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新しい仲間と地上へ出る件

「ど、どうもはじめまして」

「よ、よろしくお願いします」


 僕とディートが首領さんに挨拶をする。

 挨拶をしたのは首領さんの秘書をしているノエラさんだった。


「首領がこのような体勢でお会いすることと、私を通して話すことをお許し下さい」


 きっと正体を隠したいんだろう。カーテンで姿を隠すことによって出来るシルエットが逆に艶めかしい。

 ノエラさんがカーテン越しに顔を近づける。


「ニックを救ってくれたこと感謝申し上げます。ただそのために傭兵ギルドに目を付けかねられない行動をしてしまったようですね」

「え、えぇ。はい」


 一応、返事をしたほうがいいと思って僕が代表して応えた。


「首領はアナタ方に盗賊ギルドの客分になることを提案していますが」


 僕達も盗賊ギルドに入れば、傭兵ギルドも簡単に手が出せないだろうという話はミリィからも既に聞いている。客分とはお客様待遇での在籍だろうか。しかし……。


「お断りします!」


 やっぱりね。リアがピシャリと断った。


「リ、リアちゃん。穏便にね」


 ディートが僕の言いたいことを代弁してくれているが、効果はないようだった。


「そんなことより、ニックとその妹を引き取りたいのです」


 ノエラさんは少し溜め息を吐いた。


「これは私の意見として申し上げますが、我々はなにも強制してニックを盗賊ギルドに入れているわけではありません。本人に聞けばわかるはずです」

「それはわかっています……が、子供は陽のあたる場所で育ったほうがいいでしょう」


 ニックの様子からノエルさんの言っていることは嘘ではなさそうだった。ただリアの言うことにも道理がある。

 さて首領はどう応えるのだろうか。

 ノエラさんがカーテンの傍に顔を近づける。


「男性のアナタ」


 ノエラさんが僕のほうを見た。


「え? 僕?」

「はい」


 急な指名だったのであせる。


「な、なんでしょう?」

「ニックとその妹のメアリーに安心して育つ環境を提供することを約束できますか?」


 え? えええ? 僕にそんなことを言われてもな。


「約束します! 少なくとも盗賊ギルドよりはずっといいです!」


 リアがやや挑戦的に応える。

 それでもノエラさんは僕のほうをじっと見ていた。

 どうやらリアではなく、僕の返事を待っているようだった。


「ちょっと待ってもらってもいいですか?」

「はい」


 僕はノエラさんと首領に背を向けてリアとディートに向き合った。


「リアが支援しているって孤児院は子供に優しい?」


 できるだけ優しく聞く。リアにも気持ちが伝わったようで笑顔で返してくれた。


「はい!」

「そっか」


 リアのことなら信じられる。


「ディート、ちょっと仕事が増えちゃったけど付き合ってもらっていい?」

「しょうがないわね。まあ私もこんなところで子供が育つのは教育上良くないと思うわ」


 ディートも呆れ顔で承諾してくれた。


「シズク」


 鎧がプルプルと震える。よし!

 首領さんとノエラさんのほうに振り返る。


「お約束します」


 僕がそう言うとノエラさんは満足げに頷いた。


「ではニックとメアリーをお任せしたいと首領は申しています。ただし、二人が本当に安心して育つ環境を提供されるか盗賊ギルドの者を同行させてください」

「なっ?」


 リアは不服そうな顔をして驚いたが、ついさっき売られそうになったニックの立場を考えれば、首領さんの対応はむしろ誠実だろう。


「誤解しないでください。我々のギルド員がいれば、他の地下ギルドと揉め事も起こりにくいですし、色々と便宜をはかって差し上げやすくなります。そちらも困ったことがございましたらなんでも申し付けてください。ギルドでできることは協力いたします」


 ノエラさんが言っていることは正しいと思う。僕は納得できた。


「それじゃあ、ニックとえーとメアリーは然るべき孤児院に入れるつもりですのでそれが終わったらまた一度報告に来ますね」

「ええ。首領も礼を申しております。もう一度いらしてくれた際は歓待したいと」


 僕達は首領さんの謁見室を出ることになった。

 出る時にノエラさんが僕にだけ小さな声で言った。


「リアさんとディートさんは犬猿の仲で冒険者ギルドで有名です。よくあの二人を。アナタのお力ですね」

「いや、別に。あの二人は元から嫌い合ってはいなかったみたいですよ」

「ふふふ。でも素直に一緒にいれるタイプではないでしょう。」


 なるほど。確かにあの二人の喧嘩は凄かったもんなあ。それで僕に変な期待をされたのか。

 ミリィもそうだったのかな。もう一度ぐらい会いたいものだが。

 

「トオル。なにやってんのよー早くー」


 おっと行けない。ディートに呼ばれた。

 ノエラさんと部屋を出る前に首領さんのたわわなシルエットを目に焼き付けようと振り向く。

 首領さんはもうそこには居なかった。音も気配もしなかったのにさすが盗賊ギルドの首領だ。

 部屋から出るとノエラさんがロビーまでまた案内してくれた。

 ロビーはミリィもニックもいなくなっていた。


「それではニックと妹のメアリー、随行するギルド員を呼んできます。それと……」


 ノエラさんは当面のニックとメアリーの生活費という名目で帝国金貨を五枚差し出した。帝国金貨五枚というと日本で一万円に換金できるガディウス金貨五十枚分だ。

 なにかと物入りだったディートはニコニコしてそれを受け取った。


「ちょ、ちょっとディート。それはニック達のだよ」

「余ったらご随意ずいいにお使いください」


 ニックの生活費ということもあれば、地下ギルドみたいなところからお金を受け取っていいのかなあとも思ったが、ディートが旅の資金のほとんどを出しているので反対もできない。

 ただ、これでやはり盗賊ギルドは、ニック達にも当面の生活費を負担したり、見届ける同行者をつける組織ということがわかった。

 それほど悪い人達とも思えない。


「では、後ほど皆様に同行させていただくギルド員が来ますので、私はこれで失礼します。ニック達が無事に孤児院に入れたご報告で、また皆様に会えるのを楽しみにしています」


 ノエラさんは丁寧に頭を下げ、去って行った。

 しばらくロビーでニック達を待つ。


「おねーちゃーん」

「ニック!」


 建物の奥からニックがリアに走ってくる。リアは若いお母さんのようだった。

 ニック少年もまだ5、6歳にしか見えない。母親がいれば甘えたい年頃だろう。


「しゃあないね」

「そうね。まあ急ぐ旅でもないしね」

「いや、急いでるからね。江波さんが討伐されちゃったら大変だからね」

「あ、そうだった」


 僕とディートは笑いあった。

 そして少し遅れて小さな女の子と……ミリィ!?


「え? ひょっとして同行者って」

「なんだよ。俺じゃいけないのか?」


 金色の目にピョコンとした猫耳を付けた美少女が口を尖らす。

 どうやら僕達の旅の同行者はミリィらしい。


「いや。そんなことはないけど」


 リアはミリィに関心をよせず、楽しそうにニックとメアリーと話していたが、ディートは明らかに不満げの顔をしていた。


「俺は地下ばっかりで生活してるから地上の旅に出たかったんだよね。よろしくな」


 ミリィなら宿の調査も頼みやすい。


「ああ、よろしくね」

「首領がお前達には盗賊ギルドしか知らない地上への出口を教えてもいいってさ。本部のここからすぐだよ」

「マジか! やった!」

「じゃあ、行こうか」


 ミリィが本部から歩きはじめる。ニックはリアが手を引いていた。じゃあ僕はメアリーでもと思ったが、ディートが手を引いていた。

 子供は嫌いではないのかもしれない。

 ミリィが歩きながら話しかけてきた。


「首領はどうだった?」

「ああ、凄くいい人だったよ。シルエットだったけどスタイルも良いし」

「そうだろ? そうだろ? うふふ」


 ミリィは凄く機嫌がいい。彼女も首領さんが好きなのかもしれない。

 よし。もっと褒めよう。


「胸もたわわでさぁ。さすが首領って感じだったよ」

「そうです……かっ!」


 お尻に激痛が走る。


「痛ててててて!」

「ふんっ!」


 スタイルがいいと褒めても機嫌が良かったから大丈夫かと思ったけど、ミリィにお尻をつねられてしまった。

 さすがに胸まで褒めちゃまずいか。

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