異世界の冒険者パーティーに会った件
「うわっ!」
現れた大ねずみのモンスターに驚いて声をあげる。それが僕の仕事になりつつあった。
ディートとリアは一瞬でモンスターを倒す。
「お、驚いた」
「トオルは驚きすぎよ」
「仕方ないだろ。日本にモンスターなんかいないんだからさ!」
ディートとリアの話によると僕のレベルとステータスと装備ならば、大ねずみぐらいは余裕で倒せるらしい。
何気なく今の自分にステータスチェックをしてみる。
◆◆◆
【名 前】鈴木透スズキトオル
【種 族】人間
【年 齢】21
【職 業】無職
【レベル】10/∞
【体 力】36/36
【魔 力】52/52
【攻撃力】124
【防御力】98
【筋 力】20
【知 力】35
【敏 捷】21
【スキル】成長限界無し 人物鑑定LV3/10
◆◆◆
飛躍的に防御力が向上したのはヘルメットの他にワークショップで安全靴を買ってきて履いているからかもしれない。
それにしても鋼板入っている靴よりもスクール水着のほうが防御力があがるのは謎だ。
ところで以前、リアにスキル『人物鑑定』をかけたことがあるが、その時はスキルレベルが1だったからか年齢までしか見ることができなかった。
今は人物鑑定スキルのスキルレベルが3まであがっている。
ディートの話によるとスキルレベルはレベルが上がると一緒にあがるスキルと使用することで上がるスキルがあるらしい。人物鑑定はレベルが上がるとスキルレベルがあがるタイプかもしれない。
速度にも個人の個性があるようだ。
まあとりあえず、リアかディートに試しに使ってみよう。
どちらにしようか? ディートだな。リアよりディートのほうが気楽にステータスを見れる。
ディートからステータスチェックをしたものを聞いたこともあるしね。
◆◆◆
【名 前】ディート=マカロン
【種 族】ハイエルフ
【年 齢】221
【職 業】魔法使い
【レベル】48/49
【体 力】72/72
◆◆◆
ディートのステータスが心にイメージとして浮ぶ。
おお! 【体 力】まで見えるようになっている。
こりゃ便利だ。僕の『人物鑑定』スキルレベルが上がれば、ディートの能力は常に丸裸にできると言うわけだ。
ん? レベルが1上がっている? 確か彼女のレベルは元々47が限界レベルで……その僕と二回ちゅーすることで最大値が49になっているけどレベル自体は47だったはずだ。
それから1上げたんだな。考えてみればディートは目の下にクマを作ってまで、昼も夜もずーとパソコンに向かってカチカチカチやってたもんな。
ん? それってひょっとして早くレベルを上げて僕と……。
ま、まあいいや。
次はリアのステータスを見てみよう。
◆◆◆
【名 前】アリア=エルドラクス
【種 族】人間
【年 齢】18
【職 業】騎士
【レベル】32/56
【体 力】139/139
◆◆◆
今度はリアのステータスが心にイメージとして浮ぶ。
やはり僕の『人物鑑定』スキルで他人の【体 力】まで確認できるようになっているようだ。
リアの【職 業】はやっぱり騎士なのか。軍事貴族の家って言ってたもんなー。
レベルはディートよりは低いらしい。限界は56。
うん? そういえば、一回……リアともしてるんだよな。
「リア。今、大丈夫?」
「はい。どうしました?」
パーティーの先頭にいるリアは前後左右を警戒をとかずにパーティーの一行の中段にいる僕に聞き返してきた。
「最近レベル限界が1上がらなかった?」
「え? なんでご存知なんですか!? トオル様、なにか知ってるんですか?」
「実は……」
僕が答えようとするとパーティーの最後尾を守るディートから恐ろしげな声が聞こえてきた。
「ト ~ オ ~ ル ~ !」
振り向くとディートの美しい切れ長の目と愛らしい唇が般若のような形相を作っていた。
「あ、いや人物鑑定スキルを持っているからさ。前にちょっとリアの限界レベル見せてもらったんだけど上がってる気がしたから」
「そ、そうでしたか……。原因を知りたいと思っているんですが」
原因は僕のちゅーだよ。
◆◆◆
ヨーミの迷宮は階層ごとにまったく違う様相を見せるらしい。
現状、僕のマンションと繋がっている地下五層は比較的オーソドックスな迷路のような階層だ。代わりに様々なモンスターが力攻めで襲ってくる階層らしい。
何度も往復しているディートは地下四層に上がるための正確な道順を知ってると主張していた。
先ほど実際に四層に上がれたわけだが、四時間ぐらいぶっ通しで歩いた。
「こ、これで最短距離なの?」
「そうよ。早かったでしょ?」
日本人がモンスターに緊張しながら四時間も歩くのは相当つらい。
本当に最短距離なのかと疑ったがリアも早いと驚いていた。
「私、五層に降りてトール様の部屋にたどり着くまで一日近くかかってるかもしれませんよ」
やはりディートはレベルも高いからダンジョンの探索能力も高いのかもしれない。
だがこちらはもう限界だ。
「とりあえず、ちょっと休まないか? 普段だったらお昼の時間過ぎてるしさ」
「そうね。もう少し歩くと水場があるからそこまで行きましょうか?」
「それって何分ぐらい?」
「一時間ぐらいかな」
「マジか」
僕も体力をつけないといけないな。
地下四層は巨大な大樹の根の間を通るようなダンジョンだった。五層と同じ様に石壁なのだが根がそれを破壊して土砂が侵食している場所も多い。歩き難くて仕方ない。
「モンスターは五層よりも少ないけど、撥ね飛ばされたりすると尖った根が体に刺さったりすることもあるわよ。だから雑魚モンスターでも油断しないでね」
「冗談だろ?」
ディートが脇道を指差す。僕がヘッドライトで照らした先には尖った根に付着した衣服の切れ端とその下には髑髏が転がっていた。
「気をつけます」
「よろしい」
僕達は黙々と歩き続ける。
さっき一時間って聞いたけどもう一時間半ぐらい歩いてるぞ。
ディートは少し大きな部屋の中に入っていく。部屋の中の根は刃物で綺麗に削られていた。
「歩きやすいな」
「ここが水場だからね。ほら」
ディートが見ている方向を見ると石壁に獅子の彫刻が彫られていた。口からは澄んだ水が流れてて、やはり石の台に溜まっている。
「へ~ここが水場か。でもモンスターは来ないの?」
「人間が飲めるような水が出る場所は人間が集まるからモンスターも警戒して少ないわね。もっとも人間を恐れないモンスターだらけの階層もあるけど」
なるほど。そういうことか。
水を飲もうと水場に近づくと部屋の隅に、何人かの人が固まって座っていることに気がついた。
「い、異世界人だ」
剣や杖など装備からして冒険者だ。ダンジョンのなかにいるのだから当たり前だけれども。きっと休憩しているのだろう。
リアとディートが彼らを見る。ディートは無視して、リアは軽く会釈した。
水を飲みながら小さな声で足元のシズクに話しかけた。
「つ、強そうだね」
「は、はい。ご主人様」
「シズクは貴重なスライムだからあまり彼らの眼に入らないほうがいいかもしれないぞ」
シズクを僕の体の影に隠そうとしているとディートが言った。
「大丈夫よ。一応だけど他のパーティーとの争いは冒険者ギルドで禁止されてるから。トオルもしないでね。賞金かけられちゃうわよ」
「ああ、なるほど。そういう仕組みか」
「それに彼らはあんまり強くないから」
「ええ? そうなの?」
とてもそうは見えない。顔に大きな十文字傷がある人までいるぞ。
「疑うなら誰かトオルのスキルで見てみたら?」
その手があったか。知らない異世界人のステータス……凄く見てみたい!
「あ、でもあの一番背の小さい赤毛の少年はみちゃダメよ」
「なんで?」
「多分、盗賊だからスキルを感知するスキルを持っていてもおかしくないわ。トオルがなにかのスキルを自分に使ったと気が付かれるわよ」
なるほど。それは揉め事のもとだ。じゃあ、あの十字傷の人を。
◆◆◆
【名 前】ダン
【種 族】人間
【年 齢】38
【職 業】剣士
【レベル】12/20
【体 力】45/45
◆◆◆
「え? レベル12」
拍子抜けする。僕より2高いだけじゃないか。
「へえ。まあまあね」
ディートが水を飲みながら僕のレベル12という言葉に反応する。
「え? レベル12が? 僕だって10だよ」
「レベル10まで死なないで冒険者していたら中堅じゃないかしら? きっと3年以上は冒険者やってるわよ」
「そんなもんなの?」
「えぇ。ハッキリ言ってレベル一桁代で大ムカデ倒すなんて信じられないわ」
「そ、そういうもんなのか」
「しかもポテチを食べつつ、コーラを飲みながらなんて……」
自分もやってたくせにディートが怒り出す。話題を変えよう。
「と、ところでディートは彼らがなんであんまり強くないってわかったの?」
「見ればなんとなくわかるわ」
うーん。僕からしてみたら百戦錬磨の冒険者に見えるがけど。
さすがにディートは冒険者をしているだけのことはあるな。




