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クリック一つでモンスターを倒すのはやっぱり難しい件

 カメラの設置が完了する。

 玄関の前を映すために一台、大部屋全体を映すために一台、そして鉄の扉の前に一台。

 今は適当に粘土パテで石壁に固定しているだけだけど、明日あたりに電動ドリルが家に届くから石壁に小さな穴を開けて雌ネジを入れてパテで埋めれば、取り付け器具でしっかりカメラを固定できるようになるだろう。

 ケーブルも石壁に粘土パテで埋めたり、スプレーで石壁と同じ灰色にしたりする作業をするけど今日はいいか。


「これでトール様の寝室からダンジョンの様子が見れるんですね」

「ですね。見に行きましょう」


 でも、その前に。

 玄関に向かうリアの後ろ姿を見ながらステータスのチェックに挑戦してみる。


◆◆◆


 【名 前】アリア=エルドラクス

 【種 族】人間

 【年 齢】18


◆◆◆


 リアのステータスが心にイメージとして浮ぶ。

 予想通りだ。スキル『人物鑑定』による効果だろう。

 まだスキルレベルが1なので自分をチェックした時ほどステータスが開示されるわけではないようだが、十分に楽しい。

 スキルレベルを上げていけば、【職 業】【レベル】とわかっていくんだろう。

 早くレベルを上げたい。そうすることでスキルレベルも上がっていく。


「当たり前って言えば、当たり前だけど、リアの名前と種族と年齢は教えてくれた通りだな」


 こちら側の世界なら僕には偽名も年齢の鯖読みも通用しないのだ。

 そう思って自分のステータスを軽くチェックすると【魔 力】の数値が33/39になっているのに気がついた。


「なるほど。他人のステータスをチェックすると【魔 力】を6消費するのか」


 そんなことを考えているとリアが玄関の前で手を振りながら呼びかけてくる。


「トール様! 早くモニターを見てましょうよ」

「はーい」


 リアのほうに駆け寄る。

 リアと一緒にマンションの部屋に戻り、パソコンデスクでモニターを見てた。


「へー暗いところはこんな風に見えるんですね」


 玄関の扉を閉めると外が日本になるわけだから、ケーブルが断線してしまうのではないかとも思ったが、そんなこともないようだ。

 モニターはダンジョンの様子を映していた。

 カメラには赤外線ライトも付いているので真っ暗でも結構よく見える。


「お~いい感じですね」


 『玄関の前の映像』と『鉄の扉の前の映像』は、安全かどうか見て確認したり、罠の作動を確認するぐらいなら十分だろう。

 ダンジョンの『大部屋全体を映している映像』は頼りなげだったが、それでもモンスターがいるかどうかぐらいはわかる。

 

「トール様。ちょっと部屋全体を見るカメラだけは奥は暗いですね」

「カメラについている赤外線ライトでもこれぐらい見えるなら、別売りの赤外線ライトを買ったらもっとよく見えるかもしれないですね。今アマソンを調べたら千円以下でありますね」

「アマソン?」

「え、えっと賢者達のアーティファクトマーケットですよ」


 買いたいものが増えてきたな。

 お金がかかり過ぎている。これ以上はディートがガディウス金貨を持って帰ってきたら検討しよう。


「けどその前にアマソンで買って置きたいものがあるんだよね」

「なんですか?」

「ふっふっふ。早く届くといいなあ」


◆◆◆ 


「今日もお客さんがいっぱい来てバイト大変だったな~」


 バイト先からリアとシズクが待つ自宅に戻る。

 あれから二日はダンジョンに行かず、真面目にバイトをしていた。

 バッテリー付きの電動ドリルは届いたので、それを使って石壁にあなを開けてカメラをがっちり固定したり、同軸ケーブルや電源ケーブルを灰色に塗ったりはした。

 しかし、鉄の扉は一度も開けていないのでモンスターは一匹も入って来ていない。


 ということで、アマソンで頼んだ商品が届くまでは安心して鉄の扉を開けることができないので、リアとシズクが部屋にいる以外は普通の日常を送っていた。


「鈴木さ~ん。アマソンの商品です」


 やっときたか。僕は急いで玄関に行って、ドアを開けようとして気づく。

 おっと、このまま僕が開けたらダンジョンだ。


「すいません。手がふさがっているんで玄関のドア開けてもらってもいいですか? 鍵は開いてますので」


 配達業者さんはすぐに玄関のドアを開けてくれた。僕を見て別に手なんかふさがってないじゃないかという顔はしていたが、所定の場所にハンコを押すと商品を渡してくれた。


「どうも~」

「ありがとうございました~」


 配達業者さんが帰ってから、わくわくしながら箱を開ける。

 リアが聞いてきた。


「それなんですか?」

「これは特別なアーティファクトですよ」


 地球ではアーティファクトというよりもロボットアームと呼ばれている。

 おもちゃに毛の生えた様なものかもしれないが、USB接続でパソコンから制御することができる。

 長いUSBケーブルは買ってある。途中で信号を強化するタイプなのでこれまた1万円以上した。

 なんとロボットアームと値段はほとんど変わらない。


「早速、ダンジョンに取り付けに行きましょう」

「ダンジョンのどこに取り付けるんですか?」

「鉄の扉のボタンがある場所ですよ」


 ◆◆◆


「できた! ついにパソコンから鉄の扉を開閉するシステムが!」


 こんなものを触ったのははじめてだ。

 ロボットアームを取り付けに数時間、パソコンでの操作の試行錯誤に数時間、ついにマウスをクリックするだけで鉄の扉を開閉するシステムが完成した。

 深夜三時。はじめのうちは楽しそうに様子を見ていたリアは既に後ろのベッドで寝てしまっているが、僕は大興奮だ。


 今のところロボットアームがボタンを押せるようになって、クリック一つで押せるようにしてから十回中十回成功している。

 実際はモニターが鉄の扉を開ける映像を映したらモンスターが入る前に、すぐに閉めているので二十回中二十回連続成功している。安定性はバッチリだ。 


「そしてこれは、ただ遠くから遠隔で安全に鉄の扉を開閉させるシステムではない!」


 実はパソコン上からモンスターを狩るシステムの簡易版でもあるのだ。

 僕はディートにはじめて会った時のことを思い出す。


「あの時、ディートを襲っていたオオムカデを入れまいと鉄の扉を下ろした。鉄の扉はオオムカデの胴を挟んだんだけど、後で見たら胴が潰されて切断されてたんだよね」


 頭だったらオオムカデは死んだんじゃないか? オオムカデよりも弱いスライムやお化けキノコだったら即死かもしれない。

 だが、鉄の扉は相当な厚みがあるとはいえ、モニターでモンスターを確認してから閉めて間に合うのか?


「ともかくやってみるしかないだろう」


 一旦、落ち着くために台所に行って氷入りのコーラを持ってきた。

 パソコンチェアに深々と座る。

 

「よし! 今度は鉄の扉を開閉できるかのチェックじゃない。ついにレベル上げのためのクリックだ!」 


 右手の人差指がマウスをカチッと押すと、鉄の扉が上がっていくのを監視カメラのモニターが映す。

 後はモンスターが入ってくるのを待つだけだ。

 モニターを監視しながらコーラをストローで飲む。

 この罠を想定してモニター扉の向こうを見られるように設置してある。

 まあモニターを通しても鉄の扉の向こうは石壁が僕には見えるのだけれども。


「うーん。こうやって待っているとモンスターも中々入ってこないなあ」


 五分はたっていると思う。その時だった。石壁からスッとゲル状の物体が出てきた。


「来た! スライムだ!」


 速攻で鉄の扉が閉まるスイッチを押す。

 鉄の扉は閉まる動きが遅い。だがスライムはさらに遅かった。

 モニター上ではスライムが挟まれて潰れたように見えた。

 

 ヘッドライト付きヘルメットをかぶって急いでダンジョンに行く。

 鉄の扉の前に駆け付けた。


 ――成功だ!


 鉄の扉の周りには水色のスライム片があった。

 

「よっしゃー! ガンガン行くぜ!」


 走ってパソコンチェアの前に戻る。 

 もうコーラなど一口も飲まないでモニターを見続けた。

 ところが……それからはまったく上手くいかなかった。

 お化けキノコやムカデ、おおねずみといったモンスターは鉄の扉が閉まろうとすると逃げてしまう。

 スライムは逃げなかったが、ほとんどがそのまま中に入ってしまった。

 一匹目は慎重なスライムで迷ったことが罠にかかった理由だったのかもしれない。


「何匹かに一匹はひょっとしたら成功するのかもしれないけど効率が悪すぎるな」


 鉄の扉を使った作戦は失敗だったのだろうか。

 とりあえず、鉄の扉の中に水色スライムがかなり入ったから狩ってこようかな。

 いや、その前に餌を置いて増やしてみようか?


「待てよ。餌か……」


 僕は適当に冷蔵庫からキャベツ、長ネギ、ハムをビニール袋に入れた。それを持ってダンジョンに入る。


「うーん。ろくなものがないな。買い物に行かなきゃ」


 さらにダンジョンの隅にはモンスターの死骸をまとめている場所がある。

 案の定そこには鉄の扉の罠をかい潜ったスライムがたかっていた。

 ピッケルで水色スライムを倒す。

 その水色スライムも含めたモンスターの死骸も少しビニールに入れる。

 そして鉄の扉の前に向かった。

 ビニールに入っている食材とモンスターの死骸を並べる。


「さあ~モンスターちゃん。美味しい餌だぞ~」


 これならモンスターが餌を食べている間に扉を閉めることができるかもしれない。

 右クリックで鉄の扉を開く。

 すぐに水色スライムがキャベツに取り付いた。


「閉めるぞ……やった!」


 キャベツは鉄の扉ギリギリにおいてあるので水色スライムだけが潰れた。

 しかも水色スライムは食事に気を取られて逃げることもしなかった。

 次行くぞ。次。

 扉を開けるとまたすぐモンスターが現れる。


「お、お化けキノコだ。今度はネギに向かったぞ」


 すぐに扉を閉める……おしい!

 監視カメラの映像だけではわからないが、多分逃げられてしまった。

 どんどん行くぞ。


 今度はスライム。成功!

 またスライム。成功!

 お化けキノコだ。今度は成功!

 お、ゴブリンか? ハムに興味があるようだ。だがすぐに扉が閉まりだすとすぐ逃げた。失敗だ。

 スライム。成功!

 またスライム。成功だ!


 どうやらスライムはキャベツに目が無いようで簡単に倒せるようになった。

 サンプルは少ないがお化けキノコも倒せる確率が高いのかもしれない。

 もう少しやってみよう。鉄の扉を開けてモニターを凝視する。


 来た! オオムカデだ! こいつを倒せば、レベルが上がる可能が高い!

 レベルが低い時は2も上がったのだ。


「なるほどなるほど。ムカデくんが好きなのは挽肉か」


 オオムカデは一心にひき肉を食べているようだ。

 ひょっとしたらモンスターにとっても日本の食材は特別美味しく感じるのかもしれない。


「いくぞ! 気がつくなよ……右クリックをポチッとな!」


 鉄の扉が徐々に閉まる。イケるっと思ったときだった。

 ムカデはビクッと震えて去っていった。

 モニターで見ただけではわからないが、失敗だろうと思う。


「あー多分……残念だな。鉄の扉の前に行ってみるか」


 やはり、ムカデは倒せなかったようだ。

 レベルも上がってないしな。

 挽肉もなくなっている。量もあまり無かったしな。


「うーん。日本の食材は効果高いのかもしれない」


 トンスキホーテで色々買って来ようかな。

 ひょっとしたら物凄く効果がある食材もあるかもしれないぞ!

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