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地下一層の住人の件

 リアやディートの話ではダンジョンの地下一層は文字通りのアンダーグランドな人間のテリトリーになっているらしい。

 また複数の勢力が縄張り争いもしている。

 勢力が大きい順に強盗や盗みやスリを生業にしている盗賊ギルド、一般の商品も扱っているが地上では扱えない商品も扱っている商人ギルド、そして最近台頭しているのが傭兵ギルド、通称用心棒ギルドだという。


「ちょっと怖いな」


 僕が深刻な顔をしているとディートが気楽にいった。


「まあ傭兵ギルドだけ気をつけてれば大丈夫よ」

「え? 盗賊ギルドのほうが悪そうじゃない?」


 商人も傭兵も正業だと思う。日本の感覚では盗賊だけが最初から犯罪者だ。

 それにリアが同調する。


「そうですよ。盗賊ギルドも悪いです」

「え? どういうことよ?」


 リアとディートの意見が対立する。

 ディートの話によれば、盗賊ギルドは先代首領だった伝説の大盗賊ドロシアの「貧しきものから盗みを働くべからず」という命令が曲がりなりにも守られているらしい。

 もっぱら貴族や大商人を狙う。つまり義賊だった。

 しかし、領民を守るために没落してしまった貴族の主家を持っていたリアにとってはたまったものではないようだ。


「カーチェ家も家財を盗まれたことがあるんですよ!」

「ヨーミの迷宮の盗賊ギルドの仕業とはわからないじゃない?」

「ドロシアの名前を名乗っていたと聞いています!」

「盗賊ギルドは親のいない子供も受け入れてるからね。犯罪だろうがなにかしないと生きていけないわ。貴族からかすめ取るなら悪くはないわ」

「ちゃんとした孤児院に入ればいいんですよ!」

「全員が入れないでしょ!」


 二人の話は平行線を辿りそうだった。


「商人ギルドは?」

「ありがたい存在でもあるわ」


 ディートによれば、食料や日用品から武器防具やダンジョン探索に必要なアイテムなどを販売している。

 地上の店に発掘品を売れない犯罪者の商品も扱うので、掘り出し物が安く売られていたりもするらしい。

 しかし、リアは商人ギルドも好ましく思っていないようだ。


「地上の法律で禁止されている商品を売っていたりサービスを提供していたりもします」


 危険な薬、年端のいかない子供、呪われた武器を売ったり、賭場や怪しげなサービスを提供しているらしい。


「でも、そういうことが世の中には必要な人もいるから。ある程度は必要悪よ」


 ディートの意見にリアが反論する。


「ディートさんはたまに商人ギルドの賭場にいかれるんですよね? 冒険者ギルドの酒場で噂になってますよ」

「うっ。別に賭場は地上にあるし」

「レートが違いますよ」

「商人ギルドはやっぱり盗賊ギルドより悪ね。無理やり私を賭場に……」


 さっきまでディートは商人ギルドを庇うようなことを言ってなかっただろうか。


「ディートさんを無理やり賭場に連れて行くことができる人なんてほとんどいないですよ」


 ディートはどうやら賭け事も好きらしい。


「まあ商人ギルドはこちらから関わらなければ、大丈夫なんですけどね」

「どうして取り締まらない?」


 リアは答えにくそうにしている。代わりにディートが答えた。


「お金が動けば、権力を持っている人間も食い込んでいるからね」


 リアは自分の世界のことを恥ずかしいと思って答えなかったのかもしれないが、その辺の事情は日本もあるだろう。


「最後の傭兵ギルドは?」

「最悪ね」


 これにはリアもディートも意見の一致を見たようだ。

 地下一層にある商店や初級冒険者から守り代という名目で金をせびるのが傭兵ギルド、通称用心棒ギルドの主な資金源らしい。


「実際に守ってくれるのか?」

「初級冒険者の探索に用心棒という名目で勝手についてきて収穫したものをすべて奪ったとか聞きますよ」


 リアが怒る。必要悪を認めることがあるディートですら用心棒ギルドには厳しい。


「地下層へ行くのに便利な道の通行料をとったりするしね。管理料だとか言って」


 僕も初めて知ったのだが、ダンジョンは広大で地下層から別の地下層に行く道や階段も一つではない。

 ディートは安全かつ早く地上に出れるルートを知っている。

 地下一層の便利なルートの一つを用心棒ギルドが独占しているらしい。


「一人なら雑魚なんだけど多勢に無勢なのよ!」


 ともかく地下一層はモンスターはほとんど出ないし人間や亜人による生活圏ができているが、代わりにアンダーグラウンドな人や場所多いということだった。

 なんだか盗賊ギルドが一番マシな気がした。

 

◆◆◆


 カレーを食べ終えて陽光降り注ぐ森の中を歩く。

 歩きながらふと気づく。


「シズク、緑色になってもらってるけど大丈夫かなあ? 一層でスライム連れてたら目立つんじゃないかな?」

「魔物鑑定スキルを持っている人がいたら確実に使ってくるでしょうね。白スライムってバレてしまうかも」


 リアが困ったように言った。

 一層の輩が魔物の鑑定スキルを使ってもまったくおかしくない。


「ご、ご主人様。私、ご迷惑おかけしてますか?」


 シズクがプルプルと悲しそうに震える。


「いや、そんなことないって! リュックに入っといてもらえばいいよ」


 リアが首を振った。


「貴重なものが入っていないかバッグの中を見せろとか言ってくる用心棒ギルドの輩もいますよ。見せない手もありますが……見せろ、見せないで揉めてしまうかも」

「うーん……そうだ! シズクに服になってもらえばいい」

「服?」

「ああ、シズクは服にもなれるんだ」


 シズクが今度はプルプルと嬉しそうに震える。


「なれます!」

「そ、そうだったんですか。でも道具鑑定スキルを使ってくる人もいますよ」

「え?」

「トール様の服は珍しいから道具鑑定スキルもされるかも。服なら白スライムほど貴重がられないとは思いますが、シズクだとなんで道具鑑定できないんだって不審がられるかも」

「ダメか」


 そりゃそうだよな。日本の服なんて珍しいし。

 ん? 待てよ? 珍しくなければいいんじゃないか。


「シズクは遠目にしか見てないと思うけどあの人の服になれるかなあ?」

「あの人? 誰ですか?」


 あの人の格好ならわざわざ道具鑑定もされないはずだ。


◆◆◆


「どうよ? リア、ディート」


 僕は傷だらけの革鎧を着ていた。

 味噌一番を振る舞った顔に十字傷がある冒険者ダンさんの格好だ。

 これ、カッコいいと思ってたんだよね。


「ベテランの冒険者みたいです!」

「へ~。似合ってる似合ってる」

「やった!」


 シズクのコピー能力はさすがだった。


「ご主人様に喜んでもらえて嬉しいです!」

「武器がピッケルなのがちょっとアレだけど鉄の剣でもあったら冒険者そのものだな」


 ディートが笑って言った。


「はいはい。一層に着いたら買ってあげるわよ」

「本当? そしたら皆でアイポンで写真取ろう」


 ディートとリアは意味がわからないという顔をしていたが日本に帰ってから写真にしてあげたらきっと喜んでくれるだろう。

 森の中に自然洞窟が現れる。なかには階段のような段差が見えた。

 

「さあ。そろそろ地下一層だから住人と揉めないように気をつけてね」


 僕は気を引き締めながら洞窟の中の階段を踏み上がっていった。

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