女騎士の修行は秘密の件
時間不定ですが毎日更新です!
今日は更新遅れてすいませんでした。
「おかえりなさいディートさん! 戻ってきてくれるって言ってましたけど早かったですね」
「えへへ、ただいま~。脇目も振らず地上に行ってここに帰ってきたからね」
戻ってきたディートにリアが話しかけていた。
僕の家なのになぜか家に帰ってきたみたいな台詞になっていて若干気になったが、ディートが戻ってきてくれたことは嬉しい。
「たった一人で四日で行って帰って来たんですか?」
「まあパーティーよりも一人のほうが時間はかからないもんよ。人にはオススメできないけどね」
どうやら僕の部屋はダンジョンの五層目に存在するらしい。
きっと地下の五層目ということだろう。
しかし、今はそんな場合じゃない。
「ディート! ここに来る時に江波さんにすれ違わなかった?」
「江波?」
「NNKの契約がどうのこうの言っていたガタイのいい人!」
ディートは間を開けてから急に笑いだした。
「あ、あ~日本人の……」
「そうだよ! 忘れたのか?」
「覚えてるって。もちろん覚えてるよ」
完全に忘れてたな。じとっとした目でディートを見ると、彼女は言い訳した。
「ちゃんと江波の情報も集めて来たわよ。というか冒険者ギルドの酒場で噂になっていたしね」
「冒険者ギルドの酒場?」
疑問を口にするとディートとリアが交互に教えてくれた。
「ヨーミの迷宮はフランシス国に委託された冒険者ギルドが管理しているの」
「ほうほう」
なるほど。この迷宮は国家が権利を持っていて冒険者ギルドに管理を委託してるのかな。
きっと冒険者は冒険者ギルドに登録してダンジョン探索をするのだろう。
いかにもゲームなどでありそうな設定だ。
「大賢者のトール様は隠遁なされているから、そのような世事は知らないかもしれませんが、冒険者ギルドの支部は大体酒場も併設しているんです」
「ふむふむ」
その酒場が冒険者同士の情報交換場所ってことか。
「ギルドの酒場まで江波さんは噂になっていたってこと?」
「ええ、なんでも受信料契約してるかとか聞いてくる変なオークがいるって」
「マジかよ」
「しかも、討伐ランクEだったわ」
「それってひょっとして……」
「倒せばギルドから報酬が出るわ」
倒すって……つまり殺すってことだよな。
ど、どうする?
ダンジョンを探索する全冒険者に命を狙われるってことか。
「まあオークは強力なモンスターだからランクEの報酬なんかで積極的に狩るバカもいないと思うけどね」
「そ、そうならいいけど」
「でも上級の冒険者が見つけたら片手間に狩っちゃうかも。その気がなくてもイラッとしてね。ギルドに依頼が入ったのもうざいからじゃないかしら?」
「おいいいいい! それマズイじゃないか!」
こうなったのは本人のせいだが、日本人が殺されたら寝覚めが悪い。
それに彼の仕事に対する根性だけは認めざるをえないところもある。
「助けるの?」
「おばあちゃんならきっと助けろっていうだろうね」
僕の正義感はおばあちゃんでできています。多少危険でもダンジョン側の世界に行くしかない。
皆もきっと手伝ってくれるだろうことを期待した上での正義感です。
「助けたいならもっといい方法があるわ」
「おお! どういう方法?」
「冒険者ギルドにもっと高額の報酬をだせばいいのよ。 今度は生け捕りという条件を必須にして」
なるほど。ダンジョンを探索する全冒険者を敵に回した上で、先に江波さんを捕まえるよりも、全冒険者を味方にしたほうがはるかに可能性が高いだろう。
「でも、そんなことできるかな?」
「先に依頼を出した人と話し合ったほうがいいわね。でも要は江波にいなくなって欲しいだけなんだから大丈夫だと思うわ」
「そうか。ディート、冒険者ギルドにちょっと行ってきて」
ちょっと行ってきてくれないか? と言い切る前に前にディートに遮られた。
「いやよ!」
「ど、どうして?」
「私、ここに戻ってきたばかりなのに! ふん!」
そりゃそうだ。確かに可哀想だ。
でも江波さんをほっとくわけにも行かないしなあ。
「大変なのはわかるけどさ。そこをなんとか」
「じゃあトオルも行くなら行っていいけど……」
「え? 僕が冒険者ギルドに?」
「そうよ。トオル以外に誰が行くのよ? 地上までの案内も必要でしょうから一緒に行ってあげるわ」
意外な提案だった。今までは僕は異世界とはダンジョンを通してしか接していなかった。
冒険者ギルドに行くということは、異世界の人々のいる街に行くことになる。
ダンジョンはマンションが繋がってしまったんだから仕方ないとして、日本人の僕が異世界にそこまで関わっていいのかという気持ちもあるが、正直ちょっと興味はある。
江波さんを助けるという大義名分もある。
「行ってみるか……冒険者ギルド」
もう少しレベルを上げてからに行きたい気持ちもあるけど、四日かそこらで一人で往復できるディートが案内してくれるなら問題ない。
それにリアも一緒に来てくれるだろう。
「リアも来てくれますよね?」
「えっ? で、でも私、剣がないので足手まといでは……」
そうだ。リアには剣がない。
「ふっふっふ」
急にディートが笑い出す。
「え?」
「私が背負っているものをなんと心得る?」
そういえばディートは布を巻いた長物を背負っていた。
「これリアに買ってきたのよ。はいプレゼント」
「え? 私にですか?」
ディートが笑顔で布を取る。
「け、剣!」
「クレイモアよ。そこそこしたんだから」
「そんな! 頂けませんよ!」
「いいから貰ってよ。私はこんなもの使えないし。今まで剣が無かったから地上に帰るに帰れなかったんでしょ?」
「それはっ……」
僕はディートに近づいて小声で言った。
「ディートはリアを地上に帰したいだけだろ?」
「うっ。それはっ……」
僕はそう言ったが、ディートが打算だけで剣を買って来たわけでないことはわかっている。
「ありがとうございます……お金は返します」
「いいのよ。私、結構稼いでるから」
やっぱり二人の仲は良くなっているのだ。
それを見ながら僕は気合を入れる。
「よーし! じゃあ三人でダンジョンを通って地上に行こう!」
「す、すぐ行くんですか?」
リアが聞いてきた。さすがにすぐには行けない。
「いや明日か明後日ですかね。準備も必要でしょう」
「そ、そうですよね」
ダンジョンを抜ける準備をする必要もあれば、バイト先に連絡する必要もある。
ついでにできるだけ右クリックでレベル上げをしておこう。
実戦では経験をインプットするのではなく、アウトプットを中心にしたい。
危険だからね。
◆◆◆
夕飯はディートが戻って来たのでちょっと豪勢にすき焼きにすることにした。
二人がお風呂に入っている間に専門店でお肉を買ってきた。
ちょっと値が張ったが、ディートがガディウス金貨を大量に持ってきてくれたのでこのぐらい贅沢しても問題もないだろう。
和室から戻って、押し入れのシズクに聞く。
「二人はまだお風呂?」
「はい」
「そっか。美味しいお肉を買ってきて今から皆で食べるんだけどさ」
「わたしはご一緒できないですね」
シズクがプルプルと震える。喜びの震えではなく悲しみの震えだ。
僕は段々とシズクの震えでどんな感情をだしているのかわかるようになってきた。
「大丈夫、大丈夫」
「お肉を残してくれるんですか?」
「そうじゃないよ。一緒に食べよう。着るからシズクは服になってよ」
「あっ! その……いいんですか?」
「もちろん」
シズクは今度は本当に嬉しそうにプルプルと震えた。
「後でディートの紹介もするからね」
「はい! とっても嬉しいです!」
押し入れの中で服を脱いで裸になる。
すぐにシズクが体に付着して脱いだ服とまったく同じになった。
「よーし! 二人がお風呂から出る前にすき焼きの準備をするか!」
「私もその料理を覚えて今度はご主人様に作ってあげますね!」
シズクにはそんな特技もあったんだ。助かるなあ。
◆◆◆
「んんん! 凄く美味しいわね。なにコレ!」
「本当です~~~お肉が柔らかくて甘くて!」
ディートとリアはすき焼きを気に入ってくれたようだ。
「牛肉だよ。ご飯と一緒に食べるとまた美味しいんだよ」
二人のスキをついてお肉と一緒にご飯を袖口のシズクにあげる。
服になったシズクが歓喜でプルプルと震えるのがわかる。
僕も食べよう。
「ん~美味しいね~今日の肉は高級和牛だからかな~」
それだけじゃないか。やっぱり皆と食べるすき焼きは最高だからだろう。
すき焼きを食べ終わってお茶を飲みながら話をしているとリアが急に立ち上がった。
「トール様。ディートさん」
「なに?」
「どうしたの?」
リアは笑顔ではあるが、少し真面目な顔をしている。
「私、久しぶりに剣を持つことになるので、ダンジョンの大部屋で頂いた剣を振ってきますね」
なるほど。ダンジョン探索する冒険者なら当然の心構えかもしれない。
僕も見学しに行こうかな。
また新しい強くなる方法を考えついちゃったし。
「僕も見学していいですか?」
「いえ、少し一人で修行したいのですがいいですか?」
リアは僕に対して珍しく、強い口調で言われてしまった。
「そ、そっか。構わないよ」
「すいません。我儘を言って」
「でも僕もいないとこの部屋には戻れないから1時間ぐらい経ったら迎えに行くってことでいい?」
「はい! ありがとうございます」
修行は一人でやりたい人も多いだろう。
リアは玄関からダンジョンに出ていった。
僕はディートをダイニングに置いて、和室に行ってシズクを脱いで普通の服を着た。
「シズク。ちょっと頼みたいんだけどさ」
「なんでしょう? ご主人様」
「ちょっとリアの修行を石壁に変身してこっそり見てもらってもいいかな?」
「それでどうするんですか?」
「シズクがリアの動きを覚えてから僕がシズクを着れば、動きをトレースできるんじゃないかな?」
やっぱりステータスが向上しても日本人にはモンスターと急に戦うのはなかなか難しいと思うんだよね。
シズクを脱いだとしても熟練の戦士の動きを僕も学ぶことができる。
空手や合気道の道場にシズクと行ってもいいかもしれないぞ。
「わかりました! ご主人様!」
賢いシズクは僕の考えがわかったようだ。
「ちょっちょっとそれ! 白スライムじゃない!?」
お茶を噴き出したディートを無視してシズクと玄関に行く。
「ディートには後で紹介するから~」
玄関をそっと開けて少しだけ外に出た。
ここは大きな柱の影なのでリアには気づかれないだろう
「じゃあリアの騎士の動きを学んできてくれ」
「はい! ご主人様!」
シズクが石床に溶け込みながら向こうに移動していく。
「良し良し。後は一時間後にリアとシズクを迎えにいけばいい」
そう。思って玄関を閉めようとしたときだった。
「ご主人様! 大変です! リア様が倒れています!」
シズクの叫びがダンジョンの大部屋に響き渡る。
僕は慌てて二人がいる方に走った。
どうしてリアが倒れてるんだ!?
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