ぷるぷる、わたしわるいスライムじゃない件
「あ、あのさ。君は?」
「もうスライムだってことはバレちゃっているみたいですね。でも」
小さなリアはプルプル震えながら決め台詞を言った。
「ぷるぷる、わたしわるいスライムじゃないよ」
「…………」
「……」
数十秒間の沈黙が流れた。白スライムは急に大声で泣き出した。
「う、うううう。うわ~~~~~~~ん!」
「ちょっちょっと、泣かずに話を教えてもらいたいんだ」
なるべく優しい声で小さなリアに話しかける。
「はいっ。ひっくっ」
「とりあえず、君は白いスライムなのかい?」
「……そうです」
やっぱりそうなのか。心音ミルのフィギアになったのも白スライムだろう。
白スライムが心音ミルに変身してた時に話さなかったのは人形は話さないからだろう。
「えっと、どうして心音ミルやリアに変身したんだい?」
「ご主人様に好かれたくて……きっとご主人様が好きな形なんだろうと……」
確かにどちらも好きだ。反論の余地もない。
多分、そうだろうと思いながら念のため重要なことを確認してみる。
「ご主人様って僕だよね?」
「はい! ご主人様!」
それはわかったが……どうしてそうなるんだ……?
「どうして白スライムは僕を主人だと」
「はい! 最初に見た人だからです!」
「最初に見た人だからか……ご飯を上げたからとか契約したからとか好きだからとかそういうんじゃないんだ」
「はい! ご飯を貰ったからとか契約したからとかじゃないです!」
最初に見た人だからという理由にガッカリする。
「でも大好きです!」
「え? そ、そうなの?」
「はい!」
人形サイズとはいえ、リアの顔でそう言われると照れてしまう。
でもおかしいだろう。
「僕のことを好きってなにさ? スライムの好きとかあるの?」
「え? う、うーん。そうですねえ……」
今まで快活に答えていた白スライムの歯切れが悪くなる。意地悪な質問をしてしまったかもしれない。
ところがまたすぐに快活な答えが帰ってきた。
「心が暖かくなってご主人様になんでもしてあげたくなる気持ちです!」
そういって人形サイズのリアがニコッと微笑む。
う……ヤバイ。可愛い。でも相手はスライムだぞ。
「……あ、あのさ」
「はい!」
「白スライムはさ……その……メスなの?」
念のためだ。スライムがオスだからとかメスだからとか関係はない。
だがオスだとなんとなく悲しいので念のため聞いてみた。
「メスかオスかですか? スライムは雌雄同体でメスもオスもないんですが」
やっぱりそうか。
残念そうな顔をしていたのだろうか。白スライムが僕を励ますようにいった。
「オスでもメスでもないですけど、大丈夫ですよ。ちょっと待って下さい」
小さなリアがドロンと溶けて白いボール状になり、更にアメーバになった。
僕がやはりスライムだったのだと思っていると白スライムが言った。
「ちょっとくすぐったいと思いますけど我慢してください」
「え?」
白スライムは僕の足首からジャージの中に入り、上の方に登っていく。
「ちょちょちょちょっ! あう!」
白スライムは僕の体をさんざん弄んでプルンと服の外に出てきた。
「なにするんだ!」
「ご、ごめんなさい」
白スライムはまた人形サイズのリアに戻った。
小さいとはいえ完全にブルマを穿いたリアだ。
顔も凛々しい美少女に見える。
「見てください」
「なにを?」
リアに扮した白スライムはまたブルマとパンツを一緒に下ろした。
「だからそれは止めろって!」
「ちょっとだけでいいから見てください」
見ろと言われたら仕方ない。
目を隠している手の平の指を開いて、ブルマを脱いだ箇所を見ると……。
「うわあああああああああああああああああああ!」
リアに扮した白スライムに僕の見慣れたモノがあったのだ。
洋室から誰かが飛び出た気配がする。本物のリアだ。
僕は白スライムをまたジャージのポケットにねじ込んだ。
僅かなタイムラグで和室の引き戸がパッシーンと開いた。
「どうされたんですかあああぁ!」
「す、すいません……。大賢者として超魔導炉の暴走を防ごうとした時の悪夢が……夢遊病も……」
「トール様……お可哀そう……私、一緒に寝てあげますから!」
再びベッドでリアの歌声を聞きながら一緒に寝ることになった。
◆◆◆
数分後、再び和室に戻る。
「ごめんなさい。ご主人様。どっちの性別にもなれるって証明したくて」
「た、頼むからどっちかだけにしてね」
リアが寝入った後、また白スライムと話すことにした。
もちろん僕のモノは消してもらった上でブルマを穿いてもらっている。
「わかりました! メスになる時はメス、オスになる時はオスになることにします! それに人間の食事を食べればすぐに大きくなりますよ!」
「そ、そうなんだ。大きくなるって人間ぐらい?」
「はい。変身すれば人間の大きさです。私、ご主人様の命令だったらなんでも聞きます! エッチなことも!」
「いや、それはいいけど。なんで命令を聞いてくれるのさ?」
「私が白スライムだからです」
「え? 白スライムってそういうもんなの?」
「そうです」
「ど、どういうことか教えてもらえる?」
白スライムは自分の種族のことを語りだした。
元々、白スライムは人間と共生する種族だったらしい。
その人間の愛するものに擬態をして可愛がられて生きる。
それが白スライムの生態だったのだ。
だがそれを知った一部の人間は白スライムを悪用しはじめた。
白スライムが主人に持つ恋愛に近い感情となんにでも変身できる能力は悪人の格好の餌食だった。
とうとう白スライムは人が来れないような難ダンジョンの地下深くの石壁に擬態して生きるようになったらしい。
はじめに見てしまった人にその気持と能力を悪用されないために。
「そ、そうだったんだ」
「でも私は人間が悪い人ばっかりなんて信じられなかったんです。だから大人達が止めるのも聞かず、ダンジョンを上に上にとあがって来たんです」
「そしてはじめて出会ったのが……」
「はい! トオル様です! 私、トオル様に会えてとっても幸せです!」
ごめん。僕、日本人なんだ。
そう言おうとしたが、リアの姿に扮した白スライムが僕を見る目は輝ききっていた。
「ん? 待てよ? すぐに成長してなんにでも変身できるってことは!」
「エッチなことですか? 成長すれば、できますよ! 内部構造も作れます!」
「ちがーう!」
僕はとても良いことを思いついていた。




