たわわな再開発の件
盗賊ギルドの首領。
そんなおっかない人に会ってお礼を言われても楽しくはない。
「いや、いらなもうぐううううう」
断ろうとしたら後ろからディートに口を手で塞がれた。小声で諭される。
「こ、怖いこと言わないでよ」
「え? なにが?」
「盗賊ギルドの首領の面会を断ろうとしたでしょ」
「したけど?」
「この手の人はすっごい面子にこだわる人が多いんだから。特に盗賊ギルドの現首領は」
なんでも盗賊ギルドの現首領は名前すらも誰からも知られていない謎の人物で、先代からその地位を引き継ぎ二代目ドロシアと呼ばれているらしい。
地上の盗賊にも大きな影響があるらしい。
「八百人を率いているって盗賊の親玉の機嫌を損ねたら大変よ」
「八百人!?」
「そうよ」
地下ギルドの最大勢力とはいえ、それだけの人数の人が生きられるってことは地下一層は相当広いんだな。
東京ドーム何個分ですか、と聞いても答えは帰ってこないだろうけど。
「ともかく機嫌を損ねるのは得策じゃないし、気に入られれば逆に動きやすくなるわ。適当に挨拶しましょう」
盗賊ギルドを嫌うリアですら苦々しい顔はしながらも反論をしなかった。
ニックの頭を撫でている。リアはニックを引き取るにも挨拶をして筋を立てたほうがいいと判断したのかもしれない。
「じゃあ、ミリィ、お会いしたいんでお願いします」
「おっけー」
僕達は鉄の扉を出てミリィに付いて行った。
いつの間にかフードをかぶった男が増えている。隠れていたここからしてもう盗賊ギルドの支配地区だったんだろう。
商店が立ち並ぶメインストリートに並行した裏道を通る。
しかし、さきほどの商人ギルドとは違ってうらぶれていた。
「盗賊ギルドは商人ギルドより人数は多いけどビジネスが上手くないからね。さびれてるだろ」
ミリィにリアとディートは容赦が無く肯定したが、僕は少し別のことを思った。
「そうですね……再開発が必要かも」
「再開発?」
あっ。再開発という概念は異世界にはないんだろうか。
「えっとそうですね。再開発っていうのは古くなった地域に大資本を入れて、利便性を向上させたり、近代的に整備することを僕の故郷ではいいますかね」
「へー近代的にって言うと?」
「ん~そうだなあ。僕の故郷だと利便性を向上させるためにするけど地下一層の問題点っていうとやっぱり治安でしょう?」
「そうなるね」
「だったら商店や飲食店、あるいは住居を一緒にまとめて一つの大きな建物にするんです。その中は酔っ払いやヤク中を入れないで盗賊ギルド員が徹底的に警備する……とか?」
リアとディートが会話に入ってきた。
「それ凄くいいですね。少しは子供も安心できます」
「上手く行けば、地上からも客が増えそうね」
ミリィが歩みを止める。
「ト、トオル、その再開発ってやつについてもうちょっと教えてくれ!」
「え? ええ? そうだなあ……例えば、行政が、つまりここでは支配している盗賊ギルドが、民間の、いや地上の商会とかかな? そこと組んでさっき言ってた大きな建物を作らすんですよ。その代わり商売させたりとか」
ミリィがあまりにも真剣に僕を見て話を聞いてくれるものだから、こっちも一生懸命話す。
「それに商会もダンジョンの物品が手に入りやすくなるし、貴族とか王族とか教会の利権独占のために規制されてるビジネスなんかもここでは出来るだろうから、それを盗賊ギルドが保証してあげれば大商会からも引く手あまたなんじゃないかな。きっと利益の一部ももらえますよ」
異世界の地上がどういう統治になっているか正確にはわからないが、とりあえず言ってみた。
「地上の大商会が味方になれば、地下商人ギルドにビジネスで勝てるかもしれない……」
「資本力で勝ってるところが味方につけば、十分勝てるんじゃないかな?」
「トオルありがとう! 子供や盗み以外の仕事ができないギルド員にもお腹一杯食べさせていけそうだよ。やっぱり私が見込んだとおりだよ」
「いや、実際やろうと思うと凄く難しいことも多いと思いますけどね」
ミリィは様付けで呼ばれていたし、子供やギルド員のことまで考えているようなので、ひょっとしたら責任がある立場なのかもしれない。
「着いたよ」
盗賊ギルド本部は無骨な石造りの建物だった。意匠はなにもない。
質実剛健な作りだったが、代わりに厳しい男達がこれ見よがしに大人数で警護していた。
入口に一人だけ、いかにもできる風の細目の女性がいて、向こうから近づいて来た。
「首領の秘書のノエラです」
「あ、どうも」
「首領である二代目ドロシアが礼を申したいと。付いて来てください」
建物に入ってすぐのロビーでノエラさんは言った。
「キャットとニックはここで待っていなさい」
ミリィとニックと分かれてノエラさんに付いて僕とリア、ディートで建物の奥へ奥へ歩く。
なんだか何度もぐるぐる回って二人の男が守る部屋の前に着いた。
「中へどうぞ」
ノエラさんに促されるままに部屋に入ると奥には薄いカーテンが張ってあって、その向こうにベッドに横たわる女性がいた。
薄いとはいえカーテン越しなので顔はわからない。しかし胸はディートに負けず劣らず、たわわなことがわかる。スタイルも非常に良い。
僕達が棒立ちしているとノエラさんがカーテンのすぐ横に立って言った。
「こちらが二代目ドロシア様です」
「え? 女性」
「はい」
ドロシアという名前から考えれば、当然だよな。
しかし、何百人といる荒くれ者の首領がこんな胸が大きくてスタイルの良い女性だとは思わなかった。
僕は微乳も好きだが、もしミリィがこれぐらいたわわだったら危機を乗り越えられなかったかもしれない。




