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盗賊ギルドの猫型獣人の件

 くっ結局、キッチリ三回……ちゅーされてしまった。


「もういいでしょ。ギルド員の方は驚いてるけど僕のツレは開けろって怒ってますよ!」

「……」


 なぜかキャットは僕の上に乗ったまま動かない。


「あのさ。なんか盛り上がってこない?」

「へ? なにが?」

「俺……いや私、ミリアムって言うんだ。ミリィでいいよ」


 キャットは通称と聞いていた。本名はミリアムと言うことがわかった。

 呼び方はミリィでいいらしいが、それはともかく彼女はいけないことをしていた。


「ちょっちょっと待って。なんでミリィはショートパンツの止めボタンを外していくのさ」

「だって三回もちゅーしたらしたくならない……?」


 したくならないって。まさか。ひょっとして獣人はスポーツかなにかと同じノリでしてしまうのかもしれない。


「ならない! ならない! 僕、経験ないし!」

「私もないから優しくしてね……」

「えええ!?」


 とてもそうは見えない。とにかく退いてもらおう。


「トオルだって盛り上がってるじゃない」

「なにも盛り上がってないよ!?」

「もう嘘ばっかり」


 ミリィはフードを外して黒い猫耳をピョンと出す。

 そしていつ外れてもおかしくないローライズのショートパンツを強調させるように臀部を前後させる。実際にさらにその下にある黒い下着も見えてきている。

 その摩擦が僕の何かを刺激した。盛り上がってるってこれのことか!?


「獣人の耳を見てもホントに元気なんだね。嬉しいよ」


 暗闇の中でランプの光に照らされるミリィの肢体を見て盛り上げないほうが難しい。


「アホー! そりゃ誰だって元気になもぐもぐううううううぅ」


 もうちゅーしたってレベル限界上がらないのに!

 僕の手になぜか有線イヤホンがあることに気がつく。ミリィは夢中で気がついていない。

 な、なんだこれ? 線をたどると鎧に繋がっていることがわかった。

 ひょっとしてと思い、耳に装着してみる。その間もミリィの接吻と前後運動は続いていた。


「ひっくぐす! ご主人様のアレの状態が怖いです、怖いです~!」


 やはりイアホンからはシズクのメッセージが聞こえた。

 シズクが着装から逃げてしまったら大変なことになるぞ。

 もはやガードするものはなにもない。サッと青ざめる。


 すぐ扉の外には「開けなさい! 開けて!」の大合唱するリアとディート。

 体の上には盛った獣人……もとい盗賊ギルドのミリィ。

 今にも着装から逃げてしまいそうなシズク。

 人生最大の窮地を迎えていた。ともかく盛り下げねば!

 人生で一番悲しかったことを思い出す。……僕を育ててくれたおばあちゃんが死んだ日だ。


「あっご主人様! いつもみたいに可愛くなりました!」

「よし!」


 僕はありたっけの力でミリィを押した。


「あっん……」


 ちょうど押した手の位置が彼女の微美にゅ……胸にいってしまったが構うもんか。

 ノースリーブの黒いへそ出しシャツ上からだし、そのまま押した。


「やだっトオルっはげしっ」

「はぁはぁっ」


 なんとかミリーを押し退けて立ち上がることが出来た。

 僕は鬼の精神力でS字を作って呆けた顔で横たわるミリィのショートパンツのボタンを留め、肩を持ってI字に立たせた。フードもかぶせる。

 すぐに鉄の扉の開閉ボタンを押す。鉄の扉はゆっくりと上がっていった。


「やあ皆、無事でよかったよ」


 扉の向こうに居たリアとディートは呆気にとられた顔をしていた。売られそうになった少年のニックと盗賊ギルド員と思われる男もいた。

 リアとディートが聞いてきた。


「なにか変な音が聞こえていましたが、大丈夫でしたか?」

「いや全然。全然、大丈夫だよ」

「そこの女の声? で、今忙しいとか後にしてとか言ってたけど」

「……倉庫。倉庫の整理で手が離せなかったんだよ」


 リアは安心したような顔をして、ディートは疑いの眼差しを向けていた。


「とにかく中に入ってしばらく隠れよう」


 リアとディートと少年ニックが鉄の扉のなかに入ったので僕は開閉ボタンを押した。

 盗賊ギルド員の男は僕達を探し回る用心棒ギルドの奴らがいなくなったら教えに来てくれるらしい。

 再び、ランプの明かりだけの薄暗い部屋に戻った。


「それにしてもどうなることかと思ったよ。自分で止めてるくせにディートが急に用心棒ギルドをぶん殴るんだもなあ」

「ごめん。あんまりムカつくんで体が勝手に動いちゃったのよねえ」


 異世界には体が勝手に動く女性が多い気がする。まあ僕だって殴りそうだった。


「でもスッキリしました。ディートさんがやらなければ、私がやってましたよ」


 リアも含めて僕達は皆同じ気持ちだったらしい。


「しかし、このままだと用心棒ギルドに目をつけられないかな?」


 ディートもリアもパッとは解決策が浮かばないようだ。


「困ったわね~多勢に無勢だし、少しずつ殺したらさすがにそのうち殺人で手配されるだろうし」


 ディートが物騒なことを言う。


「普通の冒険者なら揉め事を起こしたらその地を離れればいいんですけどね……」


 リアの提案は合理的だったが、マンションがあるこのダンジョンを離れるわけにはいかない。


「リア、ディート。一層は盗賊ギルドや中立の支配地区だけ通って地上と二層に行き来できるルートってあるの?」


 二人とも首を振った。

 となると一番頼りになるのはミリィだが、先ほどから静かに木箱の上に座っているだけだった。

 目をとろんとさせて赤い顔をしている。

 リアが心配する。


「大丈夫ですか? 彼女」

「な、なんか風邪ひいているらしいよ」

「そうなんですか」


 ミリィの唇の端が艶っぽく光っていた。風邪で唾液は出ないと思う。というか僕の唾液かもしれない……。

 ディートが疑わしそうな目で僕を見ていた。


「と、ともかくさ。鉄の扉が空いたらとっとと地上に逃げちゃおうよ。二、三日逃げとけばアイツら忘れちゃうかもよ」

「まあこれぐらいの揉め事はよくあることだしね」


 ディートも同意した。

 すると急にミリィが背筋を伸ばした。


「ええ? トオル、地上に行っちゃうのか?」

「そりゃ。地下ギルドの人達みたいにダンジョンに住んでるわけでもないし」


 実際には住んでますけどマンションとダンジョンが繋がったマンジョンに住んでますけど。


「そしたらさ。皆、盗賊ギルドに入るといいよ。盗賊ギルドに入れば、一応、用心棒ギルドと不可侵協定もある。それに盗賊ギルドの設備やルートがほとんど使えるよ」

「悪くないわね」


 ディートが言った。不可侵協定のほうはニックが売られそうになるぐらいなので多少頼りないが、盗賊ギルドの設備やルートが使えるのはありがたい。


「本来なら上納金を納めて掟を守ってもらうんだけどニックを助けて貰ったからね。客分待遇で」


 ミリィが僕達が入った場合の詳しい条件面について説明してくれる。

 ところがリアが烈火のごとく言い放った。


「なにを言ってるんですか! 盗賊ギルドに入るなんてとんでもないです! この人達は強盗や盗みが生業なりわいの組合なんですよ!」


 さきほど悪くないと言ったディートも同意した。


「そ、そうだよね」


 リアは既に自分に懐いて膝に抱きついているニックを指差していった。


「この子もこの子の妹も私達が連れて行って地上の孤児院に移ってもらいます!」


 え、ええ? 僕の代わりにディートが言ってくれた。


「ちょ、ちょっとリアちゃん。私達はえーと何のために地上に行くんだっけ? とにかく子供なんか連れていけないでしょ」


 江波さんの討伐依頼を取り下げてもらうためだって。僕も半分、異世界観光気分だったけども。


「地下で暮らして盗みを覚えさせるなんて教育上よくありません! 目的がないのだからこの子達を地上の孤児院に連れて行ってもいいでしょう」

「そりゃ、そうだけど」


 いやいや、ディートも納得しちゃダメだって。一応、僕もリアを諭す。


「子供を二人預かるなんて大変な責任よ」

「孤児院に預けに行くだけです」


 うーん。まあ安全に地上に抜けることができればなんとかなるのか。

 ニック自身の意志は……見る限りリアにベッタリだ。僕はミリィのほうを見る。


「ん? あ、あぁ。親を失った子供が噂を聞いて勝手に集まっちゃうだけで、子供は盗賊ギルドなんかに来るべきじゃないって、俺も思ってるよ。けどお前達は別にいいだろう。大人なんだから……」


 リアがキッとミリィを睨みつける。彼女は黙り込んだ。


「決まりですね。ほとぼりが覚めるまで待って、ニックと妹を連れて地上に脱出しましょう」

「は、はい」


 僕は肯定の返事をせざるを得なかった。帰る時に用心棒ギルドに絡まれないか心配だが、後のことは後で考えよう。


「というわけでミリィ、地上に出るための安全なルートを教えてよ。ニックの妹も連れてきて」

「そ、そんなあ。もう一日ぐらいゆっくりして行ったら?」

「いやあ。地下はもういいや」


 そろそろ青空の下で出たい。


「宿の調査は?」

「孤児院に行くのが、じゃなくて江波さんの討伐依頼を取り下げてもらうのが最優先だからなあ。またもしミリィに会えたら頼んでいい?」


 本来の任務を忘れてはならない。リアとディートと異世界観光……ではなく、江波さんの救出だ。ましてやリアルファンタジーゲームでもない。

 とりあえず、猫型獣人は楽しんだ。


「ガイです。肥えたブタから奪え」


 ちょうど盗賊ギルド員の人が、連絡に来てくれたようだ。

 きっと用心棒ギルドの人は散ったんだろう。

 さてここから出て新しい冒険へ向かう時だ。


「キャット様、もう用心棒ギルドの奴らは……え? へい、へい」


 ミリィがガイという盗賊ギルド員になにやら話している。

 きっとニックの妹を連れてこいという司令だろう。これで一件落着だ。

 ミリィが戻ってきた。なんだかスキップしている。

 彼女は僕の方を見てニッコリと笑った。


「あのさ。うちのギルドの首領がお前達にニックを助けたお礼を言いたいって。付いて来て」


 荒くれ者を束ねる盗賊ギルドの首領が僕達にお礼を言いたいだって?

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