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トオル、ユニークスキルを炸裂させる件

 煙幕に覆われた店の前は過ぎたが、まだ目は染みていた。視界は完全には戻っていない。

 だが、僕を引っ張る人が素晴らしく均整の取れた筋肉の女性ということはわかった。

 なぜならノースリーブの黒いへそ出しシャツにショートパンツというスタイルで腕や太股やお尻の筋肉と尻尾が……。


「し、尻尾!?」

「助けたっていうのに尻尾が悪いの?」

「いや、すいません。ちょっとお尻に目が行ってビックリしてしまったもので」

「なっ!?」

「……じゃなくて、ありがとうございます」


 あの場から引っ張ってくれた人はやはり助けてくれたらしい。

 視力が回復したらお尻を……じゃなくて、もっと辺りの様子を探れるのに。

 シズクに状況を聞きたかったが、並走する女性にバレてしまうかもしれないのでそれもできなかった。

 女性が急に止まる。どうしたんだろうと思うと目の前は鉄の扉だった。

 ひょっとして。


「キャットだよ。開けてくれ」

「合言葉は?」

「肥えたブタから奪え」


 女性が扉に向かってなにか言っていた。扉の向こうにも人がいるらしい。

 すぐに鉄の扉は僕が使っている地下五層のものと同じ様に下から上がっていく。


「しばらくここに隠れてなよ」

「いや、それはありがたいんですけどツレの女性二人と男の子が」

「大丈夫、私の仲間が追われないようにバラバラに連れ去ったから。後から誰かがここに連れてくる手はずだよ」

「そうなんですか?」

「ああ」


 事実かどうか少し疑ったが、シズクは僕だけに聞こえるような小さな声を出した。


「ディート様も引っ張られていきました。リア様は抵抗しようとしたようですが、助けようとした人と話をしてとりあえず納得したようでした。男の子もです」


 いつもだけどシズクはなんて使えるんだ。


「じゃあ、お言葉に甘えまして」


 皆は無事っぽいし、宿は閉じこめるものではなく閉じこもるものだ。開閉のボタンは内側にある。

 だから閉じこめるというつもりはないだろう。

 鉄の扉の内側にいた男が出ていって、僕を助けた女性と鉄の扉の中に入る。

 僕が入ると女性は鉄の扉を閉めた。


 視界が大分回復した。宿の中を倉庫にしているようで様々なものや木箱が積まれていた。

 女性が男から受け取ったランプが無ければ宿の中は基本的に真っ暗だった。

 

「どこでも適当に座りなよ」

「あ、ありがとうございます」


 僕は木箱の上に座る。女性も僕の向かいの木箱の上に座った。

 女性はランプを自分の真横より少し後ろに置く。

 そのため顔は逆光になり、フードをしていることもあってよく見えない。

 代わりにスラッとした腕と太股とお腹は見える。先ほどは走っていたので筋肉が目立ったが、女性らしいの脂肪もランプの優しい光に照らされていた。

 だが胸は結構平らみたいだ。お尻も正面からなのでよく見えない。


「惜しい!」


 けどそっちのほうが好きな人もいるから。僕はどっちも好きだ。


「惜しい? なにが?」

「い、いや。なんでもありません」

「そう……」


 女性はそれだけ言うと黙り込んでしまった。

 会話がない。だが、逆光でわからないが観察されているような気がする。

 向こうからしてみれば順光なのだ。

 なにか言うべきなのだろうか。というかこの人はなんで助けてくれたんだろうか。

 宿を使えるということはどこかの地下ギルドのメンバーなのだろうか。

 男の子を助けたということは盗賊ギルドだろうか。


「あ、あのアナタは盗賊ギルドなんですか?」

「俺? 決まってるじゃない」


 女性が盗賊ギルドであることは決まっているらしい。誰でもわかるという意味だろう。

 用心棒の奴らのように剣と盾のマークは見当たらない。

 フードか? それとも獣人であること? 多分、フードだろう。被らないで首元にしていた人なら一層で何人か見た気がする。

 そして女性が僕っ娘ならぬ俺っ娘であるということもわかった。……それはあまり重要な情報ではないかもしれない。


「ニックを助けてくれてありがとね」

「え? ああ、あの男の子ですか」

「うん。私達だけで助け出すことも出来たと思うんだけど」


 そりゃそうだよな。大人三人も一緒に助けている。子供一人は楽勝だろう。


「でも、抗争になりかねないから表立って用心棒ギルドを殴ることはできないからな。スッとしたよ。ふふふ」


 なるほど。盗賊ギルドも色々大変らしい。


「アンタ名前は?」

「えっと、トールです」

「ふーんトールか。俺は皆からはキャットって言われている。借りは返す主義なんだ。なにか欲しいものないかい?」

「いや揉め事から助けてもらっただけでも結構ありがたいですし」

「揉め事はニックを助けたからそうなったんだろう。あのバカの額をかち割った礼もしたい。ふふふ」


 頭をかち割った男はかなりうざかったのだろう。


「そ、そうですか。じゃあ、結構大きな要求でもいいですかね?」

「ああ、なんでも言ってみな」

「この宿、っていうか部屋もらっていいですか? あ、中身の荷物は要らないです」

「……」


 ランプで照らされた薄暗い部屋は、しばらくの間、音がなくなった。


「ずいぶんデカく出たね……」

「やっぱりそうですかね……」


 もし、地上に近いこの部屋が自分のマンションの部屋と繋がっていたら利用価値は絶大だ。


「悪いけどさすがにそれはやれないね。私の一存で決められることでもないし」


 考えてみれば、地下ギルドにとっても宿は生命線だろう。

 しかし、もし繋がっていたらなんとしても欲しい。大金を作って払ったり、日本のアイテムをどっさり積んでもいい。

 とりあえず繋がっているか調査だけでもさせてもらえないだろうか。


「じゃあ代わりに宿のなかを調べてもいいですかね?」

「なんで?」

「あ、いや」


 マズイ。スパイかと思われただろうか。


「トールは学者だったのか? 冒険者って感じはあんまりしないもんな。それでモンスター言語なんて使ってるんだ」


 スパイではなく学者と思われたようだ。前にディートに聞いた話ではダンジョンには冒険者、商人、ならず者、観光目当ての旅人が多いが、調査目的の学者も少しは来るらしい。

 まあ派手に大立ち回りするスパイはいないだろう。誤解を利用させてもらうことにした。


「そんな感じです」

「俺と一緒ならいいよ」


 やった。キャットと名乗った女性はランプを手にとって立ち上がった。逆光だったランプが一部だが彼女の顔を照らす。

 おお! 女性と思っていたが、まだ少女といったほうがいいかもしれない。十六、七の美少女だ。

 やはり獣人なのか猫目で色はゴールドだった。フードを被っているのでわからないが黒髪のショートに耳らしきものも僅かに見える。


「な、なんだよ。ジロジロ見て」

「あ、いや」


 とりあえず、部屋の中の壁に沿って玄関のドアがないか調べてみる。

 キャットが後ろからランプで照らしてくれる。


「ふーむ」


 無いなあ。この部屋には玄関のドアはないのかもしれない。


「盗賊ギルドが所有している別の宿を調べさせてもらってもいいですか?」

「ウチのギルドの所有と世間に知られている場所なら構わないが、仲間と合流してからのほうがいいんじゃないか」

「ああ、それはそうですね」

 

 また鉄の扉の近くの木箱の上に向かい合って座る。やはりランプを逆光気味に置かれた。

 顔を見られたくないのかもしれない。

 またランプの光だけの無音の暗い部屋になった。

 キャットが急に話しかけてきた。


「ねえ。トールは猫型獣人嫌い?」

「え? どうして?」

「……」


 いきなり獣人が好きか嫌いか聞かれる。嫌いということはない。むしろ日本人の一オタクとして興味津々だ。

 だが、興味があるというのは失礼な気がする。


「いやむしろ好きですけど」

「な、なによ? それ」


 彼女はフードをさらに目深にかぶる。


「なんか変なこと言いました?」

「に、人間は猫型獣人を嫌う人が多いじゃない」


 そうなのか。知らなかった。


「僕の業界はむしろ大好きですけど」


 鎧となったシズクがプルプルと同意している。シズクはよく勉強していた。薄い本で。


「ふ、ふーん……アナタの学者の仲間のなかではそうなんだ」

「ところでキャットって本名ですか?」

「……通称だよ」


 通称か。でもなんで私は猫型獣人だよって言ってるような名前にするんだろうか。

 人間には猫型獣人を嫌う人が多いと聞いたばかりだ。

 ちょっとキャットに人物鑑定スキルを使ってみようか? 本名もわかるし。

 よーし! キャットのステータスオープン!


「あ、あれ?」


 キャットのステータスが見れない。今までそんなことはなかったが。


「トール! 今、俺のステータス見ようとしただろう!」

「あ、いや。その本当の名前が知りたくてさ」


 そういうえば、盗賊はスキル感知を持っていてステータスを見ようとするとバレることがあると聞いていた。


「トールも使ったんだから俺も使うからね。言っとくけど俺の人物鑑定スキルはレベルが高いよ」

「げっ」


 僕が変な名前であることや変わったステータスであることがバレる。大丈夫だろうか。


「ぷっ鈴木透ズズキトオルだって変な名前。どこの国の出身よ」


 日本です。少なくともキャットの中では名前は問題にはならないらしい。


「なになに。成長限界無し。やるわね。え? 潜在ユニークスキルまであるじゃない? な、なにこれ!?」


 へ? 隠しスキル?


「ちゅーすると女性のレベル限界を二倍まで一日三回1上げますスキル!!!???」


 なが! 長いスキル名だな! いやそうじゃなくて!


「例の効果ってそんなスキルだった……」


 とまで言ったときだった。


「のぉぉぉっ!?」

「ちょっと試させて! お願い! お願い!」

「ちょっ待っもぐもわああああ」


 キャットに押し乗られて口を口で塞がれる。

 この世界の人はそんなにレベル限界を上げたいのかよ! そりゃ上げたいだろうな。


「上がった! 上がったわ! レベル限界が1上がった!」


 キャットはレベル限界が近かったかマックスだったんだろうか。

 よほど嬉しかったのだろうか。しかしこれは。


「双方の同意が成立していないぞ!」

「もう一回、ねえ、もう一回いいでしょ?」

「よ、よかないよ」

「やっぱりトールは猫型獣人が嫌いなんだね」

「いや大好きだけどもがあああああああ」


 キャットは僕を全身で押さえつけてディープにしてくる。スキルの条件に軽いヤツかディープなヤツかなど書いてないぞ!

 その時、鉄の扉の向こうから声が聞こえてきた。


「もしトール様がひどい目に会ってたら……盗賊ギルド……潰しますよ」


 げっこの声はリアの声だ! 僕の前では決して出さないドスを利かせた声だった。


「だからリア~。この人達は私達を助けてくれたんだって」


 うへっこの間延びした喋り方はディート。

 やばい。キャットを押して離れようとするが、全身で抱きつかれていて難しい。


「もぐもぐぅ~」

「トール様?」

「トオル?」


 鉄の扉の向こうからちょっと早く開けなさいとかなんとか会話が聞こえる。


「キャット様。ガイです。肥えたブタから奪え」


 おそらく向こうにいる盗賊ギルドの男が合言葉を言う。

 これでキャットも僕から離れて鉄の扉の開閉ボタンを押さざるをえないだろう。

 ところが……。


「ぷはぁっ! 今、忙しいの! 後にして!」

「えええええもうぐうううううぅ」


 再びキャットが僕の口を貪る。

 扉の外からも「えええええ!?」という声が聞こえていた。

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