日本のアイテムはダンジョン探索にやっぱり便利な件
三層のキャンプ地とも言うべき牢が集まっている場所には冒険者のパーティーが何組もいた。
白スライムであるシズクは、さすがにそのままの姿でいるわけにはいかないので緑色になってもらった。冒険者には魔物使いがたまにいるので緑色のスライムなら従えていても別に不思議はないというわけだ。
リアが適当な牢の中に入ってリュックサックを下ろした。
牢は誰が整備しているのか冒険者のために内側からかんぬきも掛けられるようになっている。
「ここでキャンプをして明日からまた地上を目指すってわけだね」
「はい。そうです」
リアが教えてくれた。
確かにこの牢のなかならモンスターが来ても安心だ。
「じゃあ夕飯を作ろうか?」
「ここは他の冒険者パーティーも多いからあまり香りがしないお食事のほうがいいかもしれませんね」
確かにそうだ。味噌一番は味噌の香りが立ちすぎた。
今度はさすがに配れる量もない。
「量が少ないけどインスタントのお粥にしようか」
「ええっー? お腹減ったぁー」
ディートが文句を言っている。
「しょうがないじゃないか。本当はレトルトカレーも持ってきたんだけど香りが凄いからさ」
「えええ? カレーあるの? 野菜カレー?」
ディートは野菜カレーが大好きなのだ。
「うん。でもカレーは香りが凄いだろ」
「カレー食べたい! カレー食べたい! カレー食べたい!」
「子供みたいにワガママ言うなよ!」
ディートは本当に二百歳なんだろうか。
「ディートさん、カレーは明日食べましょう。ね?」
「わかったわよぅ」
十八歳のリアに諭されていた。
世慣れた冒険者としての顔とどちらが本当の顔なんだろう。
「お粥……美味しいけど……少ない……」
「ディートさん、もしよかったら私のをどうぞ」
シズクがプルプルとマグカップに入ったインスタントお粥をすすめる。
「ありがとーシズク」
「おい! ディート! いいわけないだろ!」
「いいんですよ。ご主人様。私は一日ぐらい食べなくても全然平気ですし」
ディートは完全に甘えていた。一人で生きてきた反動だろうか。
理由はわからないが、ディートはギルドからパーティーを組むことを推奨されているこのダンジョンも常に一人で探索しているらしい。
ひょっとしたらこうやって楽しいパーティーを組んだのはずっと昔なのかもしれない。
「ごちそうさま~やっぱり少ないなあ」
「1.5人分食ったのに」
まあいいか。ディートもこうやって僕達とならいつでもパーティーを組んでくれるようになるかもしれない。
食後、僕はお湯を沸かしていた。
お風呂に入ることはもちろん出来ないのでお湯を含ませたタオルで体を拭くことにしたのだ。
リアとディートが牢の奥で拭いているころ、僕はシズクを拭いてあげた。
意味があるのかはよくわからないが。
「シズク気持ちいい?」
「とっても気持ちいいです~ありがとうございます。ご主人様」
シズクは気持ちよさそうにプルプルする。
僕の背中もシズクが拭いてくれた。
「さーて、一応さっぱりしたし寝ますかね。さてアレを……これがあったから重かったんだよ」
寝袋三個だ。最近のは非常に軽くて保温効果もありマットとしても使えるが、それでも1キロはある。
「日本の道具は本当に快適ですね~。こんな便利なもの大賢者様が作ったアーティファクトでもきっとありませんよ。ぐっすり寝れそうです」
「本当ねえ。ダンジョンの床は底冷えするんだけど全然寒くないわ……トオルこれも……頂戴……ね……」
リアとディートは早くも眠そうな声になっていた。
重い思いをして運んできたものがあった。
「シズクおいで」
寝袋を少し開けるとシズクが中にはいってきた。
「ご主人様。暖かいです」
「うん。僕もだよ」
マンションの部屋と変わらず、ダンジョンでもぐっすり寝れそうだ。
◆◆◆
カロリーフレンドを朝食にとって、また地上に向かって歩き続ける。
ダンジョンの二層は驚くべきことに森だった。
しかも明るい、ヘッドライトもランタンもディートのペンダントもいらなかった。
「地下に森があるのか。これは太陽の光?」
リアが教えてくれた。
「違いますよ。森中に太陽苔って言われている苔が群生して光を放っているんです」
「へ~まるで陽の光みたいだ」
子供のようなワガママも言えば、インテリのようなことを言うのもディートだ。
「実際、同じような性質だっていう学者もいるわ。この光で森の木は養分を作っているとか」
つまり光合成ってことか。
「モンスターは?」
「青スライムとおばけキノコぐらいね」
なら楽勝だ。危険もないだろうし、お昼になったらカレーを食べさせてあげよう。
「そっか。じゃあお昼になったらカレーを作るよ」
「ホント?」
それからはしばらくはディートの「カッレェー! カッレェー! カッレェー!」という歌とともに行進した。
三時間ほど歩いた。開けた場所に出る。
「そろそろ昼食時かな」
リアが言った。
「この辺は開けてるからかいいかもしれませんね」
他の冒険者もいない。
「じゃあカレーを作るか」
「やったー!」
僕は飯ごうでご飯を炊くのと同時にお湯の中にレトルトカレーが入ったパックを入れる。
「カレーどこにあるの?」
「この銀色のパックのなかさ」
「えええええ。そんなあ……」
ディートが不満げだ。
「そんなあってなにさ」
「カレーって言ったらにんじんや玉ねぎやじゃがいもを切って入れるんじゃない」
ディートはもっぱら食べることが専門だが、カレーだけは料理を見ていた。
「冒険中にそんなカレー作れないだろ。もう出来てるカレーもあるのさ」
「そんなの美味しいの?」
落胆したような声を出される。
「食べてからのお楽しみってことで」
僕は飯ごうで炊けたご飯を皿に盛りレトルトパックのカレーをかけた。
「見た目は美味しそうね。香りも。いただきます」
ディートがカレーを口に入れる。
「ん~~~美味しい! トオルが野菜を切って作ったのと同じぐらい美味しいかも」
「悲しいことにね。このレトルトシリーズのカレーは凄く美味しいんだよ」
レトルトカレーにはレトルトカレーの美味しさがあるんだよね。
ちなみにディートには野菜カレーを出しているが、僕とリアとシズクの分はビーフカレーだ。
好みの味を選べるのも嬉しい。
一際、美味しいのは、優しい陽光を降り注ぐ緑の森の中で、皆と食べるからだろうか。
カレーを食べながら色々な話に花が咲く。話は地下一層のことになった。
リアもディートも急に厳しい顔になる。ディートが重々しく言った。
「トオルとシズクちゃんは一層は特に気をつけて」
「え? なんで?」
普通に考えれば、地下深く潜るほど危険が増すのだ。
一層が一番安全そうなものだが。
「一層は地上では生きられない人間や亜人達の住居なのよ。犯罪者も多いし、縄張り争いもあるわ」
な、なんだって?




