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スライムが大変なことになってしまった件

 体を洗って湯船に浸かる。


「でもなあ。やっぱ異界の生物を日本側で飼うなんてマズイかもしれないよなあ。この部屋が日本側なのかはイマイチわからないけれど」


 よし! スライムはやっぱりダンジョンに移そう!

 悲しいけど……。

 お風呂から出るとリアは畳の上で甲冑と盾をオリーブオイルで拭いていた。


「あ、すいません。お邪魔でしたか?」

「いや、いいんだけど、実は今から禁書の研究をここでしたいんです」

「そうなんですぁ!」

「うん。だからしばらくダイニングでやってもらってもいいですか」

「わかりました」


 聖紺せいこん色のブルマを着たリアが和室を出て行った。


「よっぽどブルマを気に入ってくれたみたいだな……いやそんな場合じゃない!」


 押し入れを開けてスライムを確認する。

 まったく変わらずにプルンプルンしている。

 可愛いなあ。


「ん? アレ? パッキーが片側だけ外れてる?」


 まさか空気穴から体の一部を出してパッキーを開けた?

 いやいや、包丁の先をキリにして開けた小さな穴だぞ。

 実際にタッパーの中にいるわけだし、きっと僕が閉め忘れただけだろう。


「ごめんね。マンションでペットを飼うのは禁止されてるんだ。君のことはダンジョンで飼うよ」


 なんだか白スライムが悲しそうにプルンプルンする。

 僕は心を鬼にして、体でリアからタッパーを隠しながらダンジョンに向かった。


「どこに行くんですか?」

「ダ、ダンジョン。すぐ戻るよ」


 ダンジョンの玄関前の部屋の角にタッパーを置く。


「大人しくしててね。もっと美味しいものや大きな水槽を持ってくるから」


 白スライムに話しかけてマンションの部屋に戻った。


「ただいま~」

「おかえりなさい。なにしてたんですか?」


 まだ甲冑の手入れをしていたリアが聞いてきた。


「いや、ちょっとね。ところで最近もダンジョンで白スライムって見ることある?」


 さり気なく白スライムについて聞く。


「え? 白スライムですか? もう絶滅したって聞きますよ」

「そうなの!?」

「はい。人間を攻撃してこない珍しいモンスターらしいですけど個体数が少なくなって二十年ぐらい前から姿を見ないと聞いています」


 超レアなスライムを見つけてしまったらしい。

 攻撃もしてこないなら部屋で飼おう。


「ちょっとまたダンジョンに行ってきます」

「え? は、はい。気をつけて」


 僕は慌てて白スライムのところに行く。


「え? タッパーが開いてる! 白スライムがいない!」


 辺りを探すが白スライムは見当たらない。

 ヘッドライトだけでは足りない。アイポンの懐中電灯機能も使って……あっなにか落ちているぞ。

 近寄ってライトを照らす。


「あれ? どうして心音ココロネミルのフィギュアがこんなところに?」


 ダンジョンに心音ココロネミルのフィギュアが落ちている。

 まあ和室にあったフィギアが服に引っかかってここで落ちたんだろう。

 そうとしか考えられない。手にとってみる。


「うわ! このフィギュア。プヨンプヨンだなあ。気持ちいい~」


 造形は甘いってか同人の心音ココロネミルみたいだけど触り心地が凄くいいぞ。


「こんなフィギア買ったかなあ。覚えていない。まあでも僕が買った以外には考えられないし」


 ポケットに入れて、白スライムの探索を再開した。

 ところが白スライムは見当たらない。代わりに水色スライムの消しゴム大を見つける。


「うーん。白スライムは見当たらないし代わりにこいつを飼うか」


 なんだか白スライムと違って可愛くないが仕方ない。

 手にとってタッパーに入れようとする。


「イテッ。指を噛んだのか?」


 タッパーに入れる瞬間に攻撃された。やはり可愛くない。


「まあいいか。これも経験値のタネだ。大きくしてから狩ろう」


 倒すのに躊躇ためらわなくてもいいという意味では水色スライムのほうが白色スライムよりいいかもしれない。タッパーを置いてダンジョンを後にした。


「ただいま~」

「おかえりなさーい。遅かったですね」


 白色スライムの探索にはかなり時間を使った。

 心配させたかもしれない。


「ごめんなさい。ちょっと禁書の研究をしていました。和室に行ってきますね」


 ダンジョンで拾った人形をポケットから取り出す。うーん、中々良い人形だ。

 触り心地がとにかく素晴らしい。もう少し眺めていたいが、そろそろ寝る時間だ。

 記憶にはなかったが、お気に入り人形のポジションに置こう。

 なんとなく寂しそうな人形を置いて和室の電気を消した。


 ダイニングのリアのそばに行く。

 リアは昨日ははじめは僕と寝て、ディートが来てからは彼女と寝た。

 ……多分、今日も誰かと寝たいと言うに違いない。きっとまだダンジョンの恐怖が残っているだろう。

 なら洋室で二人で寝ることになるよね。そうに違いない。


「リア―。そろそろ歯を磨いて寝ませんか?」

「そうですね。眠くなってきました」


 並んで歯を磨き終える。


「あ、あのトール様……今日も一緒に寝ていいですか?」

「う、うん。いいですよ」


◆◆◆


「ごめんなさい。ご迷惑ですよね」

「いやいいんですよ。でもまだ怖いの?」

「暗いところはまだ少し……」


 昨日も一緒に寝たが、すぐに終わってしまった。今日は邪魔はないはずだ。

 さらに今日はジャージからブルマに昇格している。

 昨日のように首に腕を回し合うということはないが、足は狭さ的に触れ合っている。というか絡み合っている。

 重要なことだから二度言う。リアはブルマで生足だ。

 自分も短パン、せめてハーフパンツにすれば良かった。ジャージであることが悔やまれる。


 今日はこっそり起きてダンジョンに行くつもりもない。

 後は明日に備えて寝るだけなんだけど寝れるんだろうか……。

 ……………………。

 ………………。

 …………。

 ……。


 ね、寝れーん!

 大分経ったが、まったく寝れる気がしない。

 きっとリアも寝れないハズだ。


 しかしスヤスヤと僅かな寝息が聞こえる。

 目を開けてアイポンの画面の光でリアを見る。

 仰向けで気持ちよさそうに寝ている横顔が見える。

 アイポンは寝床に入ってから二時間を経過したことを示していた。


「ふ~」


 一瞬、目を閉じて開く。どうせ寝れないなら久しぶりにソシャゲでもしよう。

 ところが目を開くと起きているリアがいた。

 リアも目を開いていた。


「なんだ。やっぱり起きてたんですね。リア」


 ……なにかがおかしい。リアはベッドの上に仁王立ちしているのだ。

 それなのに僕の横になった頭と同じ背しかない。つまり非常に小さい。

 だが小さいリアはどこからどう見てもリアだった。ブルマ姿や髪型までキッチリ同じだ。


 その小さいリアの向こうにはベッドで寝るリアがいた。

 なんだ? これはどうなっている?

 夢か。夢なのか。寝ぼけているのか。疲れているのは間違いない。


「ご主人様の好みの姿になってみました。どうですか?」


 小さな、人形サイズのリアがその大きさにふさわしい小さな声で聞いてきた。

 僕に聞いてきたのか?


「お、おおおおおお前はなんだ?」


 声は上擦っていたが、なんとか大きなリアを起こさない程度の小さな声で聞き返すことができた。


「え? 似てませんか? 中身もまったく同じだと思いますよ。ほら」


 人形サイズのリアがブルマとパンツを落ろす。


「うわあああああああああああああああああああ!」


 大きなリアがビクンッと跳ねてモゾモゾと起きだす。

 僕は素早く小さなリアを手に取り、や、柔らけえ、ジャージのポケットに入れた。


「ど、どうされたんですか? トール様」

「す、すいません……。大賢者として第五次魔法大戦に従軍させられた時の悪夢が……」

「まあ。そうなのですか。そんな戦争があったなんて知りませんでした」


 もちろん僕も第五次魔法大戦なんて知らない。けれども僕が体験したことは第五次魔法大戦よりも恐ろしい。


「私、トール様と一緒に寝てあげますね」


 さっきまで一緒に寝てたと思うが、という無粋なツッコミはやめてまたリアとベッドに入った。

 リアは歌いながら僕の体を優しくポンポンしてくれたが、どうやら自分のほうが先に寝てしまったようだ。


 僕はジャージのポケットを押さえながら静かにベッドから降りる。

 リアはやはり熟睡するタイプらしくまったく気が付かなかった。

 静かに和室に移動する。


 そして恐る恐るジャージのポケットから内容物を取り出す。

 やはり柔らかい感触とともに出てきたのは人形サイズのリアだった。


「この姿もご主人様の好みじゃないんですか?」


 悲しそうに泣いている。泣いているけど。


「と、とりあえず、ブルマを穿いてくれ」

「はい。ぐっすひっく」


 人形サイズのリアが泣きながらブルマを上げる。

 僕はこのリアが白スライムなのではないかと思っている。

 だけど……小さなリアなんかになっちゃってどうすりゃいいんだよ……? ご主人様ってどういうことだよ……?

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