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合鍵の秘密の件

「あ~シズク。気持ちいいよ~そこそこ。いや、もうちょっと下かな」

「はーい、ご主人様。この辺ですか」

「そうそう。あ~気持ちい~い」


 リアの真銀の剣を取り戻してから二日が経っていた。


「他にもかゆいところはありませんか~?」

「うん。大丈夫だよ。シズクのシャンプーは本当に気持ちいなあ」


 本当は江波さんを早く助けるために異世界に行きたかったんだが、バイトのシフトの都合上そういうわけにもいかなかったのだ。

 ディートが地上に戻って例の二人をまたここに連れてくるまでの間、真面目にバイトに行っていたので、明日から一週間の休みをもらえた。

 というわけで大冒険は明日からになるだろう。

 それまで江波さん討伐依頼クエストが達成されないといいんだけど……まあ、その心配はほとんどしていない。

 レベル上げのクリックゲーにハマったディートが「また江波とオークに餌だけ取られたわ!」と一時間に一回は怒っていた。

 その調子ならオークも強いらしいし、江波さんを心配する必要性はあまりないだろう。


「ご主人様、お背中も洗いますね~」

「うん。ありがとう」


 ちなみにどうしてシズクとお風呂に入っているかというとシズクが薄い本からまた変な知識を得てしまったのだ。

 僕は寝る前にお風呂というかシャワーを浴びて寝ることが多かったのだが、バイトから帰ってくるとすぐに「ご主人様、ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも……」と聞いてくる。

 そいうこともあって女性と暮らしているわけだし、最近はバイトから帰ってきたら汗を流すことにしていた。

 まあシズクが一緒に入ってくるのは計算外だったけどね。


「ご主人様~前も洗いましょうか?」

「いやいや。前はいいから」

「そうですか……」


 シズクが悲しそうにしょぼんとする。しょぼんとされても断るしかない。

 シズクは自分の体を使って僕の頭や背中を洗ってくれるのだが、それだけでなんか変な気分になってしまう時がある。性別どころか種族すら超えているのに……。

 前など洗われたらいつもの状態でいられるか自信はない。


「そうだ! リア様かディート様のお姿になりますので、それなら前を洗ってもいいですか?」


 な、なんだと。


「どちらがいいですか? ご しゅ じ ん さ ま」


 この言い方も薄い本で覚えたんだろうか。いつもの状態でいられるのは不可能だった。


「あ、わわわわわ私。先に湯船に入ってます」


 シズクは緊急事態になったアレが怖いらしい。シズクがさせたのに……。

 元の状態に戻す度に冷水のシャワーを浴びながら某漫画のように感謝の合掌する。最近、毎日のようにしている。そのうちなにかの能力に目覚めたりして。

 冷水と合掌によってなんとかシズクを怯えさせない状態にしてから一緒に湯船に浸かった。


「ご主人様~」


 シズクは半分浴槽の湯に浮きながら僕の胸に乗っかるのが好きだ。嬉しそうにプルプルと震えている。


「いや~極楽だなあ~」


 シズクとずっとお風呂に入っていたいが、ディートがお腹が減ったと言い出す時間だ。

 そろそろ出るか。


◆◆◆


「今日のご飯はなっにかしら~♪」


 シズクに新メニューを見せながら夕食を作ってるとディートがやってきた。


「今日は鶏肉の水炊き鍋だよ」

「やった~私の食べたことないやつね? 日本の食事はなにを食べても美味しいのよねぇ」

「うん。栄養のあるものを食べてダンジョンに備えないとね」

「心配しなくても大丈夫よ。私とリアがいるんだから」


 ディートなりに僕を気遣ってくれているらしい。


「でも美味しいものを食べられるならいいだろ?」

「そりゃそうね」

「ところでリアは?」

「ダンジョンの大部屋で剣の修行をしてるんじゃないかしら」


 真銀の剣が戻ってきてからのリアは絶好調だ。

 ディートのレベル上げゲームで大部屋の中に入ってきたモンスターを積極的に狩りにいく。体調がおかしくなることもない。トラウマは完全に克服したようだ。


「そっか。そろそろ夕飯ができるから呼んでこよう」


 リアもディートも異世界人は一回外に出ると僕と一緒じゃないと戻れないのが不便だなあ。まあしょうがない。


「ただいま~」

「おかえりなさーい」


 僕とリアが戻るとテーブルにはもう鍋が準備されていた。きっとシズクだろう。

 四人で一緒に鍋を囲む。三人と一匹だろうか。まあどっちでもいい。


「いただきまーす」


 新しいメニューでは僕がまず食べ方を実演して見せるのが恒例の行事だ。小皿にはいったポン酢に鶏肉や野菜を軽く付けて食べる。


「うーん。美味しい」


 リアとディートも真似して食べる。お箸の使い方も大分上達した。


「ん~美味しいです。鶏肉が最高ですね」

「野菜と白いキノコも凄く美味しいわ~!」

「えのき茸だよ。そっちの世界にはないの?」

「ないよーこんなの」


 異世界にえのき茸はないらしい。どうやらリアは特に肉が好きなようで、ディートは特に野菜やキノコが好きみたいだ。


「ご主人様~私にも食べさしてください」

「あ~ごめんごめん」


 テーブルで鍋のような食事だと人間形態にならないとシズクは食べられない。自分の姿を見ながらご飯を食べるのは辛いので三人が交代でシズクに食べさせていた。 

 今日は僕の順番だった。


「はーい。鶏肉だよ」


 シズクの中に鶏肉を入れると消化していくのかだんだん小さくなって消える。


「すっっっごく美味しいです!」


 シズクは野菜よりも肉なのかもしれないな。

 それにしてもリアに本当のことが言えるようになってよかったなあ。気兼ねなくここに居てもらうためとはいえ、大賢者と騙し続けていたら皆でご飯を食べることもできなかった。


「ところでダンジョンを抜けて地上に出るのは急いでも二日ぐらいかかりますけど、その間の食料はどんなものを持っていくんですか?」

 

 リアが聞いた。ディートも気になるようだ。


「そうね。私達の世界なら乾燥したパンとか干し肉とか乾燥フルーツとかを持っていくのが普通だけど、日本では冒険する時はどんな食料を持っていくの?」


 日本では冒険とかあんまりしないけどね。けど日持ちして美味しいものなら沢山ある。


「私とリアはモンスターに備えるから食料はトオルが運んでくれるのよね?」

「そうだよ」

「あまり重いものだと大変よ?」

「大丈夫、心配しないでよ。なにを持っていくかはお楽しみだよ」


◆◆◆


 翌朝、僕たちは旅装で玄関の外にいた。久しぶりに玄関のドアに鍵をかける。

 思えば、すぐに部屋に逃げ戻ったり、誰かしら家にいたので鍵をかけるという生活をしたことがなかった。

 ディートが不思議そうな顔をする。


「なにしてたの?」

「日本の住宅についている鍵をかけてたんだよ」

「なるほど。私には石壁になにかしてるようにしか見えなかったわ」


 異世界人にはマンションの玄関の扉も石壁になってしまう。

 リアやディートには不便だろうけど異世界人に勝手に入ってこられないで済むという利点がある。もし勝手に入ってこられたら僕の部屋は、たちまちダンジョンに疲れた異世界人の休憩所になってしまうだろう。


「そうだ。合鍵があるんだけど誰か預かってくれないかな。激しく動いて僕が落としちゃっても大丈夫なように」


 鍵を落としたらマンションの玄関をぶち破らないと異世界にいることになってしまう。安全のためにもう一本の合鍵を預けることにした。


「はいはーい。私預かるわよ」


 ディートが僕から合鍵を受け取って胸の谷間に挟もうとした。


「ちょっと待て。おかしいだろ。落としたらどうする?」


 ディートはフ◯コかなにかなのか。


「ここが一番、落とさないんだって。大丈夫、絶対無くさないから」

 

 僕はディートから合鍵を奪ってリアに渡した。


「リア、頼む」

「はい。任せてください!」


 後ろでディートがブーブー不満を言っている。

 振り向いて「うるさいな。ディート」と注意した時だった。


「えええええ!?」 

 

 また後ろから声がした今度はリアの声だった。


「リアまでどうしたの? ビックリするじゃないか」

「ト、トール様。アレ……」


 リアは驚いたようにマンションの玄関のドアを指差していた。

 いつものなんでもない玄関のドアじゃないか。異世界人にはただの石壁に見えるんでしょ? 驚くことなんか……ん?


「リ、リア。ひょっとしてダンジョンの石壁じゃなくて玄関のドアが見えるの?」


 リアは何度も首を縦にして頷いた。

新章はじまりました!


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