白スライムに名前をつける件
「ねえねえ。それじゃあご飯を沢山あげるからさあ。いろいろ頼んでいいかなあ?」
「はい! もちろんです! ご飯をもらえなくてもご主人様の言うことならなんでも聞きます!」
「いや、それは悪いからギブアンドテイクで行こう。とりあえずどんな食べ物が好きなの?」
「人間の食べ物はなんでも美味しいし、栄養があるって大人達に聞いてます」
なるほど。白スライムは仲間達と人間の情報を共有しているようだ。
そりゃそうだ。自分達に関わる種族の情報を共有しないわけがないか。
頭も良さそうだし。
「じゃあ、ダンジョンの探索用に買った鯖の味噌煮の缶詰、ご飯、インスタントのお味噌汁でいいかな? サラダも作ってあげるね」
「食べたこと無いですけど大丈夫だと思います」
「そっか。保温中のご飯があるからすぐに出せるよ」
和室に小さいダンボールの箱を置き、小さいお皿に鯖の味噌煮とご飯とお味噌汁とサラダを乗せて、出して上げた。
「ありがとうございます!」
人形サイズのリアのスライムは小さなフォークを使って食べはじめる。
「ん~本当に美味しいです!」
「そっかそっか。よかった。普段はなにを食べてるの?」
「ダンジョンの苔やモンスターの死骸です。モンスターの死骸は滅多に食べれません。ダンジョンの奥のモンスターは滅多に死にませんので」
「なら……美味しいだろうね」
「はい!」
白スライムは美味しそうに食べていたが、いくら小さなフォークとはいえ人形サイズでは大き過ぎて食べにくそうだ。
「もし食べにくかったらスライムになって食べてもいいんだよ」
「で、でも、ご主人様が一番好きな姿形じゃないと怒られるって大人達に聞いてます」
あーなるほど。そういうことか。
「僕は怒らないから白スライムになりなよ」
それにリアの姿でいられる方が見つかった場合、マズイかもしれない。
自分の人形で遊んでいる相手に好感を持つ人は少ないだろう。
「わかりました」
スライム形態になった白スライムはそのまま食事の上に乗って吸収していく。
半透明なので食事が体の中に入ってフッと消えて吸収されていく様子が面白い。
「ところで白スライムは名前ないの?」
名前がないと不便だからなあ。
白スライムの食事が止まる。
「ありません……」
ないのか。それにしてもどうしたんだろう? なんだか急に元気がなくなったような。
「名前つけてもいい?」
「名前をいただけるんですか?」
白スライムがまた急に元気になる。
「え? まあ、あったほうが便利なんじゃないかと」
「嬉しいです! 私達と人間の仲が良かった時代には皆名前を貰えたって聞いてます!」
白スライムはプルンプルンと喜びを体で現していた。
「そ、そうなんだ。じゃあなにしようかな。うーんと……そうだ。じゃあ雫みたいな形態になることも多いからシズクって名前はどうかな?」
某ゲームのスライムはまさに水の雫だしな。
「シズクとっても可愛い名前です……気に入りました」
白スライム……もといシズクは体をプルンプルンさせた。
「よかった。じゃあこれからはシズクって呼ぶね」
「はい!」
「それにしてもシズク、もう大分大きくなってない?」
「あ、本当ですね」
シズクの体はパッと見でわかるほど大きくなっていた。
「食べれば食べた分だけ大きくなっている感じだ」
「ご、ごめんなさい。ここまで早く大きくなるとは聞いてなかったです」
日本の食事は不思議な効果があるから、ひょっとしたらスライムにとっても栄養価が高いのかもしれない。
「いや別にいいんだよ。大きくなってくれたほうがありがたいし」
「そうなんですか! じゃあ私もっともっと食べれますから、もっともっと大きくなります!」
先に僕とリアが食べていたとはいえ、五合炊きの炊飯器が無くなった。
シズクはソフトボールからバスケットボールほどの大きさになっていた。
「いやー大きくなったね」
「これぐらい大きくなれば、人間と同じ大きさに変身できますよ」
「マジで?」
シズクによれば、どうやら気泡を沢山いれれば人間と同じサイズになれるらしい。
「あるいは水を取り込むとか」
「お風呂場に行くか!」
二人、いや一人と一匹でお風呂場に来た。
「このシャワーの水でいける?」
「はい! じゃあ変身しますね」
おお、おおおおお!
大きさまで完璧にリアの姿になる。聖紺色のブルマも再現されていた。
「ちょっと体が重いですけどリア様に成れたと思います」
「体が重い?」
「元の体に対して水が多いので。空気で調整しようかな?」
なるほど。もっと大きくなってくれれば大丈夫ということか。
「まだ、ご飯食べられる?」
「はい! ご主人様の御飯は美味しいし、白スライムはいくらでも食べれます!」
「ホント! じゃあ作るね」
キッチンに行って冷蔵庫をあける。
そばつゆと納豆とキムチと万能ネギが目に入った。
確か冷凍庫には冷凍うどんが買ってあるはずだ。
それならアレができるぞ!
「特製スタミナぶっかけうどん!」
キムチ納豆と万能ネギが乗っているぶっかけ冷やうどん、熱い日には最高だ。
「ん~おいしー! 本当に美味しいです!」
シズクはどんどん食べ進めていく。
こっちも作りがいがあるな。
食パンを薄く叩いて伸ばしてオリーブオイルを塗る。
ピザソースをかけてオニオン、チーズ、ベーコン、バジル。
オーブンで焼くだけ。
「食パンを使った本格ピザ!」
食パンを薄く叩いて伸ばしてオリーブオイルを塗ることで本当のピザ生地みたいになる。
「いくらでも食べられます~! もともとスライムはいくらでも食べれますけど!」
そして……手抜きだけど。
「あんぱんと牛乳!」
この組み合わせは神の組み合わせだよね。
「甘さと飲み物が~もう! ところで?」
「ん?」
「ご主人様は私になにを頼みたかったんでしょう?」
そうそう。料理を作るのに熱中してしまったが、頼みたいことがあってシズクを大きくしていたことを忘れていた。
「実は僕、ファミリーレストランで働いてるんだ。アルバイトだけどね」
「ファミリーレストラン? アルバイトはわかりますけど」
「アルバイトわかるの?」
「はい! 薄い本に書いてありました!」
「そ、そう」
その知識あってるのかな?
「まあいいや。ファミリーレストランってのは食堂のことね」
「食堂ならわかります! 大人達に人間の世界のことは聞いていますから」
なるほど。それを聞いているうちにシズクは人間の世界に興味を持ってしまったのか。
中世世界にもあるような知識ならシズクにもあると。
「その仕事に行っている間、僕に変装してリアと一緒に居て欲しいんだ。遊んでいるだけでいいから」
「それがご主人様のためになるんですね! わかりました! シズク頑張ります!」
おお。よかったよかった。
正直、リアを一人にするのはいろんな意味で危ないと思ってたんだよね。
「じゃあ、僕に変身してもらっていい? ソックリでお願いね。ソックリで」
「はーい!」
シズクはそう言うとリアの姿で僕をに抱きついてきた。
「うわっ」
「ちょっとご主人様をスキャンさせてください」
「あ、あぁ」
リア、いやシズクと合体するというか、僕に溶けこむというか、僕が溶けこむというか。
「はい! 完全にご主人様をコピーできるようになりました」
「そ、そう。気持ちよかったけど……今のをやる時は事前に言ってね……」
「す、すいません」
シズクは謝ったあとに完全に僕になった。
「うは! これが僕か。鏡ともなんか違うな」
正直、自分を見るのは気色悪いなと思っていた時だった。
「カッコいいです!」
え? シズクにいきなりカッコいいと言われる。
「そ、そんなでもないだろう?」
「本当ですよ! 私、いろんなものに変身しましたけどご主人様は一番カッコいいです!」
強く主張された。まあ白スライムは主人に恋愛感情を持つ種族だからそう思うのかもしれない。
悪い気はしない。
「とにかくさ。バイトの時になったらリアと遊んでてね。リアはなんでも信じちゃう子だから大賢者風のことを言っておけば大丈夫だから」
少し心配ではあるが、別世界の人間である彼女を一人にしておくよりはずっといい。
「でもご主人様……」
ん? はじめてシズクが僕に「でも」と使ったので気になる。
なにか否定したくなったんだろうか。
「ご主人様がお仕事で私がリア様と遊んでいていいんですか? 私がファミリーレストランってところで働いて来ましょうか?」
な、なんだって? 仕事を代わりに行ってもらうなんて夢の様なことが……。
待て待て。賢いとはいえ、シズクはスライムだぞ。
いくらなんでも仕事は無理だろう。
それにリアの相手をしてもらえるだけでもありがたい。




