ゲームは途中で止められない件
コーラとポテチを用意して僕はパソコンデスク前のチェアに深々と座った。
モニターには暗いダンジョンが映っている。
鉄の扉はもちろん閉まっていた。
既にシズクは押入れに戻っていた。
ここからはお楽しみの時間だ。
本当にモンスターを効率よく狩れるのだろうか?
「いくぞ~オープン・ザ・ドア!」
ロボットアームを動かすためにマウスを一回動かした。
鉄の扉が上がりだす。
まだ鉄の扉が上がりきっていないにも関わらず、凄い数の影が並べた食料に向かった。
モンスターだ!
「うお! まじかよ! オオムカデが一匹、ゴブリン二匹か? おおねずみ、お化けキノコや水色スライムは塊でいるぞ!」
扉を開ける前から匂いで釣られてきたのか?
ほとんどのモンスターがペットフードに群がった。
ともかく奴らが餌に夢中になるのを待つ。
最高のタイミングでクリックしなくては。
「くそ! オオムカデめ! 仲良く食べろよ!」
このフロア最強のモンスターであるオオムカデは他のモンスターを威嚇していた。
どうやらペットフードを独占しようとしているようだ。
他のモンスターをペットフードに近づけない。
他のモンスターはリンゴ、大根、サンマ、イワシに向かった。
「よし! 今だ!」
右クリックでロボットアームを動かした。モニターで鉄の扉が下がっていくのがわかる。
ゴブリンは異変に気がついてサンマを持って去ってしまったが、他のモンスターは貪り続けている。
おおねずみも扉に触れると素早く逃げたがオオムカデとお化けキノコとスライムの半数ぐらいが鉄の扉の餌食となった。
体から力が湧き出るように感じる。間違いない。レベルが上がったな。ちょっと心配だったけどクリックで攻撃してもレベルは上がるらしい。
「でもお化けキノコと水色スライムの何匹かがこっち側に入ってきちゃったな。ステータスの確認がてらダンジョンにいくか」
ヘッドライト付きヘルメットとピッケルを装備て玄関のドア開ける。
いつものように真っ暗なダンジョンだ。
玄関のからダンジョンに足を踏み出す。
「早速ステータスをチェックしてみるか」
◆◆◆
【名 前】鈴木透
【種 族】人間
【年 齢】21
【職 業】無職
【レベル】7/∞
【体 力】31/31
【魔 力】45/45
【攻撃力】120
【防御力】44
【筋 力】16
【知 力】29
【敏 捷】18
【スキル】成長限界無し 人物鑑定LV2/10
◆◆◆
「おお! レベルが2も上がってるぞ!」
元々、レベルがあがる寸前だったのかな。それにオオムカデも含めて一気にモンスターを倒せこともあるかもしれない。
人物鑑定レベルもあがっていた。リアに使うのが楽しみだ。
まずは安全と撒き餌を食べられないために、大部屋に入り込んでしまったお化けキノコと水色スライムを倒すか。
レベルが上がっているからかスライムもお化けキノコもサクサクと倒せる。
「レベルの上昇効果ってホントに凄いんだな。敏捷が上がったから体も軽い!」
身体能力はどんなに優秀なアスリートでも何ヶ月もかけてゆっくりゆっくり上がっていくものだと思う。
でも僕はここ5日ぐらいで筋力だと1.5倍ぐらいになっている。
握力計を使わなくても実感がまるで違う。
「いつかはオオムカデも一撃で倒せるようになるのかな。リアやディートやシズクにキャーカッコいいって言われちゃうかもね」
そんなことを夢想しながら雑魚モンスターを倒す。
「よーし。こっち側に入って来てしまったモンスターの掃除も終わったし、撒き餌の補充に行くか」
鉄の扉の前に行くとかなり『撒き餌』が減っていた。
やはり猫缶は真っ先に食べられていた。
サンマも無くなっている。
「猫缶やサンマは高いのに……。安価なドライタイプの餌を使うか」
鉄の扉の前にペットフードを撒いてパソコンチェアに戻った。
チラッと時計を見るともう朝の5時30分だ。
バイトが9時からあるので後二時間ぐらいしか寝れない。
寝たほうがいいかもしれないとも思ったが、興奮して寝れそうもない。
「後、一回だけ! 一回だけしたら寝よう!」
オープン・ザ・ドア!
お~またすぐにモンスターが入ってきた。
来た! またオオムカデが来たぞ!
やっぱこいつはペットフードが好きなんだな。
タイミングを見計らって。
ポチッとな。
「あああああ! 惜しい! ギリギリのところで逃げられた!」
さすがにもう寝ないとヤバイか。
でもモニター上では、まだ餌はたくさん残ってる。
すぐ鉄の扉を閉めるクリックしたしな。
「もう一回やろう……。もう一回だけだ。あのオオムカデはすぐ扉の向こうにいて開ければ食いつくはずだ」
もちろん、もう一回で止められるハズが無かった。
◆◆◆
今、僕は死にそうになりながらサラダを盛り付けていた。
完全に徹夜でバイト先に来てしまったのだ。
いくら【体 力】や【筋 力】や【敏 捷】が上がっても、疲れはあるし、眠いものは眠い。
「で、でも、アレからさらにレベルが少し上がったぞ。ふふふ」
モンスター達はやはり日本のペットフードが大好きだったようでそれを食べ始めると一心不乱になってしまうようだ。
正直、最後の頃は半分目を閉じていて、モニターも見ないで適当に右クリをしていただけだった。
それでもモンスターは一定の確率で鉄の扉に潰された。
「ちょっと鈴木さん! サラダ早く出して!」
「あっごめんごめん!」
ダンジョンのことを考えていたらホールでウェイトレスをしている女子高生の立石さんに怒られてしまった。
あーあ。早く仕事を終わらせてレベル上げがしたい。
ペットフードを撒いて適当にボタンを押すだけでもリアルでレベルが上がるとくっそ楽しい。
逆にファミレスでサラダの盛りつけしててもなーんのステータスも上がらないし、なーんのスキルも身につかない。
バイトしている間にレベル上げができないかなあ。
「ん? 待てよ」
そういえば、ボットって言われる不正行為だけど、友人がオンラインRPGで自動プログラムを使ってレベル上げをしていた。
オンラインRPGは複雑だから難しいプログラムが必要だけど、一定間隔でクリックするだけでいいならそんなフリーソフト、ネット上にごろごろ転がっているぞ。
もちろんモニターを見ながらクリックしたほうが成功確率は高いだろうし、餌の無駄もないだろうけど……。ひょっとしたら寝てる時も、バイトしている時も、レベルを上げることができるかもしれないぞ!
そして、もちろんダンジョンにはボットを禁止する運営なんかいない。
僕は堂々とボットを使ってリアルレベル上げができるのではないかと考えていた。




