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女魔法使いと別れてまた女騎士と二人になった件

 値段を見てみるか。げっ5980円。スク水とブルマのセットなんてサンキュッパだったんだぞ。

 まあウェーイなイベントをする奴からは大金を取ってもいい。

 問題はウチのエルフが引っかかっていることだ。


「欲しいのか?」

「別に」


 欲しいということはわかっている。

 けれど高い。僕は「別に」という言葉を盾に取って素通りしようとした。


「なんとなく魔力か知力があがりそうだなあと思っただけで……」


 ディートにそうつぶやかれると足を止めざるを得なかった。

 僕はもう一度デザインを見てみた。エナメルの光沢感は黒革のボンテージより安っぽいが、ハイレグよりミニスカから見えるパンツが可愛く見える時もあるか。


「そういやスク水は防御力激高だったけどブルマってどんな効果?」

「敏捷二倍」


 すげえな。ブルマ。体操着だからかな。

 スク水で防御力が上がる理由はわからないけど、ハロウィンのウィッチ服で魔力や知力が上る可能性はかなり高そうだ。


「買おうよ」

「え? いいの? 高いんでしょ?」

「ディートがガディウス金貨を両替して持ってきてくれるんじゃないか」

「う、うん」


 よほど嬉しかったようだ。目が輝いている。

 清楚な子が清楚なファッションをギャルがギャルのファッションを好むように、魔法使いは魔法使いっぽいファッションを好むのかもしれない。


「ねえねえ。着替えてきていい?」

「え? 着替えるってどこで?」


 ディートが化粧室を指差す。


「あそこで着替えるなんてよく知ってるな。でもなあ」

「お願い!」


 めっちゃ目立つぞ。

 だけど犯罪というわけじゃないし。


「今回だけね」

「やった!」


 しばらく化粧室の前で待っていると完全な魔女っ子が出てきた。


「どう? すぐにステータスチェックが出来ないのが残念だけど」


 めっちゃ目立ってる。

 僕らを中心とした人だかりができてるほどだった。


「ステータスチェックしたいだろ! 早く帰ろうぜ!」

「うん!」


 もう本当に見た目は魔女だからな。

 見た目っていうかダンジョンならディートは魔法も使えるんだった。

 トンスキホーテを出てもさり気なく僕達についてくる人がいる。

 道に出ても通行人が振り返った。


「あ、あの凄い完成度が高いコスプレですね。写真とっていいですか?」

「ダメ!!!」


 可哀想だが少女を怒鳴って早歩きでマンションに辿り着く。

 玄関から家に入ってもなんの問題もなかった。

 やはり出る時に玄関を使うとダンジョンに繋がってしまうのだろう。

 あ、あれ?


「おかえりー」

「ただいまー」

「あーディートさん。その服、魔法使いの服ですか? すっっっごく可愛いです!」

「いいでしょー? 買ってもらったんだ。リアもトンスキホーテで買ってもらうといいよ」


 二人の勝手な会話は無視して、自分のなかでなにかが引っかかっていることを考えていた。

 玄関から出たらダンジョンに繋がってしまう。

 ちょっと待てよ? NNKの江波。帰る時は窓から出ろって言ったのに玄関から出て行かなかったか?

 僕は慌ててヘッドライト付きヘルメットとピッケルを装備した。


「な、なに。どうしたの?」

「ト、トール様?」


 玄関を開ける。そこにはスライムやら見たことのないモンスターが楽しそうに闊歩していた。


「お前こら! 受信料払ってるのか! このっこのっ! うわーーー!」


 奥のほうから江波らしき声も聞こえてくる。

 僕はモンスターに気が付かれる前にそっとドアを閉めて鍵をかけた。


「江波さん。鉄の扉を開けちゃったんだな。どうしよう……」


 僕はまだレベルが低い。リアはおそらく強いが武器はない。期待できるのはディートだ。

 そのディートが切迫した声を出した。


「急がないと」


 ディートも急がなければならないことに気がついたようだ。

 和室から杖を持ってくる。

 僕もトンスキビニール袋に適当に役立ちそうなものを放り込んだ。

 リアは盾をとった。武器は無くても壁役をしてくれるようだ。


「ドアを開けるぞ!」

「いいわ!」

「行きましょう!」


 僕がドアを開けると二人は一斉に飛び出した。

 いきなりオオムカデが二人を襲う。リアが盾でそれを防いだ。

 入れ替わりでディートが魔法を発動する。


「メガインフェルノ!」


 オオムカデや他の有象無象のモンスターが一瞬にして業火に包まれて焼きつくされた。

 その威力はかつて鉄の扉に挟まれたオオムカデを焼いた炎の比ではない。

 ピッケルで叩くまでもなく炭と化した。


「やっぱりこの服、知力二倍みたい! ガンガン行くわよ!」

「頼む!」


 僕は後ろのほうで一生懸命スライムや手足のようなものがある動くキノコをピッケルで叩いていた。

 おっ力が湧き出る。レベルが上がったみたいだ。


 リアが盾で大型のモンスターの攻撃を防ぎ、ディートが魔法で敵を一層するという連携はすぐに鉄の扉までたどり着いた。


「よし! ボタンを押してくれ! リア!」

「はい!」


 鉄の扉がゴゴゴと音を立てて降りてくる。

 また完全に密室になった。

 小さなモンスターは残っているかもしれないが、もう大きなモンスターは見当たらない。

 だが密室の中には江波の姿もまた無かった。


「えええ? なんで居ない? ここは密室だぞ!」

「死体もないわね。もし、食べられたとしても……残ってそうだし……」


 確かにあのガタイの人間が跡形もなく食べられてしまうとも思えないぞ。

 だが地球人が一人では通れない鉄の扉の先の石壁があるからにはこちらにいるはずなのだが。

 あっ!


「そういえば、受信料を払えとかどうかと叫んでいたが聞こえたな……ひょっとしてモンスターと揉み合っているうちに……」

「それしか考えられないわね。モンスターに触れ合っていても通れたのね」

 

 さっき僕が倒したスライムやお化けキノコだったら江波だったら素手でもなんとかなるだろうけどオオムカデに襲われたら。


「私、このまま向こうの世界に帰るわね」

「え? でもさ」


 ディートは向こうの世界に一旦戻るって言ってたけどこのまま行ってしまうのか。

 出会いも別れも急すぎる。


「一人で大丈夫なのか? リアや僕も……」

「大丈夫。私ずっと一人で各地のダンジョン潜ってるんだから。それにもし江波が生きていたら面倒だけどモンスターから守ってあげないとね」


 確かにそうだ。自分が住んでいる部屋のことで死なれては寝覚めが悪い。

 法律も無視してくるけど悪いやつじゃないし。


「わかったよ。これ持って行ってくれ。コーラとか飲み物と缶詰の食料が入っている。ブルマとスク水も」


 さきほど手早く色々詰めたトンスキホーテのビニール袋を渡した。


「必ずまた来いよ」

「もちろん。私、アナタをダンジョンマスターにしてずっと一緒に暮らすの忘れてないからね」

「もし成れたらな」


 僕は笑いながら鉄の扉が開くボタンを押した。

 鉄の扉が段々と開いていく。無常にも鉄の扉はゴゴゴと音を立てて開ききった。


「私のことも江波のこともいいわ。カメラを設置するまでは危ないから鉄の扉は閉じときなさい!」

「そうするよ。なるべく早くカメラを付ける!」

「じゃ、またね」


 ディートは笑って石壁に飛び込んで消えた。

 ボタンを押す。鉄の扉が徐々に閉まっていく。

 閉まりきるのを確認する前に僕とリアは手を繋いでマンションの部屋に戻った。

 リアには石壁を通り抜けたように見えたはずだ。しかし、その感想は言わずにディートの心配をした。


「ディートさん、大丈夫だといいですけど」

「ディートなら大丈夫だよ。江波さんも生きているといいけど」

「そうですね。ディートさんは魔法使いなのにいつも一人でダンジョンを探索してるんだし」

「あぁ、最後に残った掃除しちゃおうぜ」

「はい!」


 こうしてまた僕とリアだけの部屋に戻った。


「ところで先ほどのダンジョンマスターになってディートさんと暮らすとかなんとか……それ以外は話の意味がわかりませんでしたけど……一体どういうことですか?」


 げっリアはダンジョンマスターについてどの程度知っているんだろうか。


「あ、あれはディートが勝手に言ってるだけですよ。ちゃんとリアのことも考えていてですね」

「詳しく教えて下さい!」


 リアは片手に盾を片手に掃除機を持っていた。

 まだまだ引っ越しの片付けは終わりそうにない。

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