とパーティー組むことにしたの」

「え?」


 ディートが僕の腕を掴んで微笑む。


「ね? トオル」

「あ、あぁ」


 よくわからないけど曖昧な返事をする。

 ドミニクさんは残念そうに去っていった。

 後ろの丸テーブルからまた声が聞こえてきた。


「ドミニクならって思ったけどやっぱりダメだったか」

「皆、一度はあの美貌とレベルを誘うんだけどな」


 段々と話が見えてきた。

 ディートが有名人というのは本当らしい。


「ところで隣りに座っているヤツ誰だ? 見たことない顔だな」

「本当にディートと組んでるのか?」

「ま、まさか。冗談だろう。レベルも10だぞ」


 後ろのテーブルに聞き耳を立てているとディートの酒臭い怒り声が聞こえてきた。


「私の話、聞いてるの!?」

「聞いてるよ」


 全然、聞いていなかった。


「トオルはもっと私に優しくしなさいよ」

「ディート殿でしょうか?」


 今度は耳が尖った二人の男が話しかけてきた。エルフだ!


「はじめまして。私はエクムント。こっちがエルマーだ。見てわかると思うが、中々人間とパーティーを組むことが出来ぬ。どうだろうディート殿、一緒に」

「あーごめん。私はハイエルフだし、同族意識とかないから。それに人間の彼と組んでるの」


 やはりディートが僕にピッタリとくっついて微笑む。

 エクムントさん達も去っていった。


「機嫌、直してくれたのか?」

「直してないっ! 大体トオルはっ!」

「ディ、ディートさん僕とパーティーを!」


 それからも次から次へとディートにはパーティーのお誘いが来る。

 その度に僕を理由に断っていた。

 

「今日はいつもにもましてディートの勧誘が多いな」

「昔のディートは〝話しかけてきたら殺す感〟があったけど、最近はなんか……可愛い感じだもんな」

「そうそう。俺も声かけようかなって思っちゃうもんな。ところでまさか本当にあの冴えない感じの奴と組んでるのか?」

「まさか、そりゃないだろ。皆、冗談だと思ってるから次々と声をかてるんだろ」


 後ろの丸テーブルの奴らに冴えないと言われてしまった。悪かったね。

 それにしても昔のディートとやらの〝話しかけてきたら殺す感〟ってなんだよ。おっかない……。

 僕がやはり後ろの丸テーブルの噂話を聞きながら、ディートの説教を聞き流していると今度は少女がディートのかたわらにやってきた。

 人物鑑定をするとマロンというレベル5の狩人だった。

 いかにも駆け出し感がして初々しい。美少女とまでは言わないがそばかすが可愛かった。


「あ、あのパーティーメンバーを募集しているんですけどご一緒にどうですか?」

「ごめんね~間に合ってるわ」


 女性だったからかディートがアッサリと断る。


「あ、あの私ではディートさんをお誘いなんかできませんよ。私が誘ったのはこちらの」


 少女が僕を見る。


「え? 僕?」

「はい! よかったら二人でダンジョンの二層を探索しませんか? そこそこの値段で売れる薬草が生える秘密の場所を知っているんです」

「え、えへへへ。困ったなディート、どうしよう? げえええっ?」


 これが冒険者達の間で噂になっているディートの〝話しかけてきたら殺す感〟ってやつだろうか。

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