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トンスキホーテにエルフと行った件

「じゃあ調べさせてもらいますよ」

「本当にしつこいですね。家に上がるなんて違法じゃないんですか?」

「鈴木さんがいいって言ったんじゃないですか!」


 NNK、いや江波と言うらしいが、彼は本当にしつこかった。


「はいはい、どうぞどうぞ。それから帰る時は和室の窓から帰る約束ですよ」


 彼を外に捨ててからリアと二人で引越しの荷解きをしていたら、もう回復したのかすぐにまた部屋にやってきたのだ。

 僕がいないうちに二人が江波の対応をしたら死んでしまうかもしれない。

 幸い彼はブルマを穿いた金髪美女がいても気にもしないのだ。

 仕方ないので存分にTVを探させることにしたのだ。


「そ、そんなところ探したってないですよ」

「今は浴室TVっていうのもあるじゃないですか」


 江波は浴室までTVがないか探している。

 リアが僕を守るように江波との間に立っていた。


「ないですね。それにしてもお嬢さん……」


 げっ。ついに金髪ブルマにツッコミが入るのか?


「いいツッパリでしたね。私、こう見えても元力士だったんですが、驚きましたよ」


 そ、そうだったのか。どおりでガタイが良くてタフなわけだ。


「ないな……」


 だからないって言っているだろうに。

 江波は浴室、洗面所、ダイニング、洋室とTVを探していく。

 最後は和室に来た。


「和室にも一見ないですね。しかし押し入れの中に」

「ちょっと待て」

「なんですか? やはり押し入れにTVが!」

「違う」

「じゃあ、なんなんですか?」


 僕は江波に耳打ちした。


「なかにエロ本……もとい薄い本が入ってるんですよ。彼女に見せるわけにはいかないでしょう」

「薄い本なんか健康な男子なら誰でも持ってますよ。隠すにはいたらないでしょう」


 ダメだこの男。

 なにを言っても無駄らしい。僕はリアを連れて和室を出た。


「いいんですか? あの中には禁書が! はっ!? 闇の魔術師の狙いは禁書では……」

「いいんだ。好きにさせてやろう」


 しばらくすると江波は戻ってきた。完全に肩を落としている。段々可哀想になってきた。


「本当にありませんでした……」

「そうですか。元気を出してください」

「私は相撲も膝を痛めて十両までしかいかず……契約も全然とれない……」


 よくわからないけど十両までいくって結構凄いんじゃないか?


「でも私は諦めません。鈴木さんがまたTVを買う頃に必ず来ますから」

「最悪、また来るのはしょうがないすけど僕がいる時にしてくださいね。マジでこの子達だけしかいない時に来たら死んじゃいますからね」


 江波は僕が言ったことをわかったのかわかってないのか〝玄関〟から帰っていった。


「ふ~やっと帰ったか……」


 そういえばディートはどこに行ったんだろう?

 さっきはパソコンやるって言ってたけど洋室にいなかったような。


「リア、ちょっと一人でお願い」

「はーい」


 僕はダイニングでダンボールを開封しているリアを置いてディートを探した。

 和室にいくとなにかを片付けているディートがいた。

 げっ手に持ってるのは禁書じゃないか。

 江波……TV探すのに散らかして帰らなかったんだな。


「そ、それは」


 言い訳をしようとしたが、ディートは何事もなかったように押し入れを開けて禁書をしまった。


「ちゃんと奥に隠しておかないとリアに嫌われるわよ」

「いや、あのその」

「別に隠さなくたっていいわよ。後でトオルの好みの勉強に一二冊貸してね」

「いいっ!?」


 あの本を渡したらあんなことをしてくれるのだろうか。いや、ディートに渡すならあの本のほうが。


「それにしても日本って凄いわね。やっぱり外に行ってみたいわ」

「まあいいけど、行くなら三人でね」

「二人で行きましょうよ」


 うーん。リアを一人でここに置いておくわけにはいかない。

 禁書の問題もあるし。誰か来たら困る。

 そんなことを考えているとディートが言った。

 

「白金貨をガディウス金貨に両替したいんでしょ」

「ああ。そうしてくれると凄く助かる」


 日本で金を現金化するのはガディウス金貨が無難そうだという話は既に伝えていた。


「私、一旦向こうの世界の地上に戻ろうと思っているの」

「えええ?」


 なんか凄く居座られそうな気がしたけど。


「だから、その前にね」


◆◆◆


「どうしてトール様とディートさんが行って私は留守番なんですか?」

「いやあ……転移魔法は三人以上は危険っていうのは常識ですよ。次はリアと一緒に行きますから」


 リアには残ってもらってディートと二人で日本の外に出ることにした。

 もちろん禁書は奥深くに隠している。


「う~いってらっしゃい」

「いってきまーす」


 リアの目には石壁の先に二人で手を繋ぎながら転移していったように見えただろう。

 まあ実際には窓から二人で外に出ただけだ。

 やはり体に触れていれば、ダンジョン側の世界の人も外に出れるという考えは正しかった。

 アッサリと外に出れてディートは日本の光景に目を白黒させる。


「これが日本……凄いわね」

「あんまり言葉は発しないでくれよ。こっちの世界はテレパシー言語なんてないから」

「なんで? 外国語もわかるのに不便ね」

「そういう文化なの」


 ちなみにモンスター言語はテレパシー言語ではないが、冒険者はモンスター言語を話せなくても聞き取れることが多いらしい。

 モンスター言語がわかれば、集団で襲ってくるモンスターに有利になるからだ。


「わかってる、わかってる」

「じゃあ行こうか」


 ディートは怯えているのか生まれたての子鹿のような足取りで僕についてきた。

 ちなみに服装がブルマではあまりに目立つのでジーンズとシャツと帽子を貸して上げた。

 帽子と髪型でエルフの尖った耳を上手く隠している。


「大丈夫?」

「う、うん」


 軽く手を引いてあげることにした。


「あ、ありがと」

「う、うん。いいんだよ」


 大きな幹線道路がある歩道に出た。総合ディスカウントストアのトンスキホーテはすぐ先だ。


「ひゃっ」


 車が通るとかなり距離があるのにディートが声を上げた。

 辺りの人がテレパシー言語に驚いてこちらを見る。

 そのうち変だなあと顔をして目をそらした。


「ディート。大きな声をだすなって」

「だぁってぇ~なにあれ~怖いんだもん」

「車だよ。乗り物なんだ」

「パソコンで知っていたけどあんなに速いとは思わなかったし」


 知ってるのかよ。逆に凄いな。

 ディートはピッタリと僕に張り付く。

 ただの帽子とシャツとジーパンなのにディートはともかく美人だ。

 悪い気はしないが、かなり目立ってしまっている。

 男達の羨望の視線が刺さる。


「と、とにかくトンスキホーテに急ごう」

「う、うん」


 ディートはトンスキホーテにはいったら今度は目を押さえはじめた。


「このカラフルなの全部商品なの?」

「あ、うん。そうだよ」

「目が回ってきた」

「ちょっ、ちょっとそこで休もう」


 ベンチを見つけたのでディートを座らせる。

 食べ物の売店も並んでいた。


「大丈夫か?」

「大丈夫……大丈夫……」


 視覚情報の多さにビックリしたのかもしれない。


「なにか美味しいもの買ってきてやるよ」

「別にいいわよ」

「いいからいいから」


 クレープ、アイスクリーム、タコ焼き屋。さてなにを買っていってあげようか。

 クレープにするか。


「バナナチョコクリーム一つください。ついでにコーラも」


 たまには他のも食べたくなるけどやっぱクレープはバナナチョコクリームだよね。

 ベンチのほうに戻ると既にディートに話しかけている二人組の男がいた。

 ディートは物凄く冷たい目つきで睨んでいる。

 や、やばい。


「あーすいません。どうかしましたか? この子、外国人だから日本語しゃべれなくて」

「あ、ああ、やっぱり外国の人なんだ。なにか困ってたり、迷っているのかと声をかけたんだけどお連れがいたんだね。じゃあ」


 二人組の男は軽く手を振って去っていった。

 ナンパなんだろうけど悪い人ではなかったのかもしれない。

 すぐにいなくなった。


「なにあれ。軽薄ね。簡単に話しかけてきて」

「いやなんかディートが困ってるんじゃないかと話しかけたらしいよ」


 物凄く機嫌が悪くなってきた。


「なんか変なこと言われたのか?」

「別に。案内してあげようかって。こっちは話すこともできないから睨むことしか出来ないし」


 結構なイケメンだったがディートには効かないらしい。そう言えば逃げるように去っていった。ディートの冷たい視線はかなり怖いからな。


「ま、まあ機嫌直してこれでも食べなよ。コーラもある」

「なーに。これ」

「クレープさ」


 ネットを自在に見るディートも、まだクレープは知らなかったようだ。


「甘い香りがするわね。いただくわ」

「どうぞどうぞ」


 ディートがその艶やかな唇でクレープの端を口に入れる。


「んっん~~~ん~~~~!」


 クレープは正解だったようだ。端からどんどんなくなっていく。

 昔は砂糖が貴重品だと聞いた。ダンジョン側の世界もそうなのだろう。

 ほとんどなくなった時にディートはハッと僕を見た。


「ごめん……一個しかなかったのにほとんど食べちゃった……」


 残ったクレープを僕に渡そうとしてくる。

 口にクリームが付いていた。

 買った時にもらった紙のナプキンで拭いてあげた。


「んんっ」

「全部、食べていいよ」

「あっ笑ったわね!」

「ごめんごめん。あんまり美味しそうに食べるから」

「ふん。美味しくなんかないわよ。もう食べないっ!」


 本当は食べたいくせに。

 全部食べたら彼女が悲しむし、かと言って僕が食べないのもプライドを損なうだろう。

 段々とディートの扱い方がわかってきた。


「じゃあ半分食べるから、半分食べてよ」

「……そうする」


 ディートはやはり口元にクリームを残した。

 それからは緊張もほぐれたのかトンスキホーテを楽しく散策できた。


「あ、もうハロウィンコーナーがある」

「ハロウィン?」

「外国の仮装して馬鹿騒ぎするお祭りなのかな。少なくとも日本ではそうだよ」


 リア充の祭りに興味はない。

 立ち去ろうとするとディートがなにかを凝視したまま固まっていた。


「なに見てるの? あっ」


 それはハロウィンのウィッチ、魔女のコスプレ衣装だった。

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